83話 それぞれの冒険
船は破壊され、俺達は大海原へと投げ出される。三人に渡した武器はそんじょそこらの武器とは異なる武器だ。それさえあれば、一人でも生きていけるだろう。
俺の側にはアズロットがおり、泳いで駆け寄る。
「落ち着け、アズロット! この紐を引っ張れば空気が入り、体を浮かせてくれる! 救命胴衣だ!」
「わ、わかったのだ……こ、怖いのだ……タイチ……」
「渡した武器を無くすなよ……それさえあれば、お前は最強だ! もう処分品とは言わせるもんか!」
「う、うん……分かったのだ……」
「俺は元凶を倒す。アズロット目を瞑れ……」
目を瞑るアズロット。俺は彼女にキスをする。
「お前は人間だ、そして俺の仲間であり、大切な人の一人。カベルネ、リタ、アズロットがいなきゃ、俺は生きていけないだろう。だから絶対に諦めるな! 生き残り、必ず俺とこうしてキスをしよう!」
「あ……愛してる……タイチ……」
「俺もだ……そして、カベルネやリタもお前を愛してるよ。暫くの間は元気で暮らせ。俺は成長したお前との出会いを楽しみにしてるから……」
そう言って俺は酸素ボンベを召喚し、海の底へ潜っていく。アズロットは叫ぶように俺の名前を叫んだが振り返ることはせず、この惨事の元凶を始末しに行く。コイツは俺でしか倒せない事がわかっているから……。
クラーケンは船の残骸を掴んで振り回しており、こちらに気が付いていなかった。チャンスと判断した俺は、ホーミング魚雷を召喚し、それをクラーケン目がけて撃ち放つ。魚雷に気が付いたクラーケンだが、ホーミングは逃げるクラーケンを追いかけていく。暫くして離れた場所で魚雷が当たったらしく、俺達は思いっきり流されていくのだった。
目を覚ますとそこは砂浜で、どうやら気絶していたことが分かる。周りを見渡すのだが、救命胴衣を着ていなかった者達の姿は見当たらなかった。たぶん、俺のように鎧などを外したりはしなかったのだろう。
カベルネやリタ、アズロットの名前を呼んでみるが、返事は返ってこない。たぶん、離れ離れになってしまったのだろうと思う。何故だか、彼女たちは死んでいるという事をイメージすることが出来ない。それはメルトに至っても同じことである。あいつは殺そうとしても死なないだろう。俺が助けたかのように、誰かに助けられながら生活をしているのじゃないかな。
暫くその場から動くことをせず、俺は生き残りを探すのだが……どこにも人影は見当たらず、俺は一人になったことを改めて実感する。
自分の装備を確認すると、神様から貰った袋はそのまま腰についており、無くしていなかったことにホッとする。だが、中に海水が入っている可能性があり、恐る恐る手を入れて探ると、海水は入っておらず、一枚の紙切れが入っていた。
『親愛なる鈴木太一君。この袋が無くなることや破れることは無い。安心して使いたまえ』
粋な計らいである。と言うか、ちゃんと監視されているということを改めて理解した。
「しかし……誰もいないとなると、これから先どうしたら良いのか……」
周りを見ても誰もいない。俺は袋から自分の武具を取り出し装備をし、町を探すため歩き始めた。
考えてみると初めての一人旅。カベルネは無事だろうか。リードもこんな気持ちでブルクスの町にいるのだろうか。
そんな事を思いながら歩いていると、魔物の気配を察知する。数は一匹程度だが、相手の実力が分からない。あの時、パトリコットリベルトは言った。ここの相手にも満足に勝てないやつが……と……。
リタもカベルネもアズロットもあちらでは油断さえしなければ負けることはないし、あの武器だって渡している。多分……大丈夫だろうと思いたい。
実力を測るために俺はわざと魔物と遭遇する。相手は猪豚ファイターに似ているが、どことなく違和感を抱く。俺は剣を抜き、相手の攻撃が来るのを待っていると、突然口から炎を吐き出し、慌てて避ける。次に爆発系の魔法を連続で唱えてくる。丸い玉が勢い良く俺に飛んでくる。その玉が当たると弾ける仕組みの魔法だ。レベルが上がるとイメージした場所で破裂させることが可能らしい。盾を前に出し、サイドステップで躱しながら近寄ろうとするのだが、相手は持っている銛のような武器で突き刺しにやってきた。本当に力の差が激しく、油断すると一瞬でやられてしまう。近寄るのも難しければ逃げるしかないのだが、相手の動きは俺が想像しているよりも早い。
スキルで直感というのがあった事を思い出し、それを覚えさせるべきだったと後悔するが、今更の話である。
剣を鞘に収め武器をチェンジする事にし様子を窺う。これが俺の能力で、最大の切り札である。
勝負は一瞬しかないと判断し、再び盾を前にして魔法攻撃を避ける。俺はバランスを崩した振りをすると、盾が相手の魔法を直撃し、爆発が起きるのだが、魔物が一瞬だけで俺の存在を確認できない瞬間が生まれる。そのタイミングでデザートイーグルを召喚し、顔面目掛けてトリガーを引く。
初めて見る物に対し、誰しもが一瞬だけで間を空けてしまう。それは魔物も魔族も同じだということを俺は知っており、その油断を狙ったのだ。
魔物の頭に弾丸は直撃し、猪豚ファイターのような魔物は絶命するのであった。
盾は多少凹んでいるが、使えないことはない。俺はその盾を回収し、魔物の死骸を袋に詰め込むのだった。
「なんとか……一匹仕留めた。レベルが上がっていないということは、俺の経験が足りないと言う事だろう。カベルネがいりゃ……物凄く楽に戦えたんだけどな……」
独り言を言って、俺は再び街道を探すため歩き始めるのだった。
★★★★★★
タイチさんと離れ離れになり私は途方にくれる。もしかしたらタイチさんは海の藻屑となり……いや、タイチさんに限ってそんな事はないだろう。周りを見渡すが、人の気配はしない。海水で喉がやられているため大きい声が出す事ができない。私は攻撃魔法だが、【ウォーター】を唱え水を作り出し喉の渇きを潤す。
早く生活魔法を覚える必要があるが、それは時間をかけて覚えるしか無いだろう。そんな事を思いながら私はタイチさん達を探すために新大陸と思われる場所で冒険を始めるのだった。




