32話 味の良し悪しは日本人の心
洞窟を出るのに数日かかってしまう。入った時と同じように出るときも大変。私達は二人旅……大変だけれど私は幸せだ。
毎回思ってしまうけれど、これがリードだったらどうなっていたのだろう。私はリードと二人だったらここまで生きて行く事が出来たのかと、自分自身に疑問を投げかける。もしかしたら冒険者を諦めブルクスの村でリードと結婚し、リードが帰って来るのを待っていたのかも知れない。
「――結婚か……」
「ん? 結婚がどうかしたの?」
私達は洞窟の傍で休む事にしてテントを張っていた。
「い、いえ……な、なんでもありません……」
まさか口に出していたとは思っていなかった。私は慌ててテントを張る作業を進めるのだが、慌ててしまったため上手く手が動かない。私は不器用だ……。
だけど……タイチさんと結婚したらどうなっているのだろう……。少し想像できないけれど、多分私は幸せになっているだろう……ア・ナ・タ……なんて……キャ♥
★★★★★★
先ほどからカベルネが顔を赤くして悶えている。早くそちら側を固定してほしいのだが……先ほど言っていた結婚という単語。やはり女の子だからカベルネも憧れがあるのだろう。まぁ、リードとの結婚を想像しているのだろう。
「カベルネ……そっちを固定してくないか?」
「え? あ、はい! ごめんなさい! 直ぐにやります!」
カベルネは慌てて固定していたのだが、その結び目は緩く、結局俺が固定をする羽目になる。カベルネはひたすら頭を下げていたのだが、俺は笑って許す。
食事を終わらせ空を見上げると、まだ太陽は落ちていないのだが……空は茜色に染まっており何だか懐かしい気分になる。小学生の頃に学校のイベントで行われた山でのキャンプを思い出す。
あの時もこの様な夕日を見た気がする。あの時食べたのはカレーだった。少し焦げ付いたのが入っていたのも良い思い出だ……。
「どうしたん……ですか?」
「ん? ん〜……夕日が綺麗だなって……こんなにユックリと見たのは久し振りだったからさ……昔を思い出した」
「……か、帰りたい……ですか?」
「ん? いやいや。俺は帰れないし帰る気は全くないよ。俺はここで生きていくし、カベルネとの冒険生活は楽しいからね……」
「そ、そうですか! た、楽しいですよね! うん、私も楽しいですよ!」
カベルネは嬉しそうに楽しいと言ってくれる。俺と一緒にいて楽しいと言ってくれたのは嬉しい。
★★★★★★
帰らないと聞いて私は気分が高揚する。物凄く嬉しい! 私のと旅が楽しいとも言ってくれた! こんなに幸せな気分を味わえるなんて思っても見なかった。素敵な夕日に感謝をしなきゃいけないわ! ありがとうございます! 神様!
「そう言えばカベルネ……」
「はい、なんでしょうか?」
「……結婚に憧れがあるの?」
ま、まさか先ほどの話!
「ここってどんな風に結婚式を挙げるの?」
「そ、それは……ど、どんな意味でしょうか……」
な、何を言っているのですかタイチさん! ま、まさか愛の告白ですか!
「いや、ここって異世界……俺の居た場所と異なっているからね。どんな風に結婚すんのかって思っただけだよ。特に深い意味はないよ」
な、なんですとー!!
「そ、そうなんですか……」
私は……。
★★★★★★
何故顔を引き攣らせるのだ? そして直ぐに頬を膨らませるし……何で怒っているのかわからない。女心は複雑だ……。この話は終わりにして他の話をした方が良さそうだ。何か話のネタがありゃ良いが、こう毎日一緒にいるとネタも尽きてしまう。
そんな事を思いながらコーヒーを作ると、カベルネは俺にカップを差し出す。自分も飲みたいのだろうが、頬を膨らませているということは口も利きたくないと言う現れ……。仕方なくカップを受け取りインスタントコーヒーをつくる。もちろん前回と同じ様に粉末ミルクと砂糖を入れた甘々コーヒー。
「あれ? ……い、色が違うんですね……」
「まぁ……俺はブラックだからね」
「ブラック?」
「甘くしてないんだよ。苦味を愉しむんだよ」
「あ、あの……ひ、一口……良いですか?」
「どうぞ……」
機嫌が直るならその程度の事は大した事では有りません! カベルネは一口だけ口に含んで顔を歪める。
「うえぇ〜……に、苦いですよぉ……これ……」
「そうだよ。コーヒーは色んな飲み方が有るんだ。カベルネみたいに色々入れて味を愉しむのと、俺みたいに苦味を味わいその口に広がる芳ばしさなどを愉しんだりする飲み方などね……」
「変わってるんですね……」
「俺のいた所は味だけでは無く、香りや形、そういった物にまで拘っている所だったんだよ。だから俺にとってはそれが普通さ」
「な、なら……これからは……わ、私にも……そ、その……た、愉しさを……お、教えてくれませんか……」
「もちろんだよ」
そう言って俺達はコーヒーの香りを楽しみながら疲れを癒やし、明日に備えるのだった。
翌朝になり、アラームが鳴り響く中、俺は目を覚ます。すると、普段であればまだ夢の中にいるはずのカベルネも目を覚ました。
「あ……お、おはようございます……ふぁ〜あ……」
「おはよう。今日は早いね……もうちょっと眠ってても大丈夫だよ?」
「いえ、私も食事を作るのを手伝います。タイチさんばかりに任せるのは……」
「ありがとう。じゃあ、一緒にやろうか」
「はい!」
初めて俺達は二人で食事を作り、楽しい朝食を取るのだった。そして、お茶で口の中を濯ぎ、旅立ちの準備を終えた俺達。仲良く次の町を目指して歩き始めるのだった。




