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ポップコーンおいしい(現実逃避)

『今回の戦場について説明させてもらう。全長については10キロ、幅は5キロ、全面が森林で覆われているが整備がされてあって見通しは思ったよりは良い。あちらとしては森林内での戦闘を計画していると予想できる』


 もっしゃ……もっしゃ……もっしゃ……。


『道路は演習場の全域に伸びていて、これを使えば負担は少なく敵の元にまで行けるはずだ。もちろん、道路は敵に発見されやすいだろうし、敵もそれを見越して兵を配置してくるだろう。特に狙われるであろうポイントは地図にプロットしてある。敵がどこからか狙ってくるかの予想も点を付けておいたから確認して欲しい』


 もっしゃ……もっしゃ……。


 あ、喉乾きません? 余っている回復ポーションあるんですけど飲みますか?


 私はポップコーンを咀嚼しつつ、アイテムボックスから飲み物を取り出してチップちゃんに渡しました。


「あ、ありがと。のむのむ」


 ポップコーンと言えばコーラなんですけどね。まぁ、無いよりはマシというものですしょう。ゴクゴク……。


『農場長。先ずは戦闘の前提をお願いします。この地形から見るに、防御側は地形の恩恵を得ることができますが、攻撃側は見通しが良い事もあり厳しいものと考えられます。もしも、攻めるとなればこちらの必要勢力は三倍ではすまないはずです』


 なんでかわかりませんが、チャイムさんはツキトさんの事を農場長と呼んでいます。昔はツキトさんのところでこき使われていたんですかね?


『どっちが攻めるかは決めていないな。……が、キーレスさんの事だから速攻で防御陣地を張るだろう、それも何重にも。段階的にこちらの戦力を削ぐための前衛陣地を張るはずだ。俺達が勝つためにはこれらを全て突破するしかない』


 もっしゃ……もっしゃ……。


 あ、塩味濃いめの奴だ。おいしっ。


『待つでござる。相手が陣地を作り待ち構えるというのなら、こちらも同じ事をするべきではござらんか? 戦争で防御が強いのは当然で候う』


『そうなんだけどよ……相手は日々の訓練で防御行動に優れているからな。同じ事をしようとしたら、あっという間に相手の陣地が目の前に迫っているだろう』


 へぇ、戦争って防御の方が強いんですね。知ってました?


「ん? なに? 聞いてなかった。モキュモキュ……」


 どうやら、チップちゃんもポップコーンの美味しさに取り憑かれてしまったみたいです。もっしゃもっしゃ。


『なるほど。確かにこちらの戦力を考えれば守る位なら攻めた方がいい。……しかし、それならば何をもって勝利とするのですか? 先に全滅した方が負けというのは時間がかかり過ぎるのでは?』


『勝敗は陣営の長の首を先に取った方の勝ちだ。あっちならキーレスさんを、こっちなら先輩を先に殺された方の敗けってことだな。あと、イベント開始前日までに生き残りが多い方か。こっちはあまり気にしなくていい』


『ほうほう、それならば電撃戦を仕掛け、早々に敵を仕留める算段でござるな? 簡単で良いでござる、目に入ったゴミどもは全員ミンチにしてやるでござろう』


 私はふと気になって辺りを見渡しました。……もうこの時点で居眠りしている人結構いますね。逆に必死にメモしてる真面目な方もいらっしゃいますけど。


『いや、それは悪手だ、タビノスケ。この前の会議の時に見ただろう。奴等は光化学迷彩という不可視の兵装を有している。おそらく戦闘が始まったと同時に演習場にそれを装備した斥候が配置されるはずだ。大部隊を初期に動かした場合、行動を予測されて対策を練られるのは予想できる。慎重に兵を動かすべきだ』


 チャイムさんがタビノスケさんに対して反論しました。要するに特攻はダメという事らしいです。


『では、どうするのでござるか? 悠長にしていたら敵の斥候に捕捉されてしまうで候う。奴等には上空からの爆撃という攻撃手段もあるでござる。迫撃砲というのもありかも知れないでござるな。……捕捉され、報告される前に叩き潰す。手をこまねいていたずらに兵を死なせる作戦は好きじゃないで候う』


 しかしながら、タビノスケさんは聞く耳を持ちません。


 いえ、ちゃんと理由があるので、ただの我が儘というわけではないんですけれど。


『……まぁ、どっちの言い分も間違いじゃないな。というか、どんな状況でも不可視の斥候とかチートでしかねぇし』


『だからこそ、早期に決着を……』


『いや、無理だろ。結局斥候を放置しているのに変わりはないから捕捉されるのは同じだ。かと言って、タビノスケの言うとおり攻めないと勝てない。……だからこそ、先行して敵の陣地を解明、攻撃する人員を用意したいと思う』


