75話 私達のピンチ
確か、メルトが体調を崩したときもカベルネは大慌てをしていた。あの時は俺が普通に風邪薬や保冷剤等を出して熱を冷まし治したのだが、今回病気になったのは俺である。カベルネの慌てようは凄まじいもので、混乱しまくっている。
しかも、リタも同じで混乱をしているため、訳の分からん薬を飲ませようと、雑草を引っこ抜き、石で磨り潰し始めていた。まさか雑草汁を俺に飲ませようとしているのだろうか……。
そんな物を飲まされた日には、逆に死に至る可能性がある。
「風邪だろ? 大したものじゃないよ。さっきも言ったが、薬を飲んで寝ていりゃ治るものさ」
「で、ですから今薬を!」
やはりその雑草汁を飲ませるつもりだったか……。
恐怖を感じた俺は直ぐに説得を始めた。二人に頭寒足熱という言葉を説明し、足元を温め頭を冷やすという方法を採る話をすると、カベルネは「何故私は氷魔法が使えないのよ!」と頭を抱え蹲り、リタに至っては「そ、そんなバカな!」と、驚愕した顔をしていた。ついでに風邪薬なる物や、解熱剤と言った物を説明すると、二人は魔法のポーションだと勘違いする始末。
アズロットは何がなんだか理解していないが、心配そうにしている顔をしていた。
「大丈夫だよ、アズロット……薬も飲んだし、ゆっくり寝てれば直ぐに良くなる。だからそんな顔をするなよ」
「お、おう……わ、分かったのだ……」
そう言っても俺を心配してくれるアズロット。良い子に育てないといけないな。
俺が寝ているときに何かあったら困るので、カベルネにベレッタを渡す。
「薬が効いてきたら当分目が覚めることは無いと思う。その間、二人を頼むよ……カベルネ」
「嫌! 死んじゃ嫌だ!」
「ね、寝るだけだから……。勝手に殺さないでくれる?」
アズロット以上に心配をしているカベルネ。寝ていりゃ治るというのに……。
そうこうしているうちに、俺は眠ってしまうのだった。
★★★★★★
タイチさんが病気で倒れてしまった! まさか風邪という万病にかかってしまうなんて……。確かにゆっくり寝ていれば治ることもある病気だが、ここは町ではないし、治癒術士がいる訳ではない。もしもタイチさんが目を覚まさなければどうしよう。その時は私もタイチさんの後を追うことにしよう……タイチさんのいないこの世に何の楽しみも無いのだから……。
「カベルネ……外に変な奴らがいるぞ? アイツラは何だ?」
「え? 変な……奴ら?」
アズロットが首を傾げながら外を見ている。魔物であれば、アズロットの事だから飛び出して退治するだろうが、そういった訳ではない。リタさんも気になったのか、私の代わりに外を確認してくれる。
「か、カベルネ様! 賊です!」
「ぞ、賊? こ、このタイミングで……盗賊ですか!」
リタさんはローブを羽織り、剣を持って外に出る。アズロットはなんの事だか分かっていないが、リタさんが武器を持って外に出たので同じようにローブを羽織り、タイチさんの剣を装備して外に飛び出した。タイチさんの武器を持っていくところが抜け目ない子である。
私もロッドと銃を持って外に出ると、十人程の厳つい男達が私達のテントを取り囲んでいた。
「おやおや、冒険者が泊まっているテントだと思えば……女だけじゃないか……。こりゃ……今夜は眠れそうもなさそうだな……」
おぞましい顔して男が言う。私達を攫って乱暴を働こうというのだろうか……。
「か、カベルネ様……如何なされますか……」
「と、取り敢えず……倒します! タイチさんが伏せているんです……私達だけでやらなければなりません! アズロット、殺してはいけません!」
「分かったのだ!」
