ある隊長さんが英雄と呼ばれる様になる前のお話
「隊長そろそろお時間です」
隣から副官の声がする、どうやら少し転寝をしていたみたいだ。
ここ数年、帝国が領土を広げるべく四方八方へと戦を仕掛けている。どういう訳か帝国は負ける事がなく次々と植民地を増やし、数日前に俺が騎士団の隊長を勤めているこの国に宣戦布告もせず領土侵犯をした。だからだろうか、懐かしい夢をみたのは……本当に懐かしい幼い頃の夢を。
――幼少時代の記憶。
リィィィィィィィンと鳴る音が好きだった。これから始まる劇の開幕の音だから。
シャリーンと鳴る音が心地よかった。二つの銀閃が踊る前触れだから。
母さんが踊るたび、色々な色の丸い玉がぽーんと飛んだりコロコロと転がった。その後に大きな赤い花が咲いた。赤い花が出す雫を何故か母さんは浴びることなく、クルクルと踊っているのがすごく幻想的に見えた。
深い夜、月明かりの下で広がるこの劇を幼い俺は何なのか理解できなかった。それでもただただ何故か綺麗にみえていた、何時か自分もあんな風に幻想的な空間が作れたらと。
劇が終わり、母さんが必ず最後に銀閃を二つ地面に向けて振るう、そうすると赤い雫が地面に移る残るのは綺麗な銀色。ソレを仕舞うと母さんが帰ってくる、俺がおきてると必ず背中を擦りながら「もう、大丈夫だからね」と話しかける。ソレがとても心地よくていつの間にかに寝てしまっていた。
休む時間も少なく転々と移動する日々、夜になれば数日おきに繰り広げられる劇、そんな幼少時代も何時しか終わる。
何時からか夜の劇が少しずつ減っていき、ある程度したら全く無くなった。
旅の途中から一緒に行動するようになった男と女の子。後の義父と姉?妹?(同年代だからどっちだろうか)な訳だが、最初は母さんが盗られると思って沢山イタズラをした。……洒落にならないだろう、致死の高いイタズラだったはずだが何故か笑って「かわいいイタズラだな」と笑い飛ばしていた。やせ我慢だったんじゃないかと思うが。
いつの間にかにするりと入り込んで家族になった人達と、定住できる場所を探して辿り着いたのが今居る王国。義父の親戚が居る国で俺達をすんなり受け入れてくれた。
余裕ができれば様々な事を理解する時間が増えた。あの幻想が何だったのか、如何して旅をしていたのか、デカイ斧を振るう義父より母のほうが強いとか……まぁこのゆっくりと流れる穏やかな時間が如何に尊いものか。
「隊長聞いてますか?」
あぁ、どうやらトリップしていたようだ、副官の呼び声が少し厳しい。
「悪い、少し昔の事を思い出してた」
そう、昔の事。あの一連が俺の原風景なのだろう、どう足掻いても追ってくる過去。
「昔の事ですか、そういえば隊長は……」
「あぁ、帝国とは因縁があるからな。今回はいい清算のタイミングだよ」
追っ手は帝国の影で、理由は俺の生まれ。どうしても消したい存在だったらしいが今はどうなのか? ともあれ今回は徹底的にやらないとな。
「知ってますよ隊長、傭兵時代まだ成人すらしてない子供が帝国に土をつけたなんて話とか」
「何処で聞いたんだよ、そんな話……それに土はつけてない撤退戦で上手く逃げただけだ」
「隊長の義父さんが酔って豪語してましたよ、帝国軍にでっかいダメージを与えたって」
「あのクソ親父が……っと、部隊の配置は指示した通りに配置したか?」
「はい、抜かりなく。騎獣達もたっぷり食べた後なのでやる気がすごいですよ」
「馬以外の魔獣や竜はうちの部隊だけだからな、お陰で特殊部隊なんて言われてるが」
「隊長の目のつけた所が可笑しいんですよ。あんな風に魔獣とか飼いならせるなんて誰も思いません」
あいつらを戦力にできたらって軽く思っただけ何だけどなぁ……成功したお陰で新しい部隊の設置とその隊長に抜擢されたわけだが。
「少し急がないと、演説始まりますよ。ワシの演説を聴け! って近衛隊の頑固隊長が煩かったですし」
「あの頑固おやじか……確かに聞かなかったら面倒な事になりそうだ」
副官と顔を合わせて苦笑しながら少し歩を速める。コレから始まる大きな祭りで、あの幻想的な空間を今度は自分が作り出すために……まずは頑固の話をきかないとな。
昔ながらのお話やゲームとかの主人公にありそうでない、誕生秘話的な感じで。
この主人公が果たして、王道なのかダークなのかは……私にもワカリマセンが、きっと帝国をコテンパンにしてくれるでしょう。