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絢爛業火のバスターソード  作者: 青天霹靂
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業火のバスターソード


どうやら異世界転生した――らしいゴウは、鬱蒼と茂る木々を前に林檎を齧りながらこう思う。あぁ、なんて暇なんだろうと。

と、ゴウが、こんなことを口に出せば、きっと彼の住む小屋の隣のじいさんが斧を振り回しながら「お前も働んか」と唾と共に激を飛ばすに違いないが。


ゴウは、自分の名前の一部と、自分が異世界に転生したこと、それ以外は不思議なことに何にも覚えていなかった。――異世界転生といえば前世の記憶を生まれ持っているのがお決まりのこの世界で――学習能力はおろか生活能力も人間最低レベルにもう一度戻ってしまった彼だが、村の人間の世話の甲斐あって、平々凡々な生活を送ることができている。

とは言っても、料理を任せれば謎の大爆発を起こし、洗濯を任せれば、衣類をすべて川に流すぐらいの使えないバカではあったが、それでも村人が彼を支えてくれるのは、彼がこの国では少しばかり特殊な人間であったからだ。


ゴウが『マスター』と呼ばれる人種であると診断されたのはつい最近のことだ。


年に数回ある国お墨付きの診断は、山奥にあるこの村も例外なく。馬車に乗り、ガタガタの山道を超え、腰の曲がった白髪の医者がようやっと長い時間をかけて到着し、開いているか閉じているか分からないその眼を瞬かせてうんうんと頷きながら、服を捲りあげて腕を見せたゴウを『マスター』であると認めた。

村の者は大して驚かなかった。なぜなら、この青年、学習能力、生活能力は皆無であったが、熊の群れを相手取り素手で打ち負かす並外れた運動神経、そして、その群れを一挙に持ち上げ鍋に放り込む驚異の怪力が、彼が『マスター』である特別な印ではないかと常日頃から考えていたからだ。


そして、世間に対してさほど興味を示さなかったゴウであったが、この日、村長の命により、医者から、長い長いこの国の歴史と、彼と同じ特殊な人種について有無を言わさず、語り聞かされることとなる。


ゴウの生まれた世界は、人間の体内から突如出現した武器『ソード』によって、各国の均衡が崩れ、一触即発の時代を迎えようとしていた。


『ソード』は、この世のどんな武器よりも頑丈で鋭く、そして必ず魔力を宿しているといわれている。『ソード』には、従来のどんなに優れた銃火器も、剣も、爆弾も、適わないというのだ。

つまり、この『ソード』を多く手に入れた国が、全世界の実権を握るといっても過言ではない。


しかし、『ソード』には一つ難点があった。

この最強の武器を取り扱えるのは一握りの人材だけなのである。なんて効率の悪い武器だ。


そして、この『ソード』を取り扱える資格があると認定されるのが『マスター』。ゴウが先ほど告げられた称号だった。

『ソード』を宿す人間の体内からそれを取り出し、魔力を最大限に引き出すのが『マスター』の役目であるが――そんなこと知らんこっちゃない。一時間かけて聞いた内容などゴウの頭からすでに吹き飛んでいた。


『マスター』であろうがなかろうが、彼の生活は今日とて変わりない。

村の人から分けてもらった食事を、だらだらと食い、たまに作物を荒らすイノシシやクマやオオカミを素手で捻りつぶすぐらいだ。山の生き物も学習したのだろうか、ゴウを見かけると一目散に尻を向けて逃げ出すようになり、ゴウのたまに来る仕事もこの頃めっぽう減っていた。


自前の黒マスクをずり下げてくちゃくちゃと林檎を貪り食っていると、斧を背負った隣のじいさんがゴウの前に顔を出す。右手には一枚の紙きれ。この国特有の文字で書かれているそれを、ゴウが読めるはずもなく――というか、読む気にもなれず、怪訝な顔でじいさんを見つめ返す。


