私の役目、私の戦い
空を飛べるリリア信者。
それがツキトさんが言った、シバルさんを囮に選出した理由でした。
飛べるから、という理由だけだと思っていましたがどうやら真に必要だったのは『リリア信者』だったようです。
神技である『リリアの祝福』を使える事、そして天候を変えた後に敵陣において単騎で生き残れる人材が必要だったのでしょう。……それならば、シバルさん以上の適役はいませんね。
私は最後の一機となったアーマーズを鯖折りにして、粉々にへし折る神父さんを見ながらそう思ったのでした。
「ふふふ……こんなものですか。防御を捨てて機動性に特化させたのはいい着眼ですが極端ですな」
歴戦の猛者感が出ています。
上半身裸なのがそう思わせるのかはわかりませんけれど、今は気にしている場合じゃないですね。……えっと、助けに来ていただいてありがとうございました。あのままではやられていたので、感謝いたします。
私はシバルさんに深々と頭を下げました。
こんな私でもお礼位はします。常識は知っていますから。……ついでに回復してもらっても良いですかね? 良いのを一発もらっちゃったんで。
「はっはっは! なぁに、構いませんとも。仲間同士助け合うことは当然の事、何も遠慮することはありませんぞ」
という感じで、私は回復してもらいました。流石神父さんです、回復魔法でHPが全快します。
……それで、これからシバルさんはどうするんですか?
あのバケツロボと戦いに行くというのなら、悪いですけれど私はご一緒できません。行っても邪魔になるだけですので。
シバルさんは私が砲撃を撃ち落とすのを見て、助けに来てくれたそうです。しかし、肝心の私にはキーレスさんと戦える程の実力はまだ無いでしょう。……しかし、手が無いわけではありません。
私の勘が確かなら、あの状態は『覚醒降臨』を使った為だと思われます。
あのウィンドウでも覚醒がなんたらと言ってましたしね。もしかしたら私も使うことができるかもしれません。
ですが、それをするにはあまりにもリスクが高いのです。失敗して邪神化してしまうかもしれません。そうなった時、私は味方に多大な被害を与えるでしょう。
そう考えたら軽々しく使うなんて言えるわけがありませんし、それで私があのバケツと同等に戦える保証もありませんでした。……無力というのは悲しいものですね。イラッとします。
私は示された道順を進み、敵の駆除をしようと思います。それでは、これにてしつれ……こゃっん!?
申し訳無いという気持ちを抑えながら、シバルさんに別れを告げようとした瞬間、私の身体が宙に浮かびました。というか小脇に抱えられています。私はペットかなんかですか?
「いやはや、君が弱気になるとはらしくない姿ですな。いつも通りポロラ君は全力で暴れてくれれば良いのですよ。その姿を見て勇気付けられる方がきっといるはずです」
シバルさん……。
落ち着いた声に、私は少し励まされました。
実のところ、最近は修行も真面目にやっていたので、かなり強くなったという気持ちになっていました。この戦争もきっと楽勝だろうと思っていたのです。
けれども、蓋を開けてみればこれですよ。笑っちゃいますね
相手が複数だと翻弄されてしまい、いつもの戦い方ができませんでした。しかも速さも足りていませんでしたし。
正直焦りましたよ、この先には私よりも強い敵がウジャウジャいるのではないかとも思いました。バケツに圧倒的な実力差も見せつけられましたしね。
そのせいで、変に緊張してしまったのは事実です。さっきも『嫉妬』のギフトに頼るのではなく、最初から『リリアの祝福』を使っておけば自分だけでも切り抜ける事ができたかもしれませんでしたから。思いきりが足りませんでした。
……というか、戦う相手が私よりも強いなんていつもの事じゃないですか。いつも通りやればなんの問題もないですね、これ。お言葉通り、おもいっきり大暴れしてやりましょう。
そうやって頭を切り替えて、私はやる気を漲らせました。
……。
で、なんで私は抱えれているんですかね? もう自分で行き先は決めれますよ?
首を上げてシバルさんを見上げて見ると、彼はニコリと笑顔を浮かべて目を細めました。なんか嫌な予感がしますね。
「ハハハ……。実のところ、勝手にどこかに行ってしまわない様に、無理矢理でも連れて来てほしいと言われていましてな。すみませんが、このまま移動させていただきます」
え、誰に……うあっ!?
私の質問に答える前に、シバルさんは駆け出しました。私よりも速い速度で森の中を駆け抜けていっています。裸足なのになんでそんなに速いんですかねぇ?
行き先が気になりウインドウを開いてみますが、どうやらキーレスさんの方向とは逆の方向みたいです。
「ハハハハハ! 地図を見ても何もわかりませんぞ! この先にいるのは我々の切り札達ですな! 君の助けが欲しくて首を長くして待っているところですぞ!」
切り札って……まさか……!
ハッとした私を気にもしないで、シバルさんは駆け抜けていきます。
抱えられて、冷たい風を受けながら私はぼんやりと感じていました。
きっと、この先が私の戦場なんだと。
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「がははははは! くらえぃ! 『星屑叩き』ぃ!!」
木々が倒れ視界が開けた場所に、高さ3メートル位の大きさのロックゴーレムと、その上に乗ったドワーフの姿が見えてきました。
見知らぬロックゴーレムは、両腕に巨大な盾を装備しています。
ドワーフは手に持った鍛治用の大槌を振り下ろし、魔方陣を作り出しました。
すると、魔方陣から何種類かの魔法が飛び出し、立ち向かう一人と一匹に襲いかかります。……ツキトさんに子猫先輩! それに……サンゾーさん?
