15話 自信が付くのは大事なことだ!
翌日になり、いつものように俺は宿屋の前で待っていると、カベルネがやって来る。
「――お、お待たせしました……も――」
申し訳なさそうな顔をして、謝罪の言葉を言おうとするので、遮るように先に言う。
「大丈夫だよ。じゃあ、入り口の方へ行こうか」
首を横に振り、問題ないことをアピールする。時間はかかるかも知れないけれど、着実にガルボを貯めていけば、家を購入することはできる。それが現実的になってきているのだ。そう考えたら、一時間程度待つのなんて、たいした事ではない。それに、焦ったって無駄なことは分かっているしカベルネが成長すればするほど、ガルボを貯めるのが早くなるのだ。しかも、女の子と二人で暮らせるなんて、夢の話だと思う……。
「あ、あの……」
申し訳なさそうな顔して、喋りかけるカベルネ。何か忘れたのかと思い、俺は立ち止まる。
「――ん?」
「お、怒らない……ですか?」
「――は? ……何を?」
「だ、だって……私は毎回遅刻……というか、遅いんですよ……」
まぁ、そう言われたら……ねぇ……。だけれど、それは仕方がないことではないかと思う。もしかしたら、俺が早すぎるのかも知れないし、慣れていけば早く準備ができるようになるのかも知れない。一緒に暮らしていけば、その分、アドバイスができるかも知れないし、一緒に行動していけば、カベルネの性格を把握して、何か教えることができるかも知れない。怒るだけ無駄な話である。それに、女性は身支度に時間がかかるというのは親を見ていれば判ることだし、学校の女子だって準備には時間がかかっていたから仕方がないと思う。しかし、何かしら答えなければならないようだし、気にする必要はないというように話をしよう。
「だって時間なんか決めてないじゃん。それなのにどうして怒る必要があるのさ? それに女性の身支度には時間がかかるのは当たりまえさ。だから怒ったりはしないよ」
簡単だけれど、こんな感じで良いかな? 学校の話をしても理解できるとは到底思えないし……。
「――あ、ありがとう……ございます」
俺は優しく微笑み、俯いているカベルネの頭を撫で、東側の入り口へと向かう。
★★★★★★
この人は優しい。幼馴染みのリードとは大違いだ。リードは何でもそうだったが、待たせると直ぐに怒った。だから私は自分の髪の毛を直したりする暇もなく、直ぐに待ち合わせの場所へと向かった。寝癖が付いていると、リードは笑う。正直、私だって恥ずかしいから直したい。しかし、直ぐに怒るから……私は我慢をして、苦笑いをするしかなかった。だけれど、タイチさんは全く怒らない。しかも、身嗜みをしっかりしたほうが良いとまで言ってくれて、支度に時間をかけても笑顔で迎えてくれる。
それに、タイチさんは不思議な人だ。物凄く落ち着いているし、何でか分からないけれど、行動に余裕のようなものを感じる。この冒険者という世界で生きていくのには、死の覚悟を持てと、私達は子供の頃から親に教えられた。だから両親は私が冒険者になる事を反対したのだ……だが、タイチさんは全く違うように感じる。なんだろう……まるで、冒険者というのを楽しんでいるような……。
それに、不思議な武器も持っている。私はこの様な武器を見た事もないし、聞いたこともない。タイチさんはジュウと言っていた。
しかも、このジュウは凄まじく強力で、穴からどんな物が飛び出ているのか、サッパリわからない程速い。引き金を引いたら、瞬きをする暇もなくウサギが倒れている。
タイチさんの言う通りにしていれば、私は冒険者として、本当に成功出来るのかもしれない……。
★★★★★★
「ん……? ん~……」
「どうしたんですか?」
「え? あ、いや……。今日は……昨日言ったように、カベルネが魔物を倒そう」
「わ、分かりました……が、頑張ります!」
「大丈夫、肩の力を抜いてやるんだ。失敗したって大丈夫。後ろには俺が控えてるから……」
「は、はい!」
かなり緊張しているのが分かるが、それ以上、何を考えても仕方がない。あとは経験を積むしか無いのだから。しかし……先ほど、頭の中に何か音がしたような……。
俺はその音を確認するため、自分のステータス画面を開こうとしたのだが、自分の名前の他に、カベルネの名前がある事に気が付いた。
これって……俺がカベルネを信頼したということか? 確か、あの「縞パンの子」は信頼したらって言っていたが……これがそうなのか?
