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ソールドアウト

「『ペットショップ』はプレイヤーの育成を目的としたクランでな。戦闘から生産まで、ありとあらゆるスキルを鍛える事ができた。……当時のプレイヤーで世話なってない奴は居ないと、断言してもいい」


 私は地面に座って休憩しつつ、『魔王軍』の……いえ、最強のトッププレイヤー達が所属していたという、伝説のクラン『ペットショップ』のお話をワッペさんから聞いていました。


 『ペットショップ』ですかー……。何を考えてそんな名前にしたんですかねぇ。


「確か、こねこのお店ペットショップ……って話だったけどな。なんつっても魔王様は子猫ちゃんだったしな」


 へぇ~、子猫……。


 キザな言い回しが好きなんです? 女性に対してその言い方をする人は初めて会いましたが、思っている5割増しでキモいですよ?


 私がそう言うと、ワッペさんはいやいやと、顔の前で手を振りました。


「子猫なんだよ。プレイヤーキャラが種族『こねこ』だったんだ。こねこの魔法使い『ミーさん』、それが魔王の正体だよ」


 こねこ……?


 私は耳を疑いました。

 種族『こねこ』。初期のステータスが全種族中最低であり、最初の街から冒険に出掛けることさえ難しいと言われております。


 縛り動画とかでよく見る種族ですが……。


 にわかには信じられませんねー。最弱種族がなんで『魔王』なんて二つ名持っているんです?


「はっ、そんなん簡単な話だ。……つえぇからだよ」


 ワッペさんは舌打ちをしながら、恨めしそうに言いました。


「俺だって疑問だったさ。何でこんなこねこが俺達のトップなんだってな。……けどな、戦っている姿を見たらすぐにわかった。強過ぎるんだよ、何百人のプレイヤーを集めても、魔王には敵わない」


 へー、まるで本当に見ていた様な話し方ですね。なんでそう思うんですか?


「思っているんじゃない。……実際そうだったからだ。今、トッププレイヤーとか言われているあの人達が束になってかかっても、あの子猫は表情一つ変えずに殲滅した。しかも、『プレゼント』も破格だった」


 !?


 私は驚きました。

 トッププレイヤーの方々がいとも容易くミンチにされた事はどうでもいいことですが……。


 『プレゼント』の能力が判明しているというのは聞き捨てならないと、私は考えたのです。


 ちょ、ちょっと待ってください?

 なんで貴方は魔王の能力を知っているんです? つまりは弱点も知っているということでしょう?


 各プレイヤーが所有している『プレゼント』は、必ずデメリットがあるチート能力です。


 武具かスキルかは各人によって違いますが、これを使いこなせるかがこのゲームの肝になります。


 なので、デメリットを知られるというのは、自らの弱点をさらけ出しているのと同じことなのです。


 普通なら知っているわけが無いのですが……。


「実際に見たんだよ。簡単に言うのなら、魔王の能力は……『不死身』だ。チップちゃんが頭を撃ち抜いても、うちのリーダーが心臓をくり貫いても……当然のように生きていた」


 ……つまり、殺すことができない、と?


「ああ。だが、それだけじゃない。魔王はどうやったのかは知らないが、『プレゼント』を二つ所有している。デメリットは何かわからなかったが、何か制限があるようには見えなかった」


 ……こゃ~ん。


 絶句。


 まじもんのチーターじゃないですか。どんな技術を持っていれば、BANされずにそんな事をできるんですか……?


 ただでさえ強力な能力なのに、更にもう1つ違う能力があるなんて……。


「能力だけじゃない。魔王がその気になればこのゲームの世界は1日ももたない。噂では、実際に一回滅ぼしかけたらしいし」


 ……うっそだ~。


 それなら動画とか何か残ってるでしょ。

 今動画サイトに行っても当時の動画なんて何も見れませんよ? 私がいたいけな狐さんだからって嘘言ってません?


「言っていない。動画を上げていたのも『ペットショップ』のメンバーだったからな。解散後にアップした動画を全て削除しそうだ」


 なんでそこまで……?


 まるで自分達がいた痕跡を消すような事をしたのでしょうか。そこまでする必要性が私にはわかりません。


 そもそも、なんで『ペットショップ』は解散してしまったのですか? そこまで強いクランが解散したのはどうしてです? 


 今のトッププレイヤー達が揃っていたのにも関わらず、そうなってしまった理由は?


