26話 さて、この先どうしようかね?
俺達が出会ったのはギルバート一家。彼等は最低限の荷物を持って逃げてきたようだ。旦那と奥さん、息子に娘ちゃんがいる。
ギルバートさんは40才で、奥さんも同い年。子供は10才で娘は9才の年子だという話。ギルバートさんの仕事は商人と言う事だが、何を販売しているのかは不明。正直、そこまでは聞かなかった。
戦争に巻き込まれたハーゲンの町からリンダールの町へ行き先を変えることになった俺とカベルネ。しかも彼女はギルバート一家の護衛を買って出ると言ってしまう。それも無報酬で……。
マジで勘弁してもらいたいと思ったが、これは彼女の優しさだと思う。俺ってばドライなのかね……。
リンダールの町に向かう途中に出てくる魔物たちを俺の剣で仕留めると、カベルネは少し驚いた顔をする。そして小声で俺に話しかけてきた。
「た、タイチさん、何でジュウを召喚しないんですか?」
「俺はそんな能力ないし、そんな物は知らないよ。俺は剣士だ」
「た、タイチさん?」
カベルネの銃も俺は召喚解除しており、カベルネはロッドで戦う事を余儀なくされる状態である。
「どうしたの? カベルネ」
「な、なんで……」
「シッ……それ以上言わないの。俺の特技は剣だよ……俺の秘密を知っているのは誰だけだっけ?」
「あ……そ、そうでした。す、すいません……」
本当に申し訳なさそうにするカベルネ。少し悪い事をした気分になるが、ギルバート一家を完全に信用する事はできない。俺の力は正直危険。ありとあらゆる物を作り出せている。但し肉は除く。
暫く歩くとギルバートさんが疲れた声を出す。俺は護衛のため荷台を引いたりしない。だが、カベルネは俺に手伝って欲しそうな目で見る。その目は本当にやめて欲しい。
「か、カベルネ……俺達は無報酬で護衛をやっているんだぞ……手伝うのは筋違いだ」
「だ、だけどタイチさん……彼等が進まないと私達は先に進めないんですよ」
こう言うことを平然と言ってのける俺のエンジェル。マジで勘弁してもらいたい。
「そう言ったってなぁ……」
「タイチさん……人助けですよ……私の事は助けてくれたじゃないですか……」
「あれは不可抗力でしょ……それに俺は勇者じゃない。冒険者だよ?」
「ですが……分かりました! タイチさんがそう言うなら私が荷台を引きます!」
そう言ってカベルネは荷台を引くのを手伝い始める。流石冒険者ギルバートさんよりも力強く引っ張り、荷台を動かしていく。
「うわ~! お姉ちゃん凄ーい!」
二人の子供は荷台に乗りながら頑張れとカベルネを応援する。そんなに応援するなら降りろよ……。カベルネは顔を真っ赤にして荷台を動かしている。それを見て心が痛まないかと言えばウソとなるのだが……どうしたものだろう。
空が茜色になる。日が落ちてきたのだ……これから夜を迎えようとしているのだが、この家族はこの夜をどのように過ごすつもりだったのだろう。このままだったら絶対に魔物の餌になるはずだ。だって既にオークやアゴブリンを倒している。ここに来る間にこの家族は死んでいるはずだ。
カベルネは必死に荷台を動かしている。
「そろそろ休憩をしよう。空の日が落ちる……これ以上は危険だ」
「そ、そうだな……」
俺の言葉にギルバートさんが同意する。この人、本当に商人か?
街道から少しずらした場所にカベルネは荷台を寄せる。そしてしゃがみ込んで疲れた顔をする。俺は水筒を渡すと、小さい声でお礼を言われるのだが、正直胸が痛む。
「カベルネ、ちょっとトイレに言ってくる……ここを守っていてくれるか?」
「わ、分かりました……お気をつけて」
「ありがとう」
そう言って俺は皆が見えない場所に行き、馬が出るか試して見るが、生き物は出ないようだった。銃や、ランタン、懐中電灯などが出るならこれもありかなと思って車が出ないか試して見る。正直、無理は承知だが、これ以上は見ていられない。もしダメだったら明日は俺が引いて歩くしかないと思いながら召喚すると、神様は馬鹿なのか車が出てくるのだった。
「ま、マジかよ……あ、あの子は馬鹿なのか? それともわざと見逃してくれているのか……どっちだよ……」
突っ込みたいところは沢山あるが、それ以上考えるのは止める。機嫌を損ねて制限を強くされても困ってしまうからだ。俺がイメージしているのはハイエースという乗り物だ。一応免許は取得しているのだが、ペーパードライバーに近いというか、そんなに練習なんかしていないので自信はない。だが、これ以上俺の頭の中には良いものが浮かばない。馬車も考えたが、馬が召喚できないと言う事は既に立証済み。
「神様はこれを許してくれると言う事……だよな……きっと」
鍵は掛かっていないというか、セルのところにキーが刺さっている。本当に至れり尽くせりである。申し訳ない。本当に感謝しか言葉が無い。しかもハイブリッドである。ガソリンは満タン。召喚を繰り返せば何度も満タンであると言う事である。さらには予備のガソリンも設置されており、マジで泣けそうになってきた。後はギルバートさんをどうにかするしかないだけだ。
★★★★★★
タイチさんがトイレと言って私達の場所から離れた。普段であれば見えなくなるまで離れたりしないのに今回に限っては離れた。多分、魔物はいないのだろう……。一緒に居てわかったのだが、何故だかタイチさんには魔物のいる場所が何と無く分かるみたいだ。神様がタイチさんに与えて下さったスキルなのかもしれない。私が魔法を使えるようにタイチさんは召喚のスキルを持っている。しかも魔法も使えるという不思議な能力者だ。多分、世界でも一人だけではないだろうか……。
危険は無いと言う事で離れたというなら何をしているのだろう……。私の考えでは何も浮かばない。まさか一人で離れるなんてことは……た、タイチさんに限ってそう言うことは無い。私はタイチさんを信じる。
この後食事も考えないといけない。普段であればタイチさんが作ってくれるのだが……。
「ぎ、ギルバートさん、食事は……」
「そ、そうか……しょ、食事の事を忘れていたな……」
この様子では持っていないのだろう。私の道具袋はタイチさんのように不思議な袋ではない。入っているのはタイチさんから渡されたポーションが三つだけ……。そして、先ほど渡されたいつでも冷たい飲み物が出てくる水筒(タイガー魔法瓶)だけ……。
奥さんも逃げる事に必死だったのか食事の事を忘れていたようだ。子供は私の持っている水筒が気になるのか見つめているし、喉も渇いているだろう……。
「あ、あの……こ、これは水筒です……ちょっと変わっていますけど……。も、もし良かったら……子供に飲ませてあげてください。甘酸っぱくて美味しいですよ」
なるべく不安そうな顔を見せないようにしなければ……私はタイチさんのパートナーなのだから……。だけど不安だよ~……タイチさん、早く帰ってきてよ~……。
2017/4/9修正




