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自分の意地で貫いて

 真っ先に動いたのは、意外にもチャイムさんでした。


 一度姿勢を低くし、敵機の一機に狙いを付けた彼は打ち出された様に飛び上がります。そして、気が付いたらアーマーズが一機撃墜されていました。


 肩から綺麗に袈裟懸けに切り裂いたみたいですが……私には何をしたのか全くわかりませんでした。攻撃の時だけ凄まじい速度で動いていた事はわかります。

 居合い切りですかね? 彼のレイピアは腰の鞘に収まったままです。


 そして、チャイムさんは止まりません。


 撃墜したアーマーズを足場に、次の機体へと飛び出します。


 一撃で倒すことができた機体は少なかったですが、確実な損害を与えながら彼は空中を飛び回りました。……ホントに戦闘となると別人ですね。頼もしいったらありゃしない。


 けれども、彼は翼が生えているわけではありません。どうしてもその動きは直線的にになります。簡単に動きの予想をされてしまうということです。


 一瞬スピードが緩んだ隙を突かれて、チャイムさんはアーマーズに捕まってしまいました。巨大な手でガッチリと捕まれて、身動きがとれないようです。


『ノラ犬がぁ! このまま握り潰してくれる!』


 チャイムさんを捕まえたアーマーズのパイロットが吼えました。


「ぐぅ……がぁ……!」


 全身を圧迫される苦しさによってチャイムさんは顔をしかめますが、すぐに解放されました。


 捕まえてていた機体が、太い触手によってへし折られたからです。


「チャイム殿ばかり構ってんじゃねーでござる! 拙者の触手を忘れたとは言わせないでござるよぉ! うん……にゃああああああ!!」


 巨大化したタビノスケさんは自身の触手を次々と打ち出していき、アーマーズの飛行機能を破壊していきました。


 地面に着地した機体は、本隊の方々によってタコ殴りにされていきます。


 しかしながら、高い性能を誇るアーマーズが彼等には易々と破壊される訳もなく、本隊の方々は銃撃を浴びせられていきます……が。


「みゃあああああ!!」


 花びらから変化した黒い子猫が、傷付いたプレイヤーに駆け寄りました。そして、自ら負傷者に吸収され、その傷を癒します。


 子猫を吸収したプレイヤーは瞬時に戦線へと復帰し、以前よりも強力な攻撃を繰り出してアーマーズの装甲を吹き飛ばしました。やっぱり子猫先輩由来のバフはぶっ壊れみたいです。


 まだ空中を飛び回っているアーマーズ達は、タビノスケさんの脅威を認識したのか、彼に対して集中的な攻撃を始めます。


 今まで使っていたマシンガンから、ミサイルに切り替えた様で、左腕から飛翔体が発射されました。


 巨大化したタビノスケさんは、身動きがとれない状態にあります。周囲には味方のプレイヤーがいるので、大きく回避しようとすれば、潰してしまうことは明白でしょう。


 そして、攻撃されようとしているタビノスケさんも避ける気は無いようです。


 ミサイルは着弾し、彼の触手を吹き飛ばしていきました。

 しかしながら、触手は即座に再生、攻撃を受けながらもアーマーズ達を粉砕していきます。


「効かねぇなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 殺してみせろおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 ガチガチという歯をうち鳴らす音と共に、触手の動きが激しくなっていきました。まるで自分を狙ってくれと言わんばかりの目立ち方です。……いえ、それが狙いなのでしょう。


 先程よりもアーマーズの攻撃を引き寄せたお陰で、他の方への被害が減りました。


 言うならば今は攻め時。


 タビノスケさんが力尽きる前にアーマーズを滅ぼすしかないでしょう。


 彼の挑発に答えるように、更にミサイルが迫り……。


 全て空中で爆発してしまいました。


「私より……私より目立つなぁ!」


 チャイムさんとタビノスケさんが活躍していた事に業を煮やしたのか、大剣を携えたケルティさんがミサイルを切り落としたみたいです。


 あのエルフさんだけ平常運転ですね。どうしても女の子に良いところを見せたいみたいです。


 背中から生やした大きな翼を羽ばたかせ、迫りくるアーマーズを切り落としていきました。その早さに追い付く事ができる兵器は無いみたいで、彼女の後を付いていくように追尾するミサイルが飛んでいきます。


「しつこいなぁ! そっちがその気なら、こうしちゃうもんね!」


 ケルティさんはそれを確認すると、ミサイルを誘導するように飛び回り、『アーマーズ・ロード』の装甲へと直撃させました。衝撃によって穴が空き、そこから待機してあるアーマーズ達が確認できました。


