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終幕 乱入

 新たな客が、私の前を通り過ぎる。薄い茶色の髪の青年と、それにしなだれかかる少女の年頃の女。

 あんな風に男にしがみつくさまはこのあたりの風紀にはあまりそぐわない。

 女は言い寄られるものであって、言い寄るものではないというのが常識だ。だがあんな馬鹿を野放しにされるのは女にとって迷惑極まりないのだが。

 私たちは見ないふりをして、スープが届いたので受け取った。


 最初に登場したのはアンドレアだった。

 アンドレアは連れの若い女性の二人連れだった。二人はハットン氏とその向かい側にいる女を軽く横目で見て、それから席に着いた。

 そろそろメインディッシュだ。

 伯父様がやってきた。仕立ての良い衣服、こういう時に着るのはタキシードだけど、ちょっと違うし。まあ、紳士としての体裁を守った格好でゆったりと歩いてくる。

 こうして盛装して立っているところはなかなかのダンディな伯父様。撫でつけた髪には一筋のほつれもない。

 こうしてみると、最初に会ったときは相当錯乱していたんだなあと思う。ズボンからシャツがはみ出てたし。髪はぼさぼさだった。

「ハットン氏、お話がありますが」

 伯父様はハットン氏の前に立った。

「こうして現場を押さえた以上、私としても、これ以外の選択肢はありません、その娘を尼寺に連れていきます」

 そう言って、ワイングラス、でも、この世界に葡萄はない。なんだかミカンみたいなののしぼり汁を醸造している。まあワインでいいか。

 とにかく、ワインのようなものを入れるグラスを持ったその手をつかんだ。

「さあ、マンダリン、尼寺に行こう」

 そう言って無理やり腕を引っ張って立たせた。

 その時、顔がちょっと見えた。

 目元は似ているかもしれない、鼻の形もちょっと近い、でも唇の形が違いすぎる。口紅をべったりと塗り付けて、メイクの加減と思わせたいのかもしれないが、私とマンドリンの唇は薄くて小さめだが、明らかに唇の厚みが違いすぎる。

 ぽってりとした肉感的な唇なのだ。

 さすがに別人と気づいているよね、伯父様、薄く笑っている。笑っているのに怖い。

 狂気に足を踏み入れた笑いだよ、これ。

「ちょっと待ってくれ、カーフィール君、いきなり尼寺なんて」

「しかし、そうでもしなければそちらの奥様のためにもね」

 そう言って背後を振り返る。

 金髪の、思ったよりシックな装いの中年女性がいた。黙って立っていれば上品な奥様だが、唇にいかにも酷薄そうな笑みを浮かべている。

「そうですわね、貴方、せっかくカーフィール氏が自主的に責任を取ってくださるというのですし、是非そうしてもらいたいわねえ」

 まあ、この場合、尼寺送りは妥当な罰のような気がするし、放っておこうか。

「ほら、ごらんなさい、あれがマンドリンの正体よ」

 さっきのアベックがいきなり乱入してきた。

 ちょっとマルチーズのような印象の娘が盛んにマンドリンのようなものを指さして叫んでいる。

 さてはその薄茶の髪の男がマンドリンの元カレテイミーか。

 しかし、これで騙されたままだったらマンドリンは男を見る目なさすぎだと思う。

 ハットン氏を見れば口をパクパクさせて周りをきょろきょろと見ている。

 いきなり関係者の皆様に取り囲まれたのだから無理はないが。

「何を騒いでいるんですか、公共の場で迷惑ですよ」

 涼やかな女性の声がした。 

 国家公務員の制服を着た女性が、席を立って近づいてきた。

 紺色のジャケットに紺色のパンツとすっぽりと頭部を覆うフード付きケープがトレードマーク、ジャケットの裾のラインで所属が分かる。女性制服の場合はロングキュロットかスカンツの様に足のラインが出ないようフレアのついたパンツをはいている。

 仕事終わりに軽い食事をとっていたらしい二人は滑るようにハットン氏の前に立つ。

「もめごとはいけませんよ」

 そう言って仲裁に立った時、今度乱入してきたのはおそらくハットン氏にとって全く予想外の人物だった。

 無言であのバカはハットン氏の襟首をつかんだ。


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