34話 名言は迷言にならないようにしよう
裸は見られてはいなかったが、恥ずかしい所を見られてしまった。これはもう……一生離れることは出来ないかも知れない……。しかし、タイチさんがくれたこの道具は良い匂いがして物凄く泡立つ。こんな物、初めて使った。どこかの王族では使っていると思われる体を洗うための道具……物凄く素敵だ。
「――カベルネ?」
「は、はい!」
扉の向こうにタイチさんがいる……向こうには私の服や下着が置いてあるのに……み、見られてしまったかもしれない……。
「タオルをここに置いておくよ。それと、新しい服も用意しておいたからそれを着てくれ」
「わ、分かりました……」
扉が閉まる音がしてタイチさんが出て行ったことが分かるのだが、ドキドキが止まらない。私は急いで体を洗い浴槽に飛び込むのだった。
そして、茹で上がり風呂から上がる。正直フラフラだ。用意されたタオルで体を拭き、用意された服を手に取るのだが……こ、これは……なんという肌触り……い、今まで私が着ていた布系の服とは少しどころか、全く違う服じゃない!! こ、この様な服を着ても良いというの!
私は慌ててダイニングへ行くと、タイチさんが本を読んでいた。
「た、タイチさん! この高級な服!! ほ、本当に私が着ても良いのですか!!」
「こ、高級? と、というか……しっかりと服を着た方が良いよ」
タイチさんは横を向いてしまい顔を赤くしている。私は自分の体を見ると……なにも着ていない状態だった。慌てて出てきたため服を着ていなかったのだ!
「き、きゃー!! 見ないで!!」
「だったら服を着てくれよ……俺は後ろを向いているから……」
そう言ってタイチさんは後ろを向いてくれて、私は急いで服を着るのであった。
★★★★★★
まさか素っ裸でやってくるとは思わなかった。確かに店で見た服の素材で購入するより召喚したほうが良いと感じたから買わなかったのだが……。
良い物を見せてもらいました。胸の大きさは小ぶりだが身体は華奢。素晴らしいものです。はい。
恥ずかしそうに椅子に座り、顔を俯かせて何も喋らないカベルネ。気不味い空気になったので俺は風呂に入る事にした。
「あ、カベルネ……」
「は……はい……」
「似合ってるよ、その服……じゃあ、風呂に入るね」
一応、そういう言葉を言われると女性は喜ぶと誰かから聞いたことがある。
真っ赤な顔したカベルネは、更に真っ赤になったような気がするのだが、気にする事なく風呂へと向かう。浄化魔法を使っているから汚れという汚れはないと思う……が、それはそれで気持ちが悪い。身体や頭などを洗い、歯ブラシで口の中を洗うのだが、やはり浄化魔法を唱えてから風呂の中へと入る。久し振りの風呂は気持ち良く疲れが一気に吹き飛んで行く気がする。
湯船で身体を温まらせてから風呂から上がり、召喚したタオルで身体を拭いていく。自分の身体を拭いていて気が付く。身体が絞まったような気がし、筋肉もそれなりに付いたのではないだろうか。考えてみればほぼ毎日歩きっぱなしで、しかも剣等を振ったりと、ずっと身体を動かしている。そりゃ、筋肉くらいつくだろうな……。
ダイニングに戻ると、カベルネが椅子に座って俺が読んでいた雑誌を読んでいる……いや、見ていると言ったほうが正しいだろう。文字が分からないのだから。
まぁ、カベルネの服を考えるために召喚したファッション紙だから、観られても構わない。逆にああいった本を読んだりするのは当たり前の事だから。
「楽しい? その本」
「え? あ、す、すいません! 勝手に観てしまって!」
「構わないよ、カベルネの服を考えるのに使っただけだから」
「こ、この服……召喚した物なんですか……」
「まぁね。俺の服は全部召喚して出した物だよ」
驚いているが、嫌がっているようには見えないので良かった。
★★★★★★
召喚の能力は凄い。まさか服まで召喚して出せるというか、召喚してこの素材を出せるというのが凄すぎる。
暫く話をして、私達は宿のベッドで眠りにつくのだが、私は先程の本を借り自分の部屋で服を眺めてから眠るのだった……。
翌日になり、私達は武器屋へと向かう。タイチさんの剣はかなり刃こぼれなどしているのだろう。だが、店に入るとタイチさんはロッドを見始める。その理由は何故だか分からず、私は首を傾げるだけだった。
「このロッド……鉄のロッドとどう違うの?」
「コアの質と使われている材料にミスリルが20%含まれている。魔法の伝導率が異なるんだ」
「全部がミスリルじゃないの?」
「それならあるが……値が張るよ。15万ガルボになる。それでも良いかい?」
「なるほど……だからこの値なのか……じゃあそれを売ってくれよミスリルの奴」
「お? 買うのか……あいよ……ちょっと待ってな」
ほ、本当に買ってしまうの! そうしたら昨日換金したガルボが殆ど無くなってしまう! だ、大丈夫なのかなぁ……。
「お待たせ、これがミスリルロッド。15万ガルボだよ……」
タイチさんはガルボを支払い、ロッドを眺める。
「はい、カベルネ。これが新しい武器だよ」
白銀色のロッドを私に渡す。思わず受け取ってしまう。
「た、タイチさん……こ、こんなの……」
「あと、このバトルソードって奴、貰える?」
「そりゃ、3,000ガルボになるよ」
「構わないよ」
「景気がいいねぇ〜」
「まぁね。優秀な魔法使いがいるからね」
「なるほど、だからミスリルロッドか……ほら、バトルソードだよ」
「ありがとう。はい、ガルボ……」
タイチさんはガルボを渡し剣を受け取ると、袋に古い剣を入れる。普通で考えれば売り払ったりする筈なのだが……。
「買い取りしなくていいのか?」
「何が起きるか分かんないでしょ? こういったのは本当にいらなくなったら売り払うものさ」
「なるほどね。お前さん、賢いやつだよ」
「褒め言葉ありがとうさん」
タイチさんはそう言って店を出て行く。私は一礼して店を出ると、タイチさんに質問をした。
「な、何でこんな高価なものを買ったんですか?」
「装備はかためておく必要があるからだよ。前にも言ったけど、俺の召喚はいつ制限が掛かるか分からない。その時に焦ってはいけないんだ。だから今のうちに必要な物を集めて置くんだよ」
この人は何個か先を考えながら動いているのだ……。
「戦いとは、常に何個か先を読んで進めるって言う言葉が……有ったり、無かったりする」
「どっちなんですか?」
「人間、常に最悪を想定して動くものさ。答えは常に一つなんだから」
「答えは……一つ……」
どういう事なのだろう。最悪を想定して動くのは理解ができるのだが、答えが一つというのだけは理解ができなかった……。




