60話 カベルネの心情…暴走
宿屋に戻り、食事をしたあと私は部屋に戻る。リタさんはタイチさんの奴隷だからとそばにおり、私がそばにいる隙間が全く無いように感じてしまう。タイチさんの隣は私の定位置なのに……。
そんなことを思いながらベッドで横になっていると、扉がノックされる。
「寝てる?」
タイチさんの声だ。
「は、はい! お、起きてます!」
だらしない格好をしていたので直ぐに整え、タイチさんを迎え入れる。タイチさんは、宿屋で寝るときに寝間着というものを用意してくれており、それは本当に可愛く私は気に入って、寝るときは必ず着用していたのだが、今はだらしなくはだけたりしていた。
「わ、悪いね……寝てたでしょ?」
「い、いえ……まだ寝るには早い時間なので……リ、リタさんは?」
私は馬鹿だ。何故リタさんの名前など出してしまったのだろう……。
「さぁ? 部屋で休んでると思うよ。そ、それより……」
「あ、す、すいません……ど、どうぞ中へ……」
ど、どうしたんだろう。普段は部屋になんか来ないのに……。私はベッドに腰掛けると、タイチさんは椅子に座ってソワソワしていた。こんなタイチさんは少し珍しい。
「あ、あのさ……」
「は、はい!」
「なんか……今日は元気がなかったように見えたから……大丈夫かなって……」
「だ、大丈夫ですよ! 私は平気です! も、もしかして気にしてくれていたんですか……」
「そ、そりゃ……だ、大事な……ゴニョゴニョ……」
嬉しい! 大事な何と言ったのか分からないが、物凄く嬉しい! 私を大事にと言ってくれることに感動だ!
「あ、あとさ……こ、これ……店で見つけたんだけど……」
そう言ってタイチさんは袋の中から長細いケースを取り出す。
「な、なんですか……これ」
「ま、魔法の効果があるらしくてさ、確か、眠りの魔法だっけ? それに効き難くなるらしい……。い、要らないなら……別に構わないけど……」
ケースを開くと、何かお祈りをしている女性を型どったネックレスが中に入っており、私は感動して涙が出てしまった。
「い、いらないなら……」
私は思いっきり首を横に振り、喜びを表す。だが、タイチさんは困った顔して頭を掻いていた。
「お、お願いがあるんだけど……」
「グスッ……な、なんでしょうか……」
「これからもさ……俺を支えてくれないかな……」
顔を真っ赤にして太一さんが言う。私が出す答えは決まっている。
「もちろんです!!」
ホッとした顔するタイチさん。いつもは意地悪を言うようなことを言うが、常に私のことを考えてくれている。メルトさんの時だってそうだ。文句を言いながらも一人で戦えるようにして、生活ができるまで鍛え上げた。
「つ、つけても……良いですか?」
「も、もちろんだよ!」
嬉しそうにして私が付けるところを見て、タイチさんは部屋に戻っていった。私は幸せな気分でその日は眠る事ができたのだった。
★★★★★★
翌朝になり、俺達は朝食を取っていると、カベルネが幸せそうな顔をしていた。昨日のネックレスは余程効果があったと思える。確かに魔法の効果があると言っていたが、そんなことよりも天使の祈りを型どったデザインが気に入ったのである。それで我が天使様にあげようと思ったのだ。気に入ってくれて何よりであるし、なによりも似合っている。
★★★★★★
カベルネ様が何やら嬉しそうにしている。何かあったのだろうか。安そうなネックレスを触って喜んでいるように見えるという事は、我が主がカベルネ様にプレゼントをしたのだろう……と言う事は、私にも何かくれるという事だ。
いくら奴隷だと言っても私は元姫なのだ。その程度のことは当たり前に貢ぐものだろう。カベルネ様がもらったと思える安物の物よりも、きっと綺麗で美しい物に違いない。
そう思いながら我が主を見ているが、主はカベルネ様を見てニコニコしているだけであった。
それから暫くして私達はギルドへと向かう。やはり私に何もくれはしない。どういう事なのかは解らないが、恥ずかしいのだろう。私は元姫だし。
★★★★★★
俺を見る目がおかしい奴がいる。リタだ。何か子供が強請っているかのような目をしている。何を考えていやがるのか……。まぁ、放って置く事にしておこう。
ギルドで依頼を見ていると俺達の格好は結構目立つのか、それとも女性が多い(と言っても、二人だけだが……)パーティだからだろうか。リタは元姫で可愛いし、カベルネも可愛い。目立っていて当たり前かもしれない。
「めぼしい依頼は無いな……適当に魔物を探して退治する方が早いかも知れないな」
「そうですね……その方が良いかも知れませんね」
