71話 見た目で判断はしてはいけない
ようやく本題に入るリタ。ここまでに至るのに随分と話がずれたものだと俺は思うが、まさか――ハーレムになるとは思ってもいなかった。ハーレムと言ってもまだ二人……それでもこんなに可愛い二人に愛されるというのは悪い気はしない。むしろ今すぐ死んでも……いや、まだ一回もしたことないのでそれは嫌だ。
さて、本題に戻そう……。
「で、本題に戻ってくれるか?」
「ほ、本題……本題って何でしたっけ?」
リタが自分が話そうとしたことを完全に忘れており、俺は呆れてしまう。
「話が無いなら別に構わないけどね……アッサラートの話をしようとしてたんだろ? 自分の事を話すと言っていただろ?」
「あ、そうでした……ですが、またの機会にさせて頂きます……今はこの幸せを噛み締めたいので……」
「なら構わないけどね」
そう言って俺達は眠りに就くのだが、翌日……俺が目を覚ますと隣にはアズロットが眠っていたのだった。
「あ、アズロット!! な、何してんだよ! こんなところで!」
「あ、タイチ……おはよう。タイチは暖かくて気持ち良いな。私はタイチと一緒に寝るぞ」
「な、何を言っているんだよ……」
すると俺の部屋の扉が思いっきり開かれる。
「タイチさん! アズロットがいませ……ん? え? ……アズロット? 何でタイチさんの部屋に?」
「タイチの傍で寝たかった! それだけだ」
呆気にとられる俺達。言葉が出て来ず、アズロットを見つめる事しかできなかった。
この騒ぎに駆け付けたリタ。俺達の状況を見て、呆れた顔をする。もう好きにしてくれと言った状態であった。
俺を除く三人で話し合いが行われる事となる。カベルネから怖い顔で部屋から出るなと命令される俺。確かに俺はカベルネの恋人だが、雇い主なはず。リタに至ってもそうだ。リタは奴隷で俺のが飼い主……しかしリタも怖い目で俺を部屋に押し込んだ。俺っていったい何だろうか……そう考えながら俺は漫画の本を読みながら待つことにするのだった。
一時間が経過するが全く呼びに来ることは無い。一体何を話し合っているのか……。全く呼ばれることが無いので俺は覗いてみる事にする。すると、カベルネが珍しくテーブルを強く叩き何かを主張しているのが分かるのだが、何を言っているのか全く分からない。
女同士の争いほど怖いものはない! と思いながら俺は再びベッドで横になる。暫くすると、眠りに就いてしまったらしく、カベルネ達が俺を起こしてくれる。
だが、その顔には笑みはなく、「何呑気に寝てやがんだこの野郎」的な目で俺を見ていた。その目で俺は体中から何か嫌なものが吹き出した気がして素直に謝ることにしたが、別に悪いことは全くしていない。むしろ、被害者と言って良いのだと思われる。だが、この美少女に言えるのかと言えば、言えるはずも無く……俺はダイニングまで連行されるのであった。
「そこに座って下さい……」
カベルネの冷たい目が俺に突き刺さる。
「は、はひ……」
何故俺はここまでビビらないといけないのだろう……だが、美少女に逆らえるほどの勇気は持っていない。だって、彼女いない歴=年齢だったんだから……。そんな事を考えながら俺は椅子に座る。リタやアズロットの目も心無しか怖く感じる。俺は全く悪くないのに……だ。
俺が座ったのを確認してカベルネが椅子に座る。何処かで見たことのあるポーズ……あ、あの司令がしている手を組んで上目遣いで見るポーズに似ているのだ。あれは髭の生えたオッサンだが、こちらは美少女……怖さは断然こちらの方がある……と思う。
「タイチさん……お聞きいたしますが……」
「は、はい……」
「私の事を……どう思っているんですか……」
初め会った時はオドオドしていたカベルネが、今はこんなにも堂々としており、しかもとてつもないオーラのような物を身に纏っているように感じる……。
