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アーマーズ・ロード

 ウィンドウが自然に閉じた後、光の柱が立っていた場所に現れたのは巨大な要塞でした。


 かなり距離が離れているのに確認できるそれはまるで鋼鉄の山を思わせるようで、思わず身体が固まってしまうような威圧感を放っています。


 あれが出現した事と先程のメッセージウィンドウが無関係という事はまず無いでしょう。……もしかして、あれが邪神化したキーレスさんなんですかね? アーマーズ・ロード『キーレス』なんて仰々しい名前が出てましたけど。


 けれど、いつもの邪神化とはまったく違っていました。今までは過去の情報から邪神の弱点探ったり、特性を考えて行動することが出来ましたけれど……それは通じないと見ていいでしょう。


 ならば私がする事は一つです。




 ……にーげよ。




 私は要塞がある方向とは違う方に足を向けました。元々進もうとしていたルートです。


 だってあの表示されたレベルが規格外過ぎますもん。現時点の私の三倍以上です。絶対勝てませんってば。


 だから逃げます。私は死にたくありません。


 取り敢えず近場にある倒れていない木に向かって、黒籠手からワイヤーフックを飛ばしました。

 そして、引っ掛かったのを確認して全力で引き戻します。その推進力とブーツによる二段ジャンプを利用して森の中を跳ねるように逃げていきました。


 ……あ、もちろんただ逃げる訳ではありませんよ? あんな開けた場所に居れば狙われますし、まずは場所を移動したのです。


 それと、逃げると言っても戦場からおさらばする気はありません。私はキーレスさんと戦いたくないというだけなのです。


 あんな見るからに危険な相手はツキトさんや子猫先輩にお任せしましょう。あの二人なら大丈夫です。負ける未来が見えません。


 私の仕事は彼等の戦いに水を差そうとする、お邪魔虫さん達を潰していくことです。


 できることからしていきましょう……あ、ステルスウジ虫だ、死ねー。


 高速移動をしながらも、私は気付いた敵を串刺しにして倒していきます。なんか斥候をしている方々は確実に殺して欲しいそうです。なんか観測任務をされると厄介だそうですけれど、どういう事ですかね?


 ……まぁ難しいことは考えない事にしましょうか。


 とにかく私は示されたルートを前進するのみです。


 そう考えながら、私は更に進みます。もう演習場の半分のラインを越えた頃でしょうか? ここからは更に敵の勢いが増して来るはず、慎重にいかなければ……。




『あー、あー……聞こえているかな? キーレスだ。ごきげんよう、『ソールドアウト』の諸君』




 ……な!?


 私は響き渡るその声を聞いて、咄嗟に木の影に身を隠しました。そしてゆっくりと辺りを見渡し、誰も居ないことを確認します。


 サイレンから響くような音声でしたが、いったいどこから……? さっき奪った通信機から流れてきた訳では無いみたいですし……。


 やっぱりあの要塞からなのでしょうか?


 そっと顔を出し、木々の間から確認できる要塞に目を向けます。

 じっと目を凝らして見てみると、スピーカーの様な物が確認できました。


『いやぁ、驚いてくれたらオジサンうれしいなぁ。君達にはいつも驚かされてばかりだからね、たまにはこっちからビックリさせたかったのさ』


 そこから再びキーレスさんの声が聞こえて来ました。……やはり、邪神化とはまったく違うようですね。自身の理性も残っているみたいですし。


 それでは、この現象はいったい?


『……にしても、今回は散々だよ。こちらが用意した新兵器が面白い位に役に立たなかった。こうなったら私が本気を出すしか無いじゃないか』


 その言葉と共に、地面が大きく揺れ始めました。


 辺りからは鳥が一斉に飛び立ち、小動物は逃げ出していきます。あからさまな異常事態です。


 地震という感じの揺れ方ではありません。どちらかと言えばこれは……。




 大きな物が動いたような揺れ方です。




『さぁ! キーレス、出るぞ! 殲滅させてもらおう!』


 私は、次に見た光景に思わず目を丸くしました。


 要塞が……動き出したのです。


 その姿を確認するために、私は木を登って目を凝らします。


 要塞は徐々に形を変えていき、腕と脚部が出来上がるのが確認できました。更に目や口の様な物も出来上がっていきます。


 巨大な身体を重そうに持ち上げ、それは自立します。


 遠くからでも全体を把握しきれない程の巨体、どんな攻撃でも弾き返してしまうのではないかと錯覚するような鋼鉄のボディ。そして、独特な駆動音……。


 その姿は正に……。






 ひっくり返した、赤い金属バケツでした。






 ……。


 ば、バケツだアレぇ!?