「まだ中にいるのですか……! クハハっ……面白い、殲滅と参りましょう!」


 そこに向かってシバルさんが駆け出します。


「……! よっしゃあ! 俺達もシバル神父に続け! 内部からぶっとばすぞ!」


 それに反応したのは自称お兄ちゃん'sでした。魔術師さんの声に合わせ、一斉に突撃していきます。


 空いた穴からは敵兵士が射撃をして来ますが、その程度で彼等を止めることなんてできません。

 穴の修復が終わる前に、シバルさん達は内部へと雪崩れ込みました。穴が閉じ終わる瞬間、悲鳴が聞こえた気もしましたが気にしないことにいたしましょう。


 ……皆さん、強大な敵に対して自分のできることを精一杯しております。


 もちろん、子猫先輩の回復が間に合わ無いほどの攻撃をくらってミンチになる方もいましたが、それでも彼等は止まることを知りません。


 全員特攻。


 その命令だけを胸に、『ソールドアウト』は機械兵団を破壊し続けます。


 しかしながら、彼等の攻撃を掻い潜り、攻撃をしてくる優秀な機体達も存在しました。そんな奴らは事もあろうか子猫先輩へと銃口やミサイルを向けるのです。……失礼な方ですねぇ。


 私は迫りくる攻撃を生成した大爪で防ぎます。


 強化された今の私には、彼等の兵器なんて全く効いていませんでした。盾にした大爪も一つも壊れていません。


 その程度で歯向かうとは良い度胸です。くらいなさい。


 襲いかかってきたアーマーズの周囲に杭を生成、圧倒的な物量もって身体中を串刺し殺しました。


 子猫先輩を直接狙うなんてとんでもない輩です。そんな奴等は皆まとめて磔刑ですよ、磔刑。


 見せしめに残酷に殺して差し上げます。


「ポロラの能力ってどっちかというと防御向けだよね。いくらでもすぐに作れるし、どんな形にでもなるし。……後で耐久実験しようか? どこまで耐えられるかな、ふふふ」


 私の後方で子猫先輩がクスクスと笑いました。……言っていることが物騒過ぎて笑えないのですが?


 そう言いながら振り替えると、そこには無傷の子猫先輩が立っています。


 彼女の足元には小さな魔方陣が展開されており、光を発しながらゆっくりと回転しておりました。


 能力が発動している間、子猫先輩はそこから出ることが出来ないようです。


「ごめんごめん、冗談だよ。それに、こうやって守ってもらってもらっているんだから文句は無いさ」


 ……ホントですよね?


 子猫先輩はニコニコしながら頷きますが、少し恐いです。と、とりあえず戦闘に集中致しましょう、そうしましょう。


 そんなことを考えながら、私は目の前の戦場に視線を戻しました。


 周りの皆さんがアーマーズを撃墜し、私が攻撃を防いでいる間、最も激しい戦闘をしていたのは、やはりと言ってはなんですが、ツキトさんとキーレスさんでした。


 キーレスさんの左腕は大きなブレード……光化学ブレードというものになっており、それでツキトさんに対して素早い連擊を繰り出していました。


 それをツキトさんは軽々と避け、反撃を繰り出そうと大鎌を振り上げます。……しかし、それをさせないと言わんばかりに『アーマーズ・ロード』から支援射撃が撃ち出されました。

 何本も発射された、細いレーザーがツキトさんを襲います。


「くっ……!」


 死角から狙われたにも関わらず、彼は全ての攻撃をかわしました。しかし、回避行動に気をとられ攻撃は不発に終わってしまったようです。


 ツキトさんは何も出来ずにキーレスさんから距離を取りました。


 私にはそう見えたのです。


「……おいおいおい。今攻撃できなかっただろう! どんなスキルを使った? 怖いなぁ!」


 自身のアーマーズに傷がついた事に気付いたキーレスさんが狂喜の声を上げました。続けて、間髪いれずにブレードを構えて踏み込みます。


 その瞬間。




 ツキトさんは大きく振りかぶった大鎌を振り回しました。




 その刃は虚空を切り裂いたにもかかわらず、キーレスさんが踏み出した足は両断され、その巨体が地面に倒れ付したのです。




「な……に……?」


 先程まで余裕を消すことのなかったキーレスさんの表情が曇ります。


 『キキョウの進軍』の様な斬撃を飛ばすスキルではない、全く不可視の攻撃。……いえ、少しですが見えました。


 今確かに、ツキトさんが武器を振り回した時、一瞬ですが大鎌の刃が消失していたのです。


 おそらくは、刃のみを相手のすぐ側に移動させるスキルなのでしょうか? 予測不可能の遠隔攻撃とは厄介な……。


「……まだ距離感覚が掴めないんですよ。別に手を抜いていたわけじゃない、何回かやってたんですぜ? まともに当たったのは今のが初めてでしたけど」


 ツキトさんはニヤリと笑って大鎌を構え直します。


「『次元貫通』……カルリラ様直伝の奥義でねぇ、最近やっとでものにできてきまして。……覚悟を決めてもらいましょうか?」


 次の攻撃で確実に葬り去るつもりなのでしょう。


 先程の攻撃が正確に決まれば、キーレスさんの首は飛ぶでしょう。そうすれば、我々『ソールドアウト』の勝利です。


 しかし……。


「それじゃあ、こちらの負けになってしまうだろうが……! なめるな! レーザー砲、照射用意!」


 !!


