戦争の終わり、使命の達成
「それでは……戦争お疲れ様! カンパーイ!」
かんぱ~い。
クラン『シリウス』の駐屯地に戻った私達は子猫先輩の音頭と共に、お酒の入ったグラスを高く掲げました。
ふと横を見るとガスマスクを外した兵隊さん達も同じようにグラスを持っています。先程まで殺し合っていたというのに、こうやって後腐れなく関われるというのは悪くありません。
「さぁ! 今日の戦争は色々とあったが、次のイベントに向けて張り切って行こうじゃないか! 我々も『ソールドアウト』に負けないように張り切っていくぞ!」
子猫先輩の隣にいるキーレスさんも楽しそうな顔をして自分のクランの士気を高めていました。私達にやられて悔しい、というような感じは一切しません。
……言ってしまうと、私達『ソールドアウト』は戦争に勝利する事ができました。綺麗な勝利、とは言えませんでしたが……。
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私が先に『アーマーズ・ロード』を貫いたのか、それとも、ツキトさんの一撃がキーレスさんの身体を両断したのが先だったのかはわかりません。
もしかしたら、同時にお互いの攻撃が決まった、というのもあったかも知れませんね。
私の攻撃は、『アーマーズ・ロード』のレーザー砲を粉砕し、あの巨体を貫きました。
それと同時に機体は爆発し、完全に機能を停止してしまったのです。
やった、やりましたよ。
機体が爆発していく様子を見ながら、私は勝利を確信し、ガッツポーズを決めました。……しかし。
よく見るとツキトさんもキーレスさんを乗っていたアーマーズごと撃破していました。中央から真っ二つになってましたね、ええ。
『アーマーズ・ロード』は最後に大きく爆発し、バラバラに飛び散ってしまったのですが、ここで問題が発生しました。
キーレスさんの落としたアイテムなんですけどね、どうやって作ったのかわからない機械の装備を沢山落としたんですよ。光化学迷彩や毒ガスのような兵器、レーザー銃にアーマーズまで。
そうなると、私とツキトさん、どちらが先にとどめを刺したのか、という問題になってきますよね? というかなりました。
ドロップした残骸は、『アーマーズ・ロード』がいた場所に落ちていたのですが、目撃情報から先にツキトさんがとどめを指したという事が判明。
じゃあツキトさんにドロップアイテムを譲ろうとしたところ、物言いが入りました。
キーレスさんを倒したのにレーザー攻撃は続いていたから、結局本体は『アーマーズ・ロード』の中にあったのではないか?という意見です。
私としては貴重なアイテムを貰えることは嬉しいのですが……使うとすれば光化学迷彩位なので、別にそれほど欲しいというわけではありませんでした。後で商品として売り出す、みたいなことをキーレスさん言っていましたし。
ですので、ちゃんと理由を話し、穏便に済まそうかと思ったのですが……。
そもそも、ドロップしたアイテムをどっちが手に入れるかなんて、どうでもよかったみたいです。
つまり、皆さん暴れたりなかったみたいなんですよ。私とツキトさんは暴れる為の言い訳に使われてしまったという事ですね。
誰が一番最初に手を出したのかはわかりませんが、一度始まってしまえばもう止まらないのが私達。
ドロップ品をかけた血を血で洗う内ゲバが始まったのです。何してんだか。
途中からは、味方同士で殺し合いをする私達にドン引きしていた『シリウス』の方々も戦闘に参加し、お祭り騒ぎになっていました。
自分以外は全員敵でしたからね。私も自分の身を守るために戦いましたよ。ええ。
けれども、キーレスさんを倒したら『覚醒降臨』の効果も切れてしまったみたいで、弱体化してしまった私は早めに退場してしまいました。
後ろからレーザーで頭を撃ち抜かれたんですね。
