17話 信頼度
洞窟の入り口に立つと、洞窟の中は真っ暗であり、奥は全く見えない状態だった。そりゃそうだよね。中に電気が通っている訳では無いのだから。
「――ま、真っ暗……ですね」
「そうだね。まぁ、でも、これがあれば問題ないでしょ」
俺はLED式のランタンを召喚し、明かりを灯す。これもこの世界では無い物なので、カベルネは目を丸くして、その明るさに驚いていた。
「た、松明じゃないんですか……もしくは蝋燭とか……。宿屋は蝋燭ですよね……」
「――宿屋はね」
だけれど、俺は宿屋でもLEDランタンを使用しているけれどね。だって、蝋燭の火だと明るさにバラつきがあるし、思った以上に暗い。尚且つ、本が読みにくいのである。その点、俺が召喚したLED式ランタンは、全体を明るくし、バラツキも無いから本も読みやすい。
ランタンで中を照らし、俺達は洞窟の中を進んでいく。すると、ゴブリン等が住み着いているのか、俺達を発見して襲い掛かってくる。しかし、カベルネの敵ではない。カベルネは経験を積み、かなり強くなった。と言うか、射撃が上手くなった気がする。そして、ゴブリンを一撃で仕留め、俺が袋に仕舞うという簡単なお仕事をさせてくれる。弾切れになりそうになったらマガジンを渡して交換してもらい、先へと進んでいく。
「タイチさん……私、魔物とは、もっと恐ろしいものだと思ってました……」
「いやいや……カベルネが強くなったからそう思えるんだよ。魔物は恐ろしいものだよ」
「そ、そう……なんですかね……」
「そうだよ。カベルネは強くなった。物凄く強くなった。今ならリードだって見直してくれるよ?」
「もう……リードの事は良いんです。今、私はタイチさんと冒険をしてるんですから……」
「そう言ってくれるのはありがたいね~」
そう答えたのだが、カベルネは俺の先を歩いているので、どんな顔をしているのか分からない。もしかしたら、顔を赤くして恥ずかしがっていてくれたら……少し嬉しいかも。
その後、俺達は無言で先へ進んでいくのだが、目の前には、今まで見た事のない、液状のような塊が……俺達の目の前に現れる。液状の様な魔物といえば、「アレ」しか思い付かず、思わず口にする。
「――ま、まさか……スライム?」
「そのまさかです……こいつは強敵ですよ……!!」
俺が知っているスライムと言えば、冒険物のゲームで出てくる、あの丸い目をして口が笑っている、栗のような体をした青い奴。しかし、こいつはその様な奴とは違って、液状の塊が蠢いており、どうやって倒せば良いのか考えさせられるやつであった。
「こいつの弱点て……何?」
「――スライムの弱点と言うか、攻撃を与える方法は、火だと聞いております。私の魔法で仕留めてやりますよ!!」
自分の出番だと思い、気合いを入れて魔法を唱える準備を始めるのだが……。
「――あ~……火ね。ちょっと待ってくれる? 試してみたいのがあるから……」
そう言って俺は、強力草焼きバーナーを召喚する。簡単に言うと、火炎放射器だ……。既にタンクの中身は入っており、何時でも使用可能。俺はスライムの方に銃身を向けて、トリガーを引くと、思いっきり火炎が飛び出してスライムを焼き尽くす。そして、スライムは燃え尽き、俺は攻撃を止めると、何かが音を立てて転がるので、火傷をしないよう冷ましてからそれを拾った。
「これがこいつのコアか……」
「ちょ、ちょっと待って下さい! い、今のは何ですか!!」
慌てるカベルネ。まさか、自分の出番を奪い取られたから腹を立てたのかと思ったが、そうでは無く、初めて見た武器に驚いているようだ。
「――火炎放射器だけど? それがどうしたの?」
俺にとっては当たり前の武器。さも、当然のように答えると、カベルネは声を張り上げて言う。
「わ、私の魔法より威力があるじゃないですか!!」
まぁ強力な奴を召喚したからね。
「あぁ、そうかもね。だけど楽勝だったでしょ?」
「ら、楽勝だったって……た、タイチさんて……いったい何者なんですか……」
カベルネが俺を疑うような目で見つめる。少し、俺達の雰囲気が悪くなった感じだ。
「ちょっと変わった冒険者かな? この世界の人と違って常識ってものがないだけだよ」
今、「俺は異世界から来ました」と言っても、誰も信用してくれるはずは無い。だから「常識が無い」と言う言葉で、話を濁す。
「じょ、常識ってレベルじゃないですよ! このジュウって奴もそうですけど、そのカエンホウシャキって奴だって!!」
完全に疑いを持った目で見ている。参ったね……。
「まぁ、それはこの洞窟を出たら教えてあげるよ。まずは先に進もうじゃないか」
信用……多分、これが無くなったのだろう。俺の事は「不思議な人」から「怪しい人」に変わったようだな。
「ほ、本当に……教えてくれるんですか……」
「本当に本当……。約束するよ。だから、先ずはこの洞窟を楽しもうよ」
「た、楽しむって……!! わ、分かりました……」