「ゴウ。お前にええ知らせがあるんじゃ。これを見てみろ」


見てみろと言われても戸惑うゴウだったが、紙切れのはしに、女の腹から剣を引き出す男のイラストを捉えて、林檎の咀嚼をぴたりとやめる。


じいさんは「マスター養成国家試験」だと言った。


「お前の才能を生かす時が来たんじゃ。はよう、お前さんのパートナーの『ソード』を見つけて、王様を守らんかね」

「えー……でも」


面倒くさいし、と答えたゴウの頭をじいさんがひっぱたく。ゴウの手から林檎が離れてコロコロとじいさんの足元へ転がった。


「言っておる場合か‼ つい最近だってなぁ、この国にたくさんの軍隊が攻めてきたんじゃぞ」

「えー……でも俺には関係ないじゃ、あだっ‼」


本日二度目のじいさんのゲンコツである。


「お前みたいなぽんこつにせっかく神様が才能をくれたんじゃ。俺の家の前に裸体で転がっておったときにはそりゃあ驚いたが……お前もこうして15年大きくなった。わしはな、お前に、立派に育ってほしいんじゃ、今もこれからも……ぐすっ……」


親代わりのじいさんに涙ぐまれこんなことを言われても、ゴウには全く響かない。

だって、ここにいた方が楽な生活を送れるじゃないか。ゴウの要領の悪い頭でも十分分かる。


「それにな」


とじいさんが切れ端の中央、スーパーの広告のように真っ赤に彩られた派手な文字列を指さす。


「この試験に受かって学校に通うと、寮生活、三食飯付き、掃除も洗濯もすべて国の者が行ってくれるのじゃ」


ぴくりと、ゴウが肩眉を上げる。

その些細な変化を、長年連れ添ったじいさんが見逃すわけもなく。


「毎月小遣いももらえるぞ」

「のった……」


こうして自堕落なゴウは、三食飯付き、家事なし、お小遣いありの魅惑のステータスに負け、満面の笑みで送り出す村人に別れを告げ、馬車にのってガタガタの山道を超え、いざ、国の中心部に向かうことになる。









マスター養成国家試験、と名だけは堅苦しいもので、実際内容は一般的な総合テストと違いはない。体力、知力共に国にとってふさわしい存在であるかどうかを見極めるためのもので。

熊数十匹を相手取っていたゴウにとって、体力テストのどれもが生ぬるく、格闘技を披露する際、勢い余って競技場の壁をぶち抜いたころには、審査員は泡を吹いて満点合格のサインを出した。


が――問題は知力テストの方である。この国の歴史や、簡単な読解能力、数理計算。

村人にあれこれと世話を焼かれていたため、学習意欲というものが一切湧かなかったゴウにとって、紙と一時間向き合うことさえもはじめての体験であった。結局、何一つ書くこともできず、白紙で提出したそれを、眼鏡をかけた女が鋭く睨みつけたが、気にする由もない。


結果、ゴウは体力有優秀の面で、入学を許されたのだが、知力の問題から最低クラスに配属されることとなる。


その名も「z組」。学校の地下にある薄暗く、狭い、一見怪しげな実験室のような部屋だ。そこへ通されても、ゴウは何にも思わなかった。クモが一匹、ゴウの前につりさがっても、それをよけることすらしない。三食飯付き、家事なし、お小遣い性の魅惑のステータスを勝ち得たゴウにとって、怖いものなどもう何もなかった。

オレンジ色に燃えるランプを頼りに、席に着く。ゴウがそれを手に取れば、蛾が数匹次いで飛んだ。


「あら、私以外にも優秀な生徒がいたなんて」


部屋の奥から聞こえた、鈴を転がしたような声音。

ゴウはオレンジ色のランプを声のする方へぐいと差し出す。頭をクモの巣にまみれさせながらも、自分のプライドを守りたいのか、自慢の銀髪の長い髪を片手で払い、腕を組んだ美少女は、ゴウを一目見てふんと鼻で笑った。