「あ、あの……そ、その……」
「好きか嫌いかハッキリ言ってください!」
バシンッ!! と、テーブルを強く叩き、俺を威嚇する。こんな子に育てた覚えはないが、この旅でこの子はこんなにも強くなったんだと思う。リード……お前にはこの子を守る事はできないよ……逆に守られてしまうのじゃないかな……。アハ……アハハハ……。なんて笑える状況ではなく、カベルネの目はマジである。冗談でも言おうなら、俺は丸焦げにされてしまうのではないだろうか……。そんな雰囲気が漂うし、嫌いといった瞬間、俺は溺れ殺されるのではないかと想像してしまう。
「どっちなんですか! 私とのキスは、嘘だったんですか!!」
数回テーブルをバシンッ! バシンッ! と叩き、俺を怯えさせる。小学校の時、学級会で悪い事をしたわけではないのに女子に吊し上げられた過去を思い出してしまう。あれは前の席に座っていた田中が清水さんの上履きを隠し、何故か俺がやった事になって吊し上げられたと言う話だった。
清水さんはクラスのマドンナ的存在で、俺も憧れを持っていたが、喋ることは出来ずにいた。だけれど、悪戯大好き田中が、悪ふざけでやったのを背丈が似ていた俺と勘違いした女子が俺を吊し上げ、冤罪が生まれた。だが……結局はイケメン吉田君が田中がやったのを見たと言って、俺の容疑が晴れた。噂では、それがきっかけで吉田君と清水さんは交際を始めたとか……。だが、吊し上げた女子は、誰一人として俺に謝罪をせず、冤罪を受けた俺は、クラスで浮くような存在になり、イケメン吉田君だけが株を上げたという事でこの事件は終幕を迎えた……のを今思い出した。
「か、カベルネ……」
「何ですか……タイチさん」
「こ、怖いんだけど……」
そう答えた瞬間、再びカベルネはテーブルを叩く。それも今までで一番強く叩く。
「怖いのは私です! 私は言いましたよ! タイチさんが好きだと! タイチさんだって言ったじゃないですか! 私のことが好きだって! だったらハッキリ言って下さい! 私の事が好きだと! 何で言えないんですか! あの言葉は嘘なんですか!」
「う、嘘では……有りません。は、初めて会った時から……か、可愛い……と……お、思ってました」
「それで?」
「す、好き……です……」
そう答えると、ダークカベルネは、いつものエンジェルスマイルを俺に見せてくれる。
「私もタイチさんが好きです♥……ほら、アズロット、言ったでしょ! タイチさんは私のことが好きなの! 貴女は三番目! 側室の側室! リタさんの次なの!」
「た、タイチは私の事が嫌いなのか!」
アズロットの言う話の糸が見えない。
「魔族とのハーフは黙ってなさいって言ってるでしょ!」
ん? ちょっと待て……今何と言った?
「か、カベルネ……い、今の言葉は……言ってはいけないと思うんだけど……」
「タ、タイチさん? 何を言っているんです? 彼女は魔族とのハーフですよ?」
「前にも言ったと思うけど……カベルネにはそういった子になって欲しくない。今のは訂正するべきだ……それは言ってはいけない言葉だ……謝るんだ、カベルネ……」
「ちょ、ちょっとタイチさん……だ、だって……」
「なら、俺はカベルネとの交際をやめる。そんなカベルネは嫌いだ! 君はそんな子じゃないだろ……。謝れ、カベルネ」
「な、何怒っているんですか……。じょ、冗談……ですよね? 別れるって……」
「本気だよ。リタ、お前はどう思っているんだ……カベルネと同じように思っているのか?」
「あ、い、いや、そ、その……」
「同じ風に思ってるならお前達は屑だな……見損なった……リタ、お前も最低だよ。ヤッパリ王族って奴は見た目などで判断するんだな……お前達は……あの準男爵と同じだよ。胸糞が悪い!」
ムカついた俺は部屋を出て行く。行く当てなど無いが、この場所にいるよりかはマシだと思う……。




