44話 そんなの俺じゃない誰かかがやりゃ良い
魔物の死骸を袋に詰めていると、カベルネは周りを警戒してくれるのだが……今の俺には必要はない。しかし、カベルネには気配察知能力が有るわけではないため仕方ないことだった。
「い、今のは何なのよ! あ、あんたは一体何者なの! ま、まさか魔族……」
怯えるかのように俺を見て叫ぶメルト。カベルネは困った目をして俺を見つめる。なんと答えて良いのか考えているようだった。
「ちょっと変わったスキルを持った冒険者だよ。いちいちキャンキャン喚くなよ……駄犬」
「ち、ちょっとですって! そ、それの何処がちょっとと言うのよ! 考えらんない事を言わないで!」
「お前は知らないかも知れないが、これは銃という武器だ。分かったか? 別に何かを考える必要は無いだろ……お前は犬なんだから」
「ば、馬鹿にしないで! 私はこれでも色々と調べているんだから! 人が持てるスキルは決まっている! それにスキルは天が与えてくれた二物にない才能よ! 何でそんな人知を超えた力を持っているのよ!」
「お前が知る必要は無いんだよ、糞犬! じゃあこれは大魔法って事だよそれ以上でもそれ以下でもないと言う事で良いじゃないか」
「良くない!! そんな力を持っているなら世界を救ってやろうという気にならないの!」
「ならないね! 俺はそれをしなくても良いと言われている! それをするのは勇者や英雄だ! 俺はどっちでもない、ただの冒険者だ! そんな命令をされる覚えはないね!」
そうだ。あの子は言った。別に世界を救う必要は無いと。好きに生活をすれば良いと言ってくれたのだ。
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本来であればメルトさんの言う通りなのかもしれない。タイチさんが持っている奇跡のような力は世界のために使われるべきなのだろう。だが、タイチさんが言う様に……本当に力を与えてくれた人がそう仰ったのであれば……タイチさんは自分の生きる道を選んでも構わない……のかと、私は思ってしまう。これに関しては全てタイチさんしか分からない……。
メルトさんはタイチさんをずっと睨みつけて、動こうとはしない。タイチさんは呆れた表情をしてメルトさんを見ている。
私は何と答えればよいのだろうか……答えようがなく、ただ黙って二人の様子を見守る事しかできなかった……。
「お前と話していても何の価値もない。それに説明する義理もない。俺は勝手に生活していくから……お前は勇者様や英雄様でも探したら? 俺はそう言った人物と違うから。じゃあな……駄犬。その武具の代金はサービスしてやるよ」
そう言うと、タイチさんは歩き始めて行く。
「た、タイチさん! 私を置いて行かないで下さい!」
「カベルネ! あ、あんたは……知っているのにそれでも良いの……」
追いかけようとするとメルトさんが私を引き留めるように言う。良いも何も全てはタイチさんが決める事……私は彼に付いて行くだけ……。そう私は決めたのだ……。
「た、タイチさんが決めたなら……それが全てだと……思います。た、タイチさん!! 待って下さい!!」
そう言って私は大事な人の背中を追いかけて行くのだった。
★★★★★★
全く……俺は鈴木太一それ以上でもそれ以下でもない。ましてやヒーローでも勇者でも何でもない……ただの高卒社会人一年目だ。世界を救う旅? 馬鹿らしい……それだったら世界の秘宝でも探している方がまだ面白い。それに、カベルネと一緒にくだらない話をしながら世界の不思議を解き明かしていく方が素敵で楽しい。
「た、タイチさ~ん! 待って下さ~い! 置いて行かないで……」
慌てて走ってくるカベルネ。俺は立ち止まりカベルネが追い付くのを待つ。
「もう! 歩くのが早いです……」
頬を膨らませながら上目遣いで俺を見つめる。それが可愛くて萌えてしまいそうになる。
「カベルネは……俺に世界を救って欲しいの?」
「え? ……た、タイチさんの好きにすれば良いかと思います……。だって……救わなくても構わないって言われたんですよね……?」
「うん。カベルネは信じてくれるの? 俺の言う事を……」
「もちろん!! 信じますよ。私の雇い主様は大魔法使い、ミケランジェロ……? 様ですから」
屈託のない笑顔でそう言ってくれる。俺の心はそれだけで癒やされてしまう。俺達が話していると慌てて駄犬こと、メルトが追いかけてくる。息を切らせながら。
「ま、待ちなさいよ! 私を置いて行かないで!」
駄犬のくせに生意気な奴め……俺の幸せをぶち壊しやがって……。
「駄犬……お前は勇者とか英雄でも探してれば? 俺はそう言った類の人間じゃない。ただの冒険者だから。行こう、カベルネ」
そう言って歩き出すと、カベルネは俺の隣に並ぶかのように歩き始め、駄犬は不貞腐れた顔をしながらも黙って俺達の後をついてくるのだった。
暫く歩くと再び魔物の気配がして俺達は駆除をする。その間に動物なども捉まえて始末をし、袋に仕舞ったりしていた。
そして太陽が沈みだし空が茜色に染まりかけてくるのだが、何だか雲行きが怪しくなってくる。
「雨が……降るのか?」
「雨……ですか?」
「うん……ほら、あっち空が……」
「真っ黒ですね。夜が迫っているからでは無いのですか?」
「ありゃ雨雲だよ……雨を降らせる雲。どっかでキャンプを張る必要があるかもしれないな……」
「と言う事は……動けないと言う事ですか?」
「そうなるね」
仕方ないですねとカベルネは言って空を眺める。風は温く、雨雲が迫って来るかのように見えるのだった。




