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ガッカリ

「『モブ』ははみ出し者、クランから追い出されたり、脱退したもの達の集まりだった。ディリヴァはそんな奴等にメッセージを送り、自らの手駒にしていたようだったな」


 私と子猫先輩、ついでにツキトさんは、先程の広場にて変態の自分語りを聞いていました。


 チップちゃんは自分の用事を済ませに行っています。彼女がこの国に来たの目的は幾つかあるようでしたし、いったい何をしているんですかね?


「クラン無所属のプレイヤーがディリヴァに味方しているっていうことで良いのかな? でも、君達はクランを作っているよね。それはどういうこと?」


 ウサギさんを抱えながら、人間モードになった子猫先輩がそう質問します。可愛いですね。

 しかしながら抱えられたウサギさんにはロリコン疑惑があります。ギルティですね。


「……『魔王』さま、クランを追放されたプレイヤーというものはどういう輩が多いかわかるかな? 貴女もクランのリーダーをやっていたから、少しは思うところがあるのでは?」


 子猫先輩の質問に、もふ魔族は少し考えてから口を開きます。……っち、質問を質問で返すんじゃありませんよ。回りくどい言い方をしないでさっさと話しなさいな。


 私は要領を得ない話し方をするもふ魔族に悪態をつきました。


 その効果があったのか、変態は今度こそハッキリとこう言ったのです。


「怒っている尻尾もモフモフだ」


 よし殺しましょう。イライラします。


 コイツから情報を提供してもらうというだけで、こんなに腹が立つとは思いませんでしたよ。もう私は我慢ができません。やはりウジ虫は潰してナンボです。


 しねぇ……。


「はいストップ、『スパイダーネット』」


 私が動こうとする前に、子猫先輩は魔方陣を展開。そこから発射された蜘蛛の糸によって私の身体ががんじがらめにされてしまいました。マジで動けません。


「ポロラ、ステイ。調子にのっちゃだめだよ?」


 こゃ~ん……。


 子猫先輩に怒られてしまいました。少し大人しくしていた方がいいようです。


「それから君も。この状態でポロラに何か変な事をしようとしたら、両手と両足をもぐからね? わかった?」


「承知した。……ま、見ているだけでも楽しいからな。何も問題はない」


 くぅ~……! 覚えてなさいよ~!


 私はブンブンと尻尾を降って威嚇しました。あ、逆効果だ、これ。


「ふふふ、眼福眼福。……確かに、少し遠回り過ぎる話し方をした。訂正しよう。言ってしまえばクランを追い出されるようなプレイヤーは強い弱い関係なく、性格に問題があるということだ。つまり、同じ理由で追放された者が多かった」


 もふ魔族は嬉しそうににやけながらそう説明しました。……つまりなんですか? ケモナーだからという理由で追い出された方が多かったと? 無理がないですか、それ?


 ……でも、言われてみればこのゲーム、性癖歪んでいる人多い気がするんですよね。


 今でも尻尾に複数人からの視線を感じますし、今まで出会って来た人たちも一癖も二癖もあるような人達ばかりです。どちらかと言えば変態の方が多いかも。


「追放された理由に『獣人の尻尾に飛び付いた』という者は少なくなかった。同士が多かった事を知った我々は歓喜した」


 ……ディリヴァは変態を集めていた?


 え、あの女神なんでそんなものを集めていたんですかね? しかもそれを『勇者』って呼んでましたし、相当イカれていますよ。


 更に残念感が加速しましたね。


「酷い話だな。きっと一匹狼みたいな奴を探していたのに、集まったのは変態ばかりって……」


 抱えられたツキトさんも呆れたような目をしていました。自分の現状をどう思っているのか気になるところではありますが、今は気にしないであげましょう。


「いや、どちらかと言うと性格に問題がある輩の方が多かったな。協調性が欠片もない奴も入れば、自分が目立てていない事が腹立たしいという奴もいた。……その点、性癖が同じ者達は仲良くやっていたよ」


 それは酷い。


 もう残念な奴等の集まりじゃないですか。

 変態に協調性皆無、意識が高いだけのカスの集団とか、絶対一緒にプレイしたくないんですけど?


