第四幕 進展
マンドリンとアンドレアは今日のところはひとまず、別れ、明日、私の宿泊しているホテルの喫茶室で会うことになった。
「最初の一人で何とかなってよかった」
「そう?」
三人ぐらいに立て続けに同じことをやったらさすがに偶然が過ぎるところだろう。
あのアンドレアが、他のお友達を何とか説得してくれるなら、これで一件落着とはいえないまでも、解決の糸口ぐらいにはなるはずだ。
私は、少し離れた場所で、マンドリンと合流することにした。
マンドリンは髪をスカーフでまとめて走ってきた。
「転ぶなよ」
明らかに運動が少し足りていないマンドリンの足取りに私はそう声をかけた。
アンドレアは早朝の喫茶室にやってきた。
一人ではなくもう一人、金色の髪の少女を連れて、こちらは整っているが地味という顔立ちだ。
「今日、伝話で話を聞いて、どうしても謝りたくて」
金髪のほうは目を伏せて、マンドリンの顔を直視できないでいる。
「それはまさかと思ったわ、でも、あれはマンドリンに間違いないって言われて、本当にそうなのかと思って」
どうやらマンドリンに暴言を吐いた一人らしい。
「私が騙されていたのかなって思ったら、腹が立って」
私はマンドリンの真後ろ、店の奥側のテーブルに陣取って仕事をしていた。
『ハーミア 愕いた、何を怒っているの、からかっていない、貴女こそ私をからかっているじゃない』
『ヘレナ ライサンダーをけしかけたでしょ私を追いかけて、私の髪や目を褒めたたえるように』
ハーミアとヘレナのつかみ合いだ。
できるだけ言葉をリズミカルになるように。
まったく違う言語でそれを再現するには結構な骨折り、それでもとペンでこめかみをたたく。
「そうよ、まさかあなたが恋人のティミーを裏切るなんて思ってもみなかった」
「ああやめて、裏切ったのはあいつよ、私が言うことを一瞬たりとも信じないで、私の清廉さを愛しているといったその口で、裏切り者と、身に覚えのない罪をたたきつけたのよ」
マンドリンが憎々しげに言う。ひん曲がった唇が見えるようだ。
「だけどあんなひどい話を聞けば、彼が動揺するのもわかるというものだわ」
アンドレアの声だ。
私は三人に背中を向けているので、三人がどのような顔をしているのか確かめるにはコンパクトミラーを使うしかない。
それで全体像をつかむなぞ至難の業だ。
「貴女が、ハットン夫人のご主人と、二人きりでデートをしていたって」
その時、マンドリンはどんな顔をしていたのかわしにはわからない。何しろハットン夫人もそのご亭主もどのような人物であるかさっぱりわからないからだ。
しかし、人の旦那というところは何とか分かった。
これは思ったよりも厄介だ。何しろビクトリア朝と道徳観念が少し似たところがあるのだ。
私がいた異世界はこの世界より、少しだけ道徳基準が甘かったように思える、まあ国によって大きく違ったので私のいた国限定というとこかもしれないが。
それでも既婚者との浮気は自滅行為だった。
巨額の賠償金や、将来の結婚の不利など様々な不利益を被る羽目になっていた。
多分、こちらではもっと過酷だ。
伯父が、問答無用で尼寺に連れて行こうとしたのは温情判断だったのかもしれない。
ペンを弄びながら、動機を理解した。