49話 幸せはそこに有るとは限らない
キャンプで分かった事。この奴隷達を奴隷商館へ連れて行けば依頼が達成と言う事だった。そして、今回の盗賊による襲撃で冒険者側の死者はゼロ。御者だけが死んだと言う事だった。
捉まえた盗賊は六人。他は全員、俺が倒したと言う事になる。さてここで問題が一つ発生する。俺はどうやってこの盗賊を運んで行けばいいのかと言う事である。
最初はバイクで運んで行く予定だった。ちゃんと馬車が動くことが分かったのだし問題無いと思った。だが、忘れていた……捕獲した盗賊をどうやって運んで行くかと言う事を……。
ニヤニヤするメルトが凄くウザイ。そして、カベルネの期待している目……それには先ほど答えたばかりだと思うのだが……しかもこの様子だと次の町でもゆっくりと休めないと言う事が確定している……諦めるしかない。
「仕方ないな……。メルト、お前の友達は本当に言っていたんだな? 無茶な物では無ければ制限がないって……」
「ロイドがそう言っていたわ……あれが本当の話ならね。あんた……夢の話を本当に信じてるの?」
その、人を馬鹿にした目がムカつく。そして、その期待に満ちた目をしているカベルネの期待に応えるべく、俺は頭を働かせて休みにつくのだった。
翌朝、俺達は目を覚ますというか、俺だけが目を覚ます。そして、馬車の中を見ると、奴隷の皆さんがお腹を空かしているように見え、俺は彼女達の食事を含めカベルネ達の食事を作り、食べさせる。
「あ、あなた……私達が誰か……分かってるんですか……」
奴隷の少女が言う。
「分かっているつもりだよ。だけど、そんなの関係あるの? お腹空いてるのは変わりないんでしょ? 君達はまだ商品じゃない……俺は出来る限り……君達を大切にしたいと思ってる……」
俺の言葉にポカ~ンとしてしまう奴隷達。俺にとってはそんなの関係ない。それは、彼女達の問題である。俺はやりたいようにやらせてもらうだけである。
皆が起き、出発の準備を始める。檻型の荷台を召喚して盗賊たちを押し込む。カベルネは目を輝かせながら檻を見つめていた。
俺はバイクの召喚を解除して自動車を召喚する。排気ガスが問題ないように電気で走るあの電気自動車だ。
「これに二人は乗ってくれる?」
「はい!」
カベルネは車の存在を知っているから素直に言う事を聞いてくれる。だが……。
「な、何この変な箱は……」
車の存在は知らないメルト……正直説明が面倒だから早く搭乗してくれると助かる。
「お前が知らない乗り物だよ。他の人は……そうだな……」
再び檻の後に荷台を連結し、俺は荷台に乗るように指示をする。冒険者の皆は納得ができていないようだったが、無理やり乗せ込んだ。早く町に届けて、こいつらと別れたいからだ。
そして車のエンジンをかけて、車を発進させると、メルトは馬がいない事で後部座席で騒ぎまくる。だが、カベルネが適当に理由にならない理由で説明をしてくれるので助かった。メルトは馬鹿だから魔力で動いているという話で納得する。後ろの冒険者たちは車が見えないから多分大丈夫だと思いたい。奴隷の人たちは……売られた場所で話しても、信じてもらえないから大丈夫。
車は速度を上げていく。魔物が出てきても撥ねられたくないのか、直ぐに道を譲ってくれるので大助かりではある。だが、この後の説明を如何するのか考えないといけない。そんな事を思いながら俺は町を目指すのだった。
二時間ほど車を走らせると町が見えてくる。俺はそのまま町の入り口に車を着けると、兵士が怪しんだ目で俺達に質問をする。
「こ、これは何だ……一体……」
「これは新型の馬車だよ。いま、試作品を動かしている最中なんだ。いずれ王様や姫様たちが乗ってくるかもしれないね。兵士さんは聞いた事が無いの? いま、世界で有名だよ?」
完全に嘘である。こう言わないと俺達は中に入れてもらえないかも知れないからだ。
「そ、そうなのか……」