ログインしなおして最終的にどうなったのか聞いてみたら、結局子猫先輩が全員皆殺しにしたそうです。……まぁ、妥当ですね。むしろその終わり方は知っていました。
少しすると子猫先輩からの全員集合の呼び出しがありまして、皆さん『シリウス』の駐屯地に戻ってきたのです。
そしたらグラウンドにバーベキューの準備がされてあるじゃないですか。しかも、ステージまで用意されていて、看板に『戦争お疲れさまでした!』という文字が。
完全に慰労会場であることは明白であり、これから宴会が始まるという事を全員が理解しました。
そこからは皆さん早かったですね。
ダッシュで街でお酒を買い込み、宴会芸の用意をし始めました。やはり飲み会に全力をかけるのが『ペットショップ』流のようです。
子猫先輩が会場に現れた時には既に全員席に着いてましたしね。
それで、全員が集合したという事で宴会が始まったのですが……。
「お、いたいた『串刺しフォックス』。あんときゃよくもやってくれたな。久々に死んだぜ」
「貴女やるじゃない、私達を仕留めたのは誇っていいわよ~? どう? うちのクランこない?」
「いや~、まさかあんなに早く退場させられるとは、思ってなかったでありますよ~。フォックス殿、飲んでるでありますか?」
……なんか知らない兵隊さん達に絡まれていました。
ええい、なんなんですか貴方達は。いきなり軽々しく話しかけてきて、いったい何を考えているんです? 私は今からお肉を食べるんですから邪魔しないでくださいな。
私は目の前ので焼かれている野菜を隣に座っていた師匠の方に寄せつつそう言いました。
「ポロポロ!? 何しれっとお肉だけ持っていこうとしているの!? それは私の育てたお肉だよ!?」
あ、バレタ。……えー、私最前線で戦ってたんですよ? ちょっと位いいじゃないですか。穴掘って進んでいたら迷子になった師匠とは違うんです。
「あぅ!? そ、それはそうなんだけどさ……」
今回、師匠は穴堀をして敵に見つからないように進んでいたそうです。しかしながら、途中でダンジョンを堀当ててしまい、うっかり攻略してしまったのだとか。要するに迷子になってしまったらしいですね。
ですので、今の師匠はペストマスクを外して首からは『私は迷子になりました』と書かれた木の板をぶら下げていました。残念な方です。
しかし、お肉を全く食べれないのは不憫ですね。仕方ない、私のを少し分けてあげましょうか……。
「いや、俺達のこと無視すんなよ!? ちょっとお話しようぜ?」
え、まだいたんですか? というか誰なんです、貴方達?
私に話しかけてきた三人組はまだ私の側で待機していました。
「あ~……、覚えてない? 新型に乗って貴女と戦った3人組がいたでしょう? 『嫉妬』のギフトでやられた」
ああ、あの方達でしたか。
私が初めて遭遇した新型アーマーズに乗っていた方達が彼等だったそうで、自分達を撃破した私の事を探していたみたいです。
なんでも、彼等は『シリウス』の中でもかなりのやり手らしく、アーマーズの操縦士としてずっと戦ってきたのだとか。
要するに、私が勝てたのは『嫉妬』のギフトで不意を突けたから、という事らしいですね。道理で強かったわけですよ。
「殺した、と思ったら普通に生きてんだもんなぁ。ギフトカードを持ってるなんて知らなかったし」
「あれはしてやられたであります。さすが二つ名持ちなだけありますなぁ」
「そうねぇ、『戦闘狂』っていう二つ名は聞いたことがあったけど、こっちの国じゃそんなに有名じゃなかったのよ。貴女、そんなに強かったのねぇ」
操縦士さん達に褒められてしまいました。……な、なんか照れ臭いですね。倒した相手に認められるのは素直に嬉しいんですけど、あんまりないパターンです。
し、師匠、こういう時どうすればいいんですかね?
私はお肉を夢中になってパクつく師匠に助けを求めました?
