47話 その仲間に最大限の敬意を
翌朝になり、メルトの体調は良くなったようで顔色も悪くない。風邪は治ったようだ。
「熱は下がったようだな……」
デコに手を添えて確認すると、熱は下がっているように感じる。メルトは何故か顔を赤くするのだが……。だが、いきなり先へ進んだりと無理をさせる必要もないため、もう暫くゆっくりさせてあげる必要があるだろう。治ったときは体力はなくなっているのだから。
俺はお粥を作ってメルトに食べさせる。メルトは食欲が回復したのか、全部平らげてくれる。カベルネもホッとしたらしく。頬を緩ませていた。
「昼を過ぎたら出発をしよう。次はどんな町だろうか……」
早く自分の家を手に入れてゆっくりとした生活がしたい。メルトが起きた時に言ったセリフは、多分あの子が俺に与えてくれた能力についてだろう。メルトの仲間を通して俺に伝えてくれた可能性がある。メルトの仲間に感謝しなければならない。そして彼女の仲間は、かなりメルトを気にしていたと言う事。相当大事な仲間だったと言う事なのだろう。ああいった大事な情報をくれたのなら、それに報いる事をしてあげないといけない。
そう考え、再びメルトの前に座る。
「な、何よ……」
「メルト、もう幾つか大事な話がある。カベルネもこっちに来てくれるか……」
「は、はい……」
★★★★★★
私を呼んで三人で話をすると言う事は、タイチさんは自分の事を話すのだろう……かなり町からも離れたし、そろそろ頃合いかと考えたのかも知れない……。
★★★★★★
「俺はお前が嫌いだ。だが、お前の仲間には敬意を抱いている。それだけお前の仲間はお前を大事にしていたと思うから……」
「な、何が言いたいのよ……」
「まず初めに……俺はこの世界の住人じゃない。おっと、黙って話を聞けよ……大事な話だからな……」
タイチの奴は意味が分からないことを話し始める……こいつ、頭は大丈夫だろうか……。
「俺が生まれたのは地球という惑星の日本という島国だ……。これは以前、カベルネにも話したね……」
「は、はい……」
何を言っているのこいつ……。チキュウ? ニホン? 訳解らない……理解が出来ない。
「これからいう事は世にも奇妙な話だ。信じるか信じないかは……お前次第だよ」
私は唾を飲み込む。確かに眉唾の話だからだ。
「俺は東京という大都会に生まれてね……そして、学校という勉学をする場所で何年も過ごすんだ。そして、そこを卒業すると、仕事を探さないといけなくなる。何故なら、お金……ここで言う、ガルボを手に入れないといけないからね」
当たり前の話だ。そこで冒険者か、商人を選択するという当たり前な話をするつもりなのだろう……。
「ここで勘違いしてもらっては困るのが……仕事についてだ。この世界では冒険者か商人……まぁ、他にもあるだろうけど、そういった職業を選ばないとならないのだが、俺がいた日本というか、地球には魔物なんていないんだよ……」
「ま、魔物がいない? な、何を言ってるのよ……」
「め、メルトさん……黙って聞いて下さい」
カベルネの眼が真剣だった。この子はこの男に洗脳されてしまっているか、何かされているのかも知れない。
「まぁ……信用できないかも知れないけど、俺達の世界は科学と言った文明が発達していてね……まずはこれを見てくれるか?」
そう言ってタイチは丸い何かを取り出した。青い球体に所々緑の何か模様が描かれている。全く意味が分からない。
「これが地球……俺がいた惑星だ。この世界はどうなっているのか分からないけど、俺がいた世界は丸い星だったんだ」
何を言っているのか……世界が丸いなんてどうやって調べるというのだろう。
「この方法については追い追い話してあげる。カベルネも前に興味を抱いていたからね」
タイチが言うと、カベルネは嬉しそうに微笑む。本当にこいつに心酔しきっているのだろう。
「で、ここに有るのが日本。本当に小さな島国だね……だけど素敵な国だよ。平和で安全と言われている。昔は黄金の国ジパングと言われて、神が住む国ともいわれていた」
神? 馬鹿じゃない? こいつ……やはり頭がおかしいわ。
「以前カベルネにも言ったけど、俺の住んでいた世界には魔物はいない。だから剣という物は廃れていく……時代は弓矢系に移行していくんだ」
「で、ですが、弓は……」