「ぐぁ……魔法だと!? アンタ、魔法は使えないんじゃ……!」
「アホが! 装備に魔法を組み込むのがワシの能力じゃ! 生産職を甘くみたのう!」
「はぁ!? そんな能力聞いてないんだけどー!? もう怒ったもんねー! 『マジック・レーザー』!」
子猫先輩は叫びながら見下ろすサンゾーさんに魔法を使います。全てを蒸発させる子猫先輩の魔法攻撃です。
しかし……。
「きかんよ! ビルドー!」
サンゾーさんの掛け声共に、ビルドーと呼ばれたロックゴーレムが大盾を打ち鳴らします。
すると、真っ直ぐに伸びていたレーザーは軌道を変え、ビルドーの構えた大盾に直撃したのです。……今のは、『プレゼント』ですか。
おそらくは他人の攻撃を自分に移す能力なのでしょうが、真に驚くべきはロックゴーレムの耐久力です。子猫先輩の魔法を受けたというのに、まるで何事も無かったかのように佇んでいます。呻き声の一つも上げません。
「っち……!」
間髪入れずにツキトさんが追撃を仕掛けます。
壁生成の魔法により、地面から足場を生やした彼は、それを使ってサンゾーさんの真上まで跳躍しました。一撃で仕留める算段のようです。……が。
再び大盾が打ちならされ、ツキトさんの姿が消えました。
彼はいつの間にかビルドーの目の前に立っており、振るわれた大鎌の刃は大盾で止められてしまいます。
『魔王』の攻撃を弾き、『死神』の一撃をものともしない盾役……。
きっと、あのゴーレムさんもソールドアウトの一員なのでしょう。『シリウス』にしてはちょっと浮いた見た目をしていますしね。
自分の攻撃が通じなかった事をすぐさま判断し、ツキトさんは交代しました。間合いをとり、次の一手を考えているようです。
その様子を見て、サンゾーさんが口を開きます。
「どうしたぁ! お主らそんなもんじゃったかぁ? 『ペットショップ』の火力馬鹿コンビが聞いて呆れるわい! のう、ビルドー!」
サンゾーさんはお二人の攻撃を退けた事が嬉しいのか、腕組みをしながら高笑いをしています。対してゴーレムさんは警戒を解いていません。盾役の鑑です。
けれども……。
私には無意味なんですよねぇ!
隠れて様子を見ていた私は飛び出しました。
即座に大爪を操作できる可能限界量を作り出し展開、ツキトさんを追い抜いて、サンゾーさん達に襲いかかりました。
私の姿をみた瞬間、サンゾーさんはぎょっと目を見開きます。
「『串刺しフォックス』!? び、ビルドぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! そいつはヤバイぞ! 殺すのじゃあ!」
どうやら針ネズミにされたのが忘れられなかったみたいですね。予想以上に驚いています。
彼の言葉に合わせ、ゴーレムさんは動きます。
大盾を打ち鳴らし、襲いかかる私の大爪を自分に誘導しました。……いえ、誘導しようとしました。
大爪はその行動を無視して、サンゾーさんに真っ直ぐに伸びて行ったのです。
予想外の挙動にも慌てず、ゴーレムさんは自分の上からサンゾーさんを振り下ろし、前に出ました。自分の身体を使って受け止めようとした結果ですね。
当然大爪はゴーレムさんに直撃します。……固いですね。
直撃はしましたが、ゴーレムさんはびくともしていません。多少はダメージを与えた事ができたかもしれませんけれど、効果はないでしょう。
しかし、これでいいのです。
私の目標は達成しました。
……行ってください! この場は私が預かりました! 貴方達は貴方達にしか倒せない敵を倒すのです!
私は振り返りもせずに叫びます。
それだけで二人は理解してくれたみたいで、起き上がったサンゾーさんが叫びます。
「逃がすかぁ! ビルドー、あの二人だけは逃がしてはならん! 能力を使うのじゃあ!」
サンゾーさんは必死の形相をしていますが……無駄な事です。
ゴーレムさんの能力を見た瞬間、私の役目はわかりましたよ。
二人はあの能力のせいでキーレスさんと戦いに行けなかったのです。もしかしたら、サンゾーさん達はツキトさん達を逃がさない役目を背負っていたのかもしれません。
だから、あの能力を封じる為に私の黒籠手の能力が、『プレゼント』を封じ込めるこの能力が必要だったんです。
さて、ようやく私にふさわしい舞台がやって来ました。
最高戦力を活かすために、ここでこの二人を押し留めます。かっこ良く言えば殿というやつですね。
獲物に逃げられた事に腹を立てたのか、目の前のゴーレムさんが雄叫びを上げました。
そして私に向かって大盾を振り下ろしたのです。……なんだ、盾を構えるだけじゃないのですね。いいじゃないですか。
……やってやりますよ! 粉々に砕いて差し上げます!
こうして。
私の戦いが始まったのでした。
・ビルドー
『ペットショップ』において、盾約をしていたロックゴーレム。能力は相手の攻撃を強制的に自分に向けさせるというもの。離れた場所にいる相手を自分の近くに引き寄せる事もできる。デメリットは、プレイヤーでありながら言葉を話すことができないというもの。普段はチャット等を利用し、コミュニケーションをとっている。