 もっしゃ……もっしゃ……。


 あ、ポップコーンなくなっちゃいましたね。私が作ったクッキーでよければ食べますか? 捧げ物用に作ったんですけど余っちゃって。


「いいの? ポロラの作ったお菓子美味しいからすきー」


 私がクッキーの入った袋をチップちゃんに手渡すと、彼女は嬉しそうな顔をしながらそう言いました。可愛いです。


『前衛分隊を出すのですか? ……農場長、お言葉ですが、それをするのには練度が足りません。良い手だとは思いますが……』


『いや、分隊で運用するんじゃなく個人又はバディで運用する。指定した経路をガンガン進んでもらって、敵情をこっちに送ってもらう。戦闘も勝てそうな時だけで、自己判断で逃げてもいい。任務としては遊撃が近いのかな?』


 サクサク……。


『なるほどでござ。要するに、敵にちょっかいを出し、陣地構築の邪魔をするという訳でござるな? 相手の出方から敵斥候の居場所や、配備された戦力も割り出せるという事でござるか。……それ斥候にやらせれば良くない?』


『あー……斥候とはちょっと目的が違うんだ。斥候は敵の観測任務に専念して欲しいんだよね。こっちは戦闘もしてもらうから、敵にバレる事前提だし』


 なんだかもう私にはついていけないお話になってきました。


 男の人ってやっぱり軍隊とか好きなんですねぇ。前衛分隊とか斥候とか遊撃とか……、何がなんだかさっぱりです。


 専門知識がある前提で話されても困るのですが?


「後で細部を説明したプリントを配布するから大丈夫だよ。というか、それないとアタシもわかんないし……むぐむぐ……」


 じゃあ仕方ないですねぇ。


 私は諦める事にしました。後でわかる人に教えてもらいましょう。


『こっちの人員は好き勝手やらせた方が強い奴等も多いだろ。暴れてもらって敵を引き付けてくれれば、他の部隊も動きやすくなるしな。チャイムくんその辺頼んでもいい?』


『わかりました、検討しておきましょう。……しかし、そもそもの問題が解決しておりません。光化学迷彩に加えてあちらには航空戦力があります。戦車等は我々でも対処できるでしょうが、高所への攻撃には今一つ力不足です。それと気付いた事が幾つかあるのですが……』


 チャイムさんとしては思うところがあるらしく、難しそうな顔をしています。無駄にイケメンなのが腹立つ。


『なんでござる? 言ってみるでござるよ』


『お前には聞いていない。俺は農場長と話をしている』


『ああん!? この犬……黙って聞いていれば……』


 お、喧嘩ですかね?


 やっとつまらない話し合いから動きがありました。


 さぁ、殺し合うのです。そして私を楽しませてくださいな……!


 そう思ってワクワクしていると、ウィンドウの中でツキトさんが何も言わずに大鎌を取り出していました。


 しかも目に光が灯っておらず、完全に無表情です。問題を起こした瞬間に二人を殺そうとしていますね。


 それを理解できたのか、チャイムさんとタビノスケさんはサッと目を逸らしました。


『いいよ? 続けて? 気付いた事って?』


『あ、はい……。奴等の装備なのですが、ガスマスクが以前とは別の物になっていました、実戦を意識しているのだと推測されます。『シリウス』の新兵器とは化学兵器なのではないでしょうか?』


 化学兵器……。


 私には毒ガスくらいしかわかりませんけれど、恐ろしい話ですね。


 装備の属性耐性でなんとかなるかも知れませんけれど、毒状態にでもなったら面倒なのは明白、なにか対策を考えなければ……。


『まだあります。奴等の主力は『アーマーズ』のはず。しかし、この地図を見る限りあの巨体を使うには適さない地形です。なにか裏があるように感じます』


 あー、アーマーズですかー。


 そういえばチップちゃんも乗ってましたよね? 実際、ああいう地形だと動かしずらいんです?


