お花が咲きました
洋風ファンタジーな街を散策していると、後ろから知らないプレイヤーさんに声をかけられました。なので、迷うこと無く美形にキャラメイクされたその顔に鈍器を振り下ろし、速やかに撲殺。
ゲームの仕様でミンチとなり、綺麗に散らばるプレイヤーさん……もといウジ虫さんの死体と装備を回収。アイテムボックスに格納した後、散策を再開しました。……たっくもー、相変わらず物騒な街ですね。治安がよろしくない。
ナンパ目的で声をかけてくる様な不審者を、こうやって放置しているこの街の衛兵隊は一体何をしているのでしょうか? ……いえ、きっとNPCにも性能の限界があるのでしょう。
私は外套の下の大きな尻尾を、モフりと一振りさせて思考を巡らせました。
どれだけ優秀なAIを詰んでいるとはいえ、NPCはNPCのようです。
こうなったら、私が治安の維持というものを彼等の身体に教え込んで差し上げ……れませんね。
wikiによると、この『Blessing of Lilia』というVRMMOにおける街のNPCさん達は、死ぬとレベル等が強化されて生き返るそうです。
その事を知ってか知らずか、調子に乗った初期勢のウジ虫さん達がNPCを殺しまくったそうで。
結果。
生半可な強さのプレイヤーでは、NPCさん達に太刀打ちすることは不可能になってしまったのです。目をつけられたらどうする事もできないでしょう。……今の私のように。
「貴様……冒険者だな! 武器を捨てろ、膝をつき降伏の姿をとれ! 殺人容疑、及び余罪の追及の為、お前を連行する!」
ッチ……。
いつの間にか、街の衛兵さん達が槍を構え、私を取り囲んでいました。目で追うのがやっとの動きで、そんな事をされれば投降するしかありません。
私は刑務所にぶちこまれることになりました。ふぁっく。弁護士を呼びやがれ。
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「おい、お前。出ていいぞ、大した罪はなそうだ」
おや?
意外に仕事が早いですね。私が飢えて便器の水を飲もうとする前に手続きを済ませるとは……花丸をあげましょう。
私は薄汚いベッドから起き上がると、ぴーんと背伸びをしました。耳と尻尾も伸ばします。気持ち良いんですよね。
基本善人なウジ虫である私に余罪など存在せず、1時間後には解放される事になりました。チョロいぜ。
「……冒険者同士の殺し合いは合法だが、あれほど簡単に人殺しをする輩を放置することはできん。名前と種族、職業、所属クラン、……あれば二つ名も聞かせてもらうぞ」
そうでも無かったです。こゃ~ん……。
ええ~? そうやって聞き出した情報はどうやって使うんです~? 何かいやらしいこと考えているのではぁ?
「アホか。お前みたいな洗濯板に、欲情する奴なんて居るわけ無いだろう。今後街に入る際には、何をしに来たのか確認させてもらう。その時の本人確認で使うためだよ」
誰がガリガリか。そこまで肋骨見えんわ。標準だわ。
はんっ、やはりNPCは駄目ですね。
この造形美を理解できないとは。
あんな重たいものを二つぶら下げて自由に動ける訳がないでしょう。千切れますっての。
私のような動き回って戦うようなプレイヤーは、こういう動きやすい体型が良いに決まっているのです。それを知らないクソネカマ達は、嫌味ったらしいデカい乳をこれでもかとブルンブルンさせて戦い、魔物にブッチされています。
ザマーないですね。ケラケラ。
……おっと。私は決して胸の大小について嫉妬しているわけでは無いのです。
強いて言うのなら、胸が重くて動きづらそうにしているPLはカモである……ということを理解して頂ければおっけーって感じです。
さて、話題が反れましたね。
私は失礼な衛兵さんに自己紹介をしました。
名前は『ポロラ』。
見た通り、狐の獣人で、魔法戦士をやっております。
所属クランは……ソールドアウト『ノラ』です。
私が所属している『ノラ』の名前を出すと、衛兵さんは目を大きく開きました。……まぁ、結構大きめのクランですからね、知っていてもおかしく無いでしょう。特にトップのお二人は、街のNPCを軽くあしらう事ができる実力者ですし。
「なんだ……ソールドアウトの連中か。それを言ってくれればこんな所に連れて来なかったのによ。ほら、鍵は開けたぜ。『魔王』ちゃんにはよろしくな」
ソールドアウトとは、とあるクランから派生したクランの俗称です。別に名乗る必要はないのでしょうが、前身のクランに敬意を払ってとの事で。
そして、その前身クランのリーダーの二つ名が『魔王』。
このゲームのプレイヤーの中でも、最も恐れられた存在だそうです。……私は会ったことありませんけれど。
あー、ハイハイ。『魔王』さんにですねー。出会えたら言っておきますぅー。
……会ったことが無いので、私は衛兵さんに適当な返事をしました。面識が無い人間によろしくなと言われても困るのです。
「おう! 頼んだぜ! ポロラちゃん!」
気軽に名前呼ぶんじゃねーですよ。……きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?