「ふ~ん、冴えない顔ね、こんなやつと一緒の空間にいるだなんて不愉快だわ」


真っ赤なドレスの裾を、床を彷徨うネズミやゴキブリから守るよう、託しあげて。白タイツの足を晒しながら、彼女は続けて、ゴウを罵倒する。


「あなた、特に才能もなさそうだし」

「どうせ、食料目当ての貧乏人でしょう」


否定できないので黙り込んだままのゴウに、彼女は勝ち誇ったように微笑んだ。


「ふんっ、私が一番強いんだからっ‼ って、きゃあああああ‼」


彼女の甲高い悲鳴が、教室に響き渡る。ゴウがよくよく目を凝らしてみれば、彼女の足に、大きなムカデが一匹這いずりまわっていっていた。


「やぁ、やだ‼ 取って、あ、取りなさい‼ そこの、そこのっ、あなた‼」

「えー……めんどうくさい」

「そ、そんなこと言わずに‼ は、早くっ‼」

「えー……いやいいよ……めんどうくさいし……」


ゴウにしては、とっとと早く席について昼寝でもしたい気分なのに、目の前の女は涙目になって、ゴウに縋りついた。先ほどまでの勝気な態度はどこへいったのやら。


「お願いします‼ 虫は嫌いなのぉ‼ ひ、ひ~~~~っ‼」

「もー……うるさいなぁ」


このまま騒がれても、すやすやと穏やかに眠ることはできないだろう。仕方なく、ゴウは彼女の前に跪くと、ドレスの裾をぺらりとめくり、彼女の内股でうねうねとのたうち回っていたむかでを、ひょいと指でつまんで床に投げつけた。べちょりと嫌な音がしたが、ゴウは知らないふりをする。


「あ、あなた、いい人なのね……」


乱れた息を整えて、二三度、彼女が咳払いをする。真っ赤な顔は、同じ色をしたドレスの袖で隠したらしい。


「名前は?」

「……」

「何かしゃべりなさいよ、全く‼」


いきなり怒鳴りつけられて、ゴウは、えぇ~と肩を落とした。ダンッとドレスシューズを腐りかけの床にたたきつけて、彼女は同じ質問を繰り返す。


「あなた名前は?」

「……」

「……あぁ、そうね。先に名乗るが礼儀よね……私の名前はランよ」

「……」

「もうっ、何なのっ!? いい加減にしなさいよ‼」


少女――ランが、ドレスシューズをもう一度床にたたきつけたところで、ぱちりと視界が明るくなった。どうやらこの部屋の電気がついたらしい。うじゃうじゃと、床を這って一目散に虫や獣が逃げ出す様子に、ランは机にしがみついて必死に逃れた。


「今年このクラス人いたんだね~」


教室の扉がガラリと開いて、また新しく教室に現れたものが一人。

紫色の髪を後ろで束ね、にこやかに微笑むのは、このクラスの担任だろうか。白衣が驚くほどに似合わない。中に着込んでいる防弾ベストのようなものが原因だと思われる。どうして、戦場でもないのに防弾ベストが必要なのだろうか。でも、この組み合わせは彼のトレードマークなのだから仕方ない。

銀縁の眼鏡を押し当てて、では、と彼はボロボロの教壇の前に立つ。


「もう『マッチング』したのかな?」


ぽかんと口を開く二人に、担任はくすくすとそれはそれは楽しそうに笑う。


「なんだ、二人とも仲良さそうに騒いでいたから、もうとっくに済ませていたのかと」

「仲良くな~~~~~い‼」


ランが叫ぶ。あまりにも大きなその声に、ゴウはびくりと肩を揺らした。


「先生?私の『マスター』は一体どこにいるのかしら?」


斜に構えたその態度で、ランは教壇でにこにこと笑顔を絶やさないその男にそう告げた。あははっ、とまるで情のこもっていない乾いた笑い声をあげて、彼は彼女の質問に答える。


