5話 早々都合よく美味しいことが起きるはずは無い
初心者講習というのは嘘だというのが分かった一日だった。何故なら、この講習は……。
「まずは体力作りからだ! この重りを背負って、俺が良いと言うまで走り続けるんだ! 分かったか! この蛆虫共!!」
ズッシリとした重り。それをダレルさんの命令で背負わされる。俺達はそれを一人ひとり背負って走らせられる。男女、関係なくだ。学生時代から部活などやっていない俺は、体力など、全く無い。どんどん周りに追い抜かされ、最終的には一番最後を走っており、ダレルさんの罵声や怒号が飛ぶ。だが、そんな言葉は俺の耳に届くはずはない。だって吐きそうなくらい辛いのだもん。
その後、腕立て伏せをやらされ、腹筋、背筋をやらされる。身体はボロボロで動かなくなるのだが、講習補助員の人達が、直ぐに回復魔法を掛け、無理矢理俺達を起き上がらせ再び走るよう命じたり、腕立て伏せをやらせる。
別に回復魔法をかけられたところで体力が回復するわけではないのだが、筋肉痛などの痛みが取れるため、筋肉的には超回復しているのだろう。
女の子達も同じ様に訓練をさせられている。皆、涙で顔がグシャグシャな状態だ。
結局、剣を使う事なく初日の訓練は終了する。宿舎のような宿に押し込められる俺達。女の子達はこの乱暴な出来事に啜り泣くのだが、誰一人逆らうことなどできない。逆らったところで改善されるわけでもないし、話すら聞いてもらえる訳でも無い。食事は出るのだが、俺達の疲れは酷く、食事は喉が通らない状態。無理にでもと思い、必死に食べるのだが……。リバース……。
翌日も昨日同様、鬼のように走らされる。そして筋トレを行い、回復魔法で無理矢理筋肉を回復させるという荒療治が繰り返される。だが、昨日に比べれば周りを見る余裕も生まれ、状況判断もできるようになっていた。ただの苛めと言う訳では無いようだ。
「い、何時までこんな訓練をさせるんだよ……」
俺と並走していたキンバレーが呟く。コイツも俺同様、冒険者になったばかりで、一攫千金を狙っているらしい。
「本気で殺されるんじゃないか……」
その言葉にロットーが答える。キンバレー同様に冒険者になったロットー。意外と顔立ちが良く、女受けしそうな顔をしている。
そして一日が終わり、俺達は再び宿舎に戻り、食事を摂るよう命じられるのだが、昨日よりは身体が楽になっているため、昨日のように、リバースする事は無く食事を摂ることができるようになる。
「隣……良いですか?」
女の子が俺の隣にやってきて食事を食べ始める。俺がダレルさんと話している時に参加すると言われていた子だ。まさかその子が俺の隣に座るなんて……思っても見なかった。緊張してしまう。
そして、緊張のあまり、その子とは一言も喋ることができず、食事は終了してしまう。俺は項垂れる事しかできず、情けない顔をする。だが、この子はその日からずっと俺の隣で食事をするのだった。
翌日は走り込みの後、剣を使った訓練が行われた。先ずは素振りの練習から始める。講習を始めて、初めて剣を手にするのだが、その剣は相手が怪我をしないため、刃を落として有り、人を斬ることはできないようになっていた。
その剣を使い、素振りをしている俺だが、どう見てもへっぴり腰である。これでゴブリンをやっつけたと言うのは信用する事はできないと、周りはウワサをしていた。
そして、剣の手合わせを行うが、俺は全敗をしてしまう。しかも、女の子にも負けるという始末である。
「どうした! タイチ……ゴブリンなんかに比べたら、こんなの屁でもないだろ!! 気合いを入れろ!!」
ダレルさんの檄が飛ぶ。確かに……銃で射殺すれば一撃で終わるが、そういった訳には行かない話だ。コレは講習……訓練なのである。人殺しをする場所ではないし、剣を使って戦いをするのは、この講習で行うことが初めてなのである。へっぴり腰で当たり前なのだ。