 私の質問に、ワッペさんはため息を漏らしました。


「そのトッププレイヤー達なんだけどな……、あの人達は廃人とかそういうのじゃねぇんだ。効率良く鍛えて、最強の座をもぎ取ったんだ。つまり……」


 廃人ではない……? あ、成る程。

 彼等がログアウトしていた時に、何かがあったんですね。


 このゲームはいわゆるフルダイブ型のVRゲームです。本当に別の世界に入ってしまった様な感覚になります。

 しかも、遊んでいる時のリアルの身体は眠っているときと同じ状態ですので、その気になれば永遠に遊ぶことができます。


 が。


 長い時間のゲームプレイは身体に深刻な影響を与えるので、一定時間ログインしていると何かしらのデメリットがあるそうです。


 なので、寝るときには『リリア』を。起きている時には仕事や勉学に励むのが、人間的にもおすすめなのです。なので、廃人さんには少し厳しい作りになっているゲームではあります。


 きっとトッププレイヤーの方達は、健康的にプレイしていたのでしょう。昼辺りには、留守にしていたに違いありません。


「実力者が居ない隙を狙って、クランに馬鹿みたいに強化した街のNPCをけしかけた屑がいたんだよ。魔王を許すなって煽動してな」


 現在、街のNPCさん達の強さは半端じゃない事になっています。熟練のプレイヤーでも、街の市民に勝てるかどうか、と言ったところです。


 なぜこんなにも強くなってしまったのか疑問でしたが……、もしかして『ペットショップ』を潰す為に、誰かが意図的にNPCを強くしたと言うのですか?


「恐らくな……。そして、そのせいで『ペットショップ』は瓦解した。拠点を制圧されて、俺達のクランは乗っ取られた……と、思ったんだがな」


 まだ何かあるんです?


「……ログインしてきた『死神』が、向かって来るNPCを殺しながら言ったんだよ。『俺が相手してやる、皆殺しだ』ってな」


 死神さん……。


 聴いていた感じでは、どうやら死神さんはクランの中でも重要な役職に就いていたようです。そんな方がそういうことを言い放ったということは、つまり……。


「そういう事だろうな。実際に、あの人はクランを襲撃したNPCを皆殺しにしたよ。誰の制止も振り切って、NPCからの目を全て自分一人に向けさせたんだ」


 自分を犠牲にして他のプレイヤーさん達を逃がしたということですか。……死神さんはその後どうなったんです?


「NPCに目を付けられた時点で、まともなプレイはできなくなっちまったからな。しばらく姿を眩ませて、様子を見ていたようだったな」


 ワッペさんはそこまで言うと、でも……、と言いながらニタリと笑いました。


「面白かったのがこっからだよ。死神が姿を消した結果、トッププレイヤー達が暴走したんだ。簡単に言うと、一度この国は『魔王軍』の手に落ちてる。王都を占拠したんだ」


 え。


 私は一瞬驚きましたが、成る程と、納得するところもありました。国を占拠したという事実が、彼等が『魔王軍』と言われている由縁なのでしょう。


「実際は魔王軍の幹部の一部が、だけどな。マジでやりたい放題でよー。地獄だったね、あれは。街を滅ぼすのは当然として、NPC好き放題にオモチャにしてたからなー。……どうしてそうしたか、わかるか?」


 いや、まったく。

 NPCの皆さんが反抗したからですか?


「そんなマトモな理由はねぇよ。……やりたかったからだってさ。虐殺したかったんだってよ」


 流石トッププレイヤーの皆様です。相変わらずイカれています。……ちなみに、我らがチップ様もそれに参加していたのですか?


「確か……チップちゃんは反対派だったな。魔王と一緒にNPCの避難をやったりしてたよ」


 チップさまぁ……。


 食欲以外は普通なのがわかって、私はとても安心しました。……いや、できないんですけどね? 食べられたくないです。


「ま、結局の話……死神は魔王軍における、ストッパーだったって事さ。あの人が居たからあの場所は組織として成り立っていたんだよ、恐怖の対象としてな」


 そうだったのですか……、それでそれからどうなったんです? 今の街の様子を見ても、何か問題を起こしている方は見当たりませんが?


「そりゃあな。あんまりの大惨事を見るに見かねた死神が、最強戦力を引き連れて現れた。力業で問題起こしていた人達をしょっぴいたんだ。それでなんとか落ち着いたって感じだな」


 最強戦力?

 頭のおかしい彼等を捕らえる事ができる方達ってことですか? いったいどんな方達だったのです?