 私がうんざりした様にそう言うと、もふ魔族はその通りだと言うように首を立てに動かしました。


「その通りだ。……しかし、ディリヴァの強力な加護が『モブ』達を繋ぎ止めたのさ。そのお陰でいがみ合うことなく、我々は集団として成立していた」


「……加護だと? まさか、アイツらの信仰先は六女神じゃないのか?」


 もふ魔族の言葉に、ツキトさんが反応しました。


 そういえば、ディリヴァが言うには女神様を信仰するのは愚か、みたいな事言ってましたね。


 もしかして、アイツが信仰しているのは……


「もちろんディリヴァだ。アイツを信仰するだけで、全てのステータスとスキルレベルがはね上がる。ついでに『強欲』のギフトまで使える様になるからな。……一気に強くなるあの感覚、知ってしまったら戻れなくなるだろう」


 女神を信仰すれば、ステータスやスキルレベルに補正がつきます。しかし、それは一部にです。全部のステータスが上がるというのは、どう考えても破格でしょう。


 しかも、ギフトまで使える様になるなんて……。


「ふむふむ……ちょっと興味が湧いたね。少し質問すると、具体的にどの位強化されるのかな? はね上がると言っても限度はあるんだろう?」


 驚く私とは対照的に子猫先輩はそう言いました。強さを求めるその姿勢には感服するばかりです。すごい。


 しかし、どの位強化されるのかというのは気になりますね。普通は『信仰』というスキルのレベルだけ強化されるのですが……。


「確か……『信仰』スキルレベルに加えて、元の値の20%の数値が加算されていた筈だ。多い奴では1000位数値が増えていたかな? 相当だろう?」


 ……1000?


 全部のステータスが1000も増えたんですか?


 は?


 なんですか、そのチマチマとレベル上げをするのが馬鹿らしくなるような数値は? ずるいんですけど。


 それほどのレベルを上げるのに、何時間ドMを殴ればいいのか、私にはわからないのですが?


「……それは俺を使って遊びたいという意味かな? キツネさんは獲物をいたぶるのが好きらしいからな、悪くない……」


 いえ、チェンジで。


 良からぬ事を考えたもふ魔族を、私は無情に拒絶しました。


「んー……、なんか大した事無いね。それなら神技を使える様になれる六女神を信仰した方がいいんじゃないかな?」


 子猫先輩は冷静でした。


 そう言われれば確かにそうですね。

 ステータスが上がっていたとしても、死ぬときは死にますから。


 『リリアの祝福』のような絶対防御や『パスファの密約』の様な時間停止のような強力なスキルの方が緊急時には役に立つ事は明白です。


 目先の欲に騙されてはいけないということですね。


 ……いえ、もしかしたら神技に当たるスキルが信仰ボーナスとして存在するかもしれません。そのところどうなんです?


「無い。あえていうのなら『強欲』のギフトがそれだろう。元々持っていたギフトも使えていたからな、二つのギフトを使えるというのは一応メリット……と、ま、君達ならそんな顔をすると思ったよ」


 びみょ~……。


「それだけかぁ……」


「やっぱり女神様達の方がいいよなぁ……。ギフトよりも神技の方が強いだろうし」


 私達は全員呆れたような顔をしておりました。……なんか、知れば知るほど残念な女神になっていきますね。ディリヴァ。


 真理の『ディリヴァ』とか自称していましたけど、これではガッカリの『ディリヴァ』の方がしっくり来ます。


 信仰してもギフトしかもらえないとか非常にガッカリです。良く考えたら、私に血祭りにされている時点でステータスやスキルの強化もたかが知れています。


 やっぱり地道に修行するのが一番ですよ。後で路地裏行ってウジ虫殺さなきゃ……。


「とりあえずディリヴァの加護についてはこの位か。……ああ、そうだ。アイツがプレイヤーを邪神化させる目的も教えておこう」


 おっ?


