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作戦会議

 『ノラ』の修行を手伝っていたケモモナは少しの間だけ滞在し、ザガードに戻っていきました。


 どうやらツキトさんから貴重な情報を手に入れたようです。すぐにでもクランに戻り、やり遂げなければならないということでした。


 うちの修行中毒者達はケモモナと仲良くなったようで、奴等は何をとち狂ったのかまた来るように約束をしていました。帰る前日は宴会なんかもしていたみたいですしね。……塩くらいまいてくださいよ、頼みますから。


 それと、連れてくる事を決めた子猫先輩についてはニコニコしていましたね。


 なんでも、Gを使った修行部屋を作り上げたのだとか。地下に作られた空間で、天井から垂らされた紐の先に、奴らがくくりつけられているという地獄の部屋です。


 そんな吊るされたG達の下に松明を置くと燃焼ダメージが発生。そのダメージで出産、増殖を繰り返します。


 そして、死ぬ前に誰かがGに回復魔法をかけ延命をし、更に増殖を促す……。


 確かに効率は素晴らしいですし、ケモモナに頼らなくても良いということも最高なんですけど……。


 この修行は多大なSAN値を犠牲にします。


 だって、Gですよ? G?


 見るのも嫌なのにそれを潰して卵を捻り出させるんですよ? まともな人なら心の中の大事なものが壊れてしまいますって。


 実際、数人目が死んでいますし。元気なのはまともじゃない中毒者達くらいのものですよ。


 私も疲れてしまって、一時間以上は続けることはできない程でした。


 ……。


 もう思い出したくもないので、この話は止めにしておきましょう。誰も聞きたか無いでしょ。Gの話なんて。




 まぁ、そういう感じで。




 『ノラ』は『シリウス』との戦争の準備を淡々と整えていました。他のソールドアウトのクランも同様です。


 開戦の日時も決まったらしく、今日は戦争における作戦会議をするということで、皆が大講堂に集まっていました。またウィンドウを大画面にしています。


「ツキトも今回は気合い入ってたしな。多分面白いと思うぞ。あいつら作戦考えるのに命かけてるから」


 へー、そうなんですか。

 そういえば、ツキトさんは相手の裏をかくような戦い方が好きなんでしたっけ。私はそういうのはてんてわかりませんから、なんとなーく聞いて……。


 私が大講堂の床で体育座りをしていると、隣にチップちゃんが座りました。イメチェンしたのか、片目には眼帯がしてあります。格好いい。


 ……って、なんでいるんですか? 今日会議なんでしょ? 駄目ですよこんな所で油売ってたら。


「いいんだって。前も戦略を考えてたのはツキトとチャイム、タビノスケだったし。アイツらだけでいいの。私達の仕事は決まった作戦を進めるだけ……たべる?」


 そう言ってチップちゃんは私にポップコーンを差し出して来ました。……あ、いただきます。


 オヤツを持参している辺り、今日のチップちゃんはオフモードですね。周りに本性がバレていることを察し始めたのか、最近は気が抜けている姿を見せることが多くなりました。


 こうなってくると甘やかしたくなるというものですが、周りの皆さんの目がありますからね。我慢しましょう。


 私はそう考えながらチップちゃんの抱えているポップコーンの容器に手を伸ばし、二、三粒掴んで口に放り込みました。ん、塩味効いてる。


 と、そんな事をしていると、急にウィンドウが表示されました。あれ? まだ開始予定の時刻にはなっていないはずなんですけど……おぉ!?


『っち……やっちゃったよ。お前達がふざけすぎるからです。あーあ』


 ウィンドウには瞳孔が開き、どうみてもキマっているようにしか見えないツキトさんの姿がありました。


 その手には大鎌が握られており、彼の身体は鮮血に染まっております。


 足元には二つの血溜まりと残骸が落ちていて、いったい何をしてしまったのかは想像に難くないでしょう……。


『全くよー、また蘇生させなきゃいけねーじゃねぇかよ。真面目にやってくれたらこっちも楽なのにさぁ。……あ、カメラマン君、この事は内密にしてくr…………ちょっと話し合おうか?』


 笑顔を張り付かせたツキトさんは、カメラに向かってお願いするようなポーズを取りました。


 どうやら何事もなかったかの様に見せたようですが、流石にカメラが動いている事には気づいたみたいですね。


 彼は無情にも画面外にカメラマンの方を連れ出していきました。


 その後、ちらっと鮮血が飛び散るのが見え、ウィンドウはプツリという音を立てて真っ暗になってしまいます。


 一連の様子を見ていた私達は、もはや呆然とすることしかできませんでした。


 初手放送事故とか中々やりますねぇ……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



『えー、それではこれから作戦会議を始める。メンバーは俺とタビノスケとチャイムくんです。よろしく』


 次にウィンドウ映し出されたのは、山積みになった資料が乗せられたテーブル。そこを中心にして、席に着いている三名の姿でした。

 部屋にはどこかの地図が貼り付けられており、それを背にするようにツキトさんが座っています。


『それと、カメラマン君はどこかに行っちゃったから固定カメラだ。あしからず』


 カメラマンさんは急用ができたみたいです。


 ツキトさんの次はタビノスケさんの自己紹介でした。


『タビノスケでござる。先程は何も映らなかった……いいね? で候う……』


 彼はどこか遠い目をしながらそう言いました。おそらく言わされているのでしょうね。


 そして、チャイムさんなのですが……。


『ちゃ、チャイムだ。今日はこの三人で作戦会議をしていく。よ、よろしく頼む……』


 彼が恥ずかしそうに自己紹介を終えると、ウィンドウを見上げていた方々の一部から黄色い歓声が上がりました。……可哀想に、全てはケモモナのせいです。


 あのセクハラもふ魔族、きいた話ではリアルでトリマーの資格を持っているケモノガチ勢だったみたいです。生け贄に捧げられたチャイムさんの身体にブラッシングを施していたようでした。


