最終局面
~前回のあらすじ~
!!犬神家状態!!
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誰が犬神家か。
私は突き刺さった上半身を残骸から引き抜き、尻尾に絡まるケルティさんを取り除きました。
なんかおかしな言葉が頭の中に浮かんでしまいましたが、気にせずにいきましょう。まだ戦闘中ですし、真剣に、真面目に……。
「もっともふらせてよ~、気持ちよくしてあげるかさぁ……天国見せたげるっ!」
真面目にやれ!
私は飛び付こうとするケルティさんを尻尾でぶっ叩きました。流石に七本の尻尾のインパクトは強烈だったみたいで彼女の身体は宙に浮き上がります。……嬉しそうな顔してんじゃないですよ! この変態!
もうどうしようも無い方ですね、TPOというものをわかっていないのでしょうか? 今戦闘中って言っているでしょうに……ん?
私がやれやれと頭を抱えていると、周りの残骸から銃が生えてきました。もちろん銃口はこちらに向いています。やっばい。
射撃が開始される前に、私はその場から逃げ出しました。背中には大爪で盾を作り、目の前に現れたものは能力で潰していきます。
と、とにかく子猫先輩の元に! あそこが一番安全!
私は全力で走ります。
「邪魔が入ったが今度はそうはいかないぞ……! 全砲門、総員解放だ! 消し炭にしてあg」
「仕方ねぇ……死神の力を見せてやらぁ! カルリラ様のヤバさを見せてy」
じゃまぁ!
……なんで私が逃げようとするとこの人達は割り込んで来るんですかねぇ?
二人の目の前で刃を作りだし、左右におもいっきり引き伸ばして吹き飛ばしました。大技を出そうとしているせいで隙だらけでしたので、クリーンヒットしたみたいです。なんで男の人って溜め時間の長い必殺技とか好きなんですかね?
障害物を弾き飛ばし、私は美少女モードの子猫先輩の目掛けてヘッドスライディングをしました。積極的にすり寄っていくスタイルです。
「ポロラ!? 尻尾どうしたの、すごいことになってるよ!?」
そうですよね、普通はこれ見たら驚きますよね。
当たり前の反応をしてくれた子猫先輩はきっと常識人、私と一緒です。……うう~、聞いてくださいよ~。私が魅力的過ぎて変態が寄って来るんです~、粛正してください~。
こんこんと懇願しながら周囲を確認してみると、なんと言うか魑魅魍魎でした。
大体は巨大化したタビノスケさんのせいなんですけれど、各地に散らばっていた先行班や本隊も追い付いて来たみたいです。見知ったヤバイ方達が勢揃いしているのを見ると、なんか安心感がありますね。
しかし『アーマーズ・ロード』の出現と、子猫先輩の呼び掛けによってここまで急いできたみたいですが、その数はかなり少なくなっていました。
特に後方でレーザー攻撃を受けた本隊は当初の数から見て五分の一位の勢力です。
対するキーレスさんは一人と一機、一応はこちらに分があるとは思いますが……。
「おぉ……もふもふだぁ……。ポロラも覚醒したんだもんね、これで僕達にも勝機ができた。ツキトくんが戦っている間、僕のカバーをお願いしていいかな?」
子猫先輩は私の尻尾を撫でながらそう言いました。ご指名です。
ふふふ……勿論ですとも! あんなブリキのオモチャ一体程度、私の能力で粉々に砕いて見せますよぉ!
私は意気揚々に立ち上がり、先程の吹き飛ばしたキーレスさんの方に振り返りました。
どうやら彼は『アーマーズ・ロード』の残骸へと飛んでいったようで、瓦礫から這い上がってくる姿が見えました。……しっかりと見ると、結構不気味ですね。
キーレスさんは頭部付近が半壊したようなアーマーズに乗っているのですが……まるで機械と同化しているみたいでした。
肩から下は大量のコードによって確認することができません。太さはまちまちですが、時々脈動するようにコードが波打っています。
恐らく、全てキーレスさんに繋がっているのでしょう。生きている機械ということでしょうか?
「……いやぁ参ったな。全く警戒していなかった子がここまで大暴れするとは。確かビルドー達と戦っていたね、彼らはどうしたんだい?」
残骸を背に、キーレスさんはそう問い掛けてきました。……殺しました。サンゾーさんはシバルさんが、ビルドーさんは私がね。
「ほう! 神父と君が! いいねぇ! 狐ちゃんがこの場に立つだけの素質があったとは知らなかった! 強敵の出現は楽しいなぁ、おい!」
!?
キーレスさんがゲラゲラと笑い声をあげると、残骸から数多のコードが伸びてきて、彼が騎乗しているアーマーズに突き刺さっていきます。
すると、残骸が形を変えていきました。
破壊されてしまったと思われた『アーマーズ・ロード』は徐々にその損害を回復していき、少し小さくなりましたが、元のバケツの状態へと戻ります。
そして、バケツの体表に次々とハッチが現れ、そこからアーマーズが飛び出して来たのでした。
「あー、また出て来ちゃったよ。さっき全部壊したと思ったのになぁ~」
うわまた出た。
いつの間にか私の隣にはケルティさんが立っていました。背中からは銀色に輝く翼が生えており、表皮は鱗で覆われています。ようやく真面目に戦う気になったみたいです。
……。
ちょ、どうしたんです? なんかエルフさんとは全く違う生物になっていませんか?
