81話 助言
俯きながら街道を歩く俺達。リタはアレから一言も言葉を発する事はしない。何を考え、何を思っているのかはリタ個人にしか分からない。
無言のまま空は暗くなり、俺達はテントを張る事にする。
「もしかしたらこの辺りには盗賊がいるかも知れませんから……注意をしないといけませんね」
カベルネが小さい声で俺に言う。盗賊=アッサラートの残党兵だからだろう。そのことを気にしてカベルネは小声で話しかけてくる。リタが気にしていると言う事なのだろう。
リタは凹んだままで、空を見上げ儚げな顔をしていた。だが、俺はそれ以上に気になるのが誰も食事を作るのを手伝ってくれないと言う事である。おかしいでしょ! 誰も手伝わないなんて……。
仕方ないので俺は物語を題材としたゲームの音楽を流し始める。プレリュードが流れ始め、神秘的な音が流れる。その音楽を聴いてリタが俺の方を向く。
「この曲は……」
「プレリュード……とあるゲームの音楽だよ……ゲーム自体が分からないかも知れない。簡単に言うと、物語の始まりにかかる曲さ……。俺達にはピッタリだろ? カベルネと俺が旅立つときに聴いた音楽は冒険に出るための始まりの音楽……序章だ。俺達は幾度となく冒険を続けて物語を読み明かしてきているんだ。その中ではとある国が戦争を起こし、その国に勝利をするのだが、敗戦国はどうなったかは書かれていない。その先を書くのはお前だと思うけどな……。カベルネは自分の冒険の書を……リタは物語を書いて行けば良いんじゃないか? 俺はそう思うけどな。アズロットは……これから俺と共に見つけよう」
「私の本を……か?」
「そうだ。お前は何をしにこの世に生まれ、何を成し遂げるために生きていくんだ? 男に弄ばれるために生まれてきたわけじゃない。お前にはお前のやるべき人生があるんだ。もちろん……それは俺にも。だけど、俺は物語じゃなく冒険の書でもない。俺は君達の知らない物語を作るためにここに居る。だから俺は俺のために生きる。英雄を目指したいなら英雄を目指せ! 俺はそう言った物に興味はない。政で民を幸せにしたいならそれをすればいい。だけど俺には政に興味はない。俺は俺のために生き、俺のために死んでいく。これが君達の知らない物語だ」
「意味が分かりませんが……私が冒険の書で……リタさんが物語り……ですか……」
カベルネは空を見上げ自分の将来なのかそれとも今まで歩いてきた道を想像しているのかも知れない。リタは自分の生活を見つめ直しているのかも知れないし、その先を見つめているのかも知れない。誰も争いのない、平和な世界を。アズロットは自分が何のために生きているのか……それを考えているのかも知れないし、自分の体に流れる血について考えているのかも知れない。それは個人個人でしか分からないのだが、俺達はそれぞれの道を歩いているのは確かである。
「リタ……」
「は、はい……」
「アッサラートについてはもう忘れろ」
「え?」
「アッサラートにリタという少女はいない。お前はバリーリアの町で奴隷として売られていたただの少女だ。姫でも何でもない。今回起きたのはお前には関係のない話だ。だからお前が気にする必要は全くない」
「わ、私は……」
「俺の奴隷だ。それ以上でもそれ以下でもない。ただの奴隷……心優しき美しい奴隷だよ」
★★★★★★
やはりタイチさんは英雄や勇者の素質がある。なのにそれを拒む理由が分からない。我々冒険者はそれに憧れて生活をしている節がある。誰かに褒められたい。誰かを助けて、それで褒められたい。そういった気持ちは少なからず持っているのだが……タイチさんにそういった欲望が感じられない。どうしてなのだろう。
心地よい音楽を聴いて、タイチさんの話をすると、リタさんは落ち込んでいた顔から希望に向けた顔に生まれ変わっていた。
私は気が付いた。タイチさんという存在が、私にとってどんな存在なのか……タイチさんは私にとって希望の人なのだ。この人が私を導いてくれる。新しい世界へと誘ってくれるのだ。
そう思うと明日からの旅がまた新しく生まれ変わる気がして、私は幸せな気持ちで眠りに就くことにしたのだった。
★★★★★★
さて、お仕事のお時間だ。俺の大事なお姫様達はお休みになった。ここからは俺の仕事だね。
「出てきなよ……俺に用事があるんだろ?」
「気が付いていたんですか?」
「一応村からね……たしか……パトリコットリベルト……」
「よく覚えていたね、タイチ。やはり君は変わった存在だ。それで勇者や英雄を好まないなんて珍しい生き物だね」
「で、あんたが俺に何の用だ? やるなら俺は本気を出すよ……俺の大事な物に指一つ……触らせることはさせない」
「そう言っているが、お前はあの時からまったく実力が上がっているように思えない。強がるのはよしてくれないか?」
分かっているようだけれど、俺にも隠し玉の一つや二つは有る。それは一度しか使っていないし、それに触れれば一撃で倒せることは間違いない……。
「ふんっ……まぁ、良いだろう……正直、お前にはこの大陸から出て行ってもらいたいのだよ……なので早く、ロンダバリツ城へ向かってくれないか?」
「ど、どういう……事だ……」
「ここで魔族と人間の戦争が起き、魔族が勝利することが確定している……そう言えば気が済むのかね?」
魔族と人間の戦争? どういう意味だ?
「我々は元々この大陸を支配していたんだ。だが、ある人間がそれを邪魔してくれてね……貴様らの言う所である勇者と言う存在だ。それが我々の生活を脅かしたと言う訳だ。我々もいい加減人間との生活にウンザリでね……」
「それで土地を取り返そうと言う訳か……」
「そう言う事さ……。あるべき姿に戻らせてもらう。ここを魔境として戻させてもらうと言う事さ……既に勇者が死んで1,000年が過ぎている。そろそろ頃合いだろう」
「こ、ここに居る人間はどうなるんだよ……」
「お前が知る必要は無いのではないのかな? お前はそれ以上の物を望んでない。しかもだ……お前が行こうとしている大陸は既に我が魔族が支柱に納めている。ゴブリン……ゴブリンファイター、ゴブリンメイジで苦戦している人間に未来はあると思うのか?」
皆殺し……多分そう言いたいのだろう。
「好きにしたら良い。まぁ、人間にも変わったやつがいるし、それなりの奴がいる。足元を掬われないようにな」
「ご忠告感謝しよう……」
そう言ってパトリコットリベルトは姿を消す。他の大陸はどのようになっているのか……生活はどのようにされているのか……謎だけが残る話し合いだった。
だが、アイツは数個のヒントをくれた。ロンダバリツ城と言う所に移動手段か何かがあると言う事や、他の大陸にも魔族はいるが、人間もいる。そして、そっちの方が遥かに大変な生活だということを。また、魔境についても話をしていた。
まぁ、楽しくなってきたんではないか? すこしはさぁ……。




