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完全な殺人

 あるところに、個人経営の小さな喫茶店があります。


 その喫茶店は表通りからは外れたビルの地下に構えており、外からの目が全くない作りになっています。


 その日の客は一人で、その客はそんな隠れ家的なお店を気に入った常連の青年です。


 彼は一人カウンターでコーヒをすすりながら、店の掃除をするマスターを見ていました。


 その日のコーヒーは少し特殊な味がしました。


 その青年は話をするのが大好きでした。そしてまた人を驚かせるのが好きな青年でした。


 だから、彼はこんな風に話を切り出しました。


「マスターは人を殺したことがあるかい?」


「えっ」


 マスターはその言葉に驚きバランスを崩し、その場でみっともなくしりもちをついてしまいました。


 その反応に笑顔の青年は大変気を良くし、けらけらと笑います。


「ああ、マスターは今までだました中で一番驚かしがいがある人だ」


 しかしマスターは面白くありません。明らかにムッとしながら立ち上がります。


「ははは、ごめんなさい」


 笑顔の青年はなおも笑いながらマスターに謝ります。


「ありますよ」


 マスターは真剣な表情で返事をします。


 笑顔の青年はマスターの顔を何とか笑わずに堪え、ははーん彼は私を驚かせようとしているのだなと思いました。


 そして、よしそれならマスターの話の矛盾を指摘して恥をかかせてやろうと思いました。


「それはすごい。どんなふうに殺したんですか?」


「完全な殺人です。貴方は、完全な殺人を考えたことがありますか?」


「完全な殺人?」


「ええ、絶対に罪に問われない人の殺し方です」


 青年はフムフムと話に乗るふりをしながら、今時間稼ぎをしているのだと思っていました。


 また、なかなかに前振りをし、ハードルを上げるなぁと思いました。


「いいや考えたことはないです」


「もしかして、そんなものは絶対に無理だと思っていますか?」


 笑顔の青年は少し考えて答えます。


「まぁそうですね。不可能だと思いますよ」


 それを聞いてマスターはフフフと笑います。


「それでは、お話ししましょう。私の犯した完全な犯罪を」


「どんな話なのか楽しみです」


 そう言って青年はコーヒーを飲み干しました。


「その殺人のためにはその殺す人を選ばなくてはいけません」


「なるほど、どんな人がいいんですか?」


「ええ、そうですね。お客さんが前におっしゃっていた近所迷惑なホームレスのような方がいいですね」


「ほうほう」


 マスターの言うホームレスは、いつも鳩に餌をあげて近所を鳩の糞だらけにする男でした。


 青年は、そういえば近所で彼の話をする人がいなくなったなぁとも思いました。


「私は定休日の日に、彼に私の店で働きませんか?と言って彼をこの店に招きました。そして彼をちょうどあなたの席に座らしました」


 そういいながらマスターはカウンターから出て、出入り口の扉に立ちます。


「へぇ、そうなんですか」


「ええ、そこで私は彼にいくつか質問をしました」


「どんなことを?」


「前に君に聞いた質問と同じですよ。家族はいるのか。友人はいるのか。いるとすればどれぐらいの頻度で連絡を取るのか。まぁ、仕事やどこの学校かということやどこに住んでいるのかは聞きませんでした。見ればわかりますからね」


「それで」


「ええ、彼は私の思った通りの人でした。彼の回答はこうです。『家族も友人もいない』もちろん彼の見た目から仕事や学校に行っていないことはわかっていました。あら、この回答は……」


「僕と同じですね」


 青年は言われたくなかったので先にマスターの言葉を遮った。


「ええ、そうです。私はそれを聞いて飛び上がるほどうれしかったですよ。なんせ彼を殺せるんですから」


 そういってマスターは出入り口の扉を閉めました。


 青年がどうして閉めたのかを聞く前にマスターはまた話し始めます。


「なんで殺せるんだと思いますか?」


 マスターはそういって青年の後ろに立ちました。


 青年はマスターの話がまるで真実のように思い冷や汗をかき始めます。


「え?ど、どうしてですか?」


「簡単です。彼を殺しても彼が殺されたと気が付き、警察に通報する人がいないからです」


「……どういうことですか?」


「にぶいですねぇ、どんなに優れた警察でも知らない事件は解決できないんですよ」


 そういってマスターは手を青年の肩に持っていきます。


 とうとう青年は自らが殺されるのではないかと感じ、身をこわばらせます。


「マスター、何をしているんですか?」


 青年は心臓がバクバクと破裂しそだと感じていました。


「どうして、私がこんな話をしたと思いますか?」


「ど、どうしてですか?」


 青年は自分のしわがれた声に驚きます。


 マスターは手を少しずつ首に運びながら答えました。


「簡単ですよ。私がこの話をするのは、絶対に安全なときなんですよ。た・と・え・ば、こうして殺してしまう人のようにね」


 青年はそれを聞いたとたんに、電流が体中を駆け巡るのを感じました。


 獣のように奇声を上げてマスターの腕を振り払おうと暴れまわります。


「アッハッハッハ!」


 その姿を見てマスターは彼を指さし笑いました。


 青年はポカーンとした顔でマスターを見つめます。


「君こそ驚かしがいがある人間ではありませんか。……驚きましたか?」


 マスターは本当に楽しそうに爆笑をすると、「あんまり人を驚かせるんじゃありませんよ」と付け加える。


「あ、あはは、そ、そうですよね。嘘ですよね。アハハハハ」


 青年も無理やり笑っいました。


 マスターは空っぽになった青年のカップを見て不敵に笑いました。


 ……さて彼の飲んだコーヒーには、何が入っていたのでしょう?

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