ケモモナ
「は? 敵性NPCを何でも召喚できる能力? ちょっと待って。デメリットは?」
セクハラもふ魔族の自己紹介に移ったところで、子猫先輩が大きく動揺しました。
この変態の名前は『ケモモナ』。安直かつ、瞬時に正体を察することができるゴミのようなネーミングセンスですね。
更に『ワイルド・ラヴァー』というふざけた名前の『プレゼント』をお持ちのようで、もうコイツは私に殺されるためだけに存在している気がしてきました。
「デメリットは召喚した動物にイタズラをしようとすると逃げてしまうことだ。他人がもふる分には普通の反応なのに……」
マジで何をしようとしたんですかね?
私はドン引きしていましたが、子猫先輩は気になることがあるようで、根掘り葉掘り質問をしていきます。
「ほうほうほう! なるほどね! 召喚したNPCを殺すとどうなるの? 残骸は残る? 経験値はあるのかな? 一度に何匹召喚できる? 昆虫もいける?」
グイグイいってますね。
目をキラキラさせております。あれは検証中の顔でしょう。私の黒籠手を調べていたときもこんな顔をしていました。
「む、虫も召喚できるが俺の守備範囲外だ。残骸は残らない。経験値は殺したことが無いからわからないな。召喚に特に限界はないと思うが……」
変態が戸惑っていました。……なんですかね。子猫先輩はいったいコイツに何を見いだしたのでしょうか?
私には理解できませんし、理解したくもな………………ん? ちょっと待ちなさいな。今、凄いこと言ってませんでした?
限界が、無い?
召喚したNPCを倒したら経験値が手にはいる可能性がある? つまり、コイツ自体がNPCの無限湧きスポット?
驚愕の事実に気付いた私は、思わず叫びました。……経験値稼ぎ放題ぃ!
そして身体に巻き付いていた蜘蛛の糸を引きちぎり、力ずくで立ち上がったのです。ぶちぶちぶちぃ。
「ちょ!? 怖いよポロラ! 顔! かお!?」
「先輩の拘束を振りほどいた……だと……? どういうことだ、さっきは身動きも取れなかったはず……」
「復活……! もふもふ復活……!」
あ、やっべ。
約一名勘づいた奴がいました。この事実は隠しておかないと私の奥の手が露呈してしまいます。なんとか誤魔化さないと。
私はこちらに目を向ける皆さんを一瞥して口を開きました。
……気合いです。
いい顔をしながら、更に言い訳を続けます。
気合いって凄いですよね。自分が普段出せる以上の力が出せるようになるのですもの、全力で生きてるって感じがします。
良いですよね、気合いって。
「え……あ、うん。気合いか……。ならしょうがないな、そういうときもあるよね。ふざけて無抵抗なふりする事くらい俺にもあるし」
子猫先輩に抱えられたツキトウサギさんは納得したようにそう言いました。案外チョロいですね
というか今の発言が本当ならば、もしかして今まで良いようにやられたのは、全て演技だったりするんですかね? うわっ、騙されるところでしたよ。
そういえば、チャイムさんの証言で、相手の裏をかくような戦いかたをする、という事を聞いていました。この人サイコパスか何かなんですかね? そんな様子、今まで一切見せませんでしたよ?
危ない危ない。
普段のふざけている姿を真に受けてはいけませんね。妙に勘が良いみたいです。
「……よしっ! 何はともあれ早速検証してみよう! さぁ、速く何か召喚してみてよ! 僕としては『G』を要求するぜ!」
子猫先輩はそう言ってツキトウサギさんを解放しました。それと同時に彼は人間の姿を取り戻します。……って、G!?
Gは不味いですよ!? ここ街中ですって!?
察しの悪いかたに説明しますと、『G』というのは黒くて素早く、叩き潰しても卵をばら蒔くという最悪な害虫です。
ゲームの種族名で言えば『黒い悪魔』といいまして……ここまで言えばどんな昆虫かわかりますよね?
それとこのゲームのGってでっかいんですよね。1メートル位あります。
攻撃すると卵を産み落とし、すぐに孵化して増殖するという特性があるので、修行相手としては申し分無いんですけれど……。
リアルSAN値ゴリゴリ減らすので、相手にしたくないんですよぉ……。
「諦めてくれ。先輩はゴキ工場が一番の修行と考えている。俺達は先輩が飽きるまでゴキを殺し続けるんだ……。あ、俺にも武器作ってもらっていい?」
そう言ってツキトさんはこちらに手を差し出して来ました。
その瞬間、キラリと彼の左手……いえ、左手の薬指が光ります。
今まで気にしていませんでしたが、ツキトさんの左手には指輪がはまっていました。そして、ツキトさんと合流してからは子猫先輩の左手にも指輪があります。
てっきり装備しているアイテムだと思っていたのですが……二人ともそれを薬指に着けているんですよ。こうなると意味が変わってきますよね?
なんですかその指輪? 惚気ですか? ツキトさんは取り敢えず死んでくださいよ。
「いきなり何!? そんな事言われる筋合いねぇよ! そんな事より、俺にも武器を寄越せ! ゴキ修行は精神に来るが効率が良いからな!」
ツキトさんは私には黒籠手武器を要求して来ました、大歓迎です。……大鎌で良いですよね? 大歓迎ですよ、こんな感じで良いですか?