「はい、ギルドパス。後ろには奴隷を運んでる。確認してくれれば分かると思うし、その後ろは捕まえた盗賊。その後ろは護衛の皆さんだ。パスを確認してきてくれよ」
そう言うと、仲間の兵士は後ろを確認して仲間に本当だと伝える。盗賊はその場で兵士に連行され、俺達はギルドへと行くように指示された。
ギルドに到着すると、直ぐに車の召喚を解いて、その存在を闇に葬る……のは無理だと思うが、消えたら魔法の力だと皆は思うだろう。そして、俺達は店内に入るとギルドの店員から事情聴取を受けた後、盗賊一人頭1万ガルボを渡される。盗賊はかなり高額で引き取られることになっているようだ。そのあと彼らがどうなるかというと、鉱山などで働かされるとの事。
そして、奴隷達は商館へと連れて行かれるのだが、俺達も商館へと行くように指示された。
「何で、俺達も商館へ行かなきゃならないんですか?」
「それはですね。請負った冒険者達は御者を死なせてしまったと言う事で、今回の依頼失敗になってしまいました。依頼失敗したと言う事……ですが、あなた達は依頼者の荷物である奴隷を守った。実際、依頼を受けた冒険者達に話を聞いたところ、あなた方が来なければ奴隷を守る事すらできなかった可能性があるという話……。先ほど商館にその事を報告いたしましたら、店の方からタイチ様に荷物を運んでくれたお礼をしたいとの事です」
「俺達にお礼……ですか? 一体何を……お礼するんですか」
「それは……我々には分かりかねます」
そりゃそうだ。彼らはギルドの人間だ……分かるはずは無い。
「わ、分かりました……そしたら……寄らせてもらいますね」
多分俺は顔が引き攣っているのだろうが、メルトはお礼という言葉に目を輝かせていた。俺達はギルドの人に挨拶して店を出て行く。
「じゃあ、次の町へ行こうか……」
「そ、そうですね……」
カベルネと俺の意見は一致していたが、メルトは顔を驚かせていた。
「な、何言っているの! あんた達!! ご褒美をくれるって言っているんだよ! 貰わないと損じゃん! 馬鹿じゃないの! それでもあんた達、冒険者なの!」
あれだけ世界の平和とか騒いでいたくせにこういう時は冒険者とは何たるものを説く。この糞女……。
「で、ですが……私達はそう言った事で儲けたいとか考えている訳では……」
「カベルネ、あんた、甘いよ? 貰えるものは何でも貰わないと……貰えるうちが花なんだから! ほら、行くよ!」
やれやれ……この糞女……。
仕方なく俺達はメルトの後を追いかけるかのように奴隷商館へと向かい、店主と話をすることになった。
「あ、あの……ぎ、ギルドから言われてやってきたタイチですが……」
メルトが煩いのでやって来た奴隷商館。初めて入ったが、薄暗くて何だか怖い。カベルネは俺の服を掴んで付いて来ているので、俺は逃げる事が出来ず退路を塞がれている状態だった。もちろんメルトはその後ろに居る。一番ビビりだ。こいつを売ってしまった方が良かったのかも知れない。その方が静かで俺達は楽しく生活できるのかも……。
などと考えていると、奥からイケメンがやって来る。
「どうも、冒険者さん。今回は私の商品を守って頂き感謝する。しかし……ロジャンルが死んでしまった事は残念だが……」
「ろ、ロジャンル……?」
「あぁ、今回この商品を連れてきてくれるはずだった奴だ。悪い奴じゃなかったんだがねぇ……。残念だ」
多分、あの時死んだ御者の事を言っているのだろう。俺はそう思いながら首の後ろを掻き、話を終わらせて次の町へと行きたいと考えていた。
「あ、あのぉ……俺達が駆けつけた時には……既に、馬車の下敷きになっていたので……申し訳ありません……」
「いえいえ、商品が無事だっただけでも……感謝しなければならない」
商品商品って……人をなんだと思っているのだろうか……。
「そこで感謝のしるしに……おい、連れて来い……」
イケメン商人は取り巻きに命令する。そして、奥から一人の女性と共に取り巻きがやって来るのだが……その姿と腕に有る紋章は……。
「か、彼女は……」
