59話 心の痛みはチクチクと
町に到着して私達は宿屋を探すことにする。先ずは体を休める場所を探すことにするらしい。町はかなり広く、都会的な空気が漂っている。何故なのかは分からないのだが…。
「ここは随分と…他の町と雰囲気が異なる町だな…」
タイチさんも同じ事を思っていたらしい。
「多分、高い爵位を持っている人がいるんじゃないでしょうか」
「爵位?」
「はい、小さい村や町には騎士や勲士や準男爵等……それなりに大きくなると、男爵や伯爵等が町を治めたりしていますから……」
「へ〜。そうなんだ……」
しかもリタさんは物知りである。私の知らない事を沢山知っているので私の出番がなくなってしまう。
「まぁ、俺等には関係ないから宿屋を探し、そこで休もうぜ」
「はい!」
私達は元気よく返事をして宿屋を探し、またお風呂なしの宿屋に泊まることになったのだった。お風呂は良い物だが……それは贅沢品なのだろう。メルトさんも贅沢品だと言っていたし……。
宿屋の受付を済ませ、私達は部屋に移動する。私とリタさんは相部屋で、タイチさんは一人部屋だ。いつか一緒の部屋で共にしたいものだと思うのだが、それは夢の話かもしれない。
時期的に考えてもうそろそろ私も16歳。私は冒険者になるのが少し早かったから……。友人のカンナベール達は何をしているのだろう。花屋を営みたいと言っていたけれど……夢は叶ったのか気になる。けれど、もう……私はブルクスの町に帰ることはないだろう。
「カベルネ様、どうかなさいましたか? 上の空ですが……ご主人様がお呼びですよ?」
「え? あ……うん、今行きます……」
呼ばれていたことに気が付かないほど私はボーッと、していたのだろうか。リタさんは何を考えているのか……タイチさんの事をどう考えているのだろうか……。
「あ、やってきたね。我が麗しの姫たち」
姫……元姫はともかく、私のような田舎者が姫のはずが無い。
「さっき色んな人に話を聞いたら、ここから少し……と言っても、五つほど離れた場所に城が有るらしいよ。取り敢えず、そこを目標にしようかなって思うんだけど……二人はどう思う?」
「し、城……ですか?」
「うん。旅の終着点て言う訳ではないけど、そこを根城にして生活をしようかなって……」
「なるほど……依頼の数がかなりあるのと、情報の数ですね?」
「流石リタだね。正解だ。王都で集まる情報や依頼の数は半端ないらしい。ゴブリン退治からドラゴン討伐まであるって話だ……と、言っても、聞いた話だから本当かどうかはわからないけどね」
「ど、ドラゴンですか……」
「とは言っても、ドラゴンなんてそんな簡単に依頼が出てくるはず無いですし、それこそどっかの大霊山などに行かないといけないくらいだと思いますよ」
あっけらかんと答える二人。物事を簡単に考えているのだろうか。
「数日はここで装備などを整え、リタが一人で戦えるようになるまでは留まる予定だ。カベルネ、何か異論は有る?」
何故、私にそのような大事な事を聞いてくるのだろう。
「と、特に有りません。た、タイチさんにおまかせ致します」
「じゃあ、そうしよう。暫くはこの町でリタの修行だ。早く魔物を倒せるように頑張ってくれよ」
タイチさんに言われると、リタさんは顔を引き攣らせて頷くしかなかったのだった。まぁ、タイチさんがご主人様だからね……。
翌日、私達はギルドに立ち寄り、今まで稼いだコアや魔物の死骸をギルドに渡す。量が量だけにギルド職員さんたちはかなり驚いていた。
換金したガルボでリタさんの装備を調えようとするのだが、私は魔法使いで、タイチさんは剣士。では、リタさんは何に特化しているのだろうと私達は話し合う。
「リタは何になりたいんだ? 剣士か? それとも魔法使いか?」
確かに……リタさんは魔法を使うことはできないが、センスはあると思うし、剣の才能もそれなりに感じる。既に私より剣の腕は上だ。リタさんはどちらを選ぶのだろう。
「どっちでも構わないですよ? ご主人様がお選びになったら如何でしょうか?」
「いや、それはお前の人生だからお前が選べよ。俺は責任が取れない」
「う~ん……それでは……剣士を選びましょうか……。できれば魔法は使えるようになりたいので、このまま練習を続けることは構いませんよね?」
「それは構わないけど……大丈夫か? カベルネ」
「え? あ、はい……大丈夫です……」
「でも、重たい鎧を着るのは嫌ですね」
「我が儘な奴……」
タイチさんは笑いながら武器屋があるほうへと歩き始め、リタさんはその後を当たり前のようについていく。私は少し遅れ気味に二人の後を追いかけるのであった。
武器屋に入り、タイチさんは適当に剣を見つめている。
「リタ、これが良いという剣は有るか?」
「できたら軽い奴がいいですね……」
「なら……レイピアみたいな感じのやつがよさげか? いや、剣だからライトソードみたいなやつが良いかもな」
そう言って剣を手に取りリタさんに手渡すと、リタさんは何度か素振りをするように剣を動かす。
「そうですね。これでよいかと思います。慣れてきたらご主人様が持っているような剣に変えてみるのもよいかもしれませんね」
「まぁ、無理をする必要はないよ。じゃあ、次は鎧だね」
そう言って隣になる武具屋へと入っていく。リタさんは適当に防具を見ており、手に取ったりして重さを確認していた。
「これから先はお前が選べよ。正直、防具に関して俺はわかんねーから」
タイチさんはそう言って帽子等を眺めており、リタさんは店の人と何か話していた。暫くしてローブのような服を手に取りこれにするとリタさんが言う。値段を見ると、18万ガルボの超高級品だった。
「ちょ、ちょっとリタさん! それはいくら何でも値が張りすぎですよ!」
「構わないよ、店主……これを買うから……」
タイチさんはそう言って店主と話をして、ガルボを支払い、リタさんは嬉しそうにそれを着込むのだった。
そのローブは、火と氷を軽減してくれるだけではなく、鎖帷子よりも守備力が高いらしい。しかも下に鎧や他の防具を装備できるらしく、この辺の防具としては一級品との事だった。
なんでリタさんに対してタイチさんはこんなに優しいのか私は疑問でならない。そして、胸の奥がチクチクとするような痛みを……初めて感じるのだった。




