第四幕 過酷
お昼にメアリアンの家に行くと、メアリアンは帰っていた。
「お昼、何か作ろうか?」
私は一応料理ができる、上流階級の女性はお茶を淹れるくらいしか家事をしないが、私は転生者なので、いろいろとやらされた。
かつて物凄い料理上手だった転生者は、調理技術の精度を高めることもあるが、私の料理の腕前はそれほどでもなかった。
かろうじてまずくないものが作れるという程度。
「異世界料理!!」
メアリアンの顔が輝く、いや、そこでハードルを上げられても困るんだが。
「見てていい?」
そういうマンドリンは手を出すつもりはもうとうないようだ。
まず、葉野菜を刻む、一番キャベツに似た野菜を用意した。
小麦粉に卵と、すりおろした芋を混ぜる。
イモはジャガイモより山芋に似た食感。イギリスには山芋はなかったのでやはり異世界なんだなと実感する。
そして、フライパンに、薄切り肉を並べ、野菜と生地を混ぜたものを落とし、しばらく焼いていく。
そしてソースを準備、ソースはウスターソースがちゃんとある。どうやって再現したのかは知らないけど。
ただし、お好み焼きに使うには少々甘みが足りないので、トマトソースのようなものを混ぜる。
味はトマトソースに似ているが、使っている野菜はトマトにあまり似ていない。
どっちかというと蕗に似ている。
酸味の少ないルバーブ?
そして、秘密兵器、卵黄と油と酢、そしてマスタード粉、それを瓶に入れ、蓋をする。
蓋の内側にはコイルのようなものが付いており、力いっぱい振れば、気が付けばマヨネーズになっているという優れものだ。
問題は作るとものすごく疲れるということだ。
途中で疲れたので、マンダリンに押し付けた。
ひたすらシェイクすればいいと言っておいたのでひいひい言いながら、振っているのを横目に私はお好み焼きをひっくり返した。
小麦粉とか芋とか言っているが、私たちのいた世界の植物とどれほど近いのかはさっぱりだ。
それを考えたら、この世界の人間だって元の世界の人間とどれほど近いのだろうか。
きつね色の焼き目を見ながら、メアリアンに尋ねる。
「もし、夫婦の片方とまあ、恋愛したら、どういうことになるの?」
不倫などしたら、おそらくとんでもないことになるだろうと思う、しかし具体的な例を私は何一つ知らない。私が知っているのは前世の2チャンネルまとめなんかで見た不倫の顛末ぐらいだ。
まあ、ろくでもないことばかりだったが。
「そういう時は殴り合いでケリをつけるよ」
「そうなの?」
「夫婦と、その相手の男と女で、殴り合いが普通だな、私の見たのは全部そうだった」
壮絶だね。でもマンドリンのケースはそれで済むの?
マンドリンを見ると瓶を振るのに一生懸命で何も聞いていないようだ。
焼きあがったお好み焼きにソースとマヨネーズをかけて食事にする。
残念ながら、鰹節と青のりは手に入らない。
グランコースは内陸の土地なのだ。内陸でなくとも実は手に入らないが。
「ハットン夫妻は、これまでもいろいろと噂のある人で」
マンドリンがポツリポツリと話し始めた。
「ハットン夫人を怒らせれば、地獄を見る。これがこのあたりの共通認識よ」
マンドリンはそう言った。
「ハットン氏は、その女性に目がないとかでいろんな女性といろいろとね、まあ、でもそれでひどい目に合うのは対外女性側で、ハットン氏はそれほどでも、まあ隠れてひどい目にあっているのかもしれないけど、懲りずに繰り返すところを見ると」
つまり女好きというか浮気性、そして、その妻は嫉妬深く、相手の女を完膚なきまで叩きのめさないと気が済まない人。
「迷惑だね」
そんな男と分かっているなら女も近づかなきゃいいのに、さもなきゃ自衛を。
「つまり、これが自衛か」
私は頭痛を覚えて、テーブルに突っ伏しそうになった。
「迷惑すぎる」
私のつぶやきに、マンドリンとメアリアンはため息をついてそれにこたえた。