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中毒者の宴

 武器の受け取りが終わった私は、『帰還』のスクロールを使ってクランの入口へと戻って来ました。


 ツキトさんは『シリウス』に残り、キーレスさんと話し合うことがあるそうです。そもそも『帰還』の魔法は自拠点にしか移動できないので、私一人でしか帰れなかったのですが。


 ま、ツキトさんは置いておきましょう。


 そんな事よりも今クランはどうなっていますかねぇ。私があげた黒籠手武器で皆さん頑張って修行しているみたいですし、帰った瞬間に大歓迎されてもおかしくはありません。


 そう期待しながら私はクランへ入りました。……みっなさ~ん! 可愛らしい狐娘さんが帰って来ましたよ~! 修行頑張って……。


「参謀長が逃げたぞ! 追え!」


「タビさん連れてこい! 触手でがんじがらめに……あぁ!? ログアウト中ぅ!?」


「囲め囲め! ちょっとケツの匂い嗅がれただけで逃げやがって!」


 …………。


 酷い絵面。


 クランの男連中が私の作った武器を持ってチャイムさんを追いかけ回しています。


「なぜ……! なぜ俺がこんな目に合わなくちゃいけないんだっ……!」


 そして、お尻を嗅がれたらしい可愛そうなコボルトさんは、涙を流しながら息を切らして走っていました。


 もう全力疾走ですね。


 迫り来るクランメンバー達を切り伏せながら、ひたすらに廊下をダッシュする彼の姿は何とも言えなません。


 しかし、悲しいことにここは私達の拠点。


 殺されてログアウトしたクランメンバー達はすぐにログインし直します。そしてまたチャイムさんとの追いかけっこを始めたのです。


 もう彼に残された逃げ道はありませんでした。……なんでこんな事になってるんですかね?


 ちょっとすいません。なんでチャイムさんは追いかけられてるんです? みんな一斉にホモになる状態異常でもかけられました?


 私はロビーでこの光景に恐怖していたプレイヤーさんに声をかけました。種族はハーピーのようです。


「えっ……、えっと、長と『魔王』様が頭のおかしい人を連れてきて……」


 あ、ケモモナですか。


 なるほど。

 私が冗談で言っていた、生け贄はチャイムさん、という話が現実になってしまったようですね。


 しかし、なぜ男性陣が総出で追いかけているんですか? 普通は何人か味方をするでしょう?


「じ、実はね、さっきまで大講堂で大修行会って言って、みんなでGを倒してたの。その効率が凄くて……」


 このハーピーさんの言うことには。


 私が作った黒籠手武器と、ケモモナの能力が噛み合わさり、皆さんすさまじい勢いで修行をしていたのだとか。


 ガンガン上がるレベルに、グングン伸びるステータス。


 止まらないレベルアップの告知にプレイヤーは病み付きになってしまったようでした。修行中毒です。


 成長率が1%切っていても彼らの修行は止まらず、更なる獲物をケモモナに要求したそうです。……が。




「悪いがケダモノの匂いが嗅ぎたくなった。……チャイムを連れてこい。俺はオスケモをハスハスするまで召喚をする気はない……!」




 と、宣言されたそうで。


 みんなが頑張って修行してくれるなら……と、一度はチャイムさんも匂いを嗅がれる覚悟を決めたらしく、その身を捧げました。


 しかし、相手はセクハラもふ魔族。


 軽い気持ちでもふられてはいけません。


 油断していたチャイムさんは腰に抱き付かれ、尻尾の付け根を嗅がれながらもふられたようです。うっわキッモ。


 当然抵抗して、ケモモナを殺したそうなのですが、これが修行中毒者の琴線に触れてしまったみたいです。


 せっかくの良環境を台無しにされてしまったのですから、彼等は怒り狂いました。


 中毒者は蘇生魔法を使い、即座にケモモナを復活。そして変態の指揮の元、もふもふ捕獲作戦を始めたそうです。


 高い戦闘能力と経験を持っているチャイムさんと言えど、あの量のプレイヤーを一度に相手にすることは難しいお話でしょう。

 できるだけ少ない人数を相手にしながら戦うべく、廊下に逃げ込んだ……という感じですかね?