「な、なんだぁ!?」
私は突然叫び声を上げてその場にうずくまります。ささっと耳とモフモフの尻尾を露出し、ついでに服も半脱ぎっぽくして……んー、ヨシ!
「どうした! 今女性の悲鳴が……、な、なんだ!? お前……何をしているんだ!」
予想通り……!
私の悲鳴を聞きつけ、待機していた衛兵達が様子を見に来たようです。
そんな彼等の目に映ったのはなんでしょう?
正解は衣類を乱された、何かに怯えるような様子のかわいい狐娘ちゃんでしたー。……助けてくださぁい! 私、この人に襲われそうになって……! 怖くて……!
「は、はぁ? なに言ってるんだ!? 俺はお前を牢から出しただけだろ!」
……えー? 何のことですぅ? ちょっと洗濯板に欲情する人の考えはわかりませんねぇ?
「根に持っていたのかよ!?」
当然です、セクハラ看守め。
女の子に対してあんな事を言う輩は死ねば良いのです。そして私は面倒ごとに巻き込まれるのは御免被るので、お暇させていただきます。
「お前……その子に何をしようとしたんだ!? 来い! 話を聞かせてもらう!」
「ちょ!? いや、俺は何も……あ! おい待て! 誤解を解いていけ! クソ狐! ち、チキショー!」
ははは、ばいびー。
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何故か。
刑務所から出所した数時間後には、国営ギルドの掲示板に私の顔写真が貼ってありました。……やれやれ、みーんな愛くるしい狐娘さんが好きみたいですね。
キャラメイクの際、獣人の耳と尻尾はランダムに決定されるので、狙って好みの動物にすることができません。
ですから、私みたいなモフモフな獣人は皆から愛され、セクハラもふ魔族達に狙われるのです。
……狙われるのですが、こうやって注目されるというのは悪い気分では無いですね……ん?
『要注意人物! 関わるべからず!』
おや? これはこれは……。
私の顔写真が貼ってあるのは、掲示板の要注意人物の枠でした。……もう、係りの人もおっちょこちょいですねー。間違っていますよ?
辺りを見渡し、暇をしていそうなギルド職員に声をかけます。掲示板を指差しながら掲示物に誤りがあるということを指摘してあげました。
すると、職員さんは青ざめた顔をしてピゅーっと逃げていってしまいます。
……あれ?
「うわっ……見ろよ、ポロラだ……。今日は帰ろうぜ……」
「お、おう。見た目は可愛いけれど、やってることがネジ一本外れてるんだよなぁ……アイツ。最近は二つ名もついたらしいし……」
「後発のプレイヤーなのに、やたら強いしね……。戦うことしか考えていない奴はやっぱ違うわ。女子力が足りない」
「要注意人物認定が遅いんだよなぁ……。俺なんてさっき声かけただけで頭潰されたs」
ウージッ虫! ウージッむしぃ!