返事をしたアズロット。そして直ぐに攻撃を仕掛けるが、相手は盗賊をやっているだけはある。格闘術も心得ているようで、アズロットの攻撃を躱した瞬間、お腹に蹴りを入れる。魔物とは大違いである。
「アガッ……」
「アズロット!」
蹴りを入れられ蹲るアズロット。盗賊はアズロットの襟首を掴んで再びお腹に蹴りを入れ、アズロットはノックアウトされてしまう。
「先ずは一人だな……ヒヒヒ……上玉が三人も手に入るだなんて……俺達ぁ、運てるな」
「か、カベルネ様は下がって下さい……」
「リ、リタさん……」
リタさんは剣を構え私の前に立つ。確かに前衛者としたらリタさんだが……今はアズロットが捕まっている状態だ。どうすれば……。
そんな事を考えていると、盗賊がリタさん目掛けて攻撃を仕掛けてくる。リタさんは上手く剣で攻撃をいなし、盗賊のお腹に柄を当てる。だが、リタさんの力と、盗賊が装備している防具の前ではその攻撃は無力であり、リタさんは首元に肘打ちをされてしまい膝から崩れ落ちる。
殺すなと私が言った事が仇となった形である。
盗賊はそのままリタさんの体を蹴っ飛ばし、リタさんは吹っ飛ばされ男共に羽交い締めにされる。
「な、何をする!」
リタさんはもがき、抜け出そうとするのだが、力の差が有り過ぎて拘束から逃れる事ができない。
「【ウォーター】!!」
「甘い! 【ウォーガー】!!」
「キャ!!」
水魔法で盗賊を吹き飛ばそうとするのだが、相手にも魔法使いがいたらしく、しかも私よりも高度の魔法が使えるようで、魔法を相殺されるどころか私が吹っ飛ばされてしまう。
「た、タイチ……さん……カハッ!!」
私はテントに向かって手を伸ばしたのだが、盗賊は私の背中を踏み付ける。そして残りの仲間がテントの中に入っていく。
「おい、男が寝ているぞ!」
そう言って盗賊はタイチさんの顔面を蹴りつけた。悔しい。手も足も出せずタイチさんを……。
「イテッ……だ、誰だ……お前達は……あ〜……頭が痛ぇ……」
★★★★★★
いきなり頭を蹴っ飛ばされたらしく俺は目を覚ます。何が起きているのかさっぱり分からないが、目の前で俺の大事な天使様が足蹴にされているし、俺の大事な奴隷が首筋を舐められたりしている。そして、俺の大事な娘のようなアズロットが服を脱がされ、胸を悪戯されているではないか……。万死に値する行為である。俺ですら触っていないのに!
因みに俺は寝起きがとても良い方だ。けれどね……起こされるのが大っ嫌いなのだ! しかも初めて出来た彼女達を目の前で乱暴行為をされているとあっては、殺す以外のことが考えられるのか……否! 殺す!
★★★★★★
ユラリとタイチさんが起き上がる。その目は病気のため多少虚ろに見えるのだが……何だか雰囲気がおかしい。
タイチさんは手を前に伸ばし、ニタァ……っと笑う。物凄く怖い。
「な、何だこの野郎は……き、気持ちわりぃ……」
「死ね……ゴミ……」
そう呟いた瞬間、パンッ! と、乾いた音が鳴り響く。タイチさんの手には銃が有り、盗賊は膝から崩れるように一人倒れる。
そして次々とタイチさんは銃のレバーを引いて、盗賊共を殲滅してしまった。
呆気に取られる私とリタさん。本当に一瞬の出来事であった。
「大丈夫か、カベルネ……何で銃を使わなかった……。危険だったらと渡しただろ? リタ、気持ち悪い思いをさせて悪かった……。他にも何もされてないか? ……アズロットは服を破られただけで、他は無事そうだな……三人とも、遅れてすまない。俺がしっかりしてりゃ……こんな怖いことは起きなかったのに……」
自分を責めるタイチさんだが、私達三人にとっては英雄や勇者とかそういったレベルの人では無い。それを超越した存在にしか感じられなかったのだった。




