20話 昔の自分にさよなら
俺達が洞窟から出ると、外は満天の星に包まれており、ここから次の場所へ行動するのは難しく、足元が危険だと……感じる。
「――既に夜か……どうする? 今日はここに泊まっていく? それか町へ帰るか?」
聞くだけ聞く……多分、返ってくる答えは決まっているだろうが、確認は必要だ。
「――タイチさんに任せます」
やはり、想像していた答えが返ってくる。しかし、洞窟の中では、ずっと緊張していたのだろう。その緊張の糸が緩んだのか、少し眠たそうに見える。彼女はまだ15歳。それに、ずっと慣れない洞窟の中で戦いっぱなしだった。移動をするのを止め、俺は洞窟の入り口で泊まることに……。
「俺は疲れちゃったから、今日はここで休もう。それに誰か来たら、魔族は俺達で倒したよって言えるしね」
「そ、そうですか……」
「それに、カベルネには話をしないといけないし……あまり人に信じてもらえる話じゃないと思うから……。だけど、まずは食事にしようか。お腹もすいたし……」
食事というと、カベルネは少し嬉しそうにする。俺は小さく微笑み、何を作るのか考えるのだが、何もイメージが湧かない。簡単に物を作るというならば、レトルトのチャーハンを思い出し、レトルトチャーハンが召喚できるか試して見ると、レトルトチャーハンを召喚する事が出来た。肉は召喚出来ないのに……。
ガスコンロとフライパンを召喚して、レトルトチャーハンを開封する。そして、フライパンで炒めるように解凍して、皿に盛りつける。再び見た事のない料理をみたカベルネ。見たことの無い料理に目を輝かせる。
「あ、あの……これは何という料理なんですか?」
「これはチャーハンだね。俺がいたところではポピュラーな食べ物だ。温かいうちに食べなよ」
スプーンを召喚し、カベルネに渡す。鍋に水を入れ沸騰させて、レトルトチャーハンが召喚できたのならと思い、ポタージュの素を召喚する。やはり、こういった物は召喚できるようで、俺は『ポタージュの素』を中に入れる。そして、野菜を切り、鍋の中に入れ、スープ用のお椀を召喚し、スープをお椀の中に入れてカベルネに渡すと、美味しそうにポタージュを頂いてくれる。
それを確認してから俺もチャーハンとポタージュを食べ、一息つける。懐かしい味だし、ようやく落ち着ける事ができたのだ。そして……。
「――さて、俺の事を話さないといけないね……」
身体を俺の方に向け、真剣な表情で俺を見つめるカベルネ。そんな真剣な表情で見ても、特にこれということは無いのだが……あるとしたら、この召喚能力とステータスを弄れるといったところ……後は、この袋かな?
「そうだなぁ……信じてもらえるかどうかって話になるけど……聞いてくれるか?」
「――は、はい……」
「えっと……まず、名前は鈴木太一……こういう字を書くんだ」
枝を召喚して、地面に自分の名前を書く……のだが、カベルネは読めないのか首を傾げる。そりゃそうだよな……言葉が違うのだから。
「これは日本語というか……漢字という文字なんだ。そして、俺は日本という国に住んでた」
「ニ、ニホン……き、聞いたことがありません……」
「――だろうね。俺がいた国は豊かで魔物なんていなかった……」
まるで物語を語るかのように俺はカベルネに話をする。カベルネは真剣な表情で話を聞いており、俺は話を続けた。
「――と言う訳で、俺は『その子』に生き返らせてもらう代わりに、この世界に転生させてもらい……この、不思議な能力を授けてもらった。だけど、一つ勘違いをしてもらいたくないのは、俺は勇者なんかじゃない。気分気のままにこの生活を楽しみたいだけなんだよ」
「そ、それは……ほ、本当……なんですか……に、にわかには信じられない話にしか……聞こえませんが……」
「信じるか信じないかはカベルネ次第だ。だけどさ、今まで見た武器など、カベルネは見た事あるかい? 聞いたことあるかい? これは魔法じゃないんだ。俺が使える魔法は生活魔法と回復魔法だけだ。それはステータスを見れば分かることだけど……カベルネには見えないよね……ゴメンな」
「い、いえ……で、ですが、本当に世界を……」
「救う気なんてこれっぽっちもありません! 俺は気ままに生活を楽しみたいだけだよ。その側にカベルネがいたら……その……う、嬉しいかな……」
俺はカベルネの顔を見ることができず、恥ずかしくて顔を背ける。今、カベルネがどんな表情をしているのか分からない。ドン引きされていたらどうしようなどと思いながら……。
「そ、側に……いても良いのですか……」
「――え?」
まさか! と思い、カベルネの方を向くと、カベルネは顔を赤くして俺を見ていた。
「う、うん……居てくれたら……凄く嬉しい! もちろん嬉しいさ!」
少しだけ興奮しながら言うと、カベルネは恥ずかしそうに頭を下げ……。
「こ、これからも……よ、よろしくお願いします……」
俺も……。
「こ、こちらこそ……よろしくお願いします……」
俺達は顔を赤くし、まるで初々しい恋人のような感じに……見えるかな? カベルネはどう考えているか分からないけれど……。
