70話 むき出しにする敵意
俺達は町に到着する。アズロットは初めての町になるのか、周りをキョロキョロして楽しそうにしている。町に入るときに気が付いたのだが、アズロットは冒険者ではない。なので、先ずは冒険者ギルドへ行くことにした。
「お、おぉ! 人間が沢山いる!!」
「ここは冒険者ギルドです。ここで冒険者として登録して……あ! アズロット! 勝手に動いちゃタイチさんに迷惑がかかっちゃうでしょ!」
すっかりお姉さん役がハマっているカベルネ。楽しそうにアズロットと一緒に生活をしている。リタもそれなりに楽しそうに生活をしているが、少しだけ距離を取っているように感じられた。
「リタ、どうした? なんでアズロットと距離を置くんだ?」
「彼女は私の事を奴隷だとは理解しておりません。ですから、それが理解できた時……」
「そんな事を気にする必要は無いよ。アズロットはリタの事をお姉ちゃんだと思って接してくれてる。大丈夫だよ」
「そんな……もの……ですか?」
「リタは兄弟がいたんだろ」
「と言っても私が一番末っ子ですから……」
兄弟を思い出し、暗い顔をするリタ。この話はタブーなのかもしれないし、一度しっかりと話した方が良いかも知れない。それについては何とも言えなかった。
暫くして冒険者登録が完了したアズロットとカベルネが戻ってくる。
「と、登録が完了しました……もう! アズロットが物珍しいのか、余計な事ばかり話をするんですよ! 魔族とハーフとばれたら大変だというのに……タイチさんからも何とか言って下さい!」
困った顔をするカベルネそんな事を言いながら楽しそうにして話をする。その後、俺達は武器屋と防具屋に立ち寄り、アズロットの装備を固める事にする。リタは俺が使っていたバトルソードを装備すると言っていたが、俺のお古よりも、新しい方が良いだろうと言う事で、プラチナソードを購入する事にした。その額なんと10万ガルボ! 最近はリタも市民の金額を理解し始めているらしく、その額に驚愕していた。
「た、タイチ様……ほ、本当に宜しいのですか?」
「あぁ、リタが強くなってくれる事により俺たちの戦いは楽になる。それにリタは大事な戦力だしね。な、カベルネ」
「そうですね。最近は魔法の練習もしっかりしてますし……そろそろ簡単な魔法位なら覚えるのではないのでしょうか」
「なぁなぁ、私はどれを買って良いんだ?」
アズロットは力が無いから取り敢えずはアイアンソードを装備させるのが良いだろうと思う。まずは剣を振る事が出来なければ話にならないからだ。
「こ、これが私の武器か!」
物珍しそうにアイアンソードを掲げ、嬉しそうにしているアズロット。俺はガルボを支払って隣にある防具屋へと入って行く。防具はかなり良いものが揃っているようで、俺の防具もそろそろ限界が近いのから交換か、何かが必要かなと思う。
「青銅の鎧か……いや、そっちに有る鋼の鎧をくれる? あと、鋼の盾も。彼女にはミスリル魔導ローブを三着……その銀の髪飾りってどんな意味があるの? ただの装飾?」
「この髪飾りは風魔法の加護により頭を保護してくれる効果があるんだよ。皮の兜よりも守備力は高いし、弓矢などは風の加護により頭に当たらなくなる代物だ。じゃなきゃこの値段で販売なんてしないよ」
「じゃあそれを三つくれる? ほら、こんだけ買うんだからさ、ちょっとは安くしてよ」
「分かってるよ……ちょっと待ってな」
そう言って店主は奥へと荷物を取りに行く。ミスリル魔導ローブを三着持ってきて俺はガルボを支払う。正直言って手に入れたガルボは残り一万ガルボしかなく、相変わらずの貧乏旅行をせざるを得ない。だが装備を固める事によって、彼女らが無事ならそれはそれでいい。命あっての冒険だから……早く自分の家が欲しい……。
店を出て俺達は宿屋へと向かう。アズロットには初めての宿屋。カベルネは宿屋に拘りたいと珍しく我が儘を言っていたので、風呂が付いている宿屋を探したのだが……この町ではそんな宿屋は無いらしく、カベルネは残念そうな表情をしていた。まぁ……ないなら仕方ないよね。
★★★★★★
最近、宿屋に泊まるときはタイチさんと一緒に寝ることが多くなったというか、交際してからは同じベッドで眠っているのだが……アズロットを一人で寝かせるのはどうかと言う事で私達は別々の部屋で寝る事になる。タイチさんは本当に紳士だ。男は皆オオカミと聞くが、タイチさんは優しく私を包み込むように眠り、手を出そうとはしない。そして、朝起きたら必ず優しいキスをしてくれるの……キャ♥
★★★★★★
カベルネと食事を作っていると、リタも手伝い始めてきた。最近は三人で作ることが多くなってきて、何だか楽しい生活になってきた。駄犬こと、メルトがいた時とは大違いである。アズロットは後ろで俺達の行動を見守っているというか、勉強している。人間社会に早く溶け込もうとしている勤勉者。