 見た目はひっくり返したバケツで、そこからロボットアームが伸びていました。脚部の造りも安っぽい物のようで、動く度にがしょーん、がしょーんと気の抜けた音が響きます。


 目も「㊤ ㊤」みたいなふざけた形していますし、口もただの四角の窪みですね、ガッチョガッチョ動いています。……いや、ダッッサッ!? あのアーマーズのスタイリッシュな感じはどこにいってしまったんですか!?


 アーマーズ・ロードとか気取った名前を宣っていたくせに、その見た目は無いでしょ!? 今まで人型ロボットだったでしょうが……!


 ……。


 い、いえ、まだアレがアーマーズ・ロードだと決まった訳じゃありません。


 少し取り乱してしまいました。あまりにもツッコミどころ満載の姿形をしていたものですから、口を挟まずにはいられなかったのです。


 今からが本番でしょう。きっとカッコいいロボットが現れて、私達に襲いかかって来るはずです。


『これが私の新しい力……『アーマーズ・ロード』だ! 覚悟するがいい! 今度こそ、勝たせてもらう……!』


 おいコラ、ちょっと待てや。


 それで本当にいいんですか? スタイリッシュ機械兵団のリーダーの機体が、よりにもよってバケツって。メンバー達は何も思っていないんでしょうか? ……あ、そうだ。


 私は腰に着けていた無線機を手に取り、マイクに向かってボソリと呟きました。


 バケツはセンスないわ~……っと。


 言いたいことは言ったので、再び無線機を腰に付け直しました。


『なぁ!? 誰だ今の!? ……あ、無線機を鹵獲した奴だな!? いいかい!? バケツの良さは女子供にはわからないんだ! あんまりバカにすると、オジサン怒るよ!』


 おっとバレたみたいです。


 やはりと言ってはなんですが、あちらには無線が繋がっていたみたいです。私の一言で大きく動揺したキーレスさんの言葉がスピーカーから聞こえてきました。これは常日頃言われている反応ですね。


 さて、どうやら大したこと無さそうなので、私はこのまま前進させて貰いましょう。逃げろ~。


 木から降りて私は駆け出しました。


『くぅぅぅぅ……。もういい! こうなったらオジサンの本気具合を見せてあげようじゃないか! 全砲門開放! レーザー砲照射よぉーーーーーーいっ!』


 最初っから全力なんです?


 ちらりと見えたバケツの表面には、沢山の穴が空いていきました。全ての方向にたいして、何百とも何千とも思えるような砲門が現れたのです。


 口と思わしき場所からは特大の大砲が見えました。それは徐々に光を集めていき、レーザーを発射する準備をしていました。……まさか、一斉に砲撃を開始するつもりですか? まだ味方が森に残っているはずなのに……!


『演習場を一つ潰すのは勿体無いが……勝てるのならば構わん! 残っている兵器は捨てる! 生き残っている兵士は死ぬ気で生き残れ! 全砲門、制圧用意……ぅてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!』


 轟いた号令と共に、バケツの表面から砲撃が始まりました。


 演習場にまるで滝のように降り注ぐ砲弾を見上げた時、私の身体からはドッと汗が吹き出したのです。……それなら、着弾する前に撃ち落とす! 


 両手を天に向け、私は黒籠手を発動させます。


 そして吹き上がる噴水の如く、盛大に刃を伸ばしました。


 黒い刃は私の視界を埋め尽くすように枝分かれしていき、あっという間に生い茂る樹木の形へと成長しました。……攻撃が最大の防御って奴です! 無駄弾お疲れさまでしたぁ!


 成長した刃が砲弾と接触した瞬間、強烈な爆発音が響きます。


 おそらくは一つの爆発から一斉に誘爆していったようで、耳をつんざく炸裂音が連鎖して私を襲いました。


 キィン……という音がしたと思ったら、その後なんの音も聞こえなくなります。その後、眩暈が私を襲い……。





 って、危なっ!?


 遠ざかる意識を掴み取り、倒れそうになる身体に力を入れます。爆音だけでぶっ倒れるとか、そんな柔な鍛え方はしておりません。

 聴覚も少しずつですが戻って来ております。


 しかし、砲弾の雨防ぎきったのは良いですが、先程の攻撃で私の居場所はバレてしまったでしょう。……こうなったら体力の続く限り囮にでもなりますか。


 さっきみたいに自分の行動を妨害されるのは相手も嫌でしょう、必ず私を狙って来るはずです。


 さぁ、狐狩りをお楽しみくださいな。


 私は一度黒籠手を解除しました。これで刃が消えて視界が開けます。もしかしたら、こちらの姿も見えているかも知れません。


 バケツを見たところ、ちょうどレーザーの充填が終わったようでした。避けれる自信はありませんが、少しでも時間を稼いで見せますよ。私一人で大技を消費させれるのならば恩の字です。


 さぁ、撃ってきなさ……。


『……新型アーマーズ部隊、出撃。先程の刃が飛び出した地点を捜索、侵入者を排除しろ。私は彼等の本隊を凪ぎ払う……消し飛べ』


 私の予想を裏切り、バケツのレーザー砲は『ソールドアウト』が陣地としていた場所に向かって発射されました。


 横一線に凪ぎ払われたレーザーは着弾すると共に大爆発を引き起こし、空にキノコ雲が上がります。……なんですか、これ……チップちゃんのレーザーよりもずっと強烈じゃないですか。


 こんなに強い攻撃は、見たことがありません……っ!


