28話 明日からの生活
夜が明け始める。空は紫色になり始め、徐々に太陽はその姿を現し始める。俺は何時間運転をしているのだろう。久し振りの運転でスピードを出すことが出来ず、ヘタレた運転をしていた。その時速は30キロ……。だって、事故ったら嫌じゃん! 隣にはカベルネが眠っているし、路面はそんなに良いわけではない……が、サスペンションがしっかり働いているお陰で揺れはそんなにしていないはず。しかも車酔いをしている人は誰もいないのが助かる。
暫く車を走らせても俺以外の人は全員眠りについている。隣で可愛い寝息をたてながらカベルネも寝ている。
それから30分程車を走らせると、城壁のようなものが遠くに見える。あれがリンダールの町だろう。俺は車を街道から少しだけ外れた場所に止め、ようやく休むことにする。運転で気を張って疲れてしまった。
だけれど、このままにする訳にはいかないのでアラームだけはセットしておく事にする……ダメだ、限界……Zzz……。
そして、周りが煩くて目を覚ますと、カベルネの顔が物凄く近くにあって驚いてしまった。
「か、カベルネ! お、おはよう……」
後退りをしようとしたが、シートのため後ろに下がることが出来ず、心臓がドキドキしてしまう。
「お、お師匠様……日が昇って随分と時間が……」
え? 嘘……。
時計を見ると、既に10時を回っていた。ギルバート一家も目を覚ましており、子供はお腹が空いたと言って泣いていたのだった。煩いと思ったのはこういう事だったのだ。カベルネは起こして良いのか判らず、俺の顔を覗き込んでいる時に俺が目を覚ましたらしい。
「既に何台かの馬車がこの馬車の横を通り過ぎて行きました。如何致しましょうか?」
車から降りて子供を黙らせようにも車の降り方が分からないらしく、カベルネ達は困っていたらしい。教えておけば良かった。
俺は車から降りると助手席のドアを開ける。そして、カベルネが慌てて降りようとしたので「ゆっくり、落ち着いて降りればいいよ」と言って手を差し出すと、カベルネは恥ずかしそうにその手に自分の手を添え、ユックリと降りる。
★★★★★★
タイチさんが珍しくと言うか、初めて私よりも起きるのが遅く、少しだけ心配になってしまった。顔を近付けたら目を開けたので声を上げて驚きそうになってしまった。
クルマとか言う馬車の降り方が分からないと言うと、申し訳なさそうにする顔を見たとき、私が聞いておけば良かったと後悔した。後で確認をしておかなきゃいけない。
タイチさんがクルマの扉を開けてくれ、私は急いで降りようとすると、タイチさんはまるで物語のお姫様にするように手を差し伸べ私をエスコートしてくれた。格好良い……素敵です。
ギルバートさん達も同じ様に降ろして、タイチさんはそのまま食事を作り始める。まだ起きて間もないのに。しかも顔などを洗うための水なども準備をしてくれ、気配りが本当に出来ている大人の人だと思う。本当に私よりも三つ歳が離れているだけとは思えない、対応力だと思う。私も見習わなくては……最低でも、生活魔法は憶えないと……。
暫くして食事を食べ終えると、タイチさんはここから歩いて町に行くと言う。その理由が分からなかった。
「このまま行くと入り口で兵士に怪しまれちゃうでしょ? そういったリスクは避けなきゃいけない。この魔法は誰も知らないんだから」
ギルバートさん達を含め、私に説明をしてくれる。タイチさんは荷台を出してくれ私達は荷物の移動を始めるのだが、タイチさんは少しお疲れの様子。
それもそうだと思う。こんな馬車を動かすのはとてつもなく疲れる作業だろう。だって周りを見渡しても馬の姿が見えないし、透明な板……確か、ガラスとかいう高級素材。何かの書物で読んだ事があるものだ。確か、テントにも似たのが付いていたけれど……あれは柔らかかった気がする。
荷物を運び終え、タイチさんは召喚を解除する。一瞬でクルマとか言う馬車などが消えてしまい、子供たちは大はしゃぎだ。私は再びギルバートさんの荷台を押そうとすると、タイチさんが困った顔をする。
「お師匠様、これも修業の一つ……ですよね?」
「え? ……う、うん……」
本当は嫌なのだろう。更に困った顔をする可愛いと感じてしまう私は悪い子だ。ギルバートさんと二人で荷台を押して行き、町の入り口まで到着する。
「ギルバートさん、俺達はここでお別れをさせてもらうが、昨晩の約束を忘れてはいけないよ」
「は、はい、ミケ様!!」
ギルバートさんは深々頭を下げる。まるでタイチさんが本当の大魔法使いのように見えてしまう。
「あと、これは餞別にくれてやろう。生活の足しにすると良い。おっと、今開くなよ? 俺達がいなくなってからそれを開くんだ」
タイチさんは何かが入った袋をギルバートさんに渡す。アレには一体何が入っているのだろうか。
「カベルネ、行こうか」
「は、はい! た、お師匠様……」
ギルバートさんとその家族に別れを告げ、私達はリンダールの町から直ぐに離れて行く。まだまだ私達の旅は続くと考えると、少し楽しく、嬉しいと感じてしまう。やっぱり私は悪い子だ……。
★★★★★★
大魔法使い様の恩恵に与り、私等家族はリンダールの町へとやって来る事は出来た。だが、生活するためのガルボが無い。私等家族はどうやって暮らせば良いのか途方に暮れる。私は商人だ。冒険者と違って直ぐにガルボを稼ぐことなんて出来やしない……。今更丁稚で仕事をするにも私には養っていく家族がおり、その費用を稼ぐには丁稚では無理だ。
子供もまだ手の掛かる年頃……。あのまま魔物に殺されてしまえば良かったのかもしれない等と馬鹿なことを考えてしまう。
「あなた……これからどうやって……」
妻は言葉を途中で止める。私の考えている事を理解してしまっているのだろう。
暫く立ち尽くしていたが、このままここにいても通行の邪魔だ。移動しなくてはならないと頭によぎる、先程ミケ様から頂いた袋を思い出す。生活の足しと言っていたが、魔法の道具なんて貰ったとしても私等には使いようが無い。そんな事を思いながら袋を開けて見ると……。
「ぉおぉ……な、なんという……大魔法使いミケ様……本当に感謝致します……」
袋の中身を見て、私は驚愕する。まさか、これ程のガルボを見ず知らずの私達に渡すなんて……。私は人目を憚らず涙を流してしまうのだった……。




