武威帝マクシミリアン③
マクシミリアンはおよそ政治的感覚としては鈍感と言わざるを得ない。屈強で精力的な若者であった分、明朗さに欠けた宮廷の社交界の細やかさは一層不健全に見え、それに頑健な体を押し込まれるより粗野で乱暴な軍人たちと時間を共にすることを好んだ。彼が明朗で爽快な若者として好ましい特質を持つ分、宮廷政治の綾はとても理解するものではなかった。にもかかわらず、ジギスムントは彼を宮廷に出させ続けた。ほかの点では寛大であった父もこの点では譲らず、マクシミリアンはなぜ父がこの点においては頑迷と思えるほど固執するのか、とたびたび愚痴をこぼしているが、確かに宮廷での振る舞いという点ではマクシミリアンをジギスムントの影に押し込もうとする意図がよく見えた。
ジギスムントはマクシミリアンに自分がかつて使っていたタキシードを着させようとやっきになり、足のシルエットが合わないとわかると医者に矯正器具を作らせ無理やり押し込めたほどである。社交界の振る舞いだけは父はけして妥協せず、自ら適切な振る舞い方、しゃべり方を教え込んだ。長子はさほどこの点ではよい生徒ではなかったが、弟はこれをよく助けた。
父は女性的な優美さを漂わせた細身の男であったが、筋肉質の男らしさを賛美していた。そこにはあまり似ていない父が子達に唯一求めた「わがまま」かもしれないが、父の方ではそれをきちんと表現する術にかけ、子の方でもそれに重大な意味を感じ取る感性はなかった。口さのない人は当時これを自ら弑した弟オットーの贖罪と自分が弟に抱いた羨望を同時に息子たちに求めているとさえいうものもいた。
こういった不得手な状況に助け舟を出したのはボロディンであり、どこから会得したか幅広い年代層に巧みに、しかし素朴な信頼感を得ながら取り入る術を存分に発揮した。兄がぎこちないところを隠す程度には軽妙で、しかし兄より目立たないようには控えめな態度を努めて演出し、マクシミリアンは知らず知らずにボロディンを社交の名代に頼むようになった。
マクシミリアンの欠点は人を好きすぎるところにある。彼は何度か親友をただそれだけの理由で昇進させようとしたり級友が前線にいかねばならぬとなれば自分もついて行こうとする。要するにジギスムントが作り上げた複雑怪奇なる政治的闘技場には彼の直情径行さはとても危なっかしく、ボロディンが何度となく政治的な助言者としてなだめざるを得なかったのだ。それでもウォルフガングの昇進の件だけはマクシミリアンも依怙地になり、結局護衛には王族に同席するだけの資格が必要という理由で彼は大体マクシミリアンの一つか二つ下の階級にいることが多かった。