そう叫びながら、私は両手に装備した二つの短槍で、見覚えのあるウジ虫の心臓とハラを串刺しにしました。弾けた残骸を素早く回収し、私の事を話していたウジ虫さん達に向け笑顔を作ります。ニコり。
よほど心に響いたのでしょう。
私の笑顔を見た彼らはびくんと身体を震わせると、サッと目を逸らしました。
その隙を見逃すような事はしません。
私は一番近くにいたウジ虫さんに短槍を投擲。見事脳天に突き刺さると、彼は己の体を鮮やかな血肉に変えて、周囲に撒き散らしました。残骸が地面の染みに成り果てます。……あと二人。
地面に落ちた短槍を回収し、二つの槍を大槌に持ち替えて構えを取ると、残ったウジ虫さん達は両手を上げて降伏してきました。
「わ、悪かった! さっきのが気に触ったのなら謝る! 見逃してくれ! さっき装備を新調したばかりなんだ! な!?」
「お、俺も俺も! もう帰るから! お前の目の届かない場所でひっそりと生きる事にするって! 頼むっ!」
なるほど。
どうやら応戦する気は無いようです。
まったく、情けないにも限度ってものがあるでしょう。……わかりました。こちらの条件を飲んでくれるのなら、見逃して差し上げましょう。
「ほ、ホントに……?」
ええ、私は嘘はつきません。
笑顔を保ちながら、私は大槌を構えます。……武器を取ってください。私と戦ってくれたら明日からは見逃します。戦わないのなら……わかりますね?
目の前のウジ虫さん達は、あっああ……、と悲痛そうな声を出しながら自らの武器を取り出して構えました。
しかしながら、その顔に覇気というものは存在せず、辛そうな表情をしており、見ているこっちも辛くなってくるほどです。可哀想~。
ですので、私は慈悲を持ちつつ、大槌で脳天から押し潰し、彼を殺します。ぷちっとな。
「え?」
私の行動が予想外だったのか、まだ生きているウジ虫さんは間抜けな声を出しました。そして、自分の隣にいたウジ虫さんがミンチになっているのを確認すると、音もなく膝から崩れ落ちます。
確かに、戦いをいつ始めるか言わなかった事については私に非があるでしょう。……しかし。
普通お互いが武器を構えれば、決闘が始まるのは当たり前ですよねぇ?
散らばった残骸やお金、装備品を回収すると私は国営ギルドを後にしました。本当は何かクエストでもやって、お金を稼ぐつもりだったのですが……まぁ良い収穫があったので問題はありませんね。
きっとクランの皆もこの稼ぎに喜んでくれるに違いありません。私ってば働き者~。
そう思っていると、急に視点が変わり楽しそうに街を歩いている狐娘さんが目の前に現れました。……あら可愛い。
このゲーム、死ぬ直前になると一人称視点から三人称視点に変わるんですよねー。精神的な影響を少しでも和らげる為だそうです。
つまり、この状況は死の前兆ということになります。……あ、やっべ。
私は死ぬ前にテレポートのスクロールを展開しようとウィンドウを表示しました。まだ死んでいないのなら、助かる道は残されているのです……! 私は……死なない!
……と思ったのですが、まぁ、それが許されるかは別のお話で。
スクロールが発動するよりも速く、私の後頭部に脳漿のお花が咲きました。わぁ綺麗。
どうやら、どこからやられたのかもわからない程の遠距離から、狙撃を食らってしまったようです。
地面に私の残骸とアイテムが散らばると、何処からともなく黒装束のプレイヤー達が沸いてきました。私が所属している『ノラ』の皆さんです。
彼らは速やかに散らばった物を回収すると、一言。
「長から伝言だ。『やり過ぎ、後でアタシの所に顔見せろ』……以上。さっきの弾丸は前払いだとさ」
あ、やっぱりリーダーの攻撃でしたか。
……仕方ありませんねぇ、あの御犬様も。
そういう事ならちゃちゃっとログアウトしてきますかね!
そんな感じで私は死にました。南山。
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これは、私の事を『戦闘狂』と呼ぶウジ虫さん達と、彼らを駆除して回る可愛い狐娘さんのお話。
かつて、伝説と呼ばれた『魔王軍』は愚か者の手によって解体され、檻を壊された有害なウジ虫さん達が各地に散らばりました。
戦争を生業とする獣の傭兵達。
暗殺と破壊工作を商売とする、自らを『紳士』と呼ぶ無法達。
国を、街を、村を回り、歌と狂喜を届けることで、世界を地獄に変えようとする宇宙外生命体。
ハーレムを作り、女王となった女エルフ。
周囲の国を食い散らかし、侵略と略奪を続ける機械兵団。
そして……。
『魔王』と全ての女神達を配下にした、最強最悪のプレイヤーさん……『死神』。
彼らの与えた影響は凄まじく、この世界、『リセニング』は文句無しの世紀末となったのです。
そんな世界で私は……。
みーんな、殺していこうと思います。
ニコり。
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