46話 最後の別れの言葉に…
翌朝になり、私は目を覚ますと……身体が異常に熱くダルい。体調を崩したようだ。あのバカが昨晩食べさせたカレとか言う食べ物が原因だろうか……。タイチのやつは朝から私の事を駄犬と呼び、私を苛立たせる。本当に腹が立つやつだ。そして、出発の準備が終わり、私等は次の町へと向かうのだが……物凄く怠く、歩くのも嫌になる。
「ちょっと休憩をしよう。駄犬、顔が真っ赤だぞ……」
「う、煩いわね……放っておいてよ!」
「ふ〜ん……あっそう……。ねぇ、カベルネ……」
アイツはカベルネには優しい。多分恋心か何かあるのだろう。カベルネもそうだと思う。私は邪魔者だ……それは理解できているが、私はこの道でしか生きていけない。
もう……幼馴染みの皆はいないのだから。
「め、メルトさん……こ、これ……美味しいですから飲んでみて下さい」
カベルネが変な筒型を私に渡す。
「ちょっと形など変わってますが、それは水筒です。そこのボタンを押しながら飲むんですよ……」
変わった水筒だ。多分、タイチの奴が手に入れた変わった道具だろう。かなり喉が渇いているので私は有り難くそれを受け取り飲み始める。一口飲んでみると、味が付いた水で、私は驚く。お茶ではない……果物を絞ったものでも無い初めての味だった。
「えっと……それはポカリという飲み物だそうです。か、顔が赤いですけど……大丈夫ですか?」
「う、うん……ちょっと身体が怠くてね……ごめんね……心配かけてしまって……」
「い、いえ……無理しないでください……。それ、ゆっくりで良いので、全部飲んで構いませんから……」
そう言ってカベルネはタイチのいる場所へと戻って行く。あいつのどこが良いのか分からない。確かに不思議な力を持っているが、それを世界のために使用しないなんて馬鹿げている。
あ〜もう! 頭がぼーっとして思考が上手く出来ない。少しズキズキするし……。
「駄犬、今日はここで休む。お前はそこで座ってろ」
「な、なんでよ! まだちょっとしか進んでないじゃん!」
「俺の決定に逆らうな……駄犬。カベルネ、テントの準備をするよ……手伝ってくれるか……」
「はい!」
嬉しそうに手伝い始めるカベルネ。私も手伝わなくては……また変なものを食べさせられる……。
「駄犬……お前が手伝うと時間が掛かってしょうがない。そこで座ってみてろ。それも勉強だ。駄犬」
クッ……マジでムカつくやつだ……。だけど、たしかに身体が思うように動かない……ちょうど良い機会だから少しだけ休ませてもらおう……。
気が付くと私は森の中を彷徨っていた。ここは何処なのだろう。カベルネやタイチのアホが見当たらない。
「か、カベルネ〜! タイチー……」
徐々に森は霧に包まれていく。
「――メルト……」
私を呼ぶ声がしたので振り向いてみる。すると、かつて私の仲間だったイザヨーテがそこに立っていた。
「い、イザヨーテ! あなた無事だったの! 魔族から逃げ切れたの!」
呼び掛けると、イザヨーテは悲しい顔をする。イザヨーテは私の幼馴染みの一人。同じ村出身で、同い年の女の子……私の親友。
「メルト……ごめんね。一人にさせてしまって……」
「何言っているのよ……大丈夫だよ。イザヨーテ……でも、無事だったら早く姿を現して欲しかったよ〜……そしたらあんな奴と一緒にいなくて済むのに……」
「あんな奴……あぁ、タイチって男の子ね……」
「知ってるの? イザヨーテ……」
「少しだけ話を聞いただけ……あったことは無いわ。どうなの? 今の生活は……」
「大変。だけど、私……魔物を一人で倒せるようになったんだよ!」
「良かった……心配だったんだ……メルトは本当に臆病だから……」
どこか寂しそうだけれど、ホッとした表情を見せるイザヨーテ……。何か変だと私は思った。
「カベルネって女の子が色々と世話をしてくれてね……戦い方等、細かく教えてくれるの! 魔法使いなのに」
「カベルネ……そう、魔法使いの仲間がいるの……」
「仲間っていうか……一時的にね。イザヨーテが無事だったのなら私はイザヨーテと一緒に冒険するよ!」
「……ごめん。それはもう……できないんだ……」
「え? ……な、何で? だ、だって私達……親友だよ……私、イザヨーテに何かした? したなら謝る! ごんなさい!」
「違うの……悪いのは私……一緒にいるって約束したのに守れなかった……」
「守れてなくない! 今こうして一緒にいるじゃん! これからまた一緒にやっていけば良いじゃん! 二人を紹介するよ! 一人はムカつくやつだけど、もう一人は良い子なんだよ!」
「メルト……ごめん。それはできないの……」
「イザヨーテ……そろそろ時間だよ。彼女が待ってる」
少し離れた場所にロンドやロジーナ……ヌコターコが悲しそうな顔で立っていた。三人とも私の村出身で幼馴染み。ロジーナとヌコターコは一つ上のお兄ちゃん的存在で、ロンドはイザヨーテの双子の兄。
「分かってる……メルト。彼に言ってくれる? 無茶な物でなければ制限は特にかけないって仰有っていたと……これは大事な事だから……必ず伝えてね」
制限? なんの話? 彼とはタイチのことを指しているのか?
「い、イザヨーテ……何を言っているか分からないよ……それに、ロンド、ロジーナ……ヌコターコ! 何でそんなに離れてるの……」
「彼に言っといてくれるか……メルト……仇を討ってくれて感謝すると。そして、お前を頼むよってさ……。イザヨーテ……時間だよ。もう……お前には新しい仲間がいる。大切にしろよ。好きだったよ……メルト……」
「ロ、ロンド! な、なにを言っているのよ……わ、私だってロンドが……」
「サヨナラ……メルト……もう……行くね」
「い、嫌だ! 嫌だよイザヨーテ!」
追いかけようとする私の身体が動かない。イザヨーテ達は悲しそうな顔して霧の向こうへと行ってしまう……。
私は手を伸ばしその後ろ姿を追いかけようと、引き留めようとするのだが……それは叶わぬ事だった。
次に私が気が付くと、頭には何かが貼られており、それは冷たくて気持ちよく、毛布が何枚かかけられていた。これが身体を動かせなかった原因かもしれない。そして身体は汗でビッショリであった。身体を起こし、周りを見渡すがそこは先程の森とは別で、タイチが休憩すると言った場所だった。
空は既に真っ暗になっており、私は何が起きたのか……状況が掴めなかった。
「ん……気が付いたか……。体の調子はどうだ?」
「た、タイチ……。み、みんなは……」
「みんな? 何を言ってるんだ……。まぁいいや、着替えはそこに置いておくから、後でテントの中で着替えてくれ。あと……少し話をして……良いか……」
「な、何よ……」
「真面目な話だ。いい加減な気持ちで話す訳じゃない。これはカベルネとも相談した事なんだ……」
カベルネと相談した? 私は……お払い箱って事?
「話すかどうか、随分迷った。だが、ここまで離れたし、先に進むために話をする……」
「な、何よ……止めてよ……わ、私をどうするって言うのよ……」
普段のタイチと雰囲気が異なっている。駄犬と呼んでいたあのタイチではない……。
「良いか、心を落ち着けて聞いてくれ……メルト」
駄犬と呼ばずに名前で呼ぶタイチ。これは完全に何かがおかしい。私は捨てられるのだろう……。二人は恋仲ではないが、お互いに気が向き合っている。私が邪魔なのだろう……。だが、こんな場所で言うのは止めてくれても……次の町でも構わないじゃん……。
「話は……お前の仲間だった奴らの事だ……」
「な、仲間……だった?」
「お前の記憶がどこまであるのか分からないから……曖昧な答え方をしてたけど、ハッキリ言う……四人は死んだんだ……」
タイチは真剣な目で私に言う。先ほどまでのイザヨーテやロンド等の会話が私の頭に蘇る。あれは夢では無い。たしかに私の前に彼や彼女らが立っていた。
だが、タイチは死んだという。その最後を私に説明してくれた。三人は辛うじて五体は揃っていたらしく、五体を揃え、同じ場所に埋めることができたとの話だったが、女性だけは何処を探しても頭が見つからなかったらしい。
仕方無く、体だけ埋めることにし、タイチは手を合わせたということを話した。信じろと言われると、多少、記憶があるので現実が目の前に姿を現し、私の心を締め付ける。
「無念だったと思うよ……だから俺は奴の頭を粉砕してやった」
何も答えることは出来なかった。そこには聞きたくもない現実という言葉が私の目の前に有り、受け入れざるを得ない状態だったからだ。
「話は……それだけだ。だからお前は一人でも魔物を倒さなくちゃいけないんだよ……盾役だった彼はもう居ないから……」
ヌコターコの事だ……。
「彼等のために……生きろよ。お前が幸せに生きていくことが……彼らの供養になる」
そう言ってタイチは席を立つ。
「待って……私の仲間が伝言があるらしいの……無茶なこと以外だったら……制限をかけないって言ってたわ……意味がわからないけど」
「お前の仲間に感謝だよ……ありがとうございます。って言っておいてくれ……。それじゃあ、着替えたらカベルネから薬を受け取り飲んでくれ」
タイチはそう言って席を外すのだった。