暫く話をしていると、カベルネは疲れていたのかウトウトし始め眠りについてしまう。俺は毛布を召喚してカベルネにかけ、俺も眠りにつくのだった。
翌朝になり俺達は町へと戻る。そして、ベガルタさんに事情を説明すると、ベガルタさんは慌ててダレルさんを呼びに行くのだった。その瞬間、俺は失敗したのだと気が付く。何か祭り上げられるのではないかと……。
「タイチ! 魔族を殺ったというのは本当か!」
「た、多分下級魔族だったんですよ……ど、洞窟も短く……魔物も弱かったから……な? カベルネ」
「え? そ、そうですね……そ、そんなに強くなかった……かな? 一瞬で終わっちゃったから……」
確かに一瞬で片付けたのは本当である。カベルネは全く嘘を吐いてはいない。俺は倒した魔物と魔族の死骸を出して鑑定を行ってもらう事にする。ダレルさんも一緒にそれを観察していると、俺に質問をしてくる。
「タイチ、スライムもいやがったんだな?」
「え、えぇ……か、彼女が火魔法を使えるので……」
火炎放射器で焼き殺したとは言えない。カベルネは何か言いたそうにしていたが、空気を読んでくれたのか何も言う事はしない。
「そ、それにこれはトロールじゃないか……」
「こ、こいつが一番大変だった……かな? 彼女の火魔法を使って窒息させ、頭を潰したんです。彼女は凄いですよ」
「そ、そんな事ないですよ……た、タイチさん……言い過ぎです」
カベルネは顔を赤くして頬を膨らませる。
「この魔族のコア……かなりの物じゃないか……ほ、本当に下級魔族かよ……」
「ま、魔族のコアは魔物とは……ち、違うんでしょ?」
「確かにそうだが……」
かなり疑っているように見える。俺達はドキドキしながらその状況を見守る事しかできず、これ以上は質問しないで欲しいと思っていた。
「全部合わせて20万ガルボでどうだ? 正直魔族のコアが大半を占めていると思ってくれればいい」
「俺達は構いませんけど……」
「分かった。今ガルボを準備するから待ってろ」
そう言ってベガルタさんとダレルさんは奥へと消えていく。俺とカベルネは顔を見合わせてホッとした顔をする。
「か、カベルネ……正直な話、この町を離れようかと思うんだけど……」
「え? だって家を買うんじゃないんですか?」
「うん、そうなんだけど……ここまで騒ぎになっちゃうと……面倒くさくなっちゃうでしょ?」
「ま、まぁ……確かに……そうですけど……」
「カベルネが残りたいというなら……君だけここに残ると良いよ。俺は……離れるかな」
「そ、そんな……」
「ごめん。魔族を殺っただけでここまで騒がれるというと、本当に生活がしにくくなる。それに、少し冒険者として旅もしてみたいって思うようになってきたんだ」
「ぼ、冒険者……としてですか」
「おう、これが20万ガルボだ……無くすなよ」
「ありがとうございます。ダレルさん、俺はこのままこの町を離れる事にします。もっと色んな場所を見に行ってみたいです」
「きゅ、急な話だな……」
「まぁ……そうですね。ですが、前にも話をしていたじゃないですか」
「そうだったな……分かった。頑張れよ」
「はい。ダレルさんも、ベガルタさんもお元気で……」
「タイチ君も元気でね。寂しくなるけど……」
ベガルタさんは少し寂しそうにしていたが、ここにはそういう冒険者が多いのだろう。二人は優しい笑顔で俺を見送ってくれる。
「カベルネ……急な話でごめん……」
「ちょ、ちょっと待って下さい! 私も行きます! だって私はタイチさんのパートナーですよ!」
「い、良いのか?」
「良いもなにも……私の雇い主はタイチさんです。雇い主の意見に従うのは当たり前じゃないですか……」
「そ、そっか……俺は雇い主だっけ……」
恋人ではなく雇い主……。そんなもんだよね。
「ですが、少しだけ待ってもらえますか……」
「ん? あぁ、わかったよ」
カベルネの目線の先にはリードが映っている。彼に挨拶か何かするのだろうと思う。カベルネはリードの傍に行き、何か話をしていた。
★★★★★★
「リード……」
「か、カベルネ……」
「私、この町を離れるね……」
「む、村に帰るのか?」
「ううん……。冒険の旅に出る。これからはお互い違う道を歩むことになるけど……リードも元気でね」
「ちょ、ちょっと待てよ! どうしたんだよカベルネ!」
「私、タイチさんと一緒に冒険をすることにしたの……色んな場所を見て回るって、タイチさんは言ってた。私もそれに興味があるし……それに……」
「それに?」
「それ以上は秘密……。だから私は行くね。リード、あまり無茶はしないでね……リードは直ぐに無茶をするんだから……。じゃあ、もう会えないかもしれないけど……さよなら」
「か、カベルネ!!」
リードが私の名前を呼ぶ。だけれど私は振り返る事をしない……。
「カベルネ……本当に良いの?」
「良いんです! さぁ! 冒険の旅に出かけましょう!」
リードと別れ、別の男性と一緒に冒険の旅に出るなんて……村を出る時は全く想像していなかった。これから私の人生はどうなってしまうのだろうか……。不思議と不安は無く、これから起こる事に楽しい気分になるのだった……。
2017/5/12 修正および、文章を追加しました




