39話 突然の出来事に大混乱
メルトの実力を把握するには十分な一日だということが分かった。コイツは仲間がいなくては役に立たない剣士だということ。一人では全く仕事ができない……と言うか、この場所の魔物がこいつのレベルにあっていないのだ。駄目剣士ってわけでは無く、盾役がいて、初めてコイツは役に立つ剣士ということだ。そして、一人での戦闘経験が全くないのでどのようにすれば効率が良いのか分からないのだろう。尚且つ、周りの状況を確認しない。言うなれば、他の魔物は仲間がやってくれるものだと頭の中でそう思い込んでしまっているのだ。多分、仲間の指示があって動くと言う事だ。面倒臭い。
「おい、へっぽこ剣士……」
「ヘッポコじゃない!」
「聞くが……お前は何匹の魔物を殺ったんだ? カベルネは10体程、俺は15体程……で、お前は?」
「ゼ、0……」
そう、コイツは一体も魔物を倒すことなく一日を終わらせたのだ。全く役にたっていない。壁役にもならない。まぁ、俺とカベルネが倒している魔物の数がある意味異常とも言えるのだが……それでも0は無いだろうと俺は思う。
「タイチさん、だいぶ剣の扱いに慣れて来ましたね」
「カベルネの魔法があるからこそだよ」
「いえいえ、タイチさんがいるから私の魔法が役に立つんです。本当にありがとうございます」
「これからも連携を深めていこうな」
「はい!」
俺達の会話を聞いて、悔しそうな表情をするメルト。今後、コイツはどうやって生活するのか話し合わなければならないだろう。
夕方になり、俺達はギルドへ向かう。本日倒しただけでもガルボは1万2000ガルボとなり、ある意味荒稼ぎ状態だった。だが、これも俺とカベルネの二人で倒したからであって、メルトは傷つき、回復魔法で癒やされるという邪魔にしかならない存在で有ることには変わりはなく、しかも1ガルボも稼ぐことができなかったという事で、再び俺の世話になることが確定したのだった。
宿屋に戻り、食事の準備をするのだが、この女は料理を作る事すらできない事も発覚。俺の作った食事を食べたなら、「まぁまぁね……」などと抜かしやがった。だったらテメェで作れと言いたかったが、カベルネの顔を見て我慢することにしたのだった。
食事が終わり、カベルネはいつものようにダイニングで雑誌を眺めて目を輝かせている。今回は三部屋を借りているため、一人一部屋ずつ休むことが可能だ。
「カベルネ、その書物は何?」
「こ、これですか?」
メルトがカベルネの持っている雑誌に興味を抱いたらしく話しかけるのだが、カベルネはなんと答えたら良いのか分からず困った顔して俺の顔を見る。
「服が沢山載っている本だよ。興味でもあるのか?」
「そりゃ……あれだけ目を輝かせながら見ているんだから少しくらい興味がわくでしょ。どんな服が描かれているのよ?」
そう言ってカベルネの横に移動して覗き込むと、写真に驚きを見せる。
「な、何この絵は!! なんて繊細に描かれているの……だ、誰がそんな絵を描いたというの……」
カベルネは俺を見つめるが、俺は答えることが出来ない。だって写真画像だもん文字だってそういうもんでしょ……誰が説明できると言うのさ。
「まぁ、お前の冒険している世界が狭いって事だよ。俺達はこんな凄い雑誌……本を手に入れられる程の冒険者さ。少しは敬えよな」
そう言って誤魔化すしかない俺。こう言うのが面倒だから厄介事は嫌だったんだよ。
俺は項垂れ、疲れた表情を見せると、カベルネは苦笑いをするしかなかったのだった。
★★★★★★
技術や文明の違いでこの書物はできていると言うのを知っているのは私だけだ。タイチさんからの話によると、映写機と言うもので風景を記録し書物に写している……印刷と言うものらしい。
初め見たときは驚いたが、話を聞いていたので直ぐに納得ができた。魔法の板も多分、この絵に描かれているものだろう。確かにタイチさんが言うように皆が耳に当てたりしているのが描かれている。
それにしても、女性の服装が煌びやかで美しい。髪の色も多種多様。色々な人種がいると思われる。そして、服装からして魔物がいないというのも本当の話なのだろう……。
だが、私の観ていた本は、メルトさんが奪い取るように魅入ってしまっている。まぁ……タイチさん次第になるが、私はいつでも観させてもらえるのでメルトさんに見せても構わないだろう。
「め、メルト……観られますか? 私は一度目を通しているんで……」
「え? いいの? 悪いね〜」
そう言ったら自分の手元に引っ張り書物を独り占めにするように見始めてしまった。少し残念だが、お風呂にでも入って気晴らしをしよう!
