55話 ここで別れだ。サヨナラ…
辿り着いた町はロシツキの町というらしい。俺達四人は宿に向かう事にしてチェックインする。この宿は一人50ガルボと安く、お手軽な感じがするが、お風呂とかは別である。お風呂というものが素敵なものだと知ったカベルネ。かなりの落ち込みを見せる。
「お風呂が……無いんですね……」
「カベルネ、お風呂なんて贅沢品だよ? 今まで贅沢しすぎだよ」
カベルネの言葉にメルトがツッコミを入れる。だが、俺はそれを否定したい。風呂はあって当たり前のものである! 風呂に入れば身も心もスッキリするのだ! 駄犬にはそれの良さが分からんのだ。所詮は駄犬……犬は犬ってことだな。
「資金的にもだいぶ貯まっているし、本来なら何処か借家でも借りて生活するのも有りかとは思っているんだけど、もうちょっと離れてからの方が良いかもしれないな」
チラッとリタを見ると、申し訳無さそうにして俯いていた。
「だが、お城なんか見たことも無いし、田舎に住むのも悪くはないが……ヤッパリもうちょっと都会の方が生活も楽だろうね。だから暫くは歩きながら旅を続けよう」
こう言うと、カベルネとリタは嬉しそうに返事をしたのだが、メルトの奴だけは不貞腐れた声を出しやがった。まともに魔物を退治することすらできないくせに、好きかって言う駄犬を早く手放す方法を考えた方が良いな……なんてね……。
そして、今晩初めてわかった事だが、リタのステータスが見られるようになっていたのだった。これで見られないのはメルト一人ということだ。俺の愛情なども付加価値として加算されるものなのかは分からないし、リタは奴隷だから俺を信頼するしか無いということなのかも知れない。
宿屋でゆっくりしていると、隣からリタとカベルネの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。二人は年も近いし、礼儀正しいから気が合うのかもしれないが、メルトの声が全く聞こえて来ることはなかった。そして俺はこれからの事を考えて眠りにつく事にしたのだった。
翌朝になり、カベルネとリタは早めに準備をしたらしく朝食の手伝いをしてくれた。リタもこの生活に慣れるため必死でやっているのだろう。だが……。
「おはよぉ……ふぁ〜あ……ねむ……」
頭をボリボリ掻きつつ、寝癖全開でやってくる駄犬。俺は非情な通告をする。
「駄犬……いや、メルト……」
「何? 朝から怖い顔して……」
「俺は非常に我慢したし、しつこく言ってきたつもりだ……」
「はぁ? なんの話よ……」
「お前との旅はここで終わりな。これは決定であり、覆ることは無い」
全員が言葉に詰まるかのように固まる。
「カベルネ……もう良いだろ? ここまで俺はやってきた。馬鹿だから何度も同じ事を繰り返し伝え、戦いのやり方だって教えて来た。そして、コイツは料理以外はそれなりに出来るようになった……」
その言葉にカベルネは何も応えることができない。リタも同じく何も言わなかった。
「じょ、冗談……でしょ?」
上ずる声でメルトは言う。だが、俺は首を横に振った。
「リタは選ぶ権利はないので俺と一緒に来るが……カベルネは選んで良いと思うよ。この女と一緒に行動するならサヨナラ。しないのなら一緒に旅をしても構わない」
★★★★★★
タイチさんの目は本気だ。確かにメルトさんの生活態度には目が余るものがある。毎回寝坊をするし、食事も作ろうとはしない……。
だからフォローする言葉が見つからず私は戸惑ってしまった。
「リタは選ぶ権利はないので俺と一緒に来るが……カベルネは選んで良いと思うよ。この女と一緒に行動するならサヨナラ。しないのなら一緒に旅をしても構わない」
え? なんで私も篩いにかけられるの?
「カベルネはメルトと仲が良かったからね……それに優しいし」
二択を選べと言われたら、私の中では既に答えなんか決まっている。タイチさんに付いていく事だけだ。
「わ、私はタイチさんと一緒に……行きますから……ずっと……」
その言葉にショックを受けた顔をするメルトさん。だが、私はタイチさんと一緒に居るために旅をしているし、離れる気なんてサラサラない。私は出来る限りの事もしたし、メルトさんには言ったつもりだ。それでも変わらないのであれば、タイチさんの指示に従うまでである。
★★★★★★
「う、嘘だよね? わ、私……仲間じゃん?」
「違うよ。お前が一人で冒険ができるようになれるまで飼っていただけだよ。巣立ちの頃だから解き放つだけ。しかも、お前は約束の一つすら守れてない……」
「や、約束?」
「お前は言った。土下座して言った。『なんでもするから仲間にしてくれ』と……」
言い終わると、メルトは顔を青くする。
「お前、今まで何してたの?」
「あ、い、いや……その……」
「で、いい加減、飼うのが面倒になったので捨てることにしたと言う訳だ。解ったか? 野良犬」
駄犬から野良犬に格下げである。
「しかもだ、お前は仲間というわりには……俺を信用していない。信頼されていないのなら……一緒にいたいとも思わん!」
「し、してるわよ! あんたを信頼してる!」
「いやいや……俺には分かるんだよ。お前は俺を全く信用していない。だから別れるんだ」
「お、お願いだから……!!」
捨てないで……という声が消え入りそうに聞こえる。
「正直さ……」
泣いているメルトの肩に手を添える。
「これ以上、お前を厄介事に巻き込みたくないんだよ。俺はリタを手に入れた瞬間からキシリトル王国に追いかけられる羽目になった。だけどそれは俺だけなんだ。場合によってはカベルネの髪の毛を渡したから危ないのかもしれない。だから、カベルネの意思だけを確認した。けどさ、お前は関係ないじゃん? そういう言い方はおかしいけど、お前は俺と一緒に来る必要は全くないんだ……だからさ……お前だけでも達者に暮らして欲しい。これはお前の仲間に託された俺の使命にも似た物になっちまうんだよ……。お前は一人で戦えるまでに強くなった。この調子なら……他の奴がお前を見逃すはずはない。お前は美人で強い剣士だからな……」
俺の話を聞いているのかどうかは分からないが、大きい声で泣き喚く。
「これ、今までお前が稼いだ分だ。大事に使えよ……この辺りはベルトナットの町よりも魔物が弱い。お前なら一人でも生活は出来るし、仲間がいればもっと稼ぐことができる……元気で暮らせよ」
カベルネの顔を見ると、泣くのを我慢しているように見える。正直、キシリトル王国からかなり離れない限り、安全とは言い切れない。メルトとのじゃれ合いはそれなりに楽しく感じたし、悪い奴ではないのは知っている。だからこれ以上の危険は避けてやるのがこいつのためだと……判断させてもらったのだ……。
2017/4/9修正