私は黒籠手から武器を作り出しました。
にこやかな笑顔を貼り付かせて武器を手渡したとき、若干ではありますが彼の表情が曇ります。どうやら素直に渡した事に違和感を覚えたようですね。
ま、私の目的はわからないでしょう。
それにチップちゃんが来るまで暇ですしね。存分に修行に励もうではありませんか……。
えー、簡単にまとめますと、ケモモナが召喚した敵NPCを倒しても経験値は発生しました。もちろんスキルレベルも上がりましたよ。ええ。
どうやら召喚できるNPCも選択できるらしく、広場は一瞬でGで埋め尽くされました。地獄絵図です。
しかし、広場は変態達で封鎖し、Gも攻撃すると簡単に死んでしまうので、駆除はすぐに終わり広場は綺麗になりました。……と思ったんですけどね。
産み残した卵から大量の子供達が発生したために、Gの数は更に増えてしまったのです。
しかも産まれた子供達は倒すと残骸を残して消滅しました。
普段ならそれを回収して売りさばき、懐を暖めるのですが今回ばかりは量が多すぎます。あっという間に広場がGの残骸だらけになってしまいましたね。
最終的には、卵もろとも魔法によって子猫先輩が全てを吹き飛ばしてくれたので事なきを得ましたが、あのまま放って置いたら大変な事になっていたかもしれません。
何匹か広場から逃げ出していた気もしましたけれど、私の見間違いでしょう。
トラウマになりそうな時間でしたが、いい修行が出来ました……。
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有能と判断されたケモモナは子猫先輩とチップちゃんにより、『ノラ』に連行されて行きました。彼に与える生け贄はチャイムさんらしいです。哀れ。
本当は私も帰りたかったんですけどね、サンゾーさんの所に出来上がった武器を受け取りにいかなきゃいけませんでしたから諦めました。
ですので、私はツキトさんと一緒に工房へ戻ってきたのですが……。
「お主ら……今までどこで何をしておったんじゃ? なにやら匂う気がするのじゃが……」
サンゾーさんはいきなり失礼な事をいい放ちました。コイツはギルティですねぇ。
私は取り敢えず殺そうと構えると、ツキトさんが私の前に出てきてまぁまぁと邪魔をして来ました。まとめて殺して欲しいんでしょうか?
「鍛冶をしてくれたんだからさ、そんなに怒んなくてもいいじゃん。俺達はただ修行をしていただけだしさ、武器貰うまではおとなしくいてよ? な?」
む、まともな事を言い始めました。
確かに武器をもらってからでも殺すのは遅くないです。仕方がありません。この場は大人しくしておきましょう……。
「お、恐ろしい娘っこじゃのう……。しかし、コイツを見ても同じ事を言えるかの? ……見さらせ! これがワシの最高傑作じゃ!」
そう言いながらドワーフさんはアイテムボックスから大鎌と槍を取り出しました。
どちらも美しい純白で、武器と言うよりも美術品の様な見た目をしております。これで戦うのは勿体無いと思うほどです。
で、見た目は良いみたいですけれど性能の方はどうなんですか? 一番大事なのはそっちですよ?
私がそう質問すると、サンゾーさんは嬉しそうに顔を綻ばせました。
「おお? わかっちょるじゃないか、武器ってのは使ってなんぼじゃからの! 安心せい! どうやらあの翼を素材にした武器は全てアーティファクトになるみたいでの! 各種耐性にダメージ補正もついておる! 神聖属性と狂気付与の状態異常攻撃もあるからの! よっぽどな事が無い限りコイツより強い武器はないじゃろう!」
ガハハハハー、と若干早口で説明したサンゾーは笑いました。
受け取った後にウィンドウを開いて確認してみると、『真理の聖槍』という名前であることがわかりました。
詳しい性能もさっきサンゾーさんが説明した通りですね。付け加えるのなら、『神に対して強力な威力を発揮する』という一文があるくらいです。
……もしかしなくても、これってディリヴァに対してめっちゃ強いのでは? あの小生意気な幼女をわからせる事ができそうです。
泣いて許しをこうまで虐めて差し上げますよぉ……。
「次は足も切り落とさなきゃな……。生まれてきたことを後悔させてやるぜ……」
私とツキトさんは武器を手にしたがらククク……と笑いました。和やかな光景です。
「ホントにおっかない奴等じゃな……。ところで、お主らが戦ったちゅうディリヴァじゃがの、どんな見た目をしていた? 特徴はなかったか」
はい? 見た目ですか?
そう言われて顔を上げると、サンゾーさんは額にシワを寄せて訝しげな顔をしていました。何か気になる事があったのですかね?
「別に……見た目通りでしたよ? 上がっている動画で確認できる以上の情報は特に……」
私もツキトさんと同意見です。
特別変わった様子はなかったはずでしたが……。
「そうか……。実はのう、その武器に付いている狂気付与なんじゃが、そいつは特定の種族の素材で武器を作ると備わるものでの。普通はつかんのじゃ」
へぇ、そうなんですか。
特定の種族っていったいなんなのですか? 私は鍛冶に特別興味はありませんが、どうしてそれが気になったのかは知りたいですね。
もしかしたらディリヴァの正体もわかるかも知れませんし。
実際、あの幼女の詳しいことは何もわかっていませんでした。ケモモナもいきなり現れた事くらいしか知りませんでしたし。
今は少しでも情報欲しいですからね。話を聞いておいて損ということはありません。
「実はの、その種族っつうのが問題でな……」
サンゾーさんは周りを気にしながら、コソリと私達にだけに聞こえる様に続きを言いました。
「タビノスケと同じ『宇宙外生命体』じゃ。あのチビッ子、少し厄介かも知れんぞ……?」
は? タビノスケさんと同じ?
全くの予想外の情報を聞いた私は目が点になりました。見た感じ触手とか生えてなかったはずなんですけど……。ええ……?
私達、いったい何と戦っていたんですかねぇ……?
・宇宙外生命体
宇宙の外からやって来た人知の及ばない化物。高い知性を持ち、狂気を引き起こす外見をしている。魔法に高い適正をもち、既存の術式を凌駕する魔術を使用する。