 なるほど、解説ありがとうございました。


 そういえば、貴女も変態に狙われる様な見た目をしていますね。悪いことは言いませんから落ち着くまでは街でお買い物をしていた方が良いと思いますよ?


「そ、そうね。ポロラちゃんも気を付けて……」


 ハーピーさんは魔法を詠唱して私の目の前から消えました。テレポートの魔法でしたね。逃げるのに便利。


 それと入れ替わるように、クランの入り口から知っている方々が入って来ます。……オークさんに金髪ちゃんじゃありませんか。なぜここに?


「ああ、ポロラさん。実は先日から『ノラ』でお世話になることになりまして。これからもよろしくお願いします」


 おやおや。それはそれは。


 どうやら私に舎弟ができたようです。姉弟子でクランの先輩ですからね。気分がいいです。


「私達、クランから仕事をもらって今帰って来たところなんですけど……なんか騒がしいですね。何かあったんですかぁ?」


 金髪ちゃんは辺りをキョロキョロと見渡しながらそう言いました。……取り敢えず、舎弟に対して最初にしてあげれる事は、この場から避難させる事ですね。


 お二人とも、早くお逃げなさい。


 今このクランは変態と中毒者に支配されています。このままではオークさんが美味しくいただかれてしまうかも知れません……。


「私じゃなくて!? ……はっ! シードン! 覚悟を決める時間がきたよ!」


 しまった。


 オークさんが狙われているのを知ったら、この子逃げないじゃ無いですか。絶対陵辱されてるところを見たがるでしょ。


「な、なぜ自分が狙われるのですか? まさか、いつぞやの変態がいるわけでもあるまいし……」


 いるんですよ。その変態が。


「     」


 私の発言に、オークさんが凍りつきました。全身の毛が逆立ち、呼吸が荒くなっていきます。


「あの光景を……もう一度……! ハァハァ……」


 金髪ちゃんも呼吸が荒くなっていました。もうどうしようもありませんね、これ。


 ええい! いいから今から街に行って買い物でもしに行きなさいな!

 ほら! オークさんも固まっていないで金髪ちゃんを連れ出しなさい! じゃないとホントに変態がきますy


「ポロラぁ! 助けてくれぇ! 変態に……もふ魔族に犯されるぅー!」


 チャイムさんが来ました。


 つまり、それに釣られて中毒者とケモモナも一緒に現れたということです。……さっさと逃げてしまえばよかったですかね?


「よっしゃあ! 喜べケモモナぁ! お前の好きそうなのが増えてるぜぇ! 尻尾が三つもある!」

「ふふっ……今日はオスケモの気分さ。あのゴワッとした毛並みに包まれたい……!」

「オスケモが二匹に狐さんが一匹……来るぞ!」

「来ねぇよ! 俺達がいくんだ……!」

「お前達には悪いが……俺達の修行の糧に……!?」


 一番前にいた中毒者の首がポロリと落ちました。


 唐突ではありますが、この光景には覚えがありますね。黒子くんです。


「ポロラ姉ちゃんに……何をするつもりだ?」


 それを皮切りに、中毒者の集団が何者かの攻撃によって吹き飛んでいきました。


 大斧を力任せに振り回し、プレイヤーを凪ぎはらっていく熱血漢。


 両手の拳銃で復活してきた中毒者の頭を、確実にぶち抜いていくガンマン。


 敵の攻撃を受け止めながら、鎖鎌で命を刈り取っていくドM。


 悲しそうな目をしながら、向かってくる中毒者を頭から食いちぎるドラゴン。


 そして、やれやれと言いながら全員の補佐をする、杖を構えた魔術師。


 一人姿形は違いますが、彼等の姿には見覚えがありました。自称お兄ちゃん'sです。……あ、貴方達!? いったいどうしたというんです!?