そう思いつつも、カベルネと書かれているステータス画面を開くと、「あの子」が勘違いしているという事が分かり、俺は酷い脱力感に襲われる。
「俺が信頼する」のではなく、「彼女が俺にどのくらい信頼を持ってくれるのか」でステータスが分かるようになるようだった。
★――――――★
名前:カベルネ
レベル:1
力:2
器用:1
体力:3
魔力:9
信頼度:68
スキルポイント:10
【スキル】
火魔法:ファイア(小)
回復魔法:レティオ(小)
★――――――★
まぁ……俺を信頼してくれているのは嬉しいけれどね。おっと、魔物の気配がするぞ……最近、動物か魔物かの違いが分かるようになってきたな……。もしかしたら感知レベルが……上がっていないし……。ガックリする俺だが、カベルネには理解ができていない不審な行動にしか見えない。気を取り直して、俺はカベルネに声をかける。
「――カベルネ、あっち側に魔物がいる気がする……行ってみよう」
「は、はい……」
俺の後ろを付いてくるカベルネ。俺が歩くスピードが速いのか、速足で追いかけてきている気がする。男性と女性の違いがあるからスピードくらいは合わせてやらないと……。
「大丈夫か? カベルネ……」
「――だ、大丈夫……です……」
少し息が切れている気がする。無理をさせる訳にはいかないし、ステータスが見られるというのなら、ここは優しくしておく必要があるだろう。
「少し休もうか。慌てる必要はないからね……」
俺は立ち止まり、袋から水筒を取り出して、失敗から生み出されたスポーツドリンクの粉を入れる。そしてシェイクして、袋からコップを取り出しカベルネに渡す。
「それを飲むと良いよ。汗をかいた時に飲むものだよ。美味しいよ」
「――そ、そうなんですか……あ、ありがとう……ございます――」
息を整えながら、恐る恐る口にして一口だけ飲み込んでみると、カベルネは目を開き、驚いた顔をする。
「お、美味しいです! 少し酸味が有りますが、それでも甘く飲みやすいです!」
「そりゃ良かった。もう一杯飲むか?」
「え? よ、よろしいのですか……?」
「さっきも言ったろ? 汗をかいた時に飲むものだって。ほら、コップを貸してくれるか?」
「あ、ありがとうございます!」
もう一杯注ぐと、カベルネは美味しそうに口に含んで、味わいながらスポーツドリンクを飲み干す。こんなに美味しそうに飲んでくれるのなら、メーカーさんも喜んでくれるのではないだろうか。
「早く家が欲しいな……」
適当な岩に座り、空を見上げながら呟いた。
「な、何で……そこまで家に拘るんですか?」
女の子座りをしながらカベルネが質問をしてきた。そんなに不思議な話なのか?
「う~ん……カベルネには分からないかもしれないけど、宿屋の食事やギルドの食事って偏ってるんだよね。俺はもっと美味しい食べ物が食べたいし、それにお風呂なんかにも入りたい。後は……ゆっくり寛ぎたいじゃん? 誰にも邪魔されないしさ」
「あぁ~……食事……ですか……」
食事に関してはカベルネも理解しているようで、「食事かぁ……」と、再び口にする。親が作ってくれた料理でも思い出しているのだろうか、なんだか懐かしそうな表情をしている。
「自分で作る場所があれば、自分で作るんだけどね~……」
ぶっちゃけ言うと、料理なんてあまりやったことがないが、作れないと言う訳ではない。俺の家では、両親が帰ってくるのが遅かったため、自分で作ったりしていた。だから、多少は作ることができる。
「タイチさん、料理できるのですか?」
少し、驚きながらカベルネが聞き返す。
「あぁ、多少だけどね。機会があったら、俺が何か美味しい物を作ってやるよ」
「本当ですか! 信じちゃいますよ~」
カベルネは目を細め、笑いながら言う。信じている訳ではないが、作れるというのなら作ってみてもらいましょうっていう感じで俺を見ている。
「男に二言は無いよ! 楽しみにしたまえ! ワーッハッハッハ……」
「その言葉、信じちゃいますからね! 本当に作ってくださいね!」
俺の言葉にカベルネは笑いながら答える。たまにはこういう話も良いよね、徐々に打ち解けている気がする。やはり、一人より二人のほうが楽しいね。
それから暫くして、カベルネはアゴブリンを銃で倒し、初めて魔物退治を成功させる。何匹か魔物を倒して、自信を付けさせる。そして、自信が付き始めたのだろう、火魔法でアゴブリンを倒すことも成功する。
その日の収穫は、アゴブリンを30匹程狩り、俺とカベルネは喜びに満ち溢れた表情でギルドハウスへ戻って行くのだった。
2017/4/22 修正および、文章を追加しました。