 『アーマーズ・ロード』はその言葉と共に変形し、巨大な大砲を作り上げました。最初にこの巨体ロボが見せたレーザー砲です。


 それが私に……子猫先輩に向かって伸びていました。


 そしてすぐさまエネルギーの充填を始めます。……レーザーの発射まで時間はほとんど残されていないでしょう。例え子猫先輩が能力を解除して逃げようとしても間に合いません。


「クソっ……! くたばれぇ!!」


 何をしようとしているのか咄嗟に判断したツキトさんは、全力で大鎌を振るいます。


 先程と同じ空間を無視した一撃は、アーマーズに騎乗していたキーレスさんの首を一撃で切り落としました。


 首だけが虚しく地面を転がったのが、『死神』の勝利を物語っています。




 けれども、『アーマーズ・ロード』の動きは止ま事はありませんでした。




『残念! オジサンは『アーマーズ・ロード』と一心同体! 首を落とした位じゃ死なないなぁ!』


 巨大ロボからそんな放送が聞こえてきました。……つまり人型に見せていたのはフェイク。本当の心臓部は別のところにあると言うことですか。面倒な。


 我々にそれを見つけ出す時間は無いでしょう。


 いえ、キーレスさんが乗っていたアーマーズがそうなのかも知れませんが、レーザー砲の発射までに壊すことはできないかも知れません。


 もうエネルギーの充填は終了目前みたいです。……さて、それならばできることは一つですね。


 私は目の前に迫る砲口を睨み付け、『真理の聖槍』を構えました。

 続けて、それを中心にして黒籠手から高速で刃を生成、『属性付与』もしつつ『アーマーズ・ロード』を貫ける程の大きさの円錐を作り出していきます。


「ポロラ……やるんだね? いいね、守り方は君にまかせるよ。……楽しんでいこう!」


 子猫先輩は自分の身が危機に晒されているにも関わらず、楽しそうに笑いました。


 守る? そんな事はしませんよ。


 勝利を目前にして、じっとしている事ができるわけがありません。攻撃は最大の防御、敵の攻撃が届く前に殺してしまえばいいんですよ。




 プレイヤーキラーとしての私の力……見せて差し上げます!




 出来上がった円錐状の刃を、私は砲口に向かって回転させながら撃ち出しました。


 それはドリルの如くギャリギャリと大砲を削りながら、ゆっくりと『アーマーズ・ロード』へと迫ります。


 まさか反撃をしてくるとは思っていなかったのか、キーレスさんは慌てたように射撃の号令を掛けました。


 無理矢理発射されたレーザーは、私のドリルごと吹き飛ばそうとその出力を高めていきますが……『属性付与』で耐性を高めているのです、その程度で壊せるものなら壊して見せなさいな!


 そして、この状態でも『プレゼント』の効果を減衰、無効化する能力は生きています。覚醒していようがなんだろうが『プレゼント』に頼った戦い方をしているのなら、私の獲物であることは変わりません。


 ドリルを操る手に力が入ります。


 回転によって散らばったエネルギーが周囲に飛び散り、敵味方関係なく損害が出ていますが気にしません。後、もう少し。もう少しで本体に届く……!


 そこまで来ると、相手も私の事を無視できなくなったのでしょう。


 まだ動くことのできるアーマーズの攻撃が、一斉に私に向かって来ました。

 意識がその防御に移り、攻撃の勢いが少し落ちてしまいます。……邪魔するんじゃ無いですよぉ!


 私は背後にいる子猫先輩を守るように刃を展開しました。自分の防御なんて後回しですよ、このまま押しきってみせます。


 減らされていくHPを『嫉妬』の能力を使い無理矢理回復し、攻撃を続行。以前よりも回転数をまして削り取っていきます。


 周りの方々も攻撃に専念し、飛び回るアーマーズを撃墜していきました。


 ツキトさんは大鎌を振り上げて身動きのとれないキーレスさんの胴体部分に斬りかかろうとしています。


 私の攻撃ももう少しで大砲を全て削りきり、『アーマーズ・ロード』に届きそうです。

 しかし、更にレーザーの出力は増し、散らばるエネルギーのせいで目の前が真っ白に染まっていきます。


 どうなっているか、確認する事もできません。……ですが。


 そのまま。


 そのまま貫いてやりますよ! これが私の力! 私の能力! 私の仲間達です!


 負けるなんて……あり得ないんですよ!



 いっけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!




 私が雄叫びをあげると、目の前の視界が完全に真っ白に染まってしまいました。眩しすぎて何も見えません。



 どうなったのかもわかりませんでした。



 次に視界が開けたとき、目の前にあった光景は━━━━。


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