★★★★★★
カベルネは優しいな……全く。
「メルトさん、アンタ……幾つだよ?」
「女性に年齢を聞くものじゃないわよ」
「出ていきたいのか? 文無し女」
「……19」
「全く……俺と変わんないじゃないか。これからは呼び捨てで呼ばせてもらうからな」
「偉そうに……」
「次に口答えのような言葉を発したら本当に出ていってもらうからな……」
脅しの言葉をかけると、ばつが悪い顔して雑誌を観ていた。
「で……お前、いつまで俺達と同行するつもりだよ?」
本題に入ってみる。カベルネは風呂に入っているから邪魔されることも無い。流れる沈黙。メルトの表情が強張っている。
「な、仲間が……見つかるまで……」
「俺達と一緒に行動してたら仲間は見つかんねーよ? それこそギルドで探すしかなくないか?」
再び沈黙が流れる。メルトは俺を睨みつけるような俺を見つめる。
「あ、あんた達に付いていく……って言ったら……どうするの」
「断る」
「あの子は良いって言ったわよ」
「じゃあ、二人でやれば? 俺はお断り」
その瞬間、後ろで物音がする。まさか早くないか? 風呂から出るの……。
後ろを振り返ると、風呂上がりのカベルネが茫然とした顔で立っており、俺を見つめていた。やはり話を聞いていたようだ。
「そ、そんな……た、タイチさん……」
「前にも言ったでしょ……俺はヒーロー……英雄でもなければ、勇者でもない。ただの冒険者だよ。俺はのんびりゆっくりと自分の住む家で生活をしたい。それに、君には大事な幼馴染みがいるでしょ?」
「リ、リードは関係ないじゃないですか……わ、私はタイチさんと……」
ポロポロと涙を流し始めるカベルネ。いたたまれない気分になるが、俺はそれを堪える。いつかはこういう事になるのだから……。
「あらあら、泣かしちゃった〜」
「お前が言うな。お前がくだらない相手に負けてるのがそもそもの原因だろ……俺はお前と旅をする気はないし、一緒に居たいとも思わん」
カベルネは別だが……とは言えない。
「わ、私は……ぱ、パートナーじゃないんですか……」
先ずはこちらを片付けるべきか……こうなるから俺は風呂に入ったタイミングを狙ったのに……。
「わ、私の雇い主はタイチさんです……グスッ……」
「でも、メルトは雇ってないよ。雇ったのは君だけだ。俺はこの女を雇う気は全くない。使えない冒険者は必要ない」
「わ、私だって使えない冒険者です!」
「カベルネ、君は魔物を倒せるようになっただろう……俺の力なくともさぁ……」
「た、タイチさんがいるから倒せるんですよ! いなきゃ出来ません!」
「出来るよ……君は……」
こりゃ平行線だと思いながらメルトを睨みつける。この女はニヤニヤして状況を楽しんでやがる。
「明日になったらお前は出ていけよ。他の冒険者を当たりな」
「いやよ、私は付いていくわ」
「魔物も倒せないやつが何を言ってやがる……」
「た、タイチさん……」
チッ! この女はわざと長い沈黙を作りやがったのだ……この状況を作るために……。俺がカベルネを放っておけないと思っていやがる……。
「カベルネ、雇用契約は破棄だ……明日から二人で生活すりゃ良い。これは今までの報酬だ。10万ガルボはある……」
「そ、そんなの嫌です! 離れたくありません!」
そう言ってカベルネは俺にしがみつき泣きじゃくる。まさかの言葉にメルトも少し茫然気味だった。そりゃそうだろうな。俺がこの子にこんな言葉を言うとは思っていなかったのだろうから。
「じゃあ、二人で達者に暮らしてくれよ。カベルネが上手く使ってやりゃ、その女は魔物の一匹くらいは倒せるんじゃないか?」
そう言って俺はダイニングから自分の部屋へと逃げ込んだ。このままだと「分かったよ」と言いかねなかったからだ……。




