52話 追われる身。迎え撃つ?それとも…
山道を駆け下りていく中、メルトが疲れたのか悲鳴のように叫びをあげる。
「もう疲れたし、追ってなんか来ないよ……休もうよ~!!」
駄犬が我が儘言いやがって……。だが、リタもカベルネも疲れた表情をしている。今晩はここで休んでから次の街道を探して一気にこの場から離れたほうが良いのかもしれない。
「分かった。だけど、普段のようにテントなどは張らないからね」
ホッとする三人。少し悪いかなと思いながら俺はこの先について考える。
「リタ、どういう事なのか……話してくれるか?」
「……ご命令ですか……」
「そうだな。先ずは君の年齢から話してもらおうか……」
「年齢は16……。ここからかなり離れた場所にある、アッサラート王国出身です……」
「もうそれ以上は言わなくていいよ、全て理解したから……」
おかしい。俺が聞いていた話では、アッサラート王国の勝利は決まっているとの話だ。ギルバートさんの見立てではだったが……。しかも、戦争が始まったのはついこの間だったはず。カベルネも少し驚いた顔をしているという事は、俺と同じ事を考えているのだろう。あのイケメンが言っていることは嘘であったということである。ただ、本当なのはこの子が奴隷ということだけだ……。一体何をどうしたら良いのか……。
「因みに、君の名はリタだ。それについて異論はあるか?」
「有りません。過去の柵から離れられ、平穏という名の暮らしが出来るというのなら……」
「OK、分かった。次に……君が言う平穏とは……どこまでが平穏だ?」
「庶民……言い方が悪いですが、食べて寝るそして、雨露がしのげればそれだけで幸せだと思っております」
随分な言葉だと感じているのは俺だけではなく、カベルネも同じのようだ。
「王族のような暮らしは?」
「もう……真っ平です。自由に生きてみたい……」
そこまで言うと、目から一滴の涙が溢れ落ちた。これには俺とカベルネは何も言うことができず、言葉に詰まってしまう。
「アンタも冒険者になったんだから、ちゃんと魔物退治をしてガルボを稼ぎなさいよ。私等のように……」
メルトが言うと、カベルネは苦笑いする。この中で一番場数の経験が少ないのはメルトで、尚且つ、俺に駄犬と呼ばれている事を忘れているのでは無いだろうか……。
しかし、リタは頷く事をしない。
「取り敢えず……リタにも武器を渡す必要があるな……魔法とか使えるのか?」
俺の質問には首を横に振り、使えないと意思を表す。
「じゃあ、剣とか弓とかは使えるの?」
メルトが質問をするが、リタは横目でチラリと見て何も答えなかった。
「こ、こいつ……奴隷のくせに!!」
殴りかかろうとするメルト。だが、カベルネが慌ててそれを止める。
「剣や弓などは使えるのか?」
俺が質問をすると、リタは首を横に振り使用できないと意思を表す。誰が主人か理解しているところを見ると、メルトよりも頭が良いのは確かだろう。
「まぁ、防具が揃うまでは……銃を使ってもらった方が良いかもな。カベルネ、悪いけど教えてあげれるか? できたら魔法も一緒にさ」
「え? ……あ、はい……分かりました……」
少しだけ困った顔してカベルネは返事をする。
そして、俺達は食事(もちろん俺が作ったに決まっている)を食べ、疲れ切っているリタとメルトは先に眠りに就いた。
火を囲んでいると、何だか冒険しているなって気分になる。今まで召喚して身の回りの物を集めていたから。
「寒くないか? カベルネ」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「そ、その……ゴメンな……」
「何がです?」
「髪の毛……似合ってたよ……長いのも……」
★★★★★★
「のも」と言う事は、短いのも合っているという意味で捉えていいのだろうか。
「仕方ありませんよ……タイチさんが状況を判断してこういう決断を降したんですから……。しかし、ここまで急いで移動する意味が有るんですか?」
「話の状況を何処まで理解できてる? カベルネ。別に馬鹿にしていっている意味じゃなく、話を合わせるために確認で聞いてるから気分を悪くしないでくれると助かる……」
タイチさんは少し困ったように笑う。私はタイチさんを理解しているつもりだ。タイチさんは何個も先を考えて喋っているからそういう言い方をしてしまうのだろう。
「大丈夫ですよ、分かってます。えっと……確か、ハーゲンの町で争っていた国が……アッサラート王国とキシリトル王国のはずでした。リタが奴隷になっているという事は、アッサラート王国が敗北したという事だと思われます。多分、さっきリタとの話を終わらせたのはそういう理由かと思いました……」
「うん、そのとおりだよ。流石カベルネだね。だけどちょっと気になる事があるんだ……」
「気になる事?」
「あぁ、俺はギルバートさんにどっちが優勢かと聞いたことがある。キシリトルは独立宣言をして戦争を起こした……ここまでは知っていることだ。だが、どっちが優勢かと確認したところ、ギルバートさんはアッサラート王国と答えた……これがおかしい。だって、リタはアッサラートの姫様だ。と言う事は、ギルバートさんは逆を言ったことになる……」
「か、勘違いして……言い間違えた……でしょうか」
「いや、それを覆す何かがあったに違いない。じゃなきゃ、独立宣言をすると言うのもおかしいし、戦争を仕掛けるのも腑に落ちない。リタは何かを知っているだろうが、彼女は言った……平穏な暮らしがしたいと。庶民と一緒の生活で構わないからって……それだけの何かが……起きたって事だろう……」
やはりタイチさんは凄い。この短時間で、移動をしながらここまで考えているのだ……私には到底出来やしない。
「この後……どうするんですか?」
「正直言って、リタの意見に賛成なんだよね。俺も平穏な暮らしをしたいかな……か、カベルネと一緒に……」
その言葉を聞いて、私は舞い上がり踊り出しそうになる思いを堪える。タイチさんなりの冗談かもしれないから……。
「わ、私も……そうですね……い、一緒に居られ……ゴニョゴニョ……」
私の意気地なし!!
「だけど、それは暫く無理そうだね……。カベルネ、悪いが二人を起こしてくれるか……直ぐに移動を開始する」
★★★★★★
やはり調べやがったらしい。アッサラートの姫様を亡き者にしたい輩がいるみたいだ。血は根絶やしってやつか? 迎え撃つことは可能だが……それは正解ではない気がする。先ずはここから離れることが先だ!




