66話 正義の鉄槌なんてこの世に存在しない
準男爵の屋敷を出ると、リタが呆れた声を出す。
「タ、タイチ様……本当に宜しいのですか……」
「リタ、何度も言っているけど、俺は勇者でも英雄でもない、ただの冒険者。気分、気のままに旅して好きな場所に住みたいだけ……そう何度も言っているでしょ?」
「そ、そうですけど……だけど、その力は……」
「俺はこの力を正義のために使えとは言われていない。好きに使ったらいいと、言われているんだ……だから俺は好きに使ってるんだけどね。リタは何か勘違いしている。さっきも言ったけど、俺は正義の味方じゃない……ただの人間だよ」
リタは俯き悲しい顔をする。これは仕方がない事だ。この力があれば世界を救う事は可能かもしれない。しかも、俺にはステータスを弄る能力まで備わっている。勘違いするのは当たり前かもしれない。
「さて……宿屋に行って、明日になったらもう一回探しに行こう。俺はまだ、復讐をやり遂げていない」
そういった瞬間、リタは顔を上げて嬉しそうに頷いたのだった。
その夜も魔物は懲りずにやって来た。そして俺は再び戦車で対応してやり轢き殺し、44口径の餌食にしてやった。俺の睡眠を邪魔する奴は何人たりとも許さない!! 近寄る奴はカベルネの重機関銃で射殺し、俺は大量のコアを稼ぐことに成功をする。だが、こうも連日連夜襲い掛かってくるのは何かおかしい。もしかしたらキモ豚の準男爵は何か知っているのかも知れない。
俺は夜中だというのに準男爵の家へと向かう。門前払いされるところを、俺は優しく門番をぶっ飛ばし、夜なのでゆっくりと眠ってもらう事にした。それ以外の人たちはどこかの名探偵が使っている時計型麻酔銃を使用して眠ってもらう事にする。手際の良さに呆気にとられるリタとカベルネ。
奥に進んでもあのキモ豚が見つからない。絶対におかしい。気配察知には人がいることが確認されているのに、何故だか発見する事が出来ないのである。
「カベルネ、隈なく探してくれないか……あ、これを持っていってくれ。リタも……なんかこの屋敷はおかしい……」
そう言ってベレッタを二人に渡す。三人で屋敷のありとあらゆる場所を探すと、俺達は一階の厨房から地下室へ向かう隠し通路を発見する。
「ここにキモ豚野郎がいるのか……」
「き、キモ豚って……準男爵ですよ……一応」
「何をやっているか分からない奴だ。そんな奴はキモ豚で十分でしょ?」
全く……と、言った表情をするリタだが、地下階段の先で何をしているのか……それを考えると、魔物が連日連夜襲い掛かってくる理由があるような気がしてならない。そして俺達はその階段を下りていく。
そして、階段を降りきると、一つの鉄扉前に俺達はやって来る。
「さて……準男爵は夜な夜な何をお戯れになっているんだろね……リタ、カベルネ……」
『チャキ……』と、銃をしっかり握り、俺は扉を開けようとすると、鍵が掛かっていた。
「な、生意気に……」
持っている銃をデザートイーグルに切り替え、数発ノブにぶち込み鍵を破壊する。そして扉を蹴って開けると、キモ豚準男爵はやってくれていた……何人かの女性を鎖につなぎ、それを陵辱していたのだった。その子達が奴隷なのかと、腕の辺りにあると思われる紋章を確認するのだが、誰もそれの奴隷刻印をしていない。この子達はただの町娘なのであり、ギルドの看板に張り出されている行方不明者だという事が分かった。
「お、おい……準男爵……人としてやって良い事と悪い事があるだろ……」
「な、なんだお前達は!!」
「なんだお前達は! じゃねーよ……。そいつ等はどうしてこんな事をされているのかって聞いているんだよ……答えろよ。キモ豚準男爵殿」
「お、俺はこの町で一番偉いんだぞ! お、俺に手を出したらし、城の兵に捕まるんだぞ!」
「知ってる事を全部話せって言ってんだよ! この豚野郎!!」
そう言って俺は準男爵に蹴りを入れる。
「プギィ!!」
「もういいよ、お前……死んじゃえよ……。人として、あるべき姿に戻っちまえよ……」
「ちょ、ちょっと待て! お、お前が欲しいのは何だ! ……が、ガルボだろ! ガルボをやるから助けてく……!」
「チッ……屑が……」
乾いた音が数発地下室に鳴り響く。カベルネとリタは驚いた顔をして俺を見ていた。
「た、タイチさん……あ、相手は爵位持ちですよ……なんてことを……」
「だから? 人として間違った事をしている奴が死んだだけだろ? 準男爵殿は魔物によって殺されたんだ……自分を巣くっていた魔物にね……。大丈夫か……なんて言っても大丈夫じゃないよね……ごめんね……助けるのが遅くなって……」
俺は鎖で繋がられていた町娘たちを解放する。娘たちはキモ豚準男爵に乱暴されており、心の底から傷付いているのだが、……俺にはそれを癒やす魔法や能力なんて持っていなかった。こういう時程、俺は無力で役に立たない人間なのだと、ヒーローにはなれないと、改めて自分の無力さを嘆く事しかできない。
キモ豚準男爵に捉えられていた子は全部で10人。年齢は皆10代半ば。マジで反吐が出る。
「カベルネ……やっぱり俺は英雄にも勇者にもなれないよ……。そんな柄じゃない。こんな子達を助けることもできないんだもん……俺は無力だよ」
「そ、そんな事ありませんよ……タイチさんが来なければ、他に人が増えていたかも知れないじゃないですか……」
助けられた女の子たちはただ泣く事しかできず、俺は洗浄魔法【ウラア】を全員に唱え、何か羽織るものを召喚して全員に渡す。皆は俺にお礼を言うが、お礼を言われるようなことは一つもしていない。ただ、事が終わってから……助けたというだけの話だった。それでは……遅いんだよ。君達は心に傷を負ってしまったのだ……俺はその傷を治す事が出来ない……俺はそれが悔しくて、彼女たちのお礼に対して何も答える事が出来なかった。
しかし、部屋にはまだ奥へと続く扉が有り、俺はその扉を開ける。すると、一人の少女が鎖に繋がられており、魔物が躍起になって連日連夜襲い掛かってきていた理由が、全てこの子が原因だというのをその一瞬だけで悟ってしまうのだった。