「君の隣にいるじゃないか」

「チェ~~~~~~ンジ‼‼‼‼‼‼‼‼‼」

「まぁまぁ、そうは言わずに」

「私、不愛想な男は嫌いなのっ‼」

「まぁまぁ」


騒ぎ立てるランの横で、ゴウは肘をついて逃げ遅れたクモを目で追う。まるで興味がないといった感じだ。

『マッチング』という単語、確か、彼ははじめて聞く単語のはずなのだが――さすが、ゴウ。学習意欲のなさは天下一品。


「君がゴウ君だね?」


紫色の長い前髪を耳にかけて、男は覗き込んでゴウの表情を伺う。ゴウはちらりと男の顔を見遣ったきり、再びうつむいてクモの行方を探った。


「うん、彼も『マッチング』がしたいらしいぞ」

「ちょっと!?今こいつ一言も喋らなかったじゃない!?」

「いや僕には聞こえた」


ねぇ、ゴウ君――。

担任教師が囁く。眼鏡を光らせて、そうしてゴウの耳元で甘言を吹き込む。


「これ終わったら、超豪華な夕食がつくらしいんだけど」

「のった」

「なんでそういう時だけ喋るの、あんたっ!?」


やってられないわよ、吐き捨てるようにそう言って、ランは立ち上がる。その際にぐしょりと何か虫を踏みつぶしたようで、ランは、ひっと、喉の奥からまた情けない声を絞り出した。

あー……さっきのクモだ……。とゴウはひそかに思う。決して口には出さないが。


「まぁまぁ、ランさん。あなたの兄上様以外にあなたの『ソード』を抜いてくれる方が現れたのかもやしれません」

「そ、そうね……いいわ。あなた……ゴウね。私の『ソード』を引き抜けるか試してあげましょう。感謝しなさい」


兄上、という言葉に一瞬表情を曇らせたランであったが、担任の言葉に納得できる部分があったのだろう。腕組をほどいて項垂れた。ゴウは、その間、じっと、ランが踏みつぶした後のクモを眺めている。


「ねぇ、ゴウ、聞いてるの」


ランがゴウの頭を軽くつつく。ややあって、ゴウは再び頭をもたげる。その気だるげな眠たそうな眼とかち合って、ランは、ため息をついた。

もし、仮に、ゴウが私のパートナーであっても、きっと私の野望は果たせない。

――いや、何を弱気なことを。私は、果たさなければならない。


ドレスのフリルを力強く握りしめて、キッとゴウを睨みつけると、ランは彼の腕を無造作に掴んだ。


「いいから、やるわよ、『マッチング』‼ 困るのよ、私は誰かに『ソード』を抜いてもらわないとっ‼」

「えー……ちょっと」


ランの気迫に押されて、ゴウはしぶしぶ席から立ちあがった。腕を広げたランを目の前にして、ゴウはどうしたらいいかわからず、視線を右往左往させてたじろいだ。当たり前だ。そもそも『マッチング』が何をするものなのか分かっていないのだから。黒マスクに遮られて、もごもごと抗議する声もランには届かない。


「ほら、早く抱きしめて」

「えー……」


抱きしめるとはどういうことなのだろうか。ゴウは思い出す。幼いころ、じいさんや村の人に自分がされていたことを。あー…あれか、とゴウは何かを思い当たって、ランの胸元へ飛び込むと、自分の手のひらをランのつむじへと押し当てた。そこから左へ右へスライド。いわゆる、頭なでなでというやつだ。


働け、と怒鳴り散らしていたじいさんも、ゴウが小さいときは、枝一本拾い上げただけで、それはそれは褒めまくったものだ。ゴウ偉いぞ、と。そしてゴウのつむじをかき混ぜるように頭を撫でる。ゴウはじいさんの手の温かさを思いだす。

もしかして、これがしてほしいのか?と見当違いなことを考えて、ゴウはランの頭をよしよしし続ける。最初は目を白黒とさせていたランも、やっと脳が状況を把握したのだろう。茹蛸のように顔を真っ赤にして、ゴウの手を振り払った。