「そうだね、引いたりするのに時間がかかる。そこで俺達は考える。どうしたらもっと効率よく人間を殺せるのか……一撃で殺すにはどうすれば良いのか」
「え? ちょ、ちょっと待ってよ……に、人間同士で殺し合いって……」
「この世界にもあるだろ? 国盗り物語が……そう言った事だよ。それに俺が住んでいた世界には宗教が沢山あってね……自分が崇めている神や仏が一番だって皆が思っているんだ。まぁ俺の国はそういった考えをしている人は少なく、多種類の神や仏を崇めたりしていたけどね……」
「しゅ、宗教……ですか……」
「この世界にもあるんでしょ? 宗教。それが沢山あるんだ。俺達は八百万の神と言って全ての物に神様が宿っていると言われて育って生きてるんだ。だから全ての神様は崇められるものだ、だから宗教に関して心が広いんだが……世界は広い。そういう風に思っていない人が世界には沢山いるんだ……で、その結果、人が人を殺し合う……。まぁ、これは俺の持論だけどね……諸説あったりなかったりと……ここは信用しなくていいかな……」
「だ、大丈夫です……続けて下さい」
あんたは大丈夫かも知れないけれど、私には大丈夫ではない。何が何だか分からない……。
「俺は学校を卒業して会社……商人として働く事になる。だが、そこで運命は悪戯をするんだ」
「悪戯?」
「そう、建物を作っているときに、はるか上空から物を落としてくれたらしくてね……神様曰く、手違いで俺を殺してしまったらしいんだよね」
ば、ばかげた話だ……。
「そして、俺は死んでしまい……生き返らせてもらう事になったんだけど……」
これは嘘だ。こいつの作り話……こんな話が信用できるはずがない。
★★★★★★
などと、メルトの奴は考えているのだろう。まぁ難しい話だからね。カベルネが信じてくれているのなら……俺はそれで十分だ。
「元の世界では俺の死体はグチャグチャらしく復元は難しいらしい。神と言っても万能では無いと言う事かもしれない……それとも、何か都合が悪かったと言う事かもしれない……それは本当に神のみぞ知る世界だ。で、俺はこの世界……レグリダソーダに連れてきてもらったというのが……始まりの話だ」
神々の悪戯……それは本当にあり得るのか……そう言われたら俺はあり得るというだろう。現に、俺はそれでここに居るのだから。
「し、信じろというの……こんなばかげた話を……」
「本当の話だからね。それに証明できるものは幾つも見せているだろ? 俺が持っている不思議な武器……それについてはどう説明するんだ? メルト……」
「そ、それは……ま、魔法……」
「いいや、これは科学で立証できている話だ。火薬という物質を使って鉛玉を飛ばして攻撃しているんだ……。これが火薬だ。火を点けると破裂する。それに……このライトについて、お前は何て答えるんだ?」
俺は懐中電灯を召喚し、メルトに向けて照らすと、メルトは驚いた顔をする。夜に点けたランタンだって火ではなく電化製品だと言う事を理解してもらいたいものだが……。その点、カベルネは素直というか、純粋無垢な子だからすぐに信じてくれて俺は大助かり。流石俺の天使様。
「しかも俺は自分のステータス……能力を付けたりする事が出来る。これはここに来るときに神様が俺に付けてくれた特殊能力の一つだ。お前みたいに俺を信頼してくれていない奴は無理だが、カベルネのように俺の事を信頼しきってくれている子に、新しい魔法を覚えさせたりする事が出来る……だから俺が魔物の位置を把握する事が出来ると言う訳だ……。一人一つという能力という物は俺にとって存在しないと言う訳だ……分かったか? メルト」
「あ、ありえない……」
「そう思いたければそう思えば良い……さて、お話はここまで……。これはお前の仲間に敬意をと言う事で話してやったんだ。喋ったらお前も仲間の元へと送ってやるよ。じゃあ、次の町を目指すか」
茫然とするメルト、信じられないのも仕方がない。だが、カベルネは楽しそうにしているのならそれでOK。
「カベルネ、出発の準備をするよ。メルト、もう動けるなら……早く準備をしろ。駄犬、これをお前の仲間のために捧げるよ……」
そう言って俺は菊の花を五本召喚してメルトに渡す。そして立ち上がり、テントの召喚を解除して町へと向かう準備をするのだった。