「んー、ちょっと厳しいかな? 私のは耐久を捨てて軽量化した奴だったし、大木を薙ぎ倒しながら進むのは無理だったな。森の中で使うには向いてないと思う」


 そうですか。ならチャイムさんの言うことも一理ありますね。


『え~? ちょっと考えすぎじゃないでござるか~? 障害物が邪魔なら薙ぎ倒しながら進めばいいだけでござるよ~』


 しかし、タビノスケさんは脳筋でした。でもありと言えばありです。


『そんな事をできるのはお前くらいだ。それに、障害物は陣地構築に利用できる。それをあちらが使用しない理由はない。……おそらく、既存のアーマーズに代わる何かを用意していると見ていいでしょう。この対策もしなければなりません』


 有用な自然の障害を自分で壊すのはお前くらいだ、と、タビノスケさんをバカにしながらチャイムさんはそう言いました。


 タビノスケさんはそれがわかっていないのか、嬉しそうに触手をうねらせています。後で教えてあげましょう。


『光化学迷彩に航空攻撃、化学兵器に謎の新兵器か……中々面倒だな。今からでも対策を考えないといけねぇ……』


 ツキトさんは眉間にシワを寄せながら、そう言って頭を抱えました。……まぁそうでしょうね。


 そこまで問題を提起させられれば悩んで当然です。ここで「大丈夫だ! 何も問題はない!」みたいな事を言われるよりもよっぽど信用できる反応で私は安心しました。


『またまたぁ~! 悩むふりしちゃって~! 本当は全部いっぺんに片付けられる妙案があるのでござろう? ツキト殿も人が悪いでござるなぁ~!』


 タビノスケさん……。


 そういえばこの触手、前戦ったときも何も考えないで突っ込んで来ましたね。勢いは素晴らしいですけど、作戦とかを考えるのは苦手なんじゃないですか?


 完全に場違いですよ。タビノスケさんは私達と同じ部類の方という事がこれでわかりましたね。


 私はホッとして胸を撫で下ろします。


『全部いっぺんに? ……あ、そっか。あっちは軍隊として動いているんだから……。それならあっちの装備は……』


 しかし、ツキトさんの反応は違いました。


 何かに気付いた様に大きく目を開き、手を口に当てて何かを呟いています。


『そうか……そうだよ……。機械化された軍隊なんだから……。今の時季なら……』


 ?


 私にはツキトさんが考えている事がさっぱりわかりません。


 軍隊だからなんなのか、今の時季だからなんなのか。


 誰でも良いんで私にわかるように説明してくれませんかね? そこまで賢いと思ったら大間違いですよ?


 ほら見てください。


 チップちゃんは話に着いていけない事に加えて、お腹がいっぱいになってしまったので寝てしまいました。可愛いですね。


『……よしっ! 作戦は決まった! 俺の読みが確かなら、これだけで相手の行動を大幅に制限できる! チャイムくん! 会議はもういい! 魔術師をいるだけ集めてくれ! 俺達は勝てる!』


 自信満々にそう語るツキトさんの目は、ギラギラとした輝きに満ちていました。まるで獲物を前にした獣のような気迫です。


『はっ……!? わ、わかりました! 今すぐ行動にかかります!』


 そんな様子に驚いたのか、チャイムさんはそう言って大慌てで部屋を出ていきました。


『タビノスケ! お前のギフトで魔法の射程範囲を拡大する事はできるな!?』


『できるでござるけど……いったい何をするつもりでござるか? 嫌な予感しかしないのでござるが……』


 タビノスケさんの回答に、ツキトさんはニタァ……っとした悪い笑顔を浮かべました。これは殺人鬼の笑顔ですね。間違いありません。


『ぃよっし、完璧ぃ! この作戦ならあっちも読めない! 俺達に有利な戦場が作れる! これで作戦会議は終了だ! 後で参加してもらう人員は知らせるから楽しみに待っていてくれ! じゃあな!』


 ツキトさんは嬉しそうにそう言ってウィンドウを閉じました。目の前にあるのはいつも通りの大講堂です。


 どうやら、本当に作戦会議は終わってしまったみたいでした。……え?


 結局、私達は何をすればいいんですかねぇ……?


 そんな私の疑問に答えてくれる人は、誰一人としていないのでした。……チップちゃん、起きてー、起きてくださーい。起きて私の疑問に答えてー。


「Zzz……」


 はい。


 これはどうしようもありませんね。


 私程度の知能じゃわからないので、私も寝てしまいましょう。調度柔らかそうな抱き枕が隣で寝息を立てていることですし……。


 そう考えて、私はチップちゃんを抱き締めながら横になったのでした。


 スヤァ……。

・前衛分隊

 主力よりも前方に配置された、敵からの被害を最も受けやすい分隊。前進中に敵を見つけた場合射撃によって攻撃するか、迂回して違う経路を探す。どちらにせよ、主力の前進の為に命をかけている分隊である。

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