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路地裏ウジ虫

 死ぬ気になったウジ虫さんの抵抗は、中々のものがありました。……で、遺言は?


「だー……くっそ。騙された、プレイヤーキラーっていうからそんな実力ねぇと思ってたのによぅ……」


 まぁ、勝ちましたがね。


 どうも有難うございます。お陰でいい修行になりました。レベルも上がりましたし、スキルも成長したようですので、有意義な時間になりましたよ。


 私は地面にぼろ雑巾の如く打ち捨てられているウジ虫さんに向かい、短槍を突き出して串刺しにしました。


 いつものように、身体が弾けミンチになります。そして、血溜まりの中にはアイテムの詰まったずた袋が……、ありませんね?


 おかしいですね。プレイヤーは死ねば必ず何かしらのアイテムはドロップするはずなのです。何も無いというのは流石に……。あ、なるほど。


 今思えば、やたらと死ぬことに余裕があるウジ虫さんでした。まるで自分は死んでも大丈夫、全く問題ないとでも言いたそうな。


 つまり。


 死んだ際のデメリットを軽減する『プレゼント』でも持っていたのでしょう。中にはシステムを根底から否定するような能力を持っている方もいるようですし。


 だからあんなに特攻しまくってたんですねー。……ごふっ。


 口から血反吐があふれだし、地面におちました。


 正直、私もただではすまなかったんですよね。身体は傷だらけですし、片耳はどこかに千切れとんでしまいました。窮鼠の攻撃は恐ろしいものです。


 なのでウジ虫さん狩りは一旦中止して回復に専念しましょう。ポーションを使えば欠損部位も復活しますし。

 それに中々いい時間です。今日は回復したらログアウトしましょうか。


 明日はウジ虫さん狩りから始めていくことにしましょう。それじゃ、ログアウトっと……。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 さて、今日も元気にウジ虫さんを駆除していきましょうか。昨日は実入りが少なかったので、ちょっと頑張って行きましょう……。


 げ。


「……あん? げ」


 ログインすると、見たことのあるウジ虫さんと目が合いました。

 そう、昨日死ぬだけで出すものを出さずに死んだ彼ですね。


「んだよ。お前そんなにアイテム欲しいのか? まさか出待ちされてるとは思わなかったわ」


 それはこちらの台詞です。

 貴方、刑務所に入れられたんじゃ無いんですか? もう出所してくるとか、どう考えてもおかしいでしょ。


「あ? 牢屋の壁掘って脱獄してきたんだよ。守衛に見つかんなきゃあんな場所、誰だって脱出できる作りになってるからな」


 ウジ虫さんはへらへらと笑いました。……へー、そうなんですね。私は善人なので知りませんでした。じゃあ刑務所って意味あるんです?


「ねぇな。ま、ステータスが下がる前に出るには速さが大事だから、初心者には難しいって位だ。だから、うっかり犯罪者になった初心者救済って所だろ」


 なるほど。

 善行値が回復できない初心者を、犯罪者から善人に戻すという機能が刑務所の存在意義だということですね。


 いくらクエストをクリアすれば善人に近づくと言っても、初心者には難しいものが多いのは確かです。しかも、大人しくゴミ回収とかのクエストをやればいいのに、護衛依頼や討伐依頼をしたがる初心者の多いこと多いこと……、自分の実力を自覚しなさいっての。


 けれど、そのお陰で『ノラ』の稼ぎは良いんですけどねー。


 わかりました。勉強になりましたよ。

 それじゃあ、私はまた修行の続きをしなければなりませんので、これにて失礼。


 ばいびー。


 私はそう言ってポーズを決めたあと、クルリと振り替えって裏路地の奥に歩を進めようとしました。


「……んぁ? 待てよ、やらねぇのか? てっきりまた斬りかかって来るんじゃないかと思ってたんだが」


 しつこいですねー。

 殺しても旨味が少ない貴方と戦っても時間の無駄なんですよ。効率が悪いのです。

 ところで、一応聞いておきますけど、なんでアイテムドロップしてくれなかったんです? 私……寂しかったんですよ?


