53話 10式戦車は最強なり!
中々目覚めない馬鹿犬を抱えあげ、俺達は移動を開始する。ここまでリタを追う理由は何かあるのだと言うのは分かるのだが、まだ信用されていない俺はリタのステータスを見る事ができない。見られればそれなりに何かが分かるのだろうけれど……。
「た、タイチさん! 街道が見えてきました!」
カベルネの体力もソロソロ限界だろうし、リタも限界のはずだ。
「ご主人様……」
珍しく口を開くリタ。
「私が捕まれば……全て解決です……置いて行って下さい!」
その言葉で覚悟が決まる瞬間が訪れる。
「カベルネ! 街道まで頑張れるか! 一気に離脱する! このバカ共をアイツ等に渡してなるもんか! 街道まで先に向かえ!」
「た、タイチさんは!」
「奴らをビビらせてやる……この嘘っぱちの大魔法使いがね!」
★★★★★★
嘘っぱち大魔法使い……と言う事は、ミケランジェロとか言うやつの事だ。一体何をするつもりなのだろう。
「リタ、カベルネ……一発だけブチかます! さぁ、早く街道に行って退路の確保してくれ!」
そう言ってタイチさんは不思議な筒を召喚すると、筒の中に何かを入れて、耳を塞いで伏せるのだった。
『ドゴオォ……ン』
私が聞いた事のない激しい音が鳴り響き、思わず腰を抜かしてしまう。な、何が起きたのだろうか……。
「立てるか! カベルネ! ここから撤収するぞ!」
「は、はい!」
タイチさんに手を引っ張られ、私は立ち上がる。あれは一体何だったのかと考える瞬間、今度は大爆発のような音がして私は振り返る。
「な、なにが起きたというんですか……あの煙は……」
湧き上がっている煙。何が起きているのだろう……。
「これで時間はかなり稼いだはずだ……急ぐぞ!」
タイチさんの言葉に私は慌てて駆け出す。メルトさんも音に驚き目を覚ましたようで、一緒に駆けていた。
そして、ついに私達は街道に到着する。遅れてタイチさんも到着し、そして再び何か馬車ではない何かを召喚した。
「こいつで一網打尽にしてやる!! 食らえ! 対地雷除去ミサイル!!」
★★★★★★
俺が召喚したのは92式地雷原処理車で、発射したのは地雷除去ミサイル。導爆索なので広範囲に爆発して犬どもは怯えるはずだ。そして、追っても一網打尽に処分できると言った優れもの!
そして直ぐに車を召喚し、三人を無理矢理詰め込んで走り始める。
「た、タイチさん……あ、あれは一体……」
「嘘っぱちの魔法だよ。俺は大魔法使いだからね」
そう言うと、カベルネは黙ってしまう。これ以上聞いても何も答えてくれないということを悟ったのだろう。というか、俺にもこれ以上何も答えようがない。昔、親に連れて行ってもらった総合火力演習を思い出したのだ。あの時見た衝撃は俺は一生忘れないだろう。それだけの迫力と威力を覚えている。
しかし、92式地雷原処理車に関しては自衛隊に聞いてもらわないと分からない部分が多い。俺が分かるのはあのミサイルで広範囲に地雷を誘爆させるというだけであり、それ以上の事は何も分からない。だからカベルネの質問に答える事が出来ないのだ。
「カベルネ……このまま車で町を数個超えて行く。そうすれば追っ手に追いかけられることは無くなるはずだ。それに動物たちもこれ以上の臭いを追うことは出来ない。俺達は逃げ切ったと言う訳だ」
逃げ切ったという言葉にリタはホッとした顔をする。あんな事を言ったが、本当は怖かったのだろう。体が震えているのが室内ミラーで確認が出来ていた。
「暫くは町に寄れないと言う事を理解してくれるか?」
「感謝いたします……ご主人様」
少し恥ずかしそうにリタは言って目を瞑って安心する。すると、メルトが口を開く。
「仕方ないわね……」
テメェには言ってねーよ……駄犬。
★★★★★★
何が起きているのかさっぱり分からないが、私のご主人様になった人はたいそうな魔法使いなのだろう。昔読んだ物語で、世紀の大魔法使いは不思議な馬車に乗ると書いていあった。この男も大魔法使いと名乗っていたし不思議な馬車を動かしている……一体この男は何者なのだろうか。
私が住んでいた城は滅んだ。空飛ぶ何かが空を覆いつくし、そこから岩が沢山落ちてきたのだ。城は岩からの攻撃を防ぐ事が出来ない。だってそんな攻撃は初めて聞くし、初めて起きた事だから……。あれは戦争の概念を全て変える悪魔の所業にしか見えない。私のお母様は言った。
