62話 何度も言わせないで下さい
町で海がある方角を聞くのだが、帰ってくる言葉は「知らない」の一言だった。正直役に立たない街人達だ。
ギルドでも話を聞くのだが、それでも分からないという。海という言葉は聞いた事があるという人がいるのだが、それでも分からないらしい。
役に立たない。
「取り敢えず町を出て、他の町で話を聞くしかないだろう」
「そ、そうですね。大丈夫ですよ! この辺は多分大陸の真ん中で、水溜まりとは余程遠い場所なんじゃないんですか……きっとそうですよ!!」
俺を元気づけてくれるかのように力を込めて言ってくれるカベルネ。優しい子だな。
「ご主人様、この方が……飛空艇について話を知っているそうです」
リタが酔っ払いに絡まれながら話を聞いてくれたらしく、俺とカベルネはリタの傍へと寄る。
「この町を出て幾つかさきに大きい町があるんだが……その場所に飛空艇を配置している城があるんだ。そこで海という奴について情報が入るかもしれないぜ」
これは良い情報を聞いた。俺達はお礼を言って離れようとすると、酔っ払いはリタのお尻を撫でたらしく、リタは小さく悲鳴を上げるのだった。
「私のお尻をあんな下賤の者に触られてしまうなんて……」
「ですが、リタさんは奴隷ですよね……奴隷になった時、身体検査などされなかったんですか?」
カベルネの言葉を聞いて、リタは目線を逸らす。と言う事は……多分、身体検査を受けたのだろう。
★★★★★★
思い出すだけでも悍ましい。そして悔しい。私の国はキシリトルに負け、私達は捉えられた。そして父と母は処刑されたと聞いた。私達は全員奴隷として売られたのだが一部の人間が血を根絶やしにしろと言って来たらしく、私以外の姉弟は皆殺されたのだと聞く。私は奴隷商のペルマンの元へと連れていかれることとなるが、ペルマンと我が国は付き合いがあり、私もペルマンの事を知っていた。だからペルマンは私を生かすために冒険者の奴隷として、優しき心を持つ人に預けるというつもりで私を今のご主人様に渡してくれた。
ペルマンは無事だろうか……いや、彼の事だから上手くやり遂げているに違いない。ペルマン……ありがとう。
しかし奴隷に成るときは裸で品定めされ、値段をつけられるのだが……お尻の穴や私の大事なところまで見られてしまうという屈辱……二度と思い出したくはない。
★★★★★★
リタが物思いにふけた顔をしている。なんかを思い出しているのだろう。飛空艇はこの世界では当たり前にある乗り物だろうか。いや、リタが飛空艇と聞いてもピンと来ていないとなると、それが何なのか、さっぱり分かっていないはず。教えられていないというのだろうか。
「リ、リタ……お前、飛空艇って何なのか分かっているのか?」
「え?」
「飛空艇って、お前の国を襲った乗り物だぞ……多分」
その言葉を聞いた瞬間、リタは顔を青くする。
「う、嘘……ですよね」
「飛空艇は空飛ぶ乗り物……お前はそれに乗れるのか?」
「そ、空飛ぶ……あ、悪魔……が」
「別の使い方をされているから悪魔とは言わないだろうし、俺の力は知っている通りだと思うけど? あんなものに邪魔されるほど、俺の能力は弱いわけじゃないけどな」
「で、ですが……あ、あれは……」
「タイチさん、今日は一泊していくんですよね? 明日から旅立つんですよね?」
割り込んでくるようにカベルネが俺の腕に掴まっておねだりをするかのような目をしてくる。君にはリード君がいるじゃないですか……本気にしてしまいますよ? ですが、もう少しだけ胸が欲しいですね。
「そ、そうだね……一泊して行こうかな……焦って旅立つ必要は無いし、リタの状態も気がかりだ」
リタは顔を青くして自分達がやられた事を思い出しているのだろう。多分これからの戦争が変わるやり方をやられたのだと思うが、俺には化学兵器が味方に付いている。そう言えばメルトのバカは元気にやっているだろうか。あれだけの美貌を持っているし、それに一人で魔物を倒せるだけの力は有るのだから生活も仲間も手に入るだろう。俺達に付いて来てもあいつのためにならない。カベルネは……なぜかブルクスの町には二度と戻る気が無いと俺に言うくらいだから……何かあるのかも知れない。
俺達は宿屋に行き、部屋を借りると、カベルネが顔を真っ赤にして俺の後についてくる。
「どうした? カベルネ……お前の部屋はあっちだぞ?」
「タイチさんは私の言う事を一つ聞いてくれると言ってくれました。あれは嘘ですか?」
自分の髪を触りながらカベルネが言う。リタを追う輩から逃げるために、時間稼ぎでカベルネの髪を切ったとき言った言葉だ。
「お、覚えているけど……」
「それを行使しに来ました……」
「こ、行使? ……で、お願いとは……何なの?」
「私を置いて行かないで下さい」
「え?」
「ず、ずっとお傍に……一緒に居たいんです! だから……こ、これ以上言わせるんですか……意地悪……」
顔を真っ赤にして涙ぐむカベルネ。恥ずかしくて死にそうだと言わんばかりの顔をしている。
「だ、だけどカベルネには……リ、リードが……」
「リードとは終わった話です……今は……た、タイチさんしか見れません……。わ、私をずっと一緒に連れて行って下さい! お願いします!!」
まさかの愛の告白がやって来た。生まれて18年……女の子に愛の告白をされるなんて夢にも思わなかった出来事である。もちろんカベルネみたいな子が俺の彼女になるのは問題ない。というかむしろ、誇らしい。
「お、俺……俺なんかで良いの? だ、だって俺は異世界人だよ?」
「こ、これ以上言わせないで下さい……す、好きなんです……た、タイチさんが……」
「あ……ありがとう……お、俺も……か、カベルネが……す、好きだよ……」
「た、タイチさん!!」
カベルネが抱き着いてきた。これは遂に俺にも春がやって来たと言う訳だ!! 夢では無いと言う事は、自分の顔を抓って確かめているから問題ない。
「か、カベルネ……」
「た、タイチさん……」
そして俺は生まれて初めてキスと言うものしたのだった。唇は柔らかく、カベルネは物凄く可愛く俺は天にも昇る気持ちだった。