「はぁ~~~!?ちょっと、あんたっ、何やってんの!?」

「えー……何って?こう、よしよしって……」

「あんた絶対『マッチング』の意味わかってないでしょ!?」


そうだ。ゴウは『マッチング』の意味を全く理解していない。


「あのね、『マッチング』っていうのは、私の身体から『ソード』を引き抜く儀式なの。……まぁ、引き抜けたら、の話だけれど」

「引き抜く……」


ゴウは、小さい脳みその容量から、まだ真新しい記憶をたぐり寄せる。じいさんが持っていた紙切れの端。男女のイラスト。男が、女の腹から剣を引き抜き――。


「お、そろそろかな?終わったら言ってね~」


担任教師は、教壇の後ろにひょっこりと身体を縮まらせる。


「あっ、ちょっと‼」


ゴウは、あのイラストを思い返す。男は女を抱きしめて、横たえ――。ドレスの中央部、ランの腹を撫でる。ここから、『ソード』が――。


今、ゴウを突き動かしているのは、既存の知識ではなかった。まさしく『マスター』としての本能。自分の運命の武器と出会うことへの期待。

気だるげな眼が見開かれる。瞳の色は、真っ赤に燃える炎の色。ランはこの色を以前見たことがあった。


だって、この色は、私の『ソード』の――。


「俺の手に応えろ――」


ぐっと、ランの身体が大きく仰け反る。と同時に、彼女の腹から、熱く燃え滾る炎が天井いっぱいに噴き出した。躊躇なく、ゴウは、炎の中に腕をつっこむ。握りしめたのは、黄金色をした、剣の持ち手。

そこから先に、銀色に反射する磨かれた刃。ずしりと重みのあるそれを、ゴウは片手で引き抜いていく。


「あっ、嘘……あなた‼私の『ソード』を」

「ッ……ちょっと黙ってて」

「ん゛~~~~っ‼」


ランの口元を余った左手で塞ぐ。くぐもった声で彼女が非難しているのが分かるが、ゴウにはそれに応える余裕がない。今、一瞬でも意識を『ソード』から離してしまえば、この業火に燃やし尽くされてしまう。脳がそう警鐘を鳴らす。震える指先を叱咤して、ゴウは獣のようなうなり声を上げながら、ランの『ソード』を引き抜いた。


ズルリと全体像を現した『ソード』は、ゴウの身長をはるかに超えていて。全長2メートルといったところか。未だぱちぱちと、刃が燃えているのが分かる。


この業火こそが、『ソード』の魔力。『マスター』であるゴウだけが取り扱える、史上最強の武器。


ふぅふぅと乱れた息を整えて、ゴウは額の汗をぬぐった。ゴウの右手にぴったりと吸いついて離れないランの『ソード』は、新しい主人を気に入っているようで。


どさりと、ランが床に横たわる。未だ信じられないと言いたげなその表情で、ランは、ゴウとそして自分の「ソード」を交互に見比べた。


本当に、こいつが私の真の『マスター』だとしたら――。私の野望は――。



「業火のバスターソード」

「……」

「私の兄は、私の『ソード』をこう呼んだわ」


その大ぶりな刃に、ランは手を伸ばす。ぱちりと炎がランに応えるように燃え上がる。ランと『ソード』は一心同体なのだ。


「あなた、すごいわね。私の『ソード』を引き抜けるなんて……」

「……」

「ねぇ、ゴウ……。私の『マスター』になるなら、私の野望を聞いて」


ランは、ゴウの足元に半ば縋りつくようにして、跪く。こうして自然と生まれる主従関係は、どちらかが死なない限り、永遠と続いていくのだ。


「私は、王をぶっ殺す」

「は」


これには、さすがのゴウも、思わず声を漏らした。


「そう、この国の王よ。あいつをぶっ殺して私が天下を取るの。もちろんあなたにもそれなりの地位を用意してあげるわ」


この少女が、なぜこの最低クラスに配属されたのか皆さんお分かりだろう。ゴウも、黒マスクの下で口を開けたり閉じたり、返す言葉を必死に探していた。


「あなたには王の心臓を貫いてもらわなきゃいけないもの。鍛錬に励んでちょうだい」


もしかしたら、自分は、とんでもない人の『マスター』になってしまったかもしれない――と、一瞬自分の身を案じたゴウであったが、ま、いっかと悩みを払拭させた。


飯食えりゃそれでいいわ。


ゴウのいいところは、深く考えすぎないバカであることだ。


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