 なんでも、そういうスキンシップも極上の時間なのだとか。


 そして、今まで言及しなかったのですが、チャイムさんは髪の毛があるタイプのコボルトさんです。

 普段はボサボサでワイルドな感じをしています。変態がゴワゴワを楽しみたいと言っていたのはきっとこの事を言っていたのでしょうね。


 そんな彼をトリマーが本気でお手入れした結果……。


 なんということでしょう。


 チャイムさんの体毛は光を受ける度にキラキラと反射し、ワイルドだった髪の毛はサラサラとしたものに生まれ変わったのです。


 まぁ、言ってしまえば美犬になりました。野良犬が富裕層に拾われたって感じの変化です。


 隙をみて撫でてみましたけど、変化した彼の毛皮はまるで絹の様な肌触りでしたね。


 しかし、美犬になった結果、彼に待ち受けていたのは厳しい現実でした。


 先ず目を付けたのは男性陣でした。

 線の細い美犬になったチャイムさんを見て、何か思うところがあったのでしょう。犬好きの方は特に。

 やたらと声をかけられて食事に誘われていました。どこからか見られているという事も増えたそうです。怖いですね。


 で、女性陣。


 美犬、もとい、イケメンになったチャイムさんは女性にも人気が出たみたいです。

 普段は抜けている所がありますけど、決めるときには決める方ですからね。見た目も良ければそりゃ人気もでます。


 なので、苦しい反面嬉しい事もあったという事ですね。男性に言い寄られているところを見てしまった私としては、可哀想としか言えませんけど。


『あれでござるね。ちょっとチャイムどのがイメチェンしていて驚いてしまったでござるよ。ごめんね? ホモ犬とか言って』


『いや……なんだ。俺も取り乱した……すまん。流石にいきなり斬りかかったのは悪かった……』


 どうやら和解できたらしいです。


 この二人は仲が良いのか悪いのか良くわからない間柄ですね。視界の端で金髪ちゃんが喜んでいるのは気にしないものとします。


『さぁて、んじゃあさっさと始めていくぞ。……最初に説明するが、俺はキーレスさんの所にいって今回の戦争の打ち合わせをしてきた。まぁ禁止事項や運営についてだな』


 禁止事項に運営……?


 戦争なのにルールがあるんですか? 皆殺しにするのは変わらないのに。


『ふむ……拙者の狂気付与はどうでござった? その位の戦場なら『憤怒』の能力と合わせれば全てをのみ込めるでござるが?』


 ……ああ、そういえば戦場で使えば予想以上の効果を発揮できる能力もあるんでしたね。


 確か、『ノラ』とタビノスケさんが戦ったときにも禁止事項があったはずです。それを確認しにいったということですか。


『狂気は禁止だとよ。それとシーデーの作成したトラップもな。それでもって、チップとミラア、そしてヒビキは運営に回って欲しいらしい』


 ……は?


 なんですかそれ、ずるいですよ。


 戦争で有効な能力持ちをまとめて禁止にするなんて、いったい何を考えているのですかね?


 そう思いません、チップちゃん? 貴女も戦いたいですよねぇ?


「それは仕方ないかな? 今はディリヴァの驚異があるから。怪しい奴がいたら、捕まえなきゃいけない。ヒビキの人形とかも、警備に使う気なんだろ。……ポップコーンたべる?」


 なら仕方ありませんね。食べます。


 私達は一緒にポップコーンをもしゃりました。おいしい。


『こちらの戦力は削がれますか……その代価は? まさか、貴方がただでそれを承諾するなんて事は無いでしょう?』


 一見挑発するような態度で、チャイムさんはそう問いかけます。


 そんな彼に対し、ツキトさんは不敵な笑みを浮かべて、当然、と言い切りました。


『戦場の詳しい地形、参加人員の情報と交換してもらった。……チャイムくんや、まさか多少の戦力を削がれたから勝てません、とは言わせねーぜ?』


『いえ、十分すぎる程です。地形さえわかれば勝利はこちらがもらったも当然。敵の戦略を丸裸にしてみましょう』


『ふむ。拙者は現場の意見しか言えないでござるが、生存は重視して欲しいで候う。兵は数でござる。多ければ多いほど、お前らの命令に答えることができるでござぁ……』


 なにやら皆さん盛り上がって来たようです。三人とも悪い顔をしていますね。……戦争の計画を立てているのにあんな顔ができるとは。恐ろしい。


『さて、それじゃあ手元の資料を見てくれ。これからは地形を確認しつつ、俺が考えたポイントを説明していく。死にたくないなら気合いで頭に叩き込め』


 ツキトさんはそこまでいうと立ち上がり、壁をおもいっきり叩きました。

 いきなり大きな音が出たせいで、大講堂の中に緊張が走ります。先程までの緩やかな雰囲気はどこかへ吹き飛んでしまいました。




『さぁ、おふざけはここまでだ! 目標は皆殺し! 力量と戦術、どちらも『シリウス』に遅れを取るつもりはない! 気合い入れてけ!』




 そう叫び、ニヤリと口元を歪ませるツキトさんは、とても楽しそうな顔をしていたのでした……。


・フェルシーの秘密 (提供・ツキト)


「アイツとギャンブルして勝つことができればなんでも言うこと聞いてくれるよ。イカサマは一回しか通じないけど」


 この事実をきいた『ケダモノダイスキ』はアホ女神が住まうというカジノの街『バインセイジ』へと向かった。はたして彼等は、もふもふへの栄光に手を伸ばすことができるのか……!(できませんでした)



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