67話 生きた心地がしない
鎖につながれていた少女。と、言っても俺達と年齢は変わらないと思われるが……どうしてもこの子が人間とは思えず全てを疑ってしまう気分になる。
「き、君は……」
「ふん……。また私の体を弄びに来たのか……人間……」
「そ、その言い方は……まさか……ま、魔族……か?」
「よくも私を捉えよって……糞が! また私の体を弄り、辱めを受けさせるつもりか!!」
あのキモ豚は魔族の少女を捉えた事により、この子を陵辱していたらしい。なんて酷い事をするんだ……。
俺は鎖を解き、彼女を解放する。すると、魔族の少女は距離を取り俺を睨みつける。
「わ、私をまた凌辱するつもりか! 人間! 私はお前達に屈したりはしないからな!!」
「そ、そんな事はしないよ……さぁ……君は君のいた場所に帰ると良い……」
「た、タイチさん! その人は魔族なんですよ!」
カベルネとリタは驚いた顔して俺に言うが、別にこの子が何か悪い事をしている訳では無い。この子はキモ豚に捉えられ、凌辱されていたのだ。嫌な思いをしていたのだ。ただそれだけ……。
「良いんだ……。わ、悪い子じゃなさそうだし……この屋敷は今から火を付ける。さぁ、早くこの屋敷から出て行くんだ」
「後悔しても知らんぞ……人間!!」
「後悔なら……こんな事に気が付かない時点でしている……早くどっか行ってくれないか……」
俺は火薬を撒き散らして火を付ける準備をする。カベルネとリタは他の少女たちを屋敷から出し、眠っている人達も外に出してくれた。
魔族の少女は小さい声で「感謝する……」と、一言言って俺達の前から姿を消し、そして俺は屋敷に火を付け準男爵は火事で死んだことにして全てを終わらせるのだった。
捕まっていた少女たちはギルドに預ける。俺達は事情は話す事はしなかったが、魔物か何かに捕まって凌辱されたのだと言う事になり保護された。少女たちは小さい声で俺達にお礼を言うが、お礼を言われる筋合いはない。やったのは人間なのだから。
その日も宿屋に泊まり、様子を見る。だがその日から魔物の襲撃は無くなった。魔物はあの少女を救い出すために町に襲撃をかけたのではないだろうかと思われる。いや、魔族か……。
数日して町が復興に向けて動き出したことを確認した俺達。もうこの町に留まる必要は無いと思い、町を後にしようとすると、あの時助けた魔族の少女が俺達の前に現れた。
「き、君は……あの時の……」
「よう……人間……」
後ろには何人かの魔族らしきものがいて、俺は唾を飲み込む。俺が倒したときの魔族は全て不意打ちに近い形で倒した。だが、今回はそう言ったわけではない……。カベルネもそれを理解しているのか、緊張した表情で魔族を睨みつける。かなり成長をしたものだ。リタに至っては、恐怖で腰が引けている。
「貴様に話があってやって来た……」
後ろに控えている魔族の男が俺に話しかける。
「は、話?」
「まず初めに私達の仲間について救ってくれたお前に礼を言おう……」
「れ、礼を言われる必要は無い……。た、助けたとは言えないんだから……」
「いや、あのまま人間に捕まっていたらこいつはどうなっていたか分からんからな……」
何を言いたいのか分からないため、俺は唾を飲み込む。意図が読み取れない……。
「そこでだ……私はお前に興味が湧いたのだよ……」
な、何を言っているのだ? こいつは……。
「人間のくせして魔族を救う……。不思議な人間だ。それに、何故か後悔をしている。この子に対してちゃんと救う事をできなかった事に対して……」
「だ、だったらどうしたというんだよ……」
「面白い話をしてやろう……この子は人間と魔族のハーフだ……」
は、ハーフ? 人間と魔族の……。
「た、タイチさん……は、ハーフって……半分は人間の血が流れているという……」
状況が呑み込めないのか、カベルネも俺に確認してくる。ハーフと言うならばそう言う事なのだろう。
「我々魔族でも彼女に対してどう扱って良いのか分からない……。正直この子は素質が無いのだ……処分をしようとしているのだが……そこでだ……」
どういう……意味だ?
「この子はどういう訳か、貴様に……興味があるそうだ。この子をお前と一緒に連れて行ってはくれないか……」
「あ、あんた……な、何を言っているのか分かっているのか!」
「では……取り引きをしてやろう……お前達の命と、町の人間の命を救ってやる代わりに……こいつを連れて行け」
気が狂っているのか……こいつ。
「お、お前は……な、何が言いたいんだよ……」
「私は何人かのハーフ魔族を手元に飼っている……そこで、人間にハーフ魔族を預けたらどうなるかという実験をしてみたのだが……どうやらただの変態に預けられてしまったようでな……仕方なく取り返そうとしたわけなのだ……が、貴様が随分と不思議な力を使うものでな……私、直々に取り戻そうか考えていたところなのだ」
俺は悟る。この魔族には勝てない。今の時点で勝つことは出来ない……実力の違いがはっきりしている……。
「そ、その子の意志はどうなんだよ……お。俺なんかと一緒に旅なんかしたって面白くないし、俺は魔族を倒したりするぞ……」
「いやいや……言葉が足りなかった。こいつは用済みなのだよ……いわば処分しようとしていたという所だが……。魔族が人間に凌辱されていたとなると、我々の恥だ。取り返すというより処分をしようとしたのだ。だが、こいつは私に命乞いをする……。それならばお前にくれてやろうと思ってな……」
「そ、その子はお前の前に立ちはだかるかもしれないぞ……い、良いのか……」
「ふん、その時は全力で相手をしてやる……人間、驕れるなよ? お前達人間は、我々魔族に生かされていると言う事を……」
「そ、そうかもね……」
「おや、普通の人間ならば、文句の一つを言うはずなのだが……」
「俺は勇者でも英雄でも何でもない、ただの冒険者さ……。お前から言えば、力なき人間。そんな奴が何を言っても無駄だろ……」
「そこまで頭が回る奴が人間に居るのは珍しいな……面白い。名を聞いておこう……」
「た、タイチ……」
「タイチか……。私はパトリコットリベルト……またいつか会う日を楽しみにしているよ……タイチ」
「俺はあんたとは二度と会いたいとは思わないけどね……」
パトリコットリベルトはニヤリと笑って少女を前に押し出す。
「こいつに名前はない……お前が好きに名前を付けるが良い……それではまた会えることを楽しみにしているよ……タイチ‥‥」
そう言ってパトリコットリベルト達は姿を消す。俺は全身の力が抜けていく感じがして、生きた心地がしなかった。それはリタもカベルネもそうであったようで、息を切らしてしゃがみ込んでしまうのだった。
「人間……いや、タイチ……今日から……よ、宜しく頼む……」
そう言って少女はポロポロ涙を流し、その場に蹲ってしまうのだった。




