『ケダモノダイスキ』
クラン『ケダモノダイスキ』。
何度か私に突っかかって来たケモナー集団のウジ虫クランですね。マジのカスです。見つけ次第殺すのが正しい対処です。
変態は殺すに限りますからね。
その礼儀に乗っ取り、私達は変態プレイヤー達を殲滅しました。
殲滅しました。
殲滅しました。
殲滅しました、殲滅しました、殲滅しました殲滅しました、殲滅しました……。
できませんでした。
「コイツらっ! この街が拠点なのかよ!? 殺しても殺しても戻って来る……!」
「っラァ! 先輩には指一本触れさせねぇぞ! その性癖を矯正してやる!」
「拠点を利用したゾンビアタックか~。僕の好みじゃないなぁ~。はい、『マジック・レーザー』」
ええ~い! しねしねしね~!
私は刃で作った尻尾を振るいながら、とろけきった顔をした変態達をミンチにしていました。他の方達も攻撃を繰り出しております。
けれども、殺したはずの変態達はすぐに戻って来て、私達の尻尾を狙って集まってきます。どうしようもありません。
「どうしたどうした~!? モフモフ達め~! そうやって抵抗しても無駄だ~、俺達は諦めない~」
ちぃっ!
ホントにどうしようもないですねぇ! コイツら死ぬときでも笑顔を崩さないのですが!?
もう何度切り捨てたかわからない、例のセクハラもふ魔族がまた現れました。
この人達、実力はそれほど強いというわけではありませんが、決して諦める気が無いみたいでとても厄介です。……いい加減心折れてくれませんかねぇ!?
「目の前に獲物がいて諦める奴がいるかよ! 四匹まとめて撫でさせろぉ!」
「なれよ! ウサギさんになれよ! 知ってるんだからな、首刈りウサギぃ!」
「尻尾尻尾しっぽー!」
しかも見境ないときました。
「え。俺もカウント入ってんの……?」
自分の身体も狙われていたという事実に、ツキトさんも青ざめた顔をしております。
どうにかしてこの窮地を脱しなければなりません。チップちゃんの能力で『シリウス』に逃げ帰っても良いんですけれど、押し掛けて来そうな勢いです。というか、絶対に来るでしょ。
なんとか完全にこの場を納める方法はないでしょうか……。
「ふふふ……随分とうんざりした顔をしているじゃないか。こちらとしても、これ以上追いかけっこするつもりはない。これを見るといい……」
セクハラもふ魔族がそう言うと、部下と思わしきプレイヤーが二人の子供を彼の元に連れてきました。どうやらNPCのようです。
まさか、NPCの子供を人質にして私達の身体を良いようにしようとでも言うのでしょうか? ……ガチクズですね。
このゲームの命の価値は、プレイヤーと比べたらNPCの方がずっと重いです。
確かに生き返りはしますが、プレイヤーがNPCを殺した時点で他のNPCに狙われることになりますからね。街の衛兵が見つけ次第襲って来るようになります。
第一、子供が死ぬのを見るのは嫌です。
くっ……私達の良心を利用するなんて……!
そう言って私が歯噛みすると、子猫先輩はやれやれと声を漏らしました。
「嫌な相手だね~。流石に意味もなくNPCを殺すのは気が引けるよ。まぁやるけど」
そして、前肢を突きだして魔方陣を展開させました。……ちょ、子猫先輩!?
それは不味いですって!? こんなところで街の住民とトラブル起こしたらいろんな所に迷惑かかりますって!? 抑えて! 抑えて!
「み、みー先輩、それやったらこの国に居られなくなりますよ!? アタシの用事も終わってませんし、ここはどうか穏便に……」
私達が必死に魔法を使おうとする子猫先輩を諌めていると、もふ魔族はこちらを見ながらクックと笑いました。
「何を勘違いしている? この子達は人質でも何でもない。……さぁ、坊やにお嬢ちゃん。あそこにキツネさんと犬さん、お兄さんと小猫さんがいるね?」
もふ魔族はしゃがみこみ、子供達を見ながら私達の事を指差します。
「うん! 可愛いね!」
「モフモフしてる!」
問い掛けられた子供達は純粋な目をしながらこちらを見てきました。
その様子を確認して、もふ魔族はニッコリと微笑み……。
「あのおねーさん達が、モフモフさせてくれるって。よかったね。それと、あのお兄さんは実はウサギさんなんだ、……見たいよね?」
私達の良心を試すような事をしてきました。……ちょっと!? 子供を使うのはずるくありませんかねぇ!?
「え! ウサギさん!? みたい!」
「みたいみたい! ピョンピョンしてるのみたい!」
子供達は大はしゃぎです。街の子供みたいですし、野性動物をあまり見た事もないのでしょう。
しかし、そんな様子を見せられても、私は動じません。あの子達に危害が及ぶことが無いのならば、別にこのまま戦闘を続行すればいいだけ……。
「子供の笑顔はいい……癒される……」
「俺達も見てぇな~。子供達が動物さんと遊んでいる姿をな~」
「遊べなかったら悲しむんじゃない?」
「まさか、いい大人が子供を泣かせるようなことを、する訳がないよなぁ~?」
ここぞとばかりに周りの変態達が煽ってきました。……ええい! 黙りなさいなこのウジ虫どもめ! 絶対に何か企んでるでしょ!