「俺達はお兄ちゃんだからなぁ! 妹とその友達のピンチには駆けつけるのさぁ!」

「ま、俺達も戦えるようになったし? 良いとこは見せてぇよなぁ!」

「ご褒美は鞭叩きでいい」

「本当の姿なのに気付いてくれる……、こんなに嬉しい事はないっ……!」

「お前ら! 妹ちゃんに褒めて貰うのは後! 俺達がこの場を持たせるんだ! いくぞ!」


 魔術師さんの掛け声で、お兄ちゃん'sと黒子くんは中毒者と変態達の中に飛び込んでいきました。


 そして傷付きながらも向かって来る敵を消し飛ばしながら進んでいきます。……っちぃ! 見てられますか!


 ほらっ! チャイムさん! 腑抜けている場合じゃないでしょう! 貴方を助けてくれると言っている方々がいるんですから! 気合い入れなさい!


 私はそうやって鼓舞したあと『真理の聖槍』を構えて中毒者達の中に突っ込みました。


「っ! そおら来たぁ! 飛んで火に入るもふのケモ……」


 ウジ虫ぃ!


 攻撃してきたウジ虫に対し、私は槍を振るいます。


 その攻撃は相手の剣によって阻まれてしまいますが、そんな事は関係ありません。その防御ごと消し飛ばす!


 力任せにそのまま槍を振り抜くと、穂先から眩い光が飛び出しました。


 その光は周囲にいたウジ虫も巻き込み浄化してしまいます。聖なる光を受けたウジ虫はアイテムをドロップして消えてしまいました。


 ……これが神聖属性の攻撃ですね。受けた側の善行値が低ければ低いほど威力を増す属性攻撃です。まさか攻撃が拡散するとは思いませんでしたが。


 これ、いいですね。便利で。


 咆哮以外の範囲攻撃が増えたのは大きいですよ。中範囲ではありますが、まとめてウジ虫を潰せるというのは爽快感がありますから。


 しかし、まだ性能を確認しきった訳では無いですからねぇ……。


 このままちょっと、試し切りでもさせてもらいましょうか。……私の役に立つことに感謝して逝くことですねぇ!




 ウジ虫どもがぁ!




 ……その後。


 私達の活躍を見たのか、チャイムさんが正気に戻り指揮をとってきました。


 彼の『プレゼント』、『レギオンドッグス』で強化された私達は、見事中毒者を正気に戻すまで殺しつくしたのです。


 そして、最後まで全員生き残った自称お兄ちゃん's+黒子くんは互いの絆の力を確かめ合い、生け贄を拘束。ケモモナに差し出しました。


 訳がわからない。


 そんな顔をして口をあんぐりとしていたチャイムさんに熱血漢さんが一言。


「お前は妹ちゃんにたかる悪い雄犬だ……メスにしてもらえ」


 そして生け贄は捧げられました。金髪ちゃんもこの結果にはニッコリです。


 尊い犠牲が捧げられたおかげで、私達は効率良く修行をすることが出来ます。私の黒籠手武器も大活躍です。……ふふふ。


 まさか、この方々は気付いていないでしょうねぇ。


 私の思惑通りに事が運んでいるなんて……。


 さぁ、もっと修行するのです。




 私が強くなるためにねぇ……!




 そう思って、私はこっそりと目を細めたのでした……。こーん!


・レギオンドッグス

 プレイヤー『チャイム』の『プレゼント』。一対の小刀。自分の指定したメンバーを強制的にパーティーに参加させ、ステータスを強化させる能力。参加したパーティーメンバーが多ければ多いほど、バフの強度は上がる。パーティーメンバーが得た経験値はチャイムも所得することができるが、デメリットとしてパーティーを組んでいない時の彼のステータスとスキルレベルには大きなデバフがかかる。

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