 私は振り返り、目を潤ませながらそう言いました。


 すると、ウジ虫さんは残念そうな顔をして、深いため息をついた後にこう言うのです。


「最後の台詞だけ切り取れればなー……」


 質問に答えなさいな。


「あーはいはい。そういう能力だよ。ムショへの強制送還以外のデスペナねぇの、俺。細部は教えれねぇけどな」


 そうなのですか。

 ホントに旨味が無い方ですね。それだけ知りたかったので、もう用事はありません。それでは。


 無駄な時間を過ごしました。こっちは修行兼アイテム回収に来ているというのに。まったく……。


「ちょっと待てって。実のところ足を洗いうためにギルドに行こうとしてたんだよ。衛兵に追っかけられるのはもうご免だからな。どうせお前も善行値ヤバイだろ? プレイヤー同士の戦いは犯罪じゃないけど、人殺しは軽犯罪だからなぁ? 一緒に善行値稼ぎに行かね?」


 なにやらとんでも無いことを言っているように聞こえますが、全て事実なので何もおかしなところはありません。この世界、殺人は盗みよりも軽い罪です。数字で言うなら-2ポイント。


 しかし、私の善行値には依然として余裕があり、後数人殺してもまだ犯罪者の認定には至りません。護衛依頼のクエストをクリアしたばかりですし……。


 私はウィンドウを表示して現在の善行値を表示しました。


『-26』


 …………。


 ちなみに、-30から犯罪者です。こゃ~ん……。


「な?」


 ウジ虫さんの輝かしい笑顔……ムカつきますね。


 というか、え? 私、最近そんなに頑張ってました?

 クエスト中に現れたもふ魔族を合わせて、最近殺したのは……10人は優に越えていますね。


 対して、クエストをクリアすると貰える善行値1なので……。全然ダメじゃないですか。どうなってるんです? 私の日常生活。


 目の前のウジ虫さんは、私が困惑しているのを楽しそうに眺めていました。どうやら、自分の予想通りだった事がとても嬉しいようです。


「なー、パーティー組もうぜぇ? プレイヤー狩るにしても、もう少し余裕は欲しいだろう? ギルドに入る前に衛兵に見つかりたく無いんだよ~。協力しねぇか?」


 ちっ……。


 若干チャラい態度にはイラッとしますが、クエストを回すのならば一人よりも、複数人の方が効率が良いことは確かなのです。


 仕方がないですね……、ある程度なら付き合ってあげましょう。感謝しなさいな。


「お、マジ? 俺、ワッペっていうんだよ。よろしく!」


 そうですか、ポロラですよろしくお願いします。


 という訳で、路地裏ウジ虫、ワッペさんが仲間になりました。……うーん、嬉しくない。



━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 私達は裏路地を駆使して、衛兵に見つかる事なく国営ギルドにへと到着しました。


 ギルドはNPCが運営している施設で、過去のイベントを体験できる夢見の扉や、クエストを受注できる掲示板など、プレイヤーにとってなくてはならない施設です。


 ……さて、何かいいクエストはありませんかね。


「近接が二人だからな。討伐系の雑魚狩りにでも行こうや。頑張れば1時間で晴れて善人よ」


 私達は二人でクエストを物色しています。……そういえば、今の善行値どの位なんですか? あんまり多いと、流石に付き合い切れませんよ?


「あー、今は-39だな。すぐだろ、すぐ。難易度とか無視してさ、ぱっぱとやっちまおうぜ。さっき見たギルド職員、いい指輪持ってたから、急がねぇと」


 罪を重ねるために、善行をしようとは……愚かにもほどがありますねぇ……。

 あ、私は違いますよ? 私のは正義の執行ですから。必要悪というやつですよ。経験値とドロップアイテムが報酬です。


「それを本気で言ってるからお前ってすげぇよな……。っと、よし。良いのがあった、こいつにしよう」


 へぇ、どれです?


 フム……盗賊団の討伐……。

 討伐した団員の数だけ報酬が増える……、善行値も沢山稼げる……。


 良いですね、これで行きましょう。皆殺しにするのです。


「よっし、決まりだ。んじゃ、さっさと受注してくるわ」


 そう言って、ワッペさんは受付カウンターに行ってしまいました。


 成り行きでパーティーを組んでしまいましたが、これも必要な事です。犯罪者になるのは御免ですからね。


  それに、盗賊団を狩る事も治安の維持に繋がりますし、悪いことでは無いでしょう。ところで……。



 彼等が盗んだアイテムは、全部私の物で……構いませんよね?

善行値の計算

 NPCへの不当な攻撃 -1

 殺人         -2

 強盗         -10

 変態行為       -5

 正当防衛        0

 迷子を衛兵に届ける  +5


 変態行為をした子供を、衛兵に届ければ何も問題は無いが気にしてはいけない。


・壁

 スキル『採掘』を使えばどんな壁でも掘ることができる。頑丈な煉瓦の壁から、王城の立派な壁までサックサク。耐久力を鍛える事ができる。尚、壁を破壊しても犯罪ではない。刑務所を更地にしても犯罪ではない。

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