 見た目からは想像できない攻撃に見とれてしまった私は、ハッとしてバケツに向き直りました。


 驚いている場合じゃありませんでした。


 速く移動しなければ、アーマーズの追撃が……。


「目標発見、射殺します」


 移動しようとした瞬間、私の目の前に小型アーマーズが現れました。


 息もつかない間に現れた機体に向かって、私は襲いかかります。……もう考えている余裕なんてありません。


 居場所はバレ、手の内も知られている事でしょう。


 それならば、もうとやかく考えている暇なんてありません。直感で動きます。


 私は銃弾を受けながら、アーマーズをワイヤーで拘束しました。身動きが取れなくなり相手はもがきますが、逃げ出す隙は与えません。


 黒籠手から大爪を作りだし、そのままたたっ斬りました。……やっぱり脆いですね。これなら先に攻撃を直撃させた方の勝ちです。いてて……。


 撃たれた所を見てみると、ガッツリ血が吹き出していました。HPはボチボチの減り方です。出てきたのが一体で助かりました。


 さっきみたいにまとめて出て来なきゃどうにでもなるんですよ。最悪『嫉妬』の能力を使って回復しますし。


 装備ばかりに頼っている輩に、私が負けるわけがないんですよぉ……。さて、ポーション、ポーション……。


「目標を捕捉」


「攻撃を開始します」


「殲滅します」


「ファイアー」


 ……うそん。


 傷の治療をしようとした私の前に、今度は四体のアーマーズが現れました。


 し、しかし、私にはまだ『嫉妬』のギフトがあります。私の養分にしてあげましょう! くらえ、エナジードレ……。




『使用可能まで後……4:36』




 スキルを使用しようとしたところ、目の前にそんなウィンドウが現れました。……え、なんかタイマーが出てきたんですけれど? もしかして『嫉妬』は連続使用できない感じですか?


 あー、なるほどなるほど……、これは私の勉強不足でしたね。そんなデメリット知りませんでしたよ。ダメですね、これ。


 スキルを不発させるという醜態を晒した私は死ぬ覚悟を決めました。このまま生きていてもただの恥さらしです。ということで……。


 去らば……。


 そうやってへたり込むと、いきなりアーマーズ達の表情が変わりました。何かとんでもないものを見たかのような顔をしております。


 彼等の目線は私の背後に注がれており、銃口の照準も外れました。


「ほう……その装備……まだ生き残りがいたのですな……!」


 背後から聞こえた声に私が振り向く前に、彼はアーマーズの前に飛び出しました。


 そして、そのうちの一機に掴みかかると、地面に叩きつけて粉々に破壊してしまいます。……え? まさか、生きていたんですか? あんなに攻撃されていたのに?


 私はその姿を見て、思わず声を上げました。


「はっはっはっは! あの攻撃を見てすっとんで参りましたよ! まったくポロラ君は無理が好きですな、敵前であんな目立つ行動をするとは! 悪くない!」


 そう言っている間にも、彼の身体には銃弾が撃ち込まれています……が、その鋼の肉体には一切の傷をつける事ができません。……なんで上半身が裸なのかは、相変わらずさっぱりわかりませんけれど。


 自分達では倒すことができない事を察したのか、再びアーマーズは私に照準を向けてきます。……残念ですが、流石に立て直す時間はありましたよ!


 私は『リリアの祝福』を発動させました。

 少し勿体無いですけれど、ちょっとの間だけ無敵状態です。これで負ける事はありません。


「おお……流石は我が同士、リリア様の祝福の元、共に彼等を退けましょう……!」


 そう言って助けに来てくれた半裸の神父さん……シバルさんはニッコリと笑いながら、拳を鳴らしたのでした……。





・『アーマーズ』

 プレイヤー『キーレス』の『プレゼント』。その正体は高いエネルギーを精製するコアである。コアを元に加工したり、移植することによってさまざまな武器や兵器を作り出す事ができるが、なぜかキーレスが作った物を使おうとするとビジュアルが変化してしまう。本人は気にしていない、むしろ気に入っているが周りからは不評である。軍事パレードの際、赤いバケツの後ろをついて回るのは、部下も嫌なのだ。

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