 なにやら良さげな話が聞けそうですね。


 それって設定の方に触れるお話じゃないですか。そういうの結構好きですよ?


「あ、そういうの待ってた。後でお前が気に入るような情報教えてやるよ。だから包み隠さずよろしく」


 どうやらツキトさんも好きなようです。さっきとは目の輝きが違います。


「おお!? 『浮気者』から情報が聞けるとは! それならフェルシー様について教えていただきたい!」


 フェルシーは獣人の女神様ですね。


 猫耳と尻尾が特徴的で、バニースーツを愛用しています。語尾はニャアで、通称はアホです。


「あー、いいよいいよ。情報よろしく」


 アホなので安く売られましたね。


「ありがたし! ……ディリヴァは邪神化した強いプレイヤーからギフトの力を引き出し、自分の力にできる。その為には邪神化したプレイヤーを倒す必要があるのだ」


 ……!


 もふ魔族の説明で、私はピンと来ました。


 ツキトさんに良いようにやられたディリヴァが逆転の行動として取った行動。それは三つの光の玉を取り込むという行為でした。


 そして、私が知っている強いプレイヤーが邪神化したという事例も三つ。


 タビノスケさん、ワカバさん、ドM。


 ……もしかして、レベルの高いプレイヤーが邪神化した場合、ギフトカードみたいな物をディリヴァが手にいれることができたのではないでしょうか?


「その通り! 全ての邪神の力を手にいれる事こそがアイツの目的だ! どうやら全ての邪神の力を取り込む事によって、真の力を得ることができるそうだ!」


 なんと。


 つまり、ツキトさんに追い込まれて邪神の力を取り込んだのは真の姿に近づこうとしたからだったのですか。……無駄だったんですけど。


「なるほど……。その話から考えると次のイベントは面白いね。邪神化したプレイヤーを倒す度に、ディリヴァが強くなるんだろう? 楽しくなってきたよ」


 次のイベント……『Bessing of World』。


 一日一回、邪神化したプレイヤーをレイド戦で倒すという内容です。最後にはディリヴァと戦うことができるそうですが……。


 もふ魔族の言う事が確かなら、最終日に立ちはだかるディリヴァは相当強くなることでしょう。……なら、中々歯応えがありそうですね。


 だって、前に見たガッカリは私でも倒せそうな感じでしたもん。事実、力を取り込む前の彼女は私に怯えてましたし。


 レイド戦になってすぐに死んでしまうボスに価値はありません。


 中々いい情報をくれたじゃないですか。


 そう思い、私は胸を弾ませたのでした……。


 向かってくるウジ虫を殺すのを想像するだけで、楽しみですよぉ……。びょおおお……。







「ところで、なんで君達ディリヴァを裏切ったの? あの天使の羽って結構モフモフしてない?」


 子猫先輩は素朴な疑問を口にしました。……そういえば確かに。貴方達モフモフしてれば何でもいいでしょ?


「いや……俺達としては天使は違うんだ……。腕から翼が生えてたり、足が鳥さんのそれだったら大好物だったんだが……。最初は『欲しい物を差し上げる』って言ったくせに、ステータスしか上げてくれないし。俺達は騙されていたんだ……!」


 そう言ってもふ魔族は地面に四つん這いになって慟哭をあげていました。


 つまり、天使≠ケダモノだそうで。


 鳥の翼と天使の翼。


 私には違いがわかりません。


 やはり変態とはわかり合えないみたいですねぇ……。

・天運の『フェルシー』

 幸運を司る猫の獣人。レベルは1、ステータスもゴミ。しかし、これ以上ない幸運を操りどんな攻撃でも回避し、どんな相手でも不幸にすることができる。見た目と言動がアホなので眷属のニャックには良くバカにされている。……しかし、本性はしっかり者のお姉ちゃん気質。いざというときにしか頼りにならない。

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