「彼女は明日で処分する予定だった子です。私が持っている中でも最高級の商品だったんですが……買い手がつかなくってね……貴方に差し上げます」
「は、はぁ? な、何を言っているんですか……。い、一体……」
「奴隷の規定で決まっているんですよ。一年間も買い手がつかない奴隷は娼館で働かせるか……鉱山で働かせると……しかも、上玉の女なのに鉱山で働かされることもある……残念な話だと思いませんか?」
「い、いや……あ、あの……そ、そうじゃなくて……だ、だったら娼館で……」
「しかも……だ。それはクジで決められてしまうんですよ……鉱山と娼婦のどっちかというのは。差別というのが無いように……ね。我々はそう言った商品を扱っておりましてね。おっと、鉱山になればそれなりの額が貰えます。娼婦になれば……安いんですよ」
言葉が出ない。気が狂っている世界ではないか……この業界は。
「まぁ、聞いた話によると……今回は盗賊が出たという話で、あなた方が捕まえてくれたとか……盗賊は関係なしに鉱山行きと決まっておりますから……今回のクジでは娼館送りになるクジが多いかも知れませんが……」
「な、何を言っているんですか……」
「あなたは可哀想だと思いませんか……? 彼女たちが……奴隷には色んな奴隷がいます。家が貧しく売られてしまう奴隷……まぁ、大抵はこういった奴隷が多いのですがね、あとは冒険者だった女が、冒険が出来なくなって奴隷になるか……娼婦になるかを選択するためにやって来る事も……」
「……」
俺達は言葉が出ない。このイケメンはどうしてもこの少女を俺に渡したいらしい。その理由が分からない……。
「あとは……王族か、そういった類の女が……売られてくることもある……。ここまで言えば……アナタも私の言いたい意味が分かるでしょう。おっと、忘れておりました……奴隷はね……絶対に解放される事が出来ません。これは魔法によって契約されてしまっている事なのです……幾ら高貴な血を宿った人でも……そして、以前は英雄と謳われた人も……」
高貴なる血……英雄と言われた事のある人……このイケメンはこれ以上言えない何かを知っているが、それは言えないとでも言いたいのか? 生かして置いてほしいとでもいうのか……。
「さぁ、ダルク……。今日から君のご主人様は彼だよ。えっと名は……」
「ち、ちょっと待って下さい! お、俺は……」
「君、私の話を聞いていなかったのか? 私はお礼をしたいと言っているんだよ……。これは私のお願いだ」
お願いという時、イケメンは悲しそうな表情をする……俺に何かを託すというつもりか? 勘弁してください。俺は平穏に暮らしたいのです。
「あ、あの……一つだけ言わせてください……」
「何だね?」
「俺は勇者でも、英雄でも、名の知れた冒険者でもありません……ただ平穏に暮らしがしたいだけなんです……」
「それでも構わない……私のお願いだ。こいつを貰ってくれないか……」
「本当に平穏に暮らしたいんです。どっかの町で、ユックリと……」
「構わんと言っている。私は世界の平和や、英雄などに興味はない……ただ……察してくれないか」
「わ、分かりました……。そ、そう言う事なら……」
正直どういうことかすら分からないが、平穏な暮らしを求めて良いというのなら……気にしなければ良いだけの話だ。
「最後に一つ。その子の名前はダルクという……。だが、君が新しい名をつけてくれないか……」
「わ、分かりました。あ、新しい名を……つけます。それでいいですか?」
「感謝するよ……。ダルク……幸せに成れる事を祈っているよ……」
聞き取れないくらい小さい声で姫とイケメンは言った。俺はそれを聞き逃さなかった……。この人は任せられる人を探していたのか……それとも、本当は自分の手元に置いておきたかったが、それが出来なくなってしまったのか……それは分からない……だが、俺は背中が痛くて痛くて堪らないと言う事だけが……今の感想だった。
カベルネ、抓らないでくれる? 本当に……。