「あ? これも知らねぇの? 死神のパーティーメンバーって言ったら、6人の女神全員と魔王に決まってんじゃねぇか」


 は?


 この世界における女神の存在というものは、絶対と言って良いものです。NPCは愚かプレイヤーも手の届かない強さの象徴のはずなのですが……。


「どうやって女神を仲間にしたのかは知らねぇ。でも、実際に死神は女神達と魔王と協力してトッププレイヤー達を抑え込んで、問題を解決した。けれど、死神と魔王は責任を取るって言って、女神達と姿を眩ませちまったんだ……」


 最強のプレイヤー、『死神』。


 何故、チップ様とチャイムさんが、彼について少しの情報でも欲しがっていたのかがわかったような気がします。


 きっと、沢山、沢山言いたいことがあるのでしょう。


 理不尽に居場所を奪われてしまった、元『ペットショップ』のメンバー、ソールドアウトの皆さんの心情も、推して図るものです。……皆さん、とても仲が良かったんですね。


「ああ……。けれど、最後に魔王が幹部の人達に言い残した事を考えるとな、引きずってられねぇと思うのよ」


 そう言うワッペさんの顔は、どこか清々しいものを感じます。


 なんて言っていたのですか?


「ん? ああ……それはな」


 ワッペさんは静かに口を開きこう言いました。


『今日でペットショップは閉店。もう僕程度じゃ皆を率いて行けないみたいだ。……でも、最後に言わせて』


『売れ残りは許さない。ペットショップに所属しているメンバーを、君達が引き取って育てて欲しい』


『一人残らず、全員だよ。そして……』


『僕達を越えるプレイヤーを連れてきてよ。……約束だぜ?』


 売れ残りは……許さない。


「これを思い出すとよぉ、色々思うことがあるんだよなぁ……」


 ソールドアウトの名前は、その言葉から来ていたのですね。


 『ペットショップ』の商品……メンバー達は、ちゃんとした場所に引き取られていった。

 皆さんの居場所だったクランは、決して理不尽に終わらせられたのでは無く、次の居場所に送り出すための礎となって、輝かしく幕を閉じたのです。


 だから『ペットショップ』を語る上で、この一言は忘れてはならないのでしょう。


 完売御礼……ソールドアウト。


「そういうことだ。……って、偉そうに言ってみたけどよ、俺が所属してすぐにそんな感じになったから、前のクランにあんまり愛着無いんだけどな! ははは!」


 はは、台無しですねぇ。


 少ししんみりした空気を吹き飛ばすように、私達は笑いました。


 チップ様もチャイムさんも、昔の事を気にしながらも前を向いて歩いています。少なくとも、私はそう感じました。


 ですので、この件については私は気にしないことにしましょう。……けれども、ある一点においては無視できない話がありました。


 魔王が求めたという、自分より強いプレイヤーを連れてこいとの願い……。


 叶えて差し上げようじゃありませんか。


 どうやら死神さんを殺すためにはそのくらいの実力は欲しいみたいですし? やってやりますよ、私は。


 ……さて、こうなったら休んでもいられませんね。稼ぎの続きをいたしましょう! まだまだ行きますよ!


 私は元気良く立ち上がると、んー、っと背伸びをしました。尻尾もぴーんと伸ばします。やる気の現れです。


「応よ! あの人達には負けらんねぇからな! ……って、ポロラ。お前の足に、なんか付いてる……」


 はい?


 ワッペさんにそう言われて、私は視線を落とします。

 そこには、私の足に絡み付く、何かの触手の様なものがありました。……ついでに言うと、ワッペさんの足にも同じものがあります。ナニコレ、キモい。


「おいおいおいおい……、こんなんが居るとか聞いてな……ぅお!?」


 こきゃん!?


 触手の力がいきなり強くなり、私達はバランスを崩して転倒してしまいました。

 どうにか逃げようともがくのですが、洞窟の奥にへと引きずり込もうとする力が強く、なす術がありません。


 な、なんなんですか、これー!?


 叫びは虚しく炭坑に響き、私達は深淵へと導かれるのでした……。

・魔王軍の起こした事案(一部抜粋)

1 NPCの傀儡化。餓死者多数。

2 謎の奇病の発生。身体の仲で無機物が発生し、内蔵をグチャグチャにする。

3 プレイヤー、NPCへの無差別な精神汚染。発狂者多数。

4 爆発物によるテロ。これにより王都消滅。

5 女神達の独占。死神を許すな

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