8話 巨大な生物はなかなか死んでくれない
翌日、山での探索で疲れてしまったので、ギルドハウスの中にあるテーブルで、ウダウダしていると、入り口の方が騒がしくなる。俺は何事かと思い、身体を起こして覗いてみると、二十人位の冒険者達がコボルトの群れを狩ってきたらしい。それも、昨日俺達が発見した群れだそうだ。
合計で150匹ほどのコボルトがいたらしく、その中にはロボルトと言う、コボルトの上位種がいたらしい。冒険者達はかなり苦戦をしたらしいが、そいつも倒したらしく、冒険者達は勝ち誇った顔をしていた。
今回、そのコボルトの群れを討伐したメンバーで山分けするらしく、俺は羨ましそうにその光景を眺めていると、ダレルさんが俺の傍にやって来る。
「タイチ、毎回疑問に思っていたんだが……お前、……そんな装備で町の外に出ているのか?」
「――え? あぁ……はい。そうですが……何か問題でもありますか?」
俺は自分の服装を確認し、別におかしなところは無いだろうと思いながら、ダレルさんの顔を見る。
「お前、本当に運が良いんだな。普通は鎧など着て行くもんだ。今からでも遅くは無い、防具屋で何か防具を買って来いよ。最低でも皮の鎧とか」
そう言われても、敵が近寄ってくる前に銃で射殺してしまえば良いだろうと思う。
「――そうですね……後で考えておきます」
「あとで悔やんでも知らねーぞ……。 不意打ちなんかして来る奴だっているんだからな」
ダレルさんは呆れた声を出して他の場所へと行ってしまう。防具か……言われてみれば、確かに防具は必要だよな……まぁ、こんな場所でダラダラしているなら防具でも見に行ってみるかな。そんな事を思いながら俺はギルドハウスを出て、防具屋へと向かう。
「――いらっしゃい」
やる気の無さそうな声が店内に響く。客が居なくて暇なのだろうか。
「――何をお求めだい?」
客がいないから標的は俺なのだろう。周りを見渡しても誰もいない……。仕方ないので答えることにする。
「えっと……安くて丈夫な防具を……」
聞かれた質問に答え、一瞬だけ時が止まったように感じる。店主が何かを考えたからだ。俺はどうして良いのか分からず、取り敢えず苦笑いをしてみることにした。
「――なら、オークの皮と、コボルトの皮を合わせて作った皮の鎧だな。それだったら結構丈夫で動きやすい。値段は1,000ガルボになるぞ」
「そ、それ以外に……」
「無いよ」
即答……多分、こう言った質問が多いのだろう。俺は仕方なくその鎧を購入することにする。
出された物を見ると、キンバレーやロットー等が装備していたものと同じ鎧であった。それを装備して見ると、思った以上に軽くて動きやすい。
「それを使っていて、何かあったらここに持って来な。修理や調整してやるよ。まぁ、壊れ過ぎたら買ったほうが早いかもしれんがね」
防具屋の店主はそう言って笑っていた。俺はその場でガルボを支払い、防具屋を出て行き、昼を食べに行くことにする。
食事をしたあと、俺は動物狩りに出かけるのだが、やる気が起きずに直ぐ宿屋へと帰って休むことにした。
「あ~……あの人達、凄かったな~……あんな沢山いたコボルトを倒した挙げ句、上位種まで倒しちまうんだから……」
ベッドの上で横になりながら冒険者達の事を思い出す。あれだけ数を倒したら幾らになるのだろう。そんな事を思いながら俺は眠りにつく。
翌日、俺は決意する。山へ行き、オークやゴブリン達の集落を襲い、一気にガルボを稼ぐ事を……。このままチマチマ稼いでいても、儲かることは無いし、家を手に入れる事もできない。そう思い、俺は道具屋でポーションを何個か購入し、町を出て山へと向かう。
山に入り、魔物の気配を探しながら歩いていると、チラホラと気配が見つかる。その魔物を始末して回収するのだが、銃を撃つと、乾いた音が鳴り響き、次第に動物や魔物の気配が無くなる。
「魔物や動物の気配が無くなっちまった……撃った後の音に気をつけなきゃ駄目かな……やっぱり」
そう思い、その場で図鑑を取り出して調べ始める。射撃音を押さえる、サイレンサーという物が有ることが分かり、召喚してみて取り付ける。何発か試し撃ちをして音を確認すると、かなり音が軽減されていた。
「これならいけるだろ……ん?」
頭に何かがポツリと付いた気がして、俺は空を見上げる。すると、空は曇っており、ポツリポツリと雨が降り始める。
「うわ、マジか……雨かよ……」
雨は徐々に強く降り始め、傘を召喚して直ぐに傘を差す。雨に濡れないようにするのだが、場所は山の中のため足場が悪く歩き難い。仕方無しに何処かで休める場所を探すと、洞穴を見つける。
「うっわ……かなり強く降って来やがったな……今日は止まないかも知れないな……」
独り言を言うかのように空を眺め俺は呟き、洞窟の中で雨をしのぐのだった。時計が無いので時間が分からないが、多分、数時間は過ぎたのでは無いかと思う。だが、雨は止む気配を見せず降り続く……。
「もぉー! マジかよ……このまま降り続いたら……帰るのが面倒になるな……今日は稼ぎに来たと言うのに……」
そんなことを呟きながら空を見上げていると、後ろで何かが動く気配がする。俺はゆっくりと振り返ると、そこには大きなイノシシがおり、こちらを睨んでいた。
イノシシは通常の五倍近くで、何故、そんな奴がいるのかも気が付かずに数時間もこんな場所にいたのだろうと考えていると、イノシシは足で地面を掘る仕草をしている。なんでそんな事をしているのかと思ったのだが、動物の仕草で特攻をしてくるときの仕草を思い出し、俺は顔を引きつらせる。コイツ、……俺に突っ込んでくる準備をしているのじゃ無いのか……。
それに気が付き、慌てて洞穴から飛び出して初撃を躱す。イノシシは振り返り、再び俺を睨んできた。
「お、お前の根城に勝手にいたことは謝る! だから……や、止めるんだ!!」
俺は両手を前に出し首を左右に振って嫌がるのだが、イノシシは止めてくれる気配はない。俺に対して再び攻撃を仕掛けてくるので、横っ飛びして攻撃を躱すと、イノシシは壁に激突する。
かなりの勢いで壁に突っ込んだので気絶したのでは! と、思ったのだが、その考えは甘すぎた。イノシシは再びこちらに向き直る。相手の動きは速く、いつかはやられてしまう可能性がある。こちらも攻撃をしなければ殺されると判断し、俺は銃を向けて数発撃ち込む……だが、イノシシは倒れる事はなく再び襲い掛かってくる。
「ま、マジかよ!」
慌てて突進を避けて攻撃を躱す。全身泥だらけになりながらも立ち上がり、この後のことを考える。
「し、しぶとい奴だな……ど、どうすりゃ良いんだ?」
このまま逃げるというのは難しい。相手は完全に俺をロック・オンをしている。やる気満々。逃がしてはくれないという気配がビンビンと伝わってくる。
「熊と一緒で眉間にくれてやれば……」
召喚する銃を変更し、威力の高い、リボルバーに変更し、再び銃を構える。そして、突進される前に眉間めがけて数発銃弾を撃ち込むと、イノシシはぐらりと身体を横に倒して動かなくなる。
いきなり起き上がってこないことを祈り、ゆっくりと近寄って足で突っついてみるのだが……イノシシは動かない。本当に死んだのだろう。巨大イノシシを袋に入れようと考えるが、どうやって入れるかが悩ましい。一応、袋に近づけてみると、イノシシは吸い込まれるように中へと入っていき、俺はホッと胸を撫で下ろす。袋はこんな使い方もできるのだということが分かり、ホッと、胸を撫で下ろす。
空を見上げるが、雨は止む気配は無い。そして、ここまでずぶ濡れになっているので、雨宿りするのは諦め、このまま町へ帰ることにして、俺は山を下りるのだった。
2017/04/16 修正と文章を追加