10話 先ずは落ち着いて状況を考えよう
小回復魔法を憶えた俺。神殿を後にし、周りに何か不思議な建物、施設等があるかもと思いながら、宿屋へ帰るために歩いている。だが、不思議な事は建物等ではなく、人。俺の後を追いかけてきている者がいるのだ。チラッと後ろを確認してみると、先程まで、一緒に魔法を習っていたカベルネがついてきていた。しかし、何故、カベルネが付いてくるのか、俺は理解する事ができなかった。
「か、カベルネ……お前、リードはどうしたんだよ?」
立ち止まり、振り向いて質問を投げかけて見ることにする。もし、この先で合流する予定だったら方向を変え、違う道から戻ることにするため……。
「……知りません。――リードは……彼は別の冒険者と何処かへ行ってしまいましたから……」
何が起きているのかさっぱり分からず、俺は動きを止め、カベルネの方を向き直し、話を聞く事にした。
「はぁ? だ、だって、お前ら幼馴染みで冒険者になったんだろ? なのに何で別の冒険者と一緒にいるんだよ? 今日は別行動なのか?」
「……う……うぅ……タイチさん……」
カベルネは涙目になり、俯いてしまい、ポロポロと涙を流し始めてしまう。慌てる俺。起きている状況を把握できずに周りを確認し、ゆっくり話を聞く事に……。カベルネは、すがるような目で俺を見つめてくる。
「ちょ、ちょっと待て! は、話は聞いてやるから……泣くのはよせ!」
ゆっくり話を聞く場所を探しているが、中々良さげな場所は見つからず、この辺でゆっくり出来ると言えば、ギルドハウスくらいしか思いつかなく、仕方無く俺達はギルドハウスへ行くことにして、ギルドハウスの空いているテーブルに座る。店の店員にジュースを頼み。カベルネが落ち着くまで、時間を待つ。
「ほら、コレでも飲んで、少し落ち着けよ……。どうしたんだ……? 一体……」
「タ、タイチさんと別れてから……あの時、三人で分け合ったガルボで生活が楽になりました。お、お礼を言うのが遅くなり申し訳ありません。あの時は、タイチさんから逃げるようにしてしまい……本当にごめんなさい……」
やはり逃げたんだ。少し傷ついたが、まぁ、仕方無いのかも知れないと思い、一口だけジュースを口に含んで、気にしていないフリをしよう……。悔しいから。
「べ、別に、そんな事は構わないけどさぁ……生活が出来ていたなら良かったよ」
ここで余裕を見せるのも大人の対応って奴だ。本当は、物凄く悔しくて泣きたい気分だ。そっちから声をかけて来たくせに……。
「――その後になるのですが、二人で話した結果、タイチさん抜きでやっていこうという話になり……翌日、私達は二人で仕事……狩りに行く事になりました。そこで私達は……」
★★★★★★
「これでも……くらえ! ファイアー!」
私は火魔法を唱え、一匹のゴブリンに攻撃を仕掛ける。だが、ゴブリンは私の魔法を軽々と避け、その手に持っている錆びたナイフで私を斬りかかろうと襲いかかる。だが、ゴブリンの攻撃は、リードがロングソードで防ぎ、彼はゴブリンから私を守ってくれた。
「この……糞!!」
ロングソードを巧みに使い、ゴブリンのナイフを弾き飛ばす。相手の体勢が崩れたところで、リードはゴブリンの身体をロングソードで斬り裂き、私達は初めて自分達の力でゴブリンを倒した。
「――大丈夫か……カベルネ」
尻餅をついている私に手を差し伸べ、私はその手を握り、身体を起こす。
「う、うん。ありがとう……」
「――ありがとうじゃねーよ、ちゃんと魔法を当てろよ……相手は油断してたろ?」
呆れた声を出して、リードは言うのだが、私は頑張ったつもりだった。だけれど……。
「あ、う、うん……ご、ごめんなさい……」
油断していた相手に魔法を当てられなかったのは確かなのである。なので私は謝り、次こそはと思う。
「じゃあ、次に行くぞ」
ゴブリンを魔法の袋に仕舞う。これはタイチさんが倒してくれた時のガルボで購入した安物だが、冒険者には必須アイテム。コレを持てるというのは、ある意味、冒険者としてのステイタスだろう。
「う、うん」
私達はその後、3体のゴブリンを倒してギルドハウスへ戻って行き、倒したゴブリンを換金する。私は、リードと一緒に初めて自分達の力で魔物を倒し、冒険者の一歩を踏み出した事に対する歓びを味わうのかと思っていたら、現実は異なっており、リードは私に言う。
「――カベルネ……お前、結局何もしてないじゃんかよ……」
「うぅ……ご、ごめんなさい。明日は……頑張るから」
「おいおい……頼むぜ……お前は「魔法だけ」しかないんだから」
「――う、うん……ご、ごめん……」