疑ったような目で俺を見るカベルネ。ステータスでカベルネの状態を確認しようと思ったが、信頼が疑いに変わっているのか、彼女の中で、俺という存在を信頼や、信用などしていないみたいだ。現状では彼女のステータスを見る事が出来なくなっている。段々とこの仕組みが分かって来たので、これはこれで良しとしておこう。最悪、この彼女と別れてしまえば良いのだから……。彼女が持っている銃だって、俺が召喚解除すれば、使えなくなる。魔法攻撃しか、この彼女には戦う術がない。俺は銃を持っているし、剣だってある。今のところ何かがあっても大丈夫だろう。それに、火炎放射器の方が、彼女の火魔法より強い事も分かっている。相当な馬鹿では無い限り、下手な事はしないだろ。
俺達は先へと進んでいくと、スライムが現れたり、ゴブリンが現れたりして俺達の行く手を阻む。まるで、この先には来て欲しくないといったような感じで、次々と俺達の前に魔物が立ちはだかる。暫くして俺達は休憩を挟むことにした。歩きっぱなしでは疲れてしまうし、装備だって調えないといけないから。
「カベルネ……ちょっとだけ話をしていい?」
「な、なんでしょうか……」
「今現在……君が俺を何者かって疑っている。それが何でか俺には全く分からないことだけど。君が俺を全く信頼や信用をしていないことは分かっている」
「そ、そんな事は……」
「まぁ話を聞いてくれ。で、さっきも言ったように、ここから出たら俺は絶対に君に嘘を教えることは無い。それだけは分かってほしい」
「な、なんで今話すことができないんですか……」
「先ずは状況を考えてくれよ。ここは洞窟の中……。危険が伴う場所で話をするべき事じゃ無い。先ずは安全にこの洞窟内から脱出する事を考えなければいけないというのと、この先で、どんな奴が現れるか分からないからお互いを信頼しないとならない……」
「……な、何が言いたいんですか……」
「今だけで良いから、俺の言う事を聞いてくれって事。信頼してくれって言う話だよ。俺は敵じゃ無い」
「き、聞いてますよ……わ、私の……や、雇い主なのですから……」
「そうじゃない……そういう意味じゃないんだ。ここにいる間は俺に命を預けてくれと言っているんだ。そうで無ければこの先は危険だ。既に俺達は危険な場所に足を踏み入れているんだから」
「だ、だったらここから出れば良いだけの話じゃ無いですか……」
「覚えているか? ギルドの話では……この先には魔族がいる可能性があるんだろ? という事は、この先、沢山の冒険者がここにやって来る。こんな言い方をしたら卑怯かも知れないが、リードのいるパーティだってここに来る可能性があるって事だ」
「そ、それが何か……と、と言うか、タイチさんは……な、何が言いたいんですか……リードがなんだって言うんですか!」
「彼は君の幼馴染みだろ? 彼は君に対して冒険者を辞めろと言った。その理由は俺には分からないけれど、多分、君のことが大切な人だからではないか?」
「そ、それとコレとどういう話になるって言うんですか!」
「もしも……もしもの話だけど、彼のパーティがこの洞窟へ来たとしたら……どうするつもり?」
「ど、どうするって……」
「まぁ、今の君に何を言っても無駄な話っぽそうだから簡単に言うよ。彼が傷つき死んでいく……。そういう事を想像したことはあるのかい? 冒険者だから一つ間違えたら生死に関わる出来事が訪れる。俺はそれを見たくないって事だよ。一時でも一緒に戦ったりしたことがあるんだからね。そして、彼が死んだと知ったら君は悲しむだろ? だから俺はここで魔族って奴を片付ける事にする……分かってくれるか?」
「……」
「もし、それが無理であるなら……このまま君だけ引き返せばいいよ。君は俺が渡した強力な武器を持っているし、それに君は魔法も使える。かなりの自信もついたはずだ。ある程度のことなら一人で冒険ができる程に……」
「ひ、卑怯な……言い方をするんですね」
「卑怯? まぁ、俺はこういう性格でね……。だからかな、未だに恋人ができた事もないよ」
俺は悲観した笑いをする。
「さぁ、選ぶのは君だよ。前にも言ったよね……これから先を選ぶのは君だと……君の人生は君が選ぶんだ」
「ひ、一つ……質問して良いですか……」
「俺が答えられる話なら……」
「わ、私のために……言っているんですか?」
「……違うよ。ここに来る冒険者が傷付き、死なないためだ」
「――英雄……気取りですか……そうですか――」
「――英雄ねぇ……さてね……。そう思うのならそう思えば良い。だけど、俺にはここで魔物と戦えるだけの力を持っているのは確かだよ。だったら誰かが悲しむ前にそいつを片付ける……。あと、俺は……できる限り君が悲しむ姿を見たくないって事だよ。これ以上、話しても意味がなさそうだね。これは君が持って行くといい……俺は他にも持っているから……」
俺は先に進む事を選び、カベルネに帰るためのLED式ランタンを渡す。そして、一人で洞窟の奥へと歩き始める。カベルネは目を泳がせながらそのまま立ち尽くし、動揺を隠せず座り込む。
それに気が付いた俺だが、振り向く事はせず、先へと進んでいく。
2017/04/14 修正と一部文章を追加しました。