もういいです! 逃げましょう! どこかに身を隠して……。
と、その時です。
ツキトさんが、ポンッという音と共に姿を変えました。
背中に子猫先輩を乗せたウサギさんを見て、周囲の変態達はワッと歓声をあげます。……なにしてんです?
「いや、ほら……、子供の期待を裏切るのはどうかと思って……」
ツキトさんは目をそらしながらそう呟きました。
「まぁ、ほら。俺一人の犠牲で場が丸く収まるならそれでいいじゃん? という訳でチップ、先輩をよろしく」
「あ、ああ。気を付けて?」
チップちゃんは困惑しながらも、ツキトさんの背中から子猫先輩先輩を取り上げました。その際、ボソリと……。
「このロリコン……」
子猫先輩の呟きが聞こえましたが、ツキトさんはニコッと目を細め。
「違いますよ?」
速攻で言い訳をしました。……あ、ロリコンさんなんですね。子猫先輩もどちらかと言えばロリですし、そういうことですか。このド変態。
「違うよ? ホントに子供の笑顔を守りたいだけだよ? 俺は断じてロリコンではない。……んじゃ、そう言うことで!」
醜い言い訳を言い残し、ツキトさんは子供達の方へと跳ねていってしまいました。
私はその様子を黙って見送りましたが……ふと思い出した事がありました。あのセクハラもふ魔族についてです。
彼の能力は動物を大量に召喚して、戦わせる事ができるものでした。更に、その召喚した動物に『怠惰』のギフトで取り憑く事により、延命までできるようです。
……そう、『怠惰』のギフト持ちなんですよ。アイツ。
その事実を知らないツキトさんは何も知らないで、子供達のオモチャになっています。
お腹を撫でられたり。
抱きしめられたり……。
顔を埋められて深呼吸されたり、耳を思いっきりしゃぶられたり、お尻の匂いを嗅がれたりされています。……途中で中身が変わりましたね。これ。
すぐにツキトさんも異変に気が付いたみたいですけど、流石に子供を殺すような真似はできなかったみたいです。少し優しい。
まぁ、ロリコンの本能を抑えきれなかった報いですね。
そう思いながら、私は可哀想なウサギさんを眺めていたのでした……。
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「素晴らしい時間だった。『死神』に感謝しましょう……」
満足げな顔をしたセクハラもふ魔族が、こちらにペコリと頭を下げてきました。
周囲には彼の仲間はおらず、もう帰ってしまったようです。……で、まだ何か未練があるのですか? もうツキトさんを良いようにできたからいいでしょうが。
見てくださいよ、このウサギさんの無惨な姿を。何かよく分からない液体でぐちょぐちょになってるんですよ?
「うっううう……汚されたぁ……」
「ツキトくん身体洗ってきたら? さっきの広場に噴水があったよ?」
「どう考えても罠だっただろ。なにしてんだよホント……」
地面に横たわりぼろ雑巾の様になったツキトさんを、子猫先輩とチップちゃんが慰めていました。声をかけてくれるだけ優しいですね。
「ふっ……こちらのもふ欲は治まった。今日のところはもう大丈夫だ。心配しなくていい」
セクハラもふ魔族はいい顔をしてよく分からない事を口にしました。頼むから、こちらにもわかる言葉を使ってください。
「それと、モフモフのお礼がしたいと思ったんだ。こちらばかりもらってばかりじゃフェアじゃないからね」
ああ、そうですか。それではさようなら。
悪いですけれど、もう貴方とは関わりたくないんですよ。ツキトさんの身体を綺麗にしなければいけませんし、忙しいのです。
「……そうだな。すっかり時間をとられた。アタシも用事を済ませないといけないし」
そうですよね。それでは皆さん、行きましょう。
もう変態の相手はこりごりです……。
「礼はジェンマを始めとした、『モブ』達の情報だ。敵の情報は欲しくはないかい?」
…………は?
「なんだと!? ジェンマって……」
「……どういうことかな?」
私達が驚いて振り向くと、セクハラもふ魔族は先程とは違ういやらしい笑みを浮かべていました。
ペットショップを壊滅に追い込み、ディリヴァと共に私達の前に立ち塞がったプレイヤー……ジェンマ。
何故……その名前を知っているのですか?
「……いい反応じゃないか。そりゃ知ってるよ、俺だって『モブ』だったからだ」
セクハラもふ魔族はそう言うと、もう一度頭を下げてこちらに手を差し出してきたのです。
「『ケダモノダイスキ』はディリヴァに見切りを付け、奴の敵になった。甘い言葉に踊らされるのは飽きたのさ。……だから、協力しよう。俺達は味方だ」
ディリヴァを……裏切った?
もしかして、この変態はとんでもない情報を持っているのではないのでしょうか?
『紳士隊』からはまだ情報が上がっていないらしく、今は少しでも情報が欲しい状況だと言うことは聞いていました。
ですので、この機会を逃す訳にはいきません。
「その情報、確かなものなのかな? ……まぁ、話を聞くだけの価値はあるかもね。いいよ、君の言葉を信じよう」
子猫先輩は威圧的な声色でそう言いました。どうやら私と同じ考えのようです。……子猫先輩がそう言うのなら仕方がないですね。
変態と関わりたくはありませんでしたが……こうなったら最後まで使い潰してあげることにしましょう。
私はそう思いながら、目の前の変態を見て深くため息をついたのでした……。
なんか私の尻尾が揺れる度に目線が動いてるんですけど。
本当に大丈夫なんです?