翌日も同じ様に狩りに行くのだけれど……やはり、私の唱えた魔法は、一回も魔物に当たることはなく、リードが上手く剣を扱い、全て倒してしまう。
それから幾度も戦闘を行うのだけれど、結果は同じ様に……だけれど、私の魔法が一度だけ当たる! しかし、その魔法でゴブリンを仕留めることができず、結局はリードが倒してなんとか勝利を得る事になった。
「マジで勘弁してくれよ……お前の魔法、全然駄目じゃん。何をするために付いてきたんだよ」
「そ、それはリードが……」
「お前がいない方が上手くいくじゃんか……お前が足を引っ張ってるじゃんかよ」
呆れた声を通り越しているかの言葉をリードが言う。私はそれに対して、何も言い返すことも出来なかった。リードが言うことは本当のことだから……。
「あ、明日は……明日こそ頑張る……だから」
「もう……良いよ。俺、あの人達に一緒に仕事をしないかと誘われてんだ」
それは以前、一緒に依頼を受けた人達で、強力な魔法使いがいるパーティだった。
「え? そ、それじゃ……わ、私は……」
「お前とのコンビは解消だよ。お前といると、いくら命があっても足りねーもん。じゃーな。……田舎に帰って達者に暮らせよ」
リードはその冒険者達がいる方へと歩いて行く。
「そ、そんな……リ、リード!」
リードは振り返る事なくその人たちと一緒に……町を出ていき、冒険へと行ってしまった。
★★★★★★
要は捨てられたと言う事ね。なるほどね……。
「で、今までどのように生活をして来たのさ……」
「た、タイチさんが倒してくれたときの蓄えで……なんとか今日まで……」
少し待て……。何かがおかしい。あの時の蓄えというが、渡した額はそんなに多くは無いはずだ。それに魔法を覚えるという事で俺はお金を取られたんだぞ……。ま、いや、しかし……もしかして……。
「か、カベルネ……し、質問だけど……」
「ごめんなさい!! 悪気があったんじゃないんです!!」
「ま、まだ……何も言ってないが……そ、そういう事か……やけに高いと思った……」
そう、おれが神殿で払った額は二人分。しかも、カベルネの分がほとんどという訳である。しかも話を聞くと、お金が無いカベルネは、神殿で生活をしていたらしく、下手するとその分も請求された可能性があるのだ。
「か、カベルネ……マジかよ……」
「ご、ごめんなさい! 本当にごめんなさい!」
過ぎてしまった事は仕方がないのだが、この後が問題である。
「カベルネ、今回は俺が払ったから良かったものを……これから先はどうするつもりなんだ? さっきの話だと、まだ一度も魔物を倒したことが無いんだろ?」
「そ、それは……」
「初心者講習で弓を習ったろ? 弓でウサギなどを倒して稼ぐとか……」
「わ、私……つ、杖しか持ってないし……ガルボは……もう……グスッ……」
「わわわ! な、泣くなよ……全く……。さて……どうしたものか……」
そうは言っても、簡単に答えが出るわけでもない。目の前にいる少女は宿無しで金無しなのだ。金を貸しても稼ぐ能力は全くないし、どうすることも出来ない。しかも、ここのジュース代も払うことができないときている。今後の生活はどうするのか……浮浪者のようになってしまうのか、俺は頭の中で、色々と考えを巡らせる。
「――た、タイチさん!」
「――ん……?」
「わ、私を……私を買ってください!」
「――はぁ?」
「あ、間違えた……や、雇って下さい!!」
「……や、雇う?」
唐突に何てことを言い出すのだ……コイツは。
「か、家事全般を私がします! ぼ、冒険について来いと言うなら付いて行きます! で、ですから、私を雇って下さい!」
「ちょ、ちょっと待て……。お、落ち着けよ! リードが言うように、側にある田舎の家へ帰るっていう手だってあるだろ……」
「――無理です……い、いえ……嫌です! 家族の反対を押し切ってまでリードの後を追いかけ、挙げ句の果てに、そのリードには捨てられたなんて……説明ができません……しかも、タイチさんにガルボまで……」
もう、カベルネは泣きながら言っており、周りはジロジロと俺達を見ている。しかもダレルさんも見ているため、後で尋問されるのは間違いないだろう。
「わ、分かった、分かったから泣くのを止めてくれ! 取り敢えず雇う! 雇うから……もう、泣かないでくれ!」
泣きたいのは俺である。こうして俺は、魔法使いの少女を仲間にする事になった……と言うか、雇うことになった。この後、ダレルさんに呼び出され、女を泣かすものではないと、何故か怒られてしまう羽目になったのは…………言うまでも無いだろう……。
2017/04/19 修正および、文章追加