45話 ケツの穴が小さい男だと思われたくない
やはり雨が降り始め、俺達は慌ててテントを張る。六人用のテントなのでかなり大きいのだが、駄犬がいるし、多少は距離を取って寝る方が良いだろう。
雨音が強くなり、カベルネはテントの窓についているファスナーを開き外を眺める。すると、煩い駄犬がキャンキャンと喚き始める。
「な、何それ!! 何で外が見えるのよ! それにこの素材は布じゃないじゃん!」
「煩い駄犬……黙れ。雨が止まなきゃ先には進めん……。頼むから死んでくれ……」
そう言って俺は横になって本を読む。本は料理の本だ。ちゃんと飯を作れるようにならないといけないからだ。
「あんたはそんな書物を読んでいるけど……意味を理解しているの? アンタみたいな奴がさ!」
「理解しているから読んでいるんだろ……お前と一緒にするな……駄犬」
「な、何ですって! じゃ、じゃあこれになんて書いてあるのか言ってみなさいよ!」
駄犬こと、メルトはカベルネが眺めていたファッション雑誌(かなり読み込まれているためボロボロ)を引ったくり、俺に見せる。
「『彼氏とデートするならこの服で決まり! ワンピと麦わら帽子でこの夏、男を悩殺しよう!!』だ。駄犬」
ファッション雑誌と言っても、俺の読んでいる雑誌は若者向けの雑誌。高校生や大学生がモデルになって色々なポーズを決めている。※但しイケメンと美女に限る。
「そ、そんな事が書かれているんですか……。た、確かに素敵な服ですが……文字は色が付着していますし……」
顔を真っ赤にしながら自分が眺めていたページを見つめるカベルネ。
「塗料だよ。そうやって色をつけるようにして目立つようにしているんだ。そしたらみんなの目を引くだろ?」
「な、ナルホド……流石タイチさんです……」
「ちょ、ちょっとカベルネ! 何でこんなやつの言う事を信じるのよ! 嘘を言っているだけに決まっているじゃない! 分かるはずないじゃん! こんな文字……私だって沢山の文字を見てきたけど、こんな文字、初めて見たんだから!」
やれやれ……純粋っていう言葉を知らん奴は物凄く面倒臭い。
「駄犬、それは日本語と言うやつだ。良いか、見てろよ……」
そう言ってノートと鉛筆を取り出し、五十音を書き始める。書いてある文字が雑誌と同じ文字であるがためにメルトは驚いた顔をする。日本人なのだから当たり前でしょ……。
「これが五十音だ。これが基本となって文字が書かれている。そして、これは漢字というものだ。その物や形をもとに作られている。これを見ろ……」
馬の字がどうやってできたのかを書かれた本を召喚して二人に見せる。
「これは馬の絵。これが徐々に変形してこういう字になったんだ。こうやって見ると、馬が走っている感じがするだろ? こんな感じで絵が文字になって出来上がったんだよ」
「な、なるほど……凄いです……」
カベルネは純粋に驚いてくれるが、メルトはそうでは無く疑いの目で俺を見つめる。
「まぁ、駄犬のような馬鹿に理解されたいとは思ってはいない。俺は新しい飯を作るために勉強をしているんだ。だから静かにしててくれないか……駄犬」
カベルネは素直に返事をして再び本を見始め、静かにしようとするのだが、駄犬のメルトは「この服は可愛くない」とか、「どうやって魔物からこういった場所を守るの?」とか疑問を口にしていたから煩くてしょうがなかったのだった。
翌日になっても雨は降り続ける。暇な時間は流れていく。天気予報がある現代社会は素晴らしいものだと思いながら外を眺めていると、冒険者らしき人達が街道を歩いているのを目撃する。
「こんな雨でも外に出る人がいるんだな……」
「何言ってるの……あれは依頼をこなしてるんでしょ……多分、護衛か何かの仕事をしているんじゃないの?」
「ふ~ん……ご苦労な事ですね~……」
メルトの言葉に俺は適当な返事で返す。
「普通はああやって稼いだりするのよ……あんたがおかしな武器を使用するから荒稼ぎが出来ているだけで、普通はそんなに稼ぐことができないんだから」
「おかしな武器とは失礼な奴だな……駄犬はあれから何匹の魔物を倒したって言うんだよ。言ってみろ……駄犬」
「クッ……何時か覚えてなさい……あんたに天罰が下るわ」
助けてもらったくせにそう言うセリフを言う奴って初めて見たよ。本当にこいつは俺の事をなんだと思っているのだ……それに、俺の力は正義の力ではない。それすら理解しない奴は本当にバカだろ……。
★★★★★★
正直、テントの中はつまらないのだが、私にとっては至福の空間である。だってタイチさんと同じ空間にいられることができるのだ。朝起きたらタイチさんが隣で横になっている。本当に雨様様である。
「明日は……晴れますかね……」
「いや、あともうちょっとしたら止むんじゃないか? そしたら移動を開始しよう。駄犬、テメェが一番準備が遅い。今すぐ動けるように準備しとけよ」
「チッ……偉そうに……」
「早く準備しろって言ってんだよ、駄犬」
そう言ってタイチさんはメルトさんの後ろから蹴りを入れ、メルトさんは前のめりに転ぶ。少し可哀想だと思ってしまう。だが、この幸せが終わるのがものすごく嫌だという思いの方が強かった……。
★★★★★★
蹴りを入れたらカベルネの眼が……。かっこ悪い所を見せてしまった。もっと余裕をもって接しないといけない。
俺が予想したように、一時間ほどして雨は止む。やはり一番遅いのはメルトで、俺は真面目にイラつきを覚える。あれだけ早く準備しろと言っているのに髪型が決まらないと言って時間を掛けやがった。
今夜の晩飯はレトルトカレーにして、こいつのだけ激辛にしてやる事に決めたのだった……。