二人とも俺の料理本が読めるので、それを見ながら新しい料理などに挑戦していく。何だかお嫁さんが二人できた気分で少し幸せ。二人とも美人だし、何よりも優しい。姫と言うと、面倒くさい奴が多いというのが俺の中の常識だ。マリーアントワネットとか、そういったのを想像してしまうからだ。後はラノベである我が儘姫様など……。だが、リタはそういう風な姫と異なる。アズロットが人間社会に溶け込もうとしているというのなら、リタは庶民の生活に溶け込むというか、この世界で生きていくのだという強い意志が見られる。
食事を終わらせ、俺達はダイニングでゆっくりしていると、アズロットがウツラウツラと船を漕ぎ始める。カベルネがアズロットを連れて部屋へと行くと、俺とリタの二人っきりになった。
「あと何か所か町を越えたら城が見えてくるという話ですね……そこに飛空艇……悪魔の兵器があるんですよね」
「悪魔の兵器というのはどうかと思うが……そうだね。多分その城で管理しているんだと思う」
リタは何かを考えている顔をしており、俺は黙ってコーヒーを口にする。
「わ、私の話をしても……良いですか……」
「話?」
「さ、差し出がましいとは思っております……奴隷の分際でご主人様に対する態度ではないとも……」
そんなことは無い。俺は奴隷と言う物を買った事が無いし、日本にはそういった法律まである。だから、ここまで順応に聞いてくれるだけでもありがたいし、俺はリタに対してこれ以上の命令をするつもりは無い。
「リタ、何かを勘違いしているとおもうけど、俺はお前のことが好きだ。恋愛感情とかそういったものではない。一人の女性として尊敬していると意味でとらえてくれ。それだけお前は凄い人だと思う。だから何でも話してくれないか」
「あ、ありがとうございます……」
そう言うと、カベルネが戻って椅子に座る。俺達の雰囲気が何かおかしい事に気が付いたカベルネ。だが、それだけで、何も聞こうとはせず、甘々のコーヒーを飲む。
「カベルネがいると……話がし難い? できたら俺は一緒に聞いてもらいたいんだけど……。俺の恋人だし、隠し事はしたくない」
「こ、恋人!!」
俺の言葉にリタはテーブルを叩いて立ち上がる。俺達は少し仰け反り驚きを現した。
「ど、どういう事ですか!! カベルネ様! わ、私だってタイチ様が!! ……あ……」
その言葉にカベルネは敵意を剥き出しにする。
「リタさん、それだけは譲れません!! タイチさんは私の恩人だけでは無く、私の大事な恋人です! す、既に……き、キスだってしたんです!」
「き、キス!! は、破廉恥な!! ご、ご主人様! 破廉恥です!!」
な、何が起きているのだろうか……俺は何も言えず顔を引き攣らせるだけで、二人は睨み合う。生まれて初めてモテ期という奴がやって来たのだろうか……学生の頃は全くモテず、バレンタインチョコも貰った事が無い。しかもだ……呪いのラブレターが下駄箱の中に入っていたこともある。俺は学校でいじめにでもあっているのではないかと思うくらい女運が無かった。高校生になった時、モテようと必死に努力をしようとしたが、工業高校で男子校。部活はサッカー部に入って女にもてるため必死に頑張ったり、友達に紹介してもらったりしてもらうが、タイプでは無いと言われる始末……しかし、今はどうだ! 俺を取り合って二人の美少女が争いをしているではないか! 俺は泣きそうになる位嬉しいが、この後は恐怖しか待っていないだろうと予想したのだった。
二人の話し合いは平行線である。しかし、俺は既にカベルネとの交際を認めている。というか、お付き合いさせて頂いている。幸せな事に、カベルネは俺にベタ惚れである。人生で一度しかないこのチャンスは逃がしてはいけない!! しかし、この二人が出した答えは、ありえない答えを出しやがった。
「分かりました。私もリタさんの事が好きです。こんな事で喧嘩なんかしたくありませんし、しかもリタさんはタイチさんの奴隷……これは死ぬまで別れることのできない契約です。本妻は私と言う事で、リタさんは側室……それでいいですね! リタさんは奴隷なんですから!!」
カベルネは奴隷という言葉を強調して言う。この言葉がリタには重くのしかかった様で、頷くしかなかった。だが、俺には一つだけ疑問に思う事があった。
「ひ、一つ質問なんだが……」
「何か?」
カベルネの眼が怖い。
「ど、奴隷も……け、結婚できるの?」
「もちろんです。結婚できない男は奴隷を購入して自分の嫁にしている男が多いです。準男爵みたいなキモ豚野郎はそういう奴と結婚する人が多いですね。奴隷は逆らう事が出来ないので、嫌いな奴でも結婚を承諾しないといけませんので……」
「リ、リタは俺の事を……」
「す、好いております……申し訳ありません……」
「べ、別に謝る事では無いけど……むしろ美少女二人に好かれているなんて……俺は嬉しいというか、幸せ者だと思う……」
二人は顔を赤くして「美少女だなんて……」と、頬を押さえながら悶えていた。
まぁ、なんというか……話がずれてしまったが、上手く纏まって良かったと思う俺であった……。