『ペリサ……あなたは幸せに生きなさい……争いのない……そういった世界で……』
争いが無い世界なんてない。だが、庶民のような暮らしなら……こういった争いとは無縁かも知れないと私は思う。この人は私を争いのない世界に連れて行ってくれるのだろうか……。
そんな事を思いながらこの不思議な馬車に揺られながら私は眠りについてしまった……。
★★★★★★
後ろを見るとリタさんとメルトさんの二人が眠りについていた。これからについて話をするにはちょうど良いかも知れない。
「た、タイチさん……このあと、私達はどうなってしまうんですか?」
「どうって?」
「わ、私達はずっと……逃げる運命なんですか……」
「まさか? そんな馬鹿な事があると思うか? 俺は平穏に暮らしがしたいと何度も言っているつもりだけど? カベルネには……カベルネは良いの? もう……ブルクスの町には帰れないかも知れないよ?」
ブルクスの町に帰れないと言う事は、私は家族に会う事が出来ないと言う事だろう。あと、リードにも……。
「べ、別に構わない……です」
「そう……。次の町についても俺達は休憩をすることは無い。その次の町で休憩をする……と言う事は、町を迂回しないといけないと言う事だ……」
「ま、町の中に入らないというんですか?」
「入れない……と言った方が早い」
「な、なんで……」
「何故でしょう?」
タイチさんの中で答えは出ている。私に考えろと言っているのか、私に話す必要は無いというのか……どちらかなのだろうか。
「町に入ると、俺達の姿を見られてしまう。まぁこのスピードで走っているのだからそう言った事は難しいというか、追いつくことはまず難しいかも知れない。だけど、姿を見せなかったと言う事は、その町に寄っていないと言う事。それに、その先の町へ入っていないと錯覚させるためだ。そうすれば俺達を追うことはまず難しくな……」
タイチさんの言葉が止まる。どうしたのだろうか……。
「う、嘘だろ? マジかよ……そんな技術があるのか? いや……ゲームでも必ず出てくることがある……カベルネ! 車を停めるぞ!」
「え? え? え?」
いきなりどうしたと言う事なのだろうか。タイチさんは何を見たというのだろうか。私は後ろを確認するが、全く追っては見える事がなかった。
★★★★★★
まさかの出来事だ。この世界にそんな物があるなんて知りもしない。たしかあるゲームでは魔法の力によって空に物を浮かべると言う事が出来た。その原理を使用しているのかも知れない。
俺が発見したもの。それは……飛空艇である。まさかそんな物がこんな場所に有るとは思えなかったが、現にそれが俺達の目の前に現れたのだ。
「あ、あれは……悪魔の船!!」
やり過ごすつもりで俺は車を止めたつもりだった。だが、目を覚ましたリタが空を見つめながら呟いた。その言葉で俺は戦いと言う物を理解した。
「なるほどねキシリトルの国がどうしてアッサラートに勝ったのか……このカラクリがやっと解けたよ……。飛空艇を使用して攻撃を仕掛けやがったんだな? リタ……」
「そ、空から岩が振ってくる!! い、いや!! 止めて!!」
これはトラウマレベルの物である。多分空から岩を爆弾の代わりに落としたのだろう。だったら科学と言う物を見せてやるよ。
「リタ……じゃあ、これから嘘っぱちの大魔法を見せてやるよ……これは全て科学で答えられる……悪魔の所業だ。どっちが悪魔か見せてやろうじゃないか!!」
そう言って俺は車から降り、10式戦車を召喚する。何処までが限度とか考えるのを止め、取り敢えず俺の奴隷である、リタがパニックになっている事が許せない。悪魔の船? バカにしている。結局は風船だ。風穴数発ぶつけてやりゃ火を噴いて墜落していく。
「リタ……あれが悪魔なら……俺は大悪魔だ! その眼をかっぽじって良く見てろ、カベルネ! イヤーマフを皆に装備!」
「は、はい!」
投げ渡したイヤーマフを慌てて拾い、カベルネは二人に説明をして耳に当てさせる。
「これでも喰らいやがれ! ファイア!!!」
『ズガーン!! ズガーン!! ズガーン!!』
取り敢えず三発ほど御見舞いすると、狙い通り機関室に当たり火を噴き始め、人がワラワラと落ちていく。
呆気に取られる三人。何が起きたのか、それすらさっぱり分からず飛空艇は火を噴いて墜落をしてしまうように見えるのであった……。