隣で依頼を見つめるカベルネ。その表情は幸せいっぱいと言った表情をしており、ネックレスをあげて良かったと思わせる顔をしていた。本当にあげて良かった。
ギルドを出て、町の外へ出る。森の方へ向かうと、ライオンタイガーという名前の魔物が現れる。
「リタ、アレを一人でやれ」
「え? じょ、冗談ですよね? ご主人様……」
「本気だ。殺れ」
「だ、だって、あれ……滅茶苦茶早い奴じゃないですか!」
「大丈夫だ、いざとなったら回復魔法で治してやるから……カベルネが」
コクリと頷くカベルネ。俺の言う事に従順に従ってくれる。流石信頼度99になっただけは有るなと俺は思った。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい! 私は元姫ですよ! アッサラート王国の姫ですよ!」
「今は俺の奴隷だろ? 違うか? カベルネ」
「その通りです。今はタイチさんの所有物です。奴隷は人という概念で扱われません」
カベルネの言葉に驚いた顔をするリタ。あの優しいカベルネの口から出てくる言葉とは思えない。だが、リタにとってカベルネは小間使いの一人に感じていたのかも知れない。
「リタ……やって来い。大丈夫だ。俺達がフォローしてやるから……な? カベルネ」
だがカベルネは頷きもしない。普段だったら頷いたりするのだが、なぜか今回に限り全く頷きはしなかった。どうしたのだろう。
「ほら、リタさん……早く殺ってきてください。怪我したら……治してあげますから」
★★★★★★
もし、死んだら……また私とタイチさんの二人っきり……エヘヘ……二人っきり……。別にリタさんが死んでも構わないですよ……むしろ、タイチさんと私のために死んでくれるとありがたいです……ハッ!! わ、私は何を考えているのだろう! だ、ダメです……確かにタイチさんと二人は幸せ……エヘヘ……別に死んでくれても……。
★★★★★★
何故だかカベルネ様の様子が可笑しい。普段であればカベルネ様は優しい。私の使用人レベルで優しいのに今回は全く優しさなどは感じられない。というか、目が怖い。な、何を考えているのだろうか……。
「リタ……早く殺って来いよ。逃げちゃうだろ? あいつ一匹でも500ガルボもするんだぞ」
「た、たったそのくらいの額で文句を言わないで下さいよ……」
「お前は王族だったかもしれないけど、俺は一般市民。500ガルボはかなりの額なんだよ。それを忘れるな。あと、お前は奴隷なんだから俺の言う事を聞け」
ご主人様が仰ると、カベルネ様も頷く。か、カベルネ様……目が怖い。
仕方なく私は剣を抜いてライオンタイガーの前に立ちはだかる。ライオンタイガーは私に対して威嚇するように唸り声を上げる。怖い。は、初めて一人で戦いをするのだからそれもそのはずだ……。
『グルルルゥ……』
鋭い牙に鋭い爪が特徴的な魔物。魔法は唱えて来ないと言う事は既に把握済み。私は意を決してライトソードで襲い掛かるが、相手の動きが速く簡単に躱される。カベルネ様達はいとも簡単に倒すのにどうして私は出来ないのだろう。などと考えている暇はない。ライオンタイガーは鋭い爪で私を切り裂こうとするが、購入したばかりのローブを傷つけることは出来ないようで、全くダメージらしきダメージは無いが、殴られたような痛みだけは残る。
「クッ!! は、早い!」
「落ち着いて相手の行動を見て下さい!」
カベルネ様が声をかけてくれる。先ほどの怖い目は嘘のように優しい目になっており、私を安心させてくれる。
「は、はい! カベルネ様!」
★★★★★★
「カベルネ。多分あのままだったら負けちゃうだろうから、射撃の準備をして動きを止めてやった方が良いだろうね」
「嫌です」
「え?」
「嫌と言ったんです……あのまま死んでくれたら……私はタイチ様と二人で……エへ……エヘヘ……」
「か、カベルネ……?」
「ハッ!! わ、私は何て言う事を……!! わ、分かりました……足を狙い撃てば……良いのですよね……リタさんの……」
「ば、馬鹿! ライオンタイガーの足だ! リタの足をやってどうするんだ!」
「じょ、冗談ですよ(チッ……)」
正直言って、カベルネの発言は冗談とは思えない。一体この子はどうしてしまったのだろう……一度ヒヤリングをしなければならない。
カベルネはライオンタイガーの前足と、後ろ脚に一発ずつ銃弾をぶち込み動きを止めると、チャンスと見たリタは一気に勝負をかける。
「てゃーー!!」
ライオンタイガーの首元に剣を刺し、息の根を止める。そして天を見つめ大きく息を吐くのだった。