「お、俺は……あ、アーチャーなんですよ……け、剣は苦手なんですよ……」
苦笑いをしながら言うが、実際、弓なんかも扱ったこともない。扱ったことが有るのは銃のみだ。
「言われてみればそうだな……ゴブリンやウサギなど斬った様な痕など全くなかったな……だが、多少でも剣を使えなければ、冒険者としてこれからやっていけないぞ!」
ダレルさんに言われ、再び剣の訓練は行われるのだが、やはりボコボコにされ「回復魔法で治療される」を、何度も繰り返される。
翌日も同じ様に剣の練習を行うのだが、俺は誰にも勝てず、周りからは白い目で見られる。ようやく弓の練習が行われると、俺の力が発揮される。初めての弓撃ちだが、最初はヘロヘロ~と飛ばしていたのだが、次第に矢が的に当たっていく。これには皆も目を見張るものがあったようで、驚きの声が上がる。剣技の練習とは異なり、尊敬の目で見られ始める。
俺に弓を教える必要はないと思ったのか、再び剣の練習をさせられる事となった。しかも、ダレルさん直々に教えてくれるのだが、ダレルさんは手加減もクソもなく、人をボコボコにする。正直、何度も殺されるのではないかと思うくらいボコボコにされた。この筋肉モヒカンは、手加減という言葉を知らないらしい。
残りの期間はずっと剣の稽古をつけてもらい、何度も殺されるかと思う日々が数日続き、ようやく初心者講習が終了する。
結局俺は、この期間内で誰とも仲良くなることも出来ず、一人寂しく家に帰ろうとしたところ、俺の側で食事をしていた子が話しかけてきた。
「――あ、あの……」
「は、はい!」
正直、この歳になっても女の子との会話というのは少なく、あまつさえ、手すら握ったことが無いのだ。別に男子校に通っていたわけではない。共学に通っていたのだが、女運が無く、喋る機会と言えば、簡単な挨拶程度だけであった。
「わ、私……カベルネと言います……」
「お、俺は……た、タイチです……」
ま、まさか……愛の告白か? 苦節18年……ついに俺にも……。
「タ、タイチさんは……あ、アーチャー……なんですよね……」
「――ま、まぁ……い、一応は……」
アーチャーと言うより、ガンナーであるな。実際は……。
「そ、そうなんですか……!! わ、私は魔法使いなんです……。も、もし良かったら……明日、一緒に狩りへ連れて行ってもらえませんか!」
「――え?」
「わ、私……まだ……ウサギすら狩った事がないんです……タイチさんはゴブリンを……ゴブリンを倒せる程の実力者と……ウワサになっていた物ですから……」
確かに、ゴブリンとかは銃で倒しているが……。
「――だ、駄目……ですか?」
「え、えっと……わ、分かりました。じゃ、じゃあ、明日の朝……ここで待ち合わせをしましょうか……」
「ほ、本当ですか! やったー! リード、一緒に狩りをしてくれるって!! OKだって!」
「本当か! 良かった~。俺一人では不安だったんだよな~……」
後ろの方から剣士風の若い……と言っても、俺と余り変わらないくらいの男が近寄ってくる。そして、カベルネは頭を下げ、先ほど名前を呼んだ、リードとか言う男とギルドハウスを後にするのだった。
そう言えば、リードとか言うやつも一緒に講習を受けていたのを、この時初めて思い出したのと、俺の側で食事をしていた事も思い出し、俺は目から汗が流れ出るのだった。
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名前:鈴木太一
レベル:4
力:8
器用:10
体力:15
魔力:6
スキルポイント:30
【スキル】
アイテムクリエイト(物を生み出す力)
異世界言語
異世界文字
射撃:1
気配察知:1
剣技:1
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2017/04/15 修正プラス追加しました。