「ん? ポロラちゃん、やっと私に興味を持ってくれたの? それを説明するのはここじゃなんだから、ベットの中で教えてあげるね……」
そう言ってケルティさんはアイテムボックスからダブルベッドを取り出し、私の目の前に設置しました。……あ、興味ないんで帰ってください。
私はやんわりと拒否しました。
「ケルティの能力は防具との融合だよ。装備を強化することによって身体が変化するんだ。とにかく今は戦いに集中しようね?」
「あ、うん……」
先に説明されてしまったケルティさんは渋々とベッドをしまいました。というか、なんでそんな物を持ち歩いているんですかね?
気にしてはいけない領域だと思うので、触れないでおきましょう。
さて、我々がアホなやり取りをしている内に、アーマーズの配置が終わったみたいです。
多くは旧式の大きな物ですね。あのスタイリッシュな奴です。
全てに飛行能力が備わっており、標準装備と思われる巨大なマシンガンを携えていました。……これまでなら少し怯む事もありましたけど、今なら負ける気が一切しません。
なんなら私一人で殺し尽くしてもいいくらいです。全員まとめてミンチですよ、ウジ虫どもがぁ……。
「それは困る、俺達にも楽しみを残してくれないか?」
そう言って私の肩を叩いたのはチャイムさんでした。
腰にはいつもの小刀とは違う、綺麗なレイピアをぶら下げています。よそ行き用の装備ですかね?
「そうでござ。久々の機械人形どもとの戦い、拙者も楽しくなってきたでござるよ……!」
巨大な眼球をギラギラと輝かせ、タビノスケさんは極太の触手をうねらせていました。
その周りには生き残った本隊のプレイヤー達が武器を構えて今にでも飛び出して来そうな様子です。
そこに遅れて、見知った変態達が参戦してきました。
「しゃあ! 全員生きてるな!?」
「うっせぇなぁ、妹が頑張ってんのに、死ぬ暇なんてあるわけないだろう?」
「コイツは刺激的な光景だな、興奮してきた」
「悲しいなぁ……それだけ兵を集めても俺達には勝てないんだから……!」
「お前ら! こっから本番だからな? 妹ちゃんに良いところ見せてやるぞ!」
自称お兄ちゃん'sです。
見た目はボロボロになってはいますが、本人達は元気いっぱいのようで、それぞれの武器を構えてお互いを鼓舞する雄叫びを上げていました。
「いやぁ、間に合った。置いていくとは酷いですな、このシバルも戦わせてもらいましょう」
シバルさんもゆったりとした足取りで姿を現しました。先程よりも身体をよじ登る子猫の数が増えています。絶対に死ななそうです。
そして……おそらくですが、これが今の『ソールドアウト』の全勢力でしょう。
ここにいない方々は既にやられてしまったか、そもそもここに来る気がないか、迷子かというところだと思います、彼等の分まで頑張らなければなりません。
「チッ……ちょっと目を離してたらぞろぞろと集まって来たな。先輩の前なんだから良いカッコさせてくれって」
ため息をつきながら、情けなく吹き飛ばされたツキトさんが私達の前に立ちます。
「でも、懐かしいなこういうのも。……お前ら、作戦なんてねぇ、全員特攻しろ。死ぬまで殺し尽くせ!」
そう叫んだ彼は、まるで開戦を告げるかのように、大鎌を高く振り上げました。
「ハーッハッハー! 総員迎え撃て! 蜂の巣だ!」
負けじとキーレスさんも叫び、アーマーズに指示を出します。
彼等の号令に答えるべく、この場にいた『ソールドアウト』と『シリウス』、全てのプレイヤーが前に出ます。……最終局面です。この激突でどちらが勝つのか決まるのを、全員がわかっていました。
さぁ、やってやりましょう。
私にすることはたった一つ、子猫先輩の命令に従うだけ。ある意味最も重要な任務です。
守りきって見せますとも、ツキトさんの代わりにね。
私は子猫先輩に向けられる銃口の前に立ち、大爪を展開したのでした……。
・駆け付ける気が無い者
メレーナ「コイツら良い装備してんねぇ。ちょっと回収してからでも遅くは無いかな?」
装備回収中……。
・迷子になった者
シーデー「あれ? 穴掘ってたらなんか広いところに出たよ? 秘密基地かな?」
アーク 「あー……シーデーはん、シーデーはん。多分やけど、ここダンジョンやで? 道間違えたんとちゃ……」
シーデー「成る程! ダンジョンに秘密基地を作っているんだ! それじゃあ攻略しちゃおう!」
アーク 「あ……うん……キミがそれでエエんならそれで……」
ダンジョン攻略中……。