「ん? 良かったね、師匠として嬉しいよー。うちのポロポロをよろしくー」
うーん、頼りになりませんね。……というかあなたも有名人でしょ。『正体不明』でしたっけ? ちやほやされ馴れてるんですから良い対処法の一つくらい……。
と、師匠の二つ名を出した瞬間三名の顔の色が変わりました。
「……は? 『正体不明』? アンタが? は?」
「うそ……。こんな顔してたの?」
「あば、あばばばばばばば……」
皆さん各々の反応を見せてくれました。
……そういえば、師匠ってこっちの国では何をやらかしたんです? 絶対多大な迷惑をかけていますよね?
「え? ……ちょっとクラン吹き飛ばしただけだけど?」
大迷惑ですね。
私の質問に師匠は真顔で答えました。完全にサイコパスです。
しかし、そんな師匠のお陰で三人組の興味はそっちに移ったみたいで、質問責めにあっています。
これで思う存分お肉を食べることができますね。さぁ、どれから食べましょうか……。
「ああ、見つけた。ポロラさん、ちょっと今大丈夫?」
っち。
私は舌打ちをしながら声のした方に振り向きました。……ツキトさんですか。何かご用事でも?
そこにはお酒を片手に持ったツキトさんが立っていました。肩の上には子猫先輩も一緒です。
「ちょっとお礼を言いに来たんだ! さっきは守ってくれてありがとうね! おかげで勝つ事ができたよ!」
肩の上の子猫先輩はにゃーっと鳴きました。
いえいえ、良いんですよ。そもそも子猫先輩が死んでしまったら私達の負けですからね。というより、貴女の能力がなかったら皆死んでました、
ですので、お礼を言われる理由はありません。
私がそう言うと、子猫先輩は一瞬目を丸くしてから、目を細めてふふんと鼻を鳴らしました。
「まぁね! 僕の『覚醒降臨』は凄かっただろ! ツキトくんのも凄いんだから、使ってくれればよかったのにね!」
……そう言えばそうですね。なんで貴方だけ使ってないんですか。彼女さんだけに全力を出させるとかどうかしていますよ?
私はそう言って冷めた目でツキトさんを見つめました。
「ここで俺に飛び火してきた!? ……い、いや俺のはちょっと特殊なんだよ。使ったら酷い目に合うのは目に見えてるから……」
ツキトさんはそう言いながら、目線を逸らします。……はぁ~、なんですかその態度は?
彼女さんの目の前でそんな態度をとってどうするんです、もっと堂々としていなさいな。男でしょ、貴方。
そうやって、情けない態度をとっているんですから、警察に通報なんてされちゃうんですよ? わかっていますか? これからはもっと胸を張って生きて……。
…………。
あ、やっば。
「え……ちょ、ちょっと待ってくれ。それ誰から聞いた? 俺が先輩と一緒にいて通報されたなんて、誰にも言ってないんだが……」
「……? 僕も誰にも話した事無いよ? ポロラ、君、もしかして……」
ツキトさんと子猫先輩が驚いたような、青ざめたような顔で私を見ていました。……自分のリアルに関わる話ですからね。そうなっても仕方ないでしょう。
お酒を飲んでいたせいで、口が軽くなったのかも知れません。けれども、今の発言で私が一番知りたかった事がわかりました。
これで、私の役目が一つ終わるみたいです。
……も、申し訳ありません! 用事ができましたので私はこれにて失礼します! 去らば!
私はそう言い残して、二人の静止を聞かずに帰還のスクロールを展開、『ノラ』の拠点に戻りました。
そしてログアウトします。
予想外の展開でしたが、これで確証が取れました。私が探していた二人は今でも幸せに生活しているみたいです。
現実世界に戻り、ヘッドギアを外した私は壁にかけてある時計を見ました。……まだ朝の4時ですか、もうちょっと眠れますね。
私は戦争をやりきったという達成感と、二人が幸せであるという安心感に包まれながら、静かに二度寝するのでした。
